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《番外編》本編終了後のお話
ドカ喰い大好き!リオノーラ様《節制編》
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※書籍部分終了直後のお話です。
※ほんのりネタバレを含みます。
再び王都にてアレスと同居をはじめたリオノーラ。
諸々の問題が片付き、やっと落ち着いて新婚生活が送れると思っていたのだが……。
「何ですか……これ……」
テーブルに着くリオノーラの表情は浮かない。彼女の目の前には、サラダや穀物の粥など見るからに節制食だと分かる食事が並んでいた。しかも量はかなり控えめだ。器に半分程度しか入っていない。
「節制食です」
リオノーラの向かいの席に座るアレスは淡々と言い放った。
「これから、俺が毎食用意します」
「そ、そんな、アレス様はお仕事の引き継ぎとかで忙しいでしょう!? お食事は私が用意しますよ!」
「俺がやっていた仕事は、一旦すべてラインハルト補佐長に押し付けました。ある程度時間に融通が利きますのでご心配なく」
(う、嘘でしょう……!?)
リオノーラの目の前が暗くなりかける。せっかく食の宝庫である王都にいるのに、味気ない量も少ない食事をしなければならないなんて。
「なんで私がこんな食事を……!」
「節制のためです。医者からも言われたでしょう、食生活を改善するようにと」
つい先日、リオノーラは医者にかかった。彼女は「月のものが遅れているし、もしかして妊娠したのかも!?」と半端浮かれながら診察を受けたのだが、診断結果は食べ過ぎと短期間の体重増加による体調の乱れ。
このままでは妊娠しにくくなるとまで医者に告げられてしまったリオノーラは、節制を決意したのだが……。
彼女自身が実行した節制は、たった一日で断念された。
「節制初日の夕方、蒸し鶏に衣をつけて揚げるリオノーラの背中を見て俺は思いました。食事の準備をあなたに任せていたら、一生痩せないと」
「だ、だって! 衣がない鶏肉なんて美味しくないんですもの! 私は少しでもアレス様に美味しいものを召し上がってほしくて……」
「俺は揚げ鶏を好みません」
アレスにぴしゃりと言い切られてしまったリオノーラは頭を抱える。王都に来てからというもの、毎日のように肉と揚げ物と甘いものをたらふく食べてきた。今更、節制食を口にするなんてありえない。
「俺も心苦しいと思っています。嬉しそうにたくさん食べるリオノーラが好きですからね」
「アレス様……!」
「でも、体調を乱すほど食べるのはよくありませんし、短期間で太ってしまった身体はなるべくすぐに元に戻したほうが良いでしょう。時間が経てば経つほど痩せにくくなりますから」
アレスが言うことはもっともだとリオノーラは思う。だが、それはそれとして、節制食は嫌なのだ。油と小麦粉と砂糖がない食事なんて無理すぎる。
「ほらほら、粥は冷めたら不味くなりますよ。召し上がってください。あーん」
いつのまにやらリオノーラの隣にやってきたアレスは、粥が入った丸い器を手に取ると、木製のスプーンで少量掬って彼女の口元まで持ってきた。
リオノーラはしぶしぶ、口を開ける。
米と雑穀にはほどよく芯が残っており、塩っけもしっかりある。とても美味しい粥だった。
しかし、粥は粥である。
「アレス様、付け合わせに揚げ物がほしいです……」
「人間はときめくと食欲が失せると言います。俺の顔を見て我慢してください。ほら、あーん」
涼やかな美形が、微笑の湛えながらスプーンを差し出してくる。普通の女性ならば、胸が苦しくなって頬が熱くなり食事どころではなくなるだろう。だが、リオノーラは違った。
(アレス様の顔を見ていると、甘いものが食べたくなるのよね……)
アレスはよく、ティンエルジュの屋敷まで流行の菓子を届けてくれた。
そのせいか、アレスを見ていると今まで差し入れしてもらった数々の菓子が頭に浮かんでしまう。
「食後のデザートに、タルトタタンが食べたいです」
「今日は粥を食べましょうね」
アレスは口の端だけ上げて、微笑んだ。
《つづく》
※ほんのりネタバレを含みます。
再び王都にてアレスと同居をはじめたリオノーラ。
諸々の問題が片付き、やっと落ち着いて新婚生活が送れると思っていたのだが……。
「何ですか……これ……」
テーブルに着くリオノーラの表情は浮かない。彼女の目の前には、サラダや穀物の粥など見るからに節制食だと分かる食事が並んでいた。しかも量はかなり控えめだ。器に半分程度しか入っていない。
「節制食です」
リオノーラの向かいの席に座るアレスは淡々と言い放った。
「これから、俺が毎食用意します」
「そ、そんな、アレス様はお仕事の引き継ぎとかで忙しいでしょう!? お食事は私が用意しますよ!」
「俺がやっていた仕事は、一旦すべてラインハルト補佐長に押し付けました。ある程度時間に融通が利きますのでご心配なく」
(う、嘘でしょう……!?)
リオノーラの目の前が暗くなりかける。せっかく食の宝庫である王都にいるのに、味気ない量も少ない食事をしなければならないなんて。
「なんで私がこんな食事を……!」
「節制のためです。医者からも言われたでしょう、食生活を改善するようにと」
つい先日、リオノーラは医者にかかった。彼女は「月のものが遅れているし、もしかして妊娠したのかも!?」と半端浮かれながら診察を受けたのだが、診断結果は食べ過ぎと短期間の体重増加による体調の乱れ。
このままでは妊娠しにくくなるとまで医者に告げられてしまったリオノーラは、節制を決意したのだが……。
彼女自身が実行した節制は、たった一日で断念された。
「節制初日の夕方、蒸し鶏に衣をつけて揚げるリオノーラの背中を見て俺は思いました。食事の準備をあなたに任せていたら、一生痩せないと」
「だ、だって! 衣がない鶏肉なんて美味しくないんですもの! 私は少しでもアレス様に美味しいものを召し上がってほしくて……」
「俺は揚げ鶏を好みません」
アレスにぴしゃりと言い切られてしまったリオノーラは頭を抱える。王都に来てからというもの、毎日のように肉と揚げ物と甘いものをたらふく食べてきた。今更、節制食を口にするなんてありえない。
「俺も心苦しいと思っています。嬉しそうにたくさん食べるリオノーラが好きですからね」
「アレス様……!」
「でも、体調を乱すほど食べるのはよくありませんし、短期間で太ってしまった身体はなるべくすぐに元に戻したほうが良いでしょう。時間が経てば経つほど痩せにくくなりますから」
アレスが言うことはもっともだとリオノーラは思う。だが、それはそれとして、節制食は嫌なのだ。油と小麦粉と砂糖がない食事なんて無理すぎる。
「ほらほら、粥は冷めたら不味くなりますよ。召し上がってください。あーん」
いつのまにやらリオノーラの隣にやってきたアレスは、粥が入った丸い器を手に取ると、木製のスプーンで少量掬って彼女の口元まで持ってきた。
リオノーラはしぶしぶ、口を開ける。
米と雑穀にはほどよく芯が残っており、塩っけもしっかりある。とても美味しい粥だった。
しかし、粥は粥である。
「アレス様、付け合わせに揚げ物がほしいです……」
「人間はときめくと食欲が失せると言います。俺の顔を見て我慢してください。ほら、あーん」
涼やかな美形が、微笑の湛えながらスプーンを差し出してくる。普通の女性ならば、胸が苦しくなって頬が熱くなり食事どころではなくなるだろう。だが、リオノーラは違った。
(アレス様の顔を見ていると、甘いものが食べたくなるのよね……)
アレスはよく、ティンエルジュの屋敷まで流行の菓子を届けてくれた。
そのせいか、アレスを見ていると今まで差し入れしてもらった数々の菓子が頭に浮かんでしまう。
「食後のデザートに、タルトタタンが食べたいです」
「今日は粥を食べましょうね」
アレスは口の端だけ上げて、微笑んだ。
《つづく》
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