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第47話 予想外の事態
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(嘘でしょ……!?)
朱い魔石を取り込んだ巨氷兵が、最強のはずの巨氷兵が、アザレアの炎魔法を受けて苦しんでいる。
予想外の事態に、ストメリナは狼狽えた。
(そんな……!? そんなはずない……!)
「巨氷兵! 怯むな!!」
ストメリナは叫ぶ。
だが。
「ウオオオオオオオオッ!!」
「巨氷兵っ!!」
二体の巨氷兵は、まるで氷のようにどろどろと溶けていく。あたりが蒸気に包まれた。
「くそっ!!」
追加の巨氷兵を呼ぼうにも、サウナのように暑いここではすぐに巨氷兵は動けなくなってしまうだろう。それに目の前にはアザレア達がいる。朱い魔石を食べさせている余裕などない。
「ストメリナ、もうやめて!」
目の前にいるアザレアは、哀れみを含んだ視線を向けてくる。
屈辱だった。
ずっと虐げていた女から難なく反撃されたうえに、そんな目で見られるなんて。
(許せない……許せない……!)
ストメリナは地面に視線を落とす。
そこには無数の朱い魔石の破片が散らばっていた。
彼女は咄嗟に身体を屈めると、朱い魔石のいくつかを拾い上げた。
(アザレアに負けるぐらいなら……!)
ストメリナは血走った目で、拾ったそれを口に含んだのだった。
◆
「……ストメリナッ!?」
ストメリナの行動に、アザレアは我が目を疑った。彼女は地面に落ちた朱い魔石を拾うと、いきなり口に入れだしたからだ。
(朱い魔石を、食べた……!?)
この大陸に存在するすべてのものには魔力が含まれている。人間も体内に魔力を有しているので、多少魔石を誤飲したぐらいでは影響はないとされている。
しかし、今、ストメリナは朱い魔石を口にした。
朱い魔石は、通常の魔石の百倍以上の魔力を持つ。
そんなものを口に入れて、何も起こらないはずはない。
アザレアの嫌な予感は当たり、すぐにストメリナに異変が起こった。
「アッアアアーーーーッッッッッ!!!!」
「ストメリナッ!!」
ストメリナは雄叫びをあげると、背を大きく仰け反らせる。彼女の白かった肌は瞬く間に朱く染まった。
「そんな……! ストメリナ……っ!」
アザレアは口を両手で覆う。
目の前の光景に、彼女はかたかたと口の中を震わせる。
ストメリナの美しかった銀髪が、次々に抜け落ちていったからだ。
「魔力中毒だ……」
「魔力、中毒……?」
「許容量を超えた魔力を取り入れようとすると、人間でも異変が起こるんだ……。魔物化した、動物達のように」
アザレアの隣でバリアを張り続けていたサフタールが、顔を顰めながらそう言った。
「ストメリナは……どうなるの……?」
アザレアもサフタールも、敬語を使っている余裕すらない。
サフタールは彼女の問いかけに、首を横に振る。
「……ストメリナを倒すしかない。今の彼女は、魔物だ」
髪がすべて抜け落ちたストメリナは、瞳孔が開き切った目でこちらを見ている。
ストメリナは不気味な笑い声をあげた。
「ひひっ、いひひひひっっっ……」
「ストメリナ、しっかりして!!」
「駄目だ、アザレア!!」
ストメリナが腕を振り上げると、その頭上に氷の刃が現れた。それはすぐにアザレア達へ向かって飛んでくる。
サフタールはアザレアの前に反射のバリアを張り、氷の刃を撃ち返した。
だが、その氷の刃をストメリナは軽々とかわす。
「ゆるせない……ゆるせないわ……アザレア……あんただけは……ぜったいにゆるさない……」
ストメリナから許せないと言われても、アザレアは意味が分からなかった。
虐げられていたのはアザレアの方で、ストメリナは長年彼女を苦めていた立場。
むしろ許せないと思うのは、こっちの方だとアザレアは考える。
「どういうこと? ストメリナ。虐げられていたのは、私の方よ!」
「その無自覚さがムカつくのよっ! お父様の関心を独り占めしてきたくせに!!」
ストメリナは叫ぶが、アザレアには父親から関心を向けられていた自覚はなかった。
そもそも父親から目をかけられていたら、ここまでストメリナから虐げられることはなかっただろう。
記念式典の前に父親から謝罪を受けたが……それだけだ。アザレアの心は鎮まっていて、父親の謝罪に対し、特に何か思うことはなかった。強いて言うなら、自分の本当の髪色が銀髪なのだと父親に伝えられて良かったと思ったぐらいだ。
アザレアの心はもう、未来へ向いている。
辛かった過去にはこだわらない。自分を認め、受け入れてくれたサフタールやイルダフネ家の人達のために、これからは生きる。自分の力で皆を幸せにしたいと願っている。
「腹が立つ……っ! お父様から愛されていた、おまえが憎いっ!!」
(ストメリナには、お父様しかいないのね……)
父親の愛にこだわり続けるストメリナは不憫だと思うが、だからといってイルダフネ領やブルクハルト王国を滅ぼされるわけにはいかない。
「私は、私の護りたいもののために戦う……!」
朱い魔石を取り込んだ巨氷兵が、最強のはずの巨氷兵が、アザレアの炎魔法を受けて苦しんでいる。
予想外の事態に、ストメリナは狼狽えた。
(そんな……!? そんなはずない……!)
「巨氷兵! 怯むな!!」
ストメリナは叫ぶ。
だが。
「ウオオオオオオオオッ!!」
「巨氷兵っ!!」
二体の巨氷兵は、まるで氷のようにどろどろと溶けていく。あたりが蒸気に包まれた。
「くそっ!!」
追加の巨氷兵を呼ぼうにも、サウナのように暑いここではすぐに巨氷兵は動けなくなってしまうだろう。それに目の前にはアザレア達がいる。朱い魔石を食べさせている余裕などない。
「ストメリナ、もうやめて!」
目の前にいるアザレアは、哀れみを含んだ視線を向けてくる。
屈辱だった。
ずっと虐げていた女から難なく反撃されたうえに、そんな目で見られるなんて。
(許せない……許せない……!)
ストメリナは地面に視線を落とす。
そこには無数の朱い魔石の破片が散らばっていた。
彼女は咄嗟に身体を屈めると、朱い魔石のいくつかを拾い上げた。
(アザレアに負けるぐらいなら……!)
ストメリナは血走った目で、拾ったそれを口に含んだのだった。
◆
「……ストメリナッ!?」
ストメリナの行動に、アザレアは我が目を疑った。彼女は地面に落ちた朱い魔石を拾うと、いきなり口に入れだしたからだ。
(朱い魔石を、食べた……!?)
この大陸に存在するすべてのものには魔力が含まれている。人間も体内に魔力を有しているので、多少魔石を誤飲したぐらいでは影響はないとされている。
しかし、今、ストメリナは朱い魔石を口にした。
朱い魔石は、通常の魔石の百倍以上の魔力を持つ。
そんなものを口に入れて、何も起こらないはずはない。
アザレアの嫌な予感は当たり、すぐにストメリナに異変が起こった。
「アッアアアーーーーッッッッッ!!!!」
「ストメリナッ!!」
ストメリナは雄叫びをあげると、背を大きく仰け反らせる。彼女の白かった肌は瞬く間に朱く染まった。
「そんな……! ストメリナ……っ!」
アザレアは口を両手で覆う。
目の前の光景に、彼女はかたかたと口の中を震わせる。
ストメリナの美しかった銀髪が、次々に抜け落ちていったからだ。
「魔力中毒だ……」
「魔力、中毒……?」
「許容量を超えた魔力を取り入れようとすると、人間でも異変が起こるんだ……。魔物化した、動物達のように」
アザレアの隣でバリアを張り続けていたサフタールが、顔を顰めながらそう言った。
「ストメリナは……どうなるの……?」
アザレアもサフタールも、敬語を使っている余裕すらない。
サフタールは彼女の問いかけに、首を横に振る。
「……ストメリナを倒すしかない。今の彼女は、魔物だ」
髪がすべて抜け落ちたストメリナは、瞳孔が開き切った目でこちらを見ている。
ストメリナは不気味な笑い声をあげた。
「ひひっ、いひひひひっっっ……」
「ストメリナ、しっかりして!!」
「駄目だ、アザレア!!」
ストメリナが腕を振り上げると、その頭上に氷の刃が現れた。それはすぐにアザレア達へ向かって飛んでくる。
サフタールはアザレアの前に反射のバリアを張り、氷の刃を撃ち返した。
だが、その氷の刃をストメリナは軽々とかわす。
「ゆるせない……ゆるせないわ……アザレア……あんただけは……ぜったいにゆるさない……」
ストメリナから許せないと言われても、アザレアは意味が分からなかった。
虐げられていたのはアザレアの方で、ストメリナは長年彼女を苦めていた立場。
むしろ許せないと思うのは、こっちの方だとアザレアは考える。
「どういうこと? ストメリナ。虐げられていたのは、私の方よ!」
「その無自覚さがムカつくのよっ! お父様の関心を独り占めしてきたくせに!!」
ストメリナは叫ぶが、アザレアには父親から関心を向けられていた自覚はなかった。
そもそも父親から目をかけられていたら、ここまでストメリナから虐げられることはなかっただろう。
記念式典の前に父親から謝罪を受けたが……それだけだ。アザレアの心は鎮まっていて、父親の謝罪に対し、特に何か思うことはなかった。強いて言うなら、自分の本当の髪色が銀髪なのだと父親に伝えられて良かったと思ったぐらいだ。
アザレアの心はもう、未来へ向いている。
辛かった過去にはこだわらない。自分を認め、受け入れてくれたサフタールやイルダフネ家の人達のために、これからは生きる。自分の力で皆を幸せにしたいと願っている。
「腹が立つ……っ! お父様から愛されていた、おまえが憎いっ!!」
(ストメリナには、お父様しかいないのね……)
父親の愛にこだわり続けるストメリナは不憫だと思うが、だからといってイルダフネ領やブルクハルト王国を滅ぼされるわけにはいかない。
「私は、私の護りたいもののために戦う……!」
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