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第43話 自分のわがままを叶えるために、戦う
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ディルクは一人、坑道内を進む。
筒形をした魔道具の照明で、天井を照らした。
(意外と広いな)
大公が送り込んでいる間者から、魔石鉱山の情報はあるていど得ていたが、ここまで坑道の奥が広いとは思っていなかった。目測だが、天井まではゆうに高さ3m以上はある。巨氷兵でも悠々と歩き回れるだろう。
幅広剣を振り回す巨氷兵の姿を思い浮かべたディルクは、顔をしかめるとふっと短く息をはく。
(俺、何してるんだろうな……)
今、ディルクはストメリナの暴挙を止めるため、坑道内を一人で歩いている。
だが、頭の片隅には疑問も湧いていた。
ディルクは身分の低い母親から生まれたとはいえ、一応帝国の第八王子だ。大公の間者をしているが、身を守るために国へ逃げ帰ったところで、大公は責めないだろう。
自分とは関係のない国同士が戦争になりかけているからと言って、それを阻止しなくてはいけない理由はない。ディルクにとって公国は、遊学にみせかけた単なる出稼ぎ先でしかなかった……はずなのだが。
(クレマティス将軍……。アザレア様……)
二人の顔が、ディルクの脳裏に次々と浮かぶ。
今のディルクには、守りたい人ができてしまっていた。
ずっとストメリナから虐げられてきたアザレアには、幸せになって貰いたい。
自由に生きる権利があると言いつつも、居場所がないと嘆いていた自分を、家臣にするとまで言ってくれたクレマティスをこれからも支えたい。
ディルクは立ち止まると、ぎゅっと瞼を閉じる。
(……これは、俺のための戦いだ)
アザレアの幸せを望むのも、次期大公になるクレマティスを支えたいと思うのも、自分のわがままだ。
それを叶えるためなら、戦わねば。
ディルクが再度顔を上げ、歩き出そうとしたその時だった。
奥から唸り声がした。
◆
「これが、伝説の朱い魔石バーミリオン……!」
ストメリナは煌々と輝く朱い柱を見上げ、感嘆の声をあげる。彼女の目の前には、巨大なつららのようなものがいくつもあった。
ストメリナの手元にある魔力測定器は、針が振り切っている。
「素晴らしい……。素晴らしいわ!」
(こんな膨大な魔力、感じたことがないわ)
一面朱色に染まる空間に、ストメリナは破顔する。
これだけの量の朱い魔石があれば、ブルクハルト王国侵攻どころか、目の上のたんこぶである帝国を滅ぼすことだって夢ではない。
「私はこの朱い魔石を使い、大陸の覇者になるのよ!」
(朱い魔石を使って、私は欲しいものすべてを手に入れるのよ)
父親の関心、男達の愛、次期大公の座、権力、富、名声……。
これだけの膨大な魔力を秘める魔石があれば、永遠の命さえ、手に入るかもしれない。
ストメリナの野望はむくむくと膨らむ。
「あはっ……あはははっ!」
大笑いしながらストメリナは腕を横に広げると、その場でぐるりと回る。
ひとしきり笑った彼女は、また手のひらに光の玉を呼び出すと、それを地を放った。
光の玉の中央にある雪鈴草が、みるみるうちに氷で出来た鎧の兵士──巨氷兵に変わる。
「巨氷兵、ここにある魔石を食べていいわよ? いくらでもね……」
ストメリナは巨氷兵を呼び出す際、あえて口づけをしなかった。あの口づけには、魔力を与える効果がある。
だが、今は目の前に強力な魔力の塊である朱い魔石が山ほどある。口づけで魔力を与えてやる必要がなかった。
巨氷兵はストメリナに促されるまま、その場にしゃがみ込むと拳大の朱い魔石をひとつ手に取った。そしてそれを兜の隙間から押し込む。
その様子を見たストメリナは、ごくりと喉を鳴らす。
すぐに巨氷兵に変化が現れた。
「ウオオオオオオオオッッッッッ!!!!」
それまで何も言葉を発することがなかった巨氷兵は、立ち上がると咆哮した。
筒形をした魔道具の照明で、天井を照らした。
(意外と広いな)
大公が送り込んでいる間者から、魔石鉱山の情報はあるていど得ていたが、ここまで坑道の奥が広いとは思っていなかった。目測だが、天井まではゆうに高さ3m以上はある。巨氷兵でも悠々と歩き回れるだろう。
幅広剣を振り回す巨氷兵の姿を思い浮かべたディルクは、顔をしかめるとふっと短く息をはく。
(俺、何してるんだろうな……)
今、ディルクはストメリナの暴挙を止めるため、坑道内を一人で歩いている。
だが、頭の片隅には疑問も湧いていた。
ディルクは身分の低い母親から生まれたとはいえ、一応帝国の第八王子だ。大公の間者をしているが、身を守るために国へ逃げ帰ったところで、大公は責めないだろう。
自分とは関係のない国同士が戦争になりかけているからと言って、それを阻止しなくてはいけない理由はない。ディルクにとって公国は、遊学にみせかけた単なる出稼ぎ先でしかなかった……はずなのだが。
(クレマティス将軍……。アザレア様……)
二人の顔が、ディルクの脳裏に次々と浮かぶ。
今のディルクには、守りたい人ができてしまっていた。
ずっとストメリナから虐げられてきたアザレアには、幸せになって貰いたい。
自由に生きる権利があると言いつつも、居場所がないと嘆いていた自分を、家臣にするとまで言ってくれたクレマティスをこれからも支えたい。
ディルクは立ち止まると、ぎゅっと瞼を閉じる。
(……これは、俺のための戦いだ)
アザレアの幸せを望むのも、次期大公になるクレマティスを支えたいと思うのも、自分のわがままだ。
それを叶えるためなら、戦わねば。
ディルクが再度顔を上げ、歩き出そうとしたその時だった。
奥から唸り声がした。
◆
「これが、伝説の朱い魔石バーミリオン……!」
ストメリナは煌々と輝く朱い柱を見上げ、感嘆の声をあげる。彼女の目の前には、巨大なつららのようなものがいくつもあった。
ストメリナの手元にある魔力測定器は、針が振り切っている。
「素晴らしい……。素晴らしいわ!」
(こんな膨大な魔力、感じたことがないわ)
一面朱色に染まる空間に、ストメリナは破顔する。
これだけの量の朱い魔石があれば、ブルクハルト王国侵攻どころか、目の上のたんこぶである帝国を滅ぼすことだって夢ではない。
「私はこの朱い魔石を使い、大陸の覇者になるのよ!」
(朱い魔石を使って、私は欲しいものすべてを手に入れるのよ)
父親の関心、男達の愛、次期大公の座、権力、富、名声……。
これだけの膨大な魔力を秘める魔石があれば、永遠の命さえ、手に入るかもしれない。
ストメリナの野望はむくむくと膨らむ。
「あはっ……あはははっ!」
大笑いしながらストメリナは腕を横に広げると、その場でぐるりと回る。
ひとしきり笑った彼女は、また手のひらに光の玉を呼び出すと、それを地を放った。
光の玉の中央にある雪鈴草が、みるみるうちに氷で出来た鎧の兵士──巨氷兵に変わる。
「巨氷兵、ここにある魔石を食べていいわよ? いくらでもね……」
ストメリナは巨氷兵を呼び出す際、あえて口づけをしなかった。あの口づけには、魔力を与える効果がある。
だが、今は目の前に強力な魔力の塊である朱い魔石が山ほどある。口づけで魔力を与えてやる必要がなかった。
巨氷兵はストメリナに促されるまま、その場にしゃがみ込むと拳大の朱い魔石をひとつ手に取った。そしてそれを兜の隙間から押し込む。
その様子を見たストメリナは、ごくりと喉を鳴らす。
すぐに巨氷兵に変化が現れた。
「ウオオオオオオオオッッッッッ!!!!」
それまで何も言葉を発することがなかった巨氷兵は、立ち上がると咆哮した。
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