義姉から虐げられていましたが、温かく迎え入れてくれた婚家のために、魔法をがんばります!

野地マルテ

文字の大きさ
上 下
43 / 57

第43話 自分のわがままを叶えるために、戦う

しおりを挟む
 ディルクは一人、坑道内を進む。
 筒形をした魔道具の照明で、天井を照らした。
 
 (意外と広いな)

 大公が送り込んでいる間者から、魔石鉱山の情報はあるていど得ていたが、ここまで坑道の奥が広いとは思っていなかった。目測だが、天井まではゆうに高さ3m以上はある。巨氷兵でも悠々と歩き回れるだろう。
 幅広剣を振り回す巨氷兵の姿を思い浮かべたディルクは、顔をしかめるとふっと短く息をはく。

 (俺、何してるんだろうな……)

 今、ディルクはストメリナの暴挙を止めるため、坑道内を一人で歩いている。
 だが、頭の片隅には疑問も湧いていた。

 ディルクは身分の低い母親から生まれたとはいえ、一応帝国の第八王子だ。大公の間者をしているが、身を守るために国へ逃げ帰ったところで、大公は責めないだろう。
 自分とは関係のない国同士が戦争になりかけているからと言って、それを阻止しなくてはいけない理由はない。ディルクにとって公国は、遊学にみせかけた単なる出稼ぎ先でしかなかった……はずなのだが。

 (クレマティス将軍……。アザレア様……)

 二人の顔が、ディルクの脳裏に次々と浮かぶ。
 今のディルクには、守りたい人ができてしまっていた。

 ずっとストメリナから虐げられてきたアザレアには、幸せになって貰いたい。
 自由に生きる権利があると言いつつも、居場所がないと嘆いていた自分を、家臣にするとまで言ってくれたクレマティスをこれからも支えたい。

 ディルクは立ち止まると、ぎゅっと瞼を閉じる。

 (……これは、俺のための戦いだ)

 アザレアの幸せを望むのも、次期大公になるクレマティスを支えたいと思うのも、自分のわがままだ。
 それを叶えるためなら、戦わねば。

 ディルクが再度顔を上げ、歩き出そうとしたその時だった。
 奥から唸り声がした。

 ◆

「これが、伝説の朱い魔石バーミリオン……!」

 ストメリナは煌々と輝く朱い柱を見上げ、感嘆の声をあげる。彼女の目の前には、巨大なつららのようなものがいくつもあった。
 ストメリナの手元にある魔力測定器は、針が振り切っている。

「素晴らしい……。素晴らしいわ!」

 (こんな膨大な魔力、感じたことがないわ)

 一面朱色に染まる空間に、ストメリナは破顔する。
 これだけの量の朱い魔石があれば、ブルクハルト王国侵攻どころか、目の上のたんこぶである帝国を滅ぼすことだって夢ではない。

「私はこの朱い魔石を使い、大陸の覇者になるのよ!」

 (朱い魔石を使って、私は欲しいものすべてを手に入れるのよ)

 父親の関心、男達の愛、次期大公の座、権力、富、名声……。
 これだけの膨大な魔力を秘める魔石があれば、永遠の命さえ、手に入るかもしれない。
 ストメリナの野望はむくむくと膨らむ。

「あはっ……あはははっ!」

 大笑いしながらストメリナは腕を横に広げると、その場でぐるりと回る。
 ひとしきり笑った彼女は、また手のひらに光の玉を呼び出すと、それを地を放った。
 光の玉の中央にある雪鈴草が、みるみるうちに氷で出来た鎧の兵士──巨氷兵に変わる。

「巨氷兵、ここにある魔石を食べていいわよ? いくらでもね……」

 ストメリナは巨氷兵を呼び出す際、あえて口づけをしなかった。あの口づけには、魔力を与える効果がある。
 だが、今は目の前に強力な魔力の塊である朱い魔石が山ほどある。口づけで魔力を与えてやる必要がなかった。

 巨氷兵はストメリナに促されるまま、その場にしゃがみ込むと拳大の朱い魔石をひとつ手に取った。そしてそれを兜の隙間から押し込む。

 その様子を見たストメリナは、ごくりと喉を鳴らす。
 すぐに巨氷兵に変化が現れた。

「ウオオオオオオオオッッッッッ!!!!」

 それまで何も言葉を発することがなかった巨氷兵は、立ち上がると咆哮した。
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...