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第41話 魔石鉱山へ

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 記念式典終了後。
 客室にて、サフタールは礼服を脱ぐと、魔道士の黒いローブに着替えた。

「サフタール……。今から、魔石鉱山へ行くのですか?」

 紋様が入った手甲を付けていると、アザレアが声を掛けてきた。彼女も着替えを済ませ、魔道士のローブに身を包んでいる。髪も下ろしており、首の後ろで一つ結びにしていた。

「ええ、頭の中に浮かぶ嫌なイメージが強くなっています。おそらく、ストメリナも夜のうちに魔石鉱山へ向かうはずです」
「……こんなに遅い時間帯からですか」
「はい。……魔石鉱山の出入り口には、名うての魔道士達を見張りに立たせていますが、ストメリナは巨氷兵を使います。あまり想像はしたくありませんが、無理やり突破される可能性はあるかと」
 
 (イルダフネ側の守りは父上と母上、そしてゾラ殿が固めている。心配はないと思うが……)

 ストメリナは今、ディルクをクレマティスに盗られたと思い、自暴自棄になっていることだろう。
 魔石鉱山で朱い魔石バーミリオンを手にしたら、そのままイルダフネを攻める可能性がある。
 両親とゾラは、ストメリナが公国へ戻るまで警戒すると言っていた。最強の魔道士三人が守りを固めているのでイルダフネ領内はまず心配はないと思うが、油断はできない。
 
「サフタール、私も行きます!」
「はい、一緒に行きましょう」

 (……本当は、アザレアを連れて行きたくない)

 一緒に行こうとは言ったが、サフタールの本音は反対だった。
 アザレアの魔法の力は認めているが、それでも危険な場所に彼女を連れていくのは躊躇ためらわれた。
 だが、サフタールは攻撃属性魔法が使えない。多少剣が使えたところで、巨氷兵を操るストメリナには対抗できないだろう。
 辛いが、ストメリナの暴挙を止めるにはアザレアの力が必要なのだ。

「若様、ストメリナ様の姿がみえません!」
「ブランダ」

 私設兵長のブランダが、慌てた様子でやってくる。
 サフタールは急いで、黒いローブの上から剣帯を腰に巻いた。

「行こう! 魔石鉱山へ」

 ◆

 一方その頃、ストメリナはすでにブルクハルト城から出ていた。まとめていた髪は下ろしており、彼女もローブのような白い装束を着ている。
 ストメリナは鬱陶しげに長い銀髪をかきあげると、御者に話しかける。

「魔石鉱山まで、あとどれぐらいなの?」
「はっ、一時間ほどでございます」
「一時間? もっと早くならないの? サフタール達に勘付かれる前に朱い魔石を回収しないといけないのに」

 ストメリナが乗っている馬車は、魔法生物がひいていた。見た目は馬に似ているが、身体は青紫色にぼんやり光っており、たて髪は雲のようにふんわりしている。
 魔法生物の馬は普通の馬より早く走る上に、魔石さえ食べさせれば休憩はいらない。

「はっ……。早く走らせるには、もっと高魔力の魔石が必要になります」
「朱い魔石さえあれば、ってことね」

 起動力の高い馬がいれば、それだけでも戦争に有利になる。戦争を起こしたがっているストメリナは、一つでも多くの朱い魔石を欲していた。

 (戦争を起こし、ブルクハルト王国を滅ぼせば……きっとお父様は私を認めてくださる)

 ストメリナは真っ赤な唇の端を吊り上げる。
 大公は朱い魔石を王国と折半すると言っていたが、本音は独り占めしたいはずだ。

 (私には巨氷兵がある)

 巨氷兵は、高い魔力を含む雪鈴草を元に作り出したゴーレムだ。雪鈴草は公国でしか生きられない花で、他国へ持ち出すとすぐに枯れてしまう。雪鈴草から作り出した巨氷兵も同様で、他国で呼び出してもすぐに動けなくなってしまう。
 だが、朱い魔石さえあれば。
 計算式の上では、朱い魔石を取り込んだ巨氷兵は無敵だった。他国で呼び出しても無尽蔵の体力で動き続け、強力な炎魔法を喰らっても溶けることはない。最強の兵士だ。

 (イルダフネ……いや、ブルクハルト王国ごと消し去ってあげるわ。アザレア……!)

 イルダフネを攻めるようなことがあれば、当然クレマティスは止めに入るだろう。ストメリナは彼も抹殺する気でいた。

 (私の邪魔をする者、すべて消し去ってやる……!)
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