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意思確認

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「サラ」
「何ですか~?」
「気が変わっていないか? やはり、俺と結婚できないとか……」
「変わってませんよ」

 朝、目が覚めた団長は私の身体をぎゅうぎゅう抱きしめて、結婚の意思をあらためて確かめてきた。団長は私の気が変わっていないか、心配らしい。

「サラは面倒くさがりだから、しがらみが沢山ある俺との結婚をやはり嫌だと思うんじゃないかと……不安で仕方ない」
「もう心に決めましたよ。団長の私への愛を信じます。面倒なことがあっても、それとなく団長へ押しつけますよ」
「ああ、ぜひそうしてくれ。面倒ごとはすべて俺がなんとかする」
「いや、ダメでしょう。夫婦は助け合いが大事ですよ」

 なんとか団長の拘束から抜け出して、順番にシャワーを浴びる。はじめて肌を重ねた朝だと言うのに、情緒がない。仕方がない。私たちは三年間顔を合わせてきて、こういうことになったのは昨夜が初めてなのだ。色気がなくて当然なのかもしれない。


 ◆


「団長はいつ、私のことが好きになったんですか?」

 団長が作った美味しいミルク粥を食べながら尋ねる。自分でもイヤな質問だなと思うけど、気になるのだから仕方ない。
 私のイヤらしい質問に、団長はほんのり頬を染めた。

「俺がこのマトロアへ赴任したての頃……君が風邪をひいて寝込んだことがあっただろう?」
「あ~~、そんなこともありましたね」

 団長がわざわざ私の部屋まで来て、ミルク粥を作ってくれた。あの時食べたミルク粥と、お見舞いで貰った桃の味は忘れられない。
 私は騎士団の寮に住んでいる。あの日はふらふらしながら寮の受付カウンターへ行き『今日は体調が悪いので休む』と伝えに行ったっけ。王都に行けば魔導師たちが作った魔道具で遠く離れたところにいる人と会話をすることも出来るが、ちょっと辺境にあるマトロアには残念ながらそんな便利なものはない。それでも受付に行けば詰所への伝言をお願い出来るので、騎士団での生活はかなり恵まれていると思う。

 あの日はぜいぜい荒い息を吐きながら部屋で寝ていたら、いきなり団長が訪ねてきたから驚いた。

「君の部屋のキッチンを見て驚いた。ヤカン以外、すべての調理道具に『未使用』の白い帯がついたままだったし、保冷庫のなかには酒瓶しか入っていなかった。独身の若い男の騎士でも、もう少し保冷庫に何か入っているぞ」
「あはは~……ごめんなさい」
「君ん家の保冷庫を見て思った。これは俺が食わせてやらねばと」
「……団長、私は『団長が私を好きになったのはいつなのか』を聞いているんですけど?」
「君の部屋へ見舞いに行った時だ。熱を出して弱ったサラと、何も無いキッチンを見て惚れた」
「いや、それはドン引きするポイントですよ」
「あの時の衝撃が忘れられない」
「衝撃って」
「本当にびっくりした」

 どうも私は団長の父性ならぬ母性をブチ抜いてしまったらしい。もともと団長のことは口うるさいお母さんみたいだなと思っていた。そうか、私は団長のことを母親みたいだと思っていたから、めんどくさいと思っていたのか。納得した。



「朝食を食べ終わったら、俺の実家へ行こう」
「えっ、アストロニダへですか?」

 団長の実家領は、マトロアから馬車で二、三時間のところにある。近いといえば近い。

「ああ。俺があと一月でマトロア地区の団長を辞することを考えれば、一日でも早く動いたほうがいい。早々に両家から結婚の許しを得よう。……サラの実家は王都か。有給を取るぞ」
「ええっ……急すぎませんか? ボガトフさんが泡を吹きますよ」

 ボガトフさんは私たちよりも二歳年上の副官だ。団長の仕事も事務官わたしの仕事もほぼ把握している凄いひとなのだ。今日も非番の私たちに代わって詰所で仕事をしているはず。

「ボガトフには前々から結婚について相談していた。俺とサラがいなくなった後の詰所を頼むとな」
「そんなに私と結婚する気まんまんなら、ボガトフさんに話す段階で私にも説明してくださいよ。急すぎます」
「俺がボガトフに結婚の話をしたのは二ヶ月も前だぞ? サラに早々にプロポーズして断られたら、気まずい状態が合計三ヶ月も続くじゃないか」
「三ヶ月はキツいですね……」
「だろう? 実際、一度は君にプロポーズを断られたからな」
「すみません、すぐに撤回してしまって」
「いいさ。ただの上官だと思っていた男にいきなりプロポーズされたら、戸惑うのも当たり前だ」

 団長は私と同い年で、しかも誕生日まで同じなのにオトナだな~~と思う。そう簡単には感情的にならない。普通、あんなにあっさりプロポーズを断られたのに、それをたった一日で撤回されたら怒ると思う。
 体感的には、団長のほうが十歳は上に思える。だからこそ、団長のことをめんどくさい人だなと思っていたんだけど。今はそのめんどくささを愛しく思う。団長が好きだと自覚してしまったからかもしれない。

 何はともあれ、私たちはお互いの家へ挨拶に行くことになった。有給の伝言は団長が暮らす騎士団居住区の管理人へ頼んだ。ボガトフさん、泡を吹いて倒れなければいいけれど。何せ私たちは今日を含めて四日間も休むのだから。なるべく早くお互いの実家への結婚の挨拶をすませて戻ってきたいものだ。
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