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※許せない

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 今夜は泊まりのデートの日だ。シトリンは日中、休日出勤をしていて、彼らは夕方に落ち合った。

「アルゼット、うちの父に会ったって本当なの?」

 あの父親が、アルゼットに何か余計なことを言ったりしたりしないワケがない。ウォルホートの娘を今世で二十年以上、前世でも二十四年やっていたシトリンは厭な予感がしていた。
 ウォルホートは前世では枢機院の議席を持つ貴族で、今世でも貴族家出身の有力者だった。仕事でもかなりのヤリ手で悪知恵が働くが、それは私生活でも一緒だった。
 シトリンは、学生時代の男友達がことごとくウォルホートから嫌がらせをされていたことを思い出し、身震いする。

「何か、厭なことを言われたり、されたりしなかった?」

 シトリンは縋るようにアルゼットに尋ねるが、彼は静かに首を横に振る。

「いや、君の父親は紳士だったよ」

 そう言う、アルゼットの表情にはあきらかに覇気がない。

「じゃあどうして元気がないの? ……うちのお父さん、私たちの結婚に賛成してくれたのに」
「それはどういうことだ?」
「やっぱり、何か言われたんじゃないの?」

 アルゼットは額を抑えると、ため息をついた。

「はぁ……。シトリンにはお見通しか。君の父親に、君の結婚相手はすでに決まっていると言われたんだ」
「えっ、ええっ⁉︎ ど、どういうこと……⁉︎」
「君の相手として相応しい人間を選んだと、君の父親は言っていた」

 信じられない。嘘だとしても、これは性質タチが悪すぎる。自分に結婚相手がいることなど、父親から告げられたことは一度もない。
 ウォルホートは一体何を考えているのか。シトリンには理解出来ない。自分にはアルゼットとの結婚を賛成するようなことを言っておいて、アルゼットには自分に結婚相手がいると言うなんて。訳が分からないにも程がある。

「君の家族や親族は、皆前世の記憶があるらしいな」
「そうよ……。でも、それが何か……」
「俺の前世の身分だと、君と結婚すると苦労をするとも言われたよ」
「そんな……。何それ……」
「なあ、シトリン。俺は前世では奴隷身分だったのか?」

 今度は、アルゼットから縋るように尋ねられてしまったシトリンは困惑する。前世の時代には身分制度があった。確かにアルゼットの言う通り、彼は前世では奴隷身分だった。しかし、アルゼットが奴隷になってしまったのは、彼自身の罪のためではない。彼の曽祖父が事業に失敗し、十代掛けても返すことの出来ない負債を抱えてしまったからだ。

「確かにあなたは前世では奴隷だったわ。でも、それはあなたのせいで奴隷になったんじゃないわ」
「俺のせいでは無いにしろ、奴隷は奴隷だ。前世で奴隷だった奴と結婚したら、シトリンは苦労しないか? 親戚から何か言われたりしないか?」
「前世の記憶のある人なんか限られているわ。私の職場だって、前世の記憶がある職員は私だけだもの。うちの親族はたまたま前世の記憶を待ち合わせいる人が多いけど……。ほとんどの人はあなたの前世のことは気にしない。私はあなたと一緒になって、幸せにはなっても不幸にはならないわ!」

 シトリンはアルゼットと心と身体が繋がり、急速に強くなっていた。もう、前世のアルゼットとのことを思い出し、泣くシトリンはいないのだ。今、彼女はアルゼットと暖かな家庭を築くため、まっすぐ前を向いていた。
 アルゼットが前世での記憶を取り戻したら……という懸念は無くはないが、二人でなら乗り越えられるとシトリンは思い始めている。

 (許せないわ……)

 ストレートに結婚を反対されたほうがまだマシだった。シトリンは前世で、アルゼットの死を目の当たりにして後追い自殺をした。前世のアルゼットに冷たくされていた。その辺りのことを責められるのならまだしも、アルゼットに前世での身分を指摘し、婚約者をでっちあげるなんて卑怯すぎる。特に身分のことはアルゼットにはどうしようもないことなのに。

「俺は君と一緒になることを、甘く見ていたのかもしれない」
「そんなことない……!」
「なぁ、シトリン。もっと前世の俺について教えてくれないか? 俺は本当に、君に相応しい人間なのか?」
「当たり前でしょう? 私はアルゼットじゃなきゃ結婚したくない……。私にはあなたしかいないの」

 シトリンはアルゼットに抱きつく。自分には彼しかいないのだ。父親や親族が彼に悪感情を持っているなら、そんな血縁者なぞ切り捨てたっていい。
 シトリンは今まで、アルゼットと結婚したいと言ったら両親が悲しむことばかり気にしていた。しかし、今回父親によってアルゼットの心が傷つけられてしまった。彼女は、アルゼットを傷つける者は何人たりとも許せなかった。それぐらい彼女にとってつがいは、アルゼットは特別なのだ。


 ◆


 夜。寝室から、ぎしぎしと立て付けの悪い音が響いていた。
 ベッドの上には一組の男女がいた。男の方はシーツの上に寝そべっているが、女の方は男の股間の上にまたがり、白い肢体を弾ませていた。

「あっああっっ……いっ、いや……っ! いくっ……いく……!」

 一糸纏わぬ姿で腰を振る女はシトリンだった。胸元の二つの膨らみを揺らし、顔を真っ赤に上気させ、全身に玉のような汗を滴らせていた。彼女はアルゼットの腿や腹に手を置き、それを支えにして一心不乱に腰を振っていたのだ。
 シトリンが上下に跳ねるたび、彼女の脚の間からは肉色の棒が見え隠れしている。結合部からはぬちゃぬちゃと粘着のある水音が漏れていた。

「シトリン、無理をするな……」
「無理、なんか……してない……っ! あうっあぁっ!」

 シトリンはまた、ガクガクと腰や太ももを震えさせる。
 今夜の行為は、彼女からしたいと言い出した。二人は初めての朝を迎えてから、二、三回身体の関係を持っていたが、シトリンが上になったのはこれが初めてだ。

 二人で話し合い、シトリンの両親の元へ行くことを決めたが、彼女の両親は仕事を持っていて多忙だ。今夜のところは解決出来ることは何もない。
 シトリンはモヤモヤしながら眠るのが嫌だった。何も考えられないぐらい気持ち良くなりたいと、彼女がアルゼットとのセックスを望んだのはごく自然な流れだった。

 しかし受け身だと、アルゼットが遠慮するので無茶な行為が出来ない。そこで、シトリンは自分が上になることを提案したのだ。アルゼットは最初こそシトリンに動いてもらうことに難色を示したが、最終的には折れてしまった。

「シトリン 、あんまり動いては駄目だ」
「あ、あなたもっ、気持ちっ、よくなって……!」

 腰を浮かせて跳ねるたび、肉棒の穂先が快いところを掠める。最初は気持ち良さよりも、圧迫感や尿意を感じていた行為も、今では官能しか感じない。
 アルゼットも気持ち良くなっているのか、薄紫色の瞳を潤ませ、湯にあたった後のように頬を赤く染めている。
 普段の優しい彼も好きだが、快楽に喘ぐ彼も好きだとシトリンは思う。もっともっと、自分の行為で気持ちよくなって欲しい。そう思うといくらでも大胆になれた。

 シトリンは一旦腰の動きを止めると、汗に濡れた黒髪を耳に掛け、前屈みになった。彼女の視線の先には厚めの胸板がある。もっと詳細に言えば、ピンと勃った小さな乳首が目に留まった。
 シトリンはアルゼットの二の腕を掴むと、そのまま顔を胸板へと埋めた。

「し、シトリン、何を……?」

 動揺するアルゼットの声が聞こえるが、かまうことなくシトリンはその小さな尖りに舌を這わせる。彼女は自分がされて気持ち良かった行為を彼にしようとしていた。硬くなった尖りを押しつぶすように舌を動かして転がす。もう片方の胸の尖りも同様に舐めしゃぶった。

「んぅっ……硬くなってる?」
「うぅっ……シトリン……」

 何故かアルゼットの乳首を攻めると、脚の間に埋めたものが膨張し、より硬くなったような気がする。アルゼットを気持ちよく出来たと嬉しくなったシトリンは、さらに掌を使って胸板を掴み、揉んだ。一見筋肉が浮いていて硬そうに見える身体だが、触れると意外にも弾力がある。

「だめだ……そんなこと……」
「どうして?」
「もた、もたない、から……!」
「そう?」
「う、うわぁっ、はぁっ、あぁっ」

 見るからに余裕が無いアルゼットを目の当たりにしたシトリンは、彼の身体の上にうつ伏せると、肉棒を咥えこんだ股を浮かせ、そのまま打ち下ろした。ぱんぱんと肌が打ちつけあう音と、アルゼットの嬌声が響く。
 アルゼットのよがる声は良い。いつまでも聞いていたいとシトリンは思う。
 うっとりするシトリンとは裏腹に、アルゼットは彼女の肩を掴み、言葉にならない声を発している。咥えこんだ肉棒は人体とは思えないほど熱を発していた。きっと、精を吐き出したくて仕方ないのだろう。

「アルゼット、そろそろ交代しましょう?」
「あ、ああ」

 名残り惜しく感じながら、シトリンはアルゼットの身体から退く。彼の股間にあるものは、彼女の愛液でべっとり濡れていた。

 アルゼットはすぐにシトリンを組み伏せる。彼女の手首をシーツに縫い止め、指を絡ませた。脚を広げさせると、彼の剛直はなんの抵抗もなく、彼女の濡れた隘路へ再び収まる。

「激しくして、奥まできて……!」

 下になったシトリンは、アルゼットの腰へ脚を絡ませる。今夜はもっと深いところまで繋がりたいと思った。何も考えられなくなるぐらい、激しくして欲しかった。
 アルゼットもシトリンの懇願に応え、すぐに剛直を奥まで差し込んだ。柔らかな子宮口に肉厚な穂先を押し当て、ぐりりと抉ると、すぐに彼女の身体は反応する。膣が激しく戦慄き、アルゼットの精を啜ろうと執拗に蠢いた。

「あっああっ!」
「シトリン、シトリン……!」

 執拗な締め付けに耐えられなくなったアルゼットは腰を震わせると、シトリンの奥深くへ熱い白濁を流し込む。
 シトリンは自分のなかを跳ね回る肉棒と、熱い精を吐き掛けかれる感覚を感じながら、ただただ快楽の悲鳴をあげていた。
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