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※初めて二人で迎える夜明け

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「シトリンはこういうことの経験はあるのか?」

 戸惑うようなアルゼットの問いかけに、シトリンはまた顔を赤くして首を横へ振った。

「前世の分までシトリンのはじめてを貰えるのか。俺は果報者だな」
「面倒じゃない?」
「いいや、余計な嫉妬をせずにすむから、ありがたいよ」

 余計な嫉妬とはどういう意味だろうか。シトリンは首を傾げる。
 アルゼットはベッドの上にあったクッションを手早く集めるとシトリンの背後に置く。彼は色々と配慮をしてくれているのだと思うと、それだけでシトリンは嬉しく思った。

 二人は何度か触れるだけの口づけを繰り返していたが、シトリンが吐息を漏らし始めると、アルゼットは彼女の頭の後ろを支え、その口内へ舌を差し入れた。

 シトリンはアルゼットの口づけに酩酊感にも似た感覚を覚える。確かに今夜の彼はボトル一本分近くの白ワインを呑んでいたが、それはもう六時間以上も前の話だ。今はもう夜明けが近い。唾液交換をしているだけで、酔うとは考えにくい。
 舌をゆっくり絡ませているだけでこんなにも夢見心地になれるだなんて。シトリンからも積極的に舌を絡ませた。アルゼットの体温を感じているだけでも幸せだった。

「……キスがすごく気持ちがよくて酔ってしまいそうだわ」
「つがいの体液は特別らしいな」

 そう言うアルゼットは、シトリンが着ていたパジャマのボタンを一つずつ外していく。彼女はもう、されるがままだ。むしろもう、シトリンは早く繋がりたいとさえ思う。キスだけでこんなにも気持ちよくなれるのだ。アルゼットと一つになれたらどうなってしまうのだろうか。
 脚の間、その奥がじんと熱を持ち、落ち着かなくなっている。早くアルゼットを受け入れたい。
 シトリンは焦るが、アルゼットは冷静だった。

「アルゼットも早く脱いで」
「焦らないほうがいい。慎重に進めないと怪我をするから……」

 アルゼットの視線は、露わになったシトリンの胸元へ注がれている。彼女自身は細い身体とアンバランスに大きな乳房をよく思っていない。着られる服が限られてしまうからだ。

「胸を触ってもいいか?」
「お好きなだけどうぞ」
「おおぉっ、柔らかい」

 感嘆の声を出すアルゼットに、シトリンは微笑ましく思う。胸の膨らみに長い指を埋められるとくすぐったくなった。笑ってはいけないと思いながらも、つい、笑い声を漏らしてしまう。

「怖くないか? 痛くないか?」

 シトリンは楽しげにしているというのに、彼女に触れるアルゼットの手つきはおっかなびっくりだ。

「大丈夫、もっとアルゼットの好きなようにして」

 シトリンの明るい声に導かれるように、アルゼットは彼女の豊満な胸元に顔を埋める。彼は二つの膨らみの間に舌を這わせた。心臓に近い場所を舐められている。シトリンは自分の鼓動の音を聞かれてしまうのではないかと、より一層胸を高鳴らせた。
 アルゼットの短く切られた髪が肌に触れるだけで、腰がびくりと浮く。こんなにも自分は敏感だっただろうか。

「シトリン、すごくドキドキしているな」
「分かってしまうわよね」
「俺もすごくドキドキしている」

 アルゼットはそう言いながら、力を極力入れないようにシトリンの胸を愛撫している。白い膨らみの頂きにある濃い紅色の尖りを人差し指と親指とで掴み、軽く捻られるとシトリンは身を捩った。彼女は普段から自分の身体に触れることはあまりない。入浴の時ぐらいだ。だから、乳房を握り込まれ、その先端にある乳首を弄られたぐらいで身体が落ち着かなくなっている自分に驚いていた。

 アルゼットはシトリンの脂肪が薄い腹にも円を描くように舌を這わせる。性的な行為はよく食事に喩えられるが、シトリンはアルゼットに食べられているような錯覚を起こす。このまま、食べられてしまっても良いかもしれない。触れられるだけでこんなにも幸せなのだから。

「アルゼット」
「何だ? 舐められるのは嫌か?」
「ううん、私、すごく幸せ」

 前世の頃も、こうされることを望んでいた。しかし、前世のアルゼットは自分に触れるどころか、まともに会話すらしてくれなかった。

「ずっと、ずっと、前世の頃からあなたとこうしたかったの」
「これからもっとすごい行為をするぞ?」
「そう、それは楽しみね」

 シトリンは笑みを浮かべてアルゼットへ両腕を伸ばす。アルゼットが前屈みになると、二人はまた唇を重ねた。


 ◆


「あっ、ああぁっっ」

 アルゼットはシトリンの両足を大きく広げ、その股間へ顔を埋めていた。清楚な外見とは裏腹に、黒くて濃い茂みを蓄えている彼女に彼は興奮を覚えていた。
 黒い茂みの間から覗く、紅い陰核の存在がなんともいやらしい。最初こそ皮を被っていた陰芽も、アルゼットが舐めしゃぶった今では硬く膨らんでいた。
 アルゼットは何度となくシトリンの裸を想像していたが、実際の彼女の裸体は想像していた以上に素晴らしかった。普段、首まで詰まったワンピースに包まれた胸は、片手で握り込んでも余りあるほど大きく、顔を埋めた時の感触は例えようのないほど気持ち良かった。端的に言えば、ふわっふわだった。
 シトリンの隠毛が濃いのも、秘裂を覆う花弁が肉厚で大きめなのも、意外ではあったがアルゼットは好みだと思った。シトリンの身体の特徴なら何でも好きになれる。そう、内腿にある黒子でさえも。

「シトリン、とても綺麗だよ」
「アッ……あっ、う、嬉しい……早く、アルゼットも気持ちよくなって」
 
 シトリンは陰核への刺激だけで二、三度気をやっていた。虚な瞳でアルゼットを見あげている。ぱっくり縦に開いた秘裂からは、透明な蜜を流し、濃い陰毛をぐっしょり濡らしていた。
 アルゼットの雄は痛いほど勃起していた。肉竿は割れた腹筋に付きそうなほどそそり勃っており、彼も早くシトリンの中へ入りたいと思っている。

「本当にいいのか? シトリン」
「いいの、いい……。早く来て」

 熱に浮かされたようなシトリンの琥珀色の瞳。
 アルゼットは意を決して、下履きを脱いだ。透明な液を滴らせた肉色の棒とその根元にぶら下がった袋が露わになった。

「シトリン、愛してる。愛しているよ」

 前世の記憶がない自分が「愛している」と言っても、浅いかもしれない。アルゼットはそう思ったが、言わずにはいられなかった。彼の愛の告白に、シトリンは一筋の涙を流した。

「嬉しい……ありがとう。私もあなたのことを愛しているわ」

 なんとも感動的な場面だが、アルゼットはこの後にやらかしてしまった。
 愛液の滴る肉の隘路に、肉棒の穂先を埋めたまでは良かった。腰をぐっと押し進め、何か柔らかくて温かなものに自身が包まれている。そうアルゼットが意識した瞬間、彼は昂りを吐き出してしまったのだ。
 「あっ」と思った時には遅かった。肉の隘路の中で肉棒は跳ね回り、膣壁に白濁を叩きつけるように吐きかけた。
 いきなりのことで、アルゼットの下になったシトリンも目を白黒させている。

「ご、ごめん、シトリン」

 アルゼットの口からは謝罪の言葉が出る。いつもの「すまない」ではなく「ごめん」と咄嗟に謝ったところを見ても、彼の慌てぶりが相当なことが伺い知れる。
 シトリンは頭を下げるアルゼットに首を傾げる。

「どうして謝るの?」
「君を満足させる前に果ててしまったから……」
「もう私は満足しているけど……。あなたが上手くいかなかったと思うなら、もう一回やってみる?」

 シトリンはクッションを背にまた脚を大きく広げる。黒い茂みに包まれた赤い入り口からは、薄い紅色に染まった白濁が流れ出ていた。自身が吐き出した精液と破瓜の血が混じり合った光景を目にしたアルゼットの雄はまた、むくむくと力を取り戻す。

「ああ、ああ、そうだな。シトリン……!」

 アルゼットはシトリンの膝を掴むと、彼女のぬかるみへ自身を再び埋めた。少し痛みを感じるほど膣内は狭いが、ぬるついた温かいもので包まれている快感のほうが勝る。絡みついてくる膣壁に抵抗するように、彼は前後に腰を振った。自分の手で扱くのとは比べものにならないほど気持ちがよく、また陰嚢に張りが出てきた。

 アルゼットの下になったシトリンも、絶えず喘いでいた。隘路の中を抽送されている彼女は、二つの膨らみをぶるんと震わせている。豊満なたわわの間には、球のような汗がいくつも浮いていた。

「あっあぁぁっ、だ、だめ……!」

 シトリンが叫んだその刹那。アルゼットの雄を咥え込んだ媚肉内が急激に窄まった。

「うぐっ……あぁっ……」

 一度盛大に吐精していたアルゼットはなんとか耐える。二回連続早漏れしていては男の矜持がズタボロになってしまう。

「シトリン、気持ちいいのか?」

 腰を打ちつけながら問うアルゼットに、シトリンは涙を流しながら頷いている。彼女はアルゼットへ向かって細い両腕を伸ばした。

「アルゼット、キスして」
「ああ……!」

 アルゼットは前屈みになると、シトリンのすべらかな額に口づけ、今度は涙を拭うように頬にもキスした。気持ちいいかと尋ね、シトリンは頷いたが、相当な痛みや圧迫感を感じているに違いない。挿れている立場である自分でさえ、キツさを感じているのだから。

 少しでもシトリンの苦痛を和らげたい。アルゼットは彼女の首筋に顔を埋め、薄い皮膚に舌を這わせる。ちろりと舐めると、彼女は身じろいだ。官能を誘うような行動を取れば、シトリンも気持ち良くなれると思ったのだ。

 アルゼットはシトリンと出会うまで女性と付き合いたいと思ったことがなかった。今世の彼は穏やかな気質の持ち主で、顔立ちやスタイルも悪くないどころか美形と言えるぐらいで、それなりにモテてきた。どうしてもと女性から請われ、食事やお茶ぐらいならしたことがあるが、それだけだ。

 アルゼットが『白羽族のつがいの会』に参加したのは、周囲がぼちぼち結婚し始め、自分もそろそろ家族を持つのも良いかもしれないと思ったからだ。子どもは好きだし、つがいとの子どもは健康な子が生まれやすいと聞いたことがあった。つがいが優しい女性なら、結婚を申し込もうと初めから考えていた。
 まさかつがいの女性がこれほどまでに魅力的だとは。

 周囲にもつがいの夫婦が何組かいるが、どの夫婦も子沢山で仲が良かった。自分も、シトリンと末長く良い関係を築いていきたい。だから夜の行為でしくじるワケにはいなかったのである。

 シトリンの苦痛を和らげ、気持ちよくなってもらうために、彼女の首筋を舐め、乳房を包みこむように優しく握り込んでいたのに、頬を薔薇色に上気させている彼女を見ているとアルゼットはどうしようもなく堪らない気持ちになる。
 結局、またアルゼットはすぐに果ててしまった。ひきしまった腰をぶるりと震わせると、彼は低い呻き声を出しながら、シトリンの胎へと熱い白濁を流し込んだ。

「ごめん……。言い訳するつもりはないが、俺はこういうことの経験がまったくなかったんだ」
「大丈夫よ、私も無いから」

 シトリンは満足そうに笑顔を浮かべている。アルゼットは彼女の寛容さに感謝したが、このままではいけないと思う。

「……なんとかシトリンに慣れないとな。君はあまりにも魅力的すぎる」

 視覚と感覚の刺激が強すぎた。すぐに勃つのは良いことかもしれないが、精液を垂れ流しにしていてはシトリンを性的に満足させることが出来ない。

「本当? 私に至らないところが無かったか、不安だわ」
「君はいつだって百点満点だよ」
「それは褒めすぎよ」

 シトリンは苦笑いするが、満更でもなさそうだ。
 気がついたら、カーテンの隙間から日の光が差していた。いつの間に夜が明けたのだろうか。
 アルゼットは夜勤の日以外は至極規則正しい生活を送っていた。仕事でもないのに、夜中に目覚めて朝まで起きているようなことは彼の記憶の限りでは無い。

 朝食を摂るような時間帯になっても、身体が怠くて起き上がる気になれない。二人は身体を寄せ合ってベッドに横になっていた。
 今日、二人の用事らしい用事は、シトリンへ前世での詫びの品を買うため、路面店を回ることぐらいだ。少しぐらいゆっくりしていても問題ない。

「こんなにダラダラしている朝は初めてかもしれない」
「アルゼットは真面目なのね。まぁ、私もだけど……。ルーティンが乱れるのが嫌なのよね」
「分かる。変な時間帯に寝たり起きたりすると、調子崩れるよな」

 真っ白な天井を見上げ、他愛のないことを話しているこの時間が何故か楽しく感じる。シトリンと出逢うまでは、アルゼットにとって女性は等しく面倒な生き物だった。なるべくなら好かれたくないが、だからと言って嫌われるのも厄介なことになる。そんな存在だった。だが、シトリンは違う。ずっとずっとこんな時間を過ごしたいと心から思える存在だ。

「シトリン、好きだ」
「ありがとう、私もよ。本当に……夢じゃないかしら」
「夢じゃない」

 アルゼットは隣で横になるシトリンの上へ覆い被さると、また彼女の額にキスを落とした。

 この後、彼らが休憩を挟みつつ、昼までまぐわっていたのは言うまでもない。
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