妹に婚約者を寝取られたとグチったら、王弟に求婚され、復讐しようと誘われた件

野地マルテ

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忌まわしき思い出

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 ──私の、主人?
 手を出すとは。それはつまり……。

「うそだろ……」

 私の隣で、パヴェルが声を震わせる。
 パヴェルの兄、現国王は非常に高潔な人物として有名だ。
 モーラと浮気するなんてあり得ないだろう。
 しかし、王妃様がこの場で嘘を仰るとも思えない。

 パヴェルは一人で、『昔、あれだけボコボコにされたのに……』と何やらぶつぶつ言っている。

 そもそも、モーラと陛下はどこで出逢ったのか。接点などないではないかと思ったが、ふと父の顔が思い浮かんだ。

 父はその昔、先王の命令で私を登城させていた。
 末の王子パヴェルのために。
 父は元・騎士だ。現国王とも接点があってもおかしくない。
 王妃様曰く、私を追い出し、モーラとスオルクが家を継いだ事で、イリス家は社交界から爪弾きにあったという。
 モーラと父は、なんとしてでも家を復興させたいと思ったはずだ。手段なぞ選ばなかったことは容易に想像出来る。

 モーラは内面はクソだが、肉感的な肢体と愛らしい顔をもつ。いくら高潔な陛下といえど、男。ほいほい関係を持ってしまったのだろうか。
 もう男なんか信じられないと以前の私なら思っただろうが、パヴェルのおかげで男性不信にならずにすんだ。
 パヴェルには感謝しかない。


「……円卓会議の後、一度陛下とお昼寝をご一緒しただけですわ」

 モーラは崩れた大広間の中で薄く笑う。
 その不気味な笑みに、背中がぞくりとした。

 ──ううっ……。

 モーラとスオルクが白昼堂々、浮気していた場面を見てしまったことを思い出す。
 髪を振り乱すモーラの白い背中。それを思い出すたびに胃に不快感を感じてきた。もう忘れたいのに、日に何度も思い出す、忌まわしき記憶。
 胃にキリリと痛みが走り、手でお腹を押さえる。
 パヴェルが心配そうに私の顔を覗き込む。

「……大丈夫か?」
「大丈夫よ……」

 大丈夫。
 私にはもう、パヴェルがいる。
 パヴェルは私の手を握ってくれた。

「いけしゃあしゃあと……。主人を舐めしゃぶっておきながら!」
「あんなもの、ただの排泄介助です。……それを浮気だなんて、大袈裟ですわぁ。私は殿方にお会いしたら必ずしております。挨拶のようなものです」

 パヴェルは『俺はして貰ってないからな!』とぶんぶん首を横に振っている。

 ──モーラ、とんでもない子ね……。

 元々、たいへんな男好きであることは知っていた。色々な男に手を出しては、数々の縁談を駄目にしてきたらしい。
 うちの両親もよく、こんな淫乱女を跡取りにしたものだ。
 トラブルしか起こさないのに。


「もう、これ以上の話し合いは無駄ね……。あなたが人の夫に手出ししたことを悔い、命乞いするなら、島流しの刑で許して差し上げようと思いましたが……」
「島流し? 嬉しいですわぁ。島にはどんな素敵な殿方がいらっしゃるかしら」
「ふん……。余裕をぶっこいていられるのも今のうちよ‼︎ 死んで償いなさい! モーラァ‼︎」

 王妃様の身体が再び宙に上がる。
 王妃様はただその場で飛び上がっただけなのに、また衝撃波で体が吹っ飛びそうになった。

「逃げるぞ! レティシア!」

 パヴェルに腕を引かれる。
 数歩後ろに下がった刹那、また地面が浮き上がった。

「うわぁっ!」
「パヴェル!」

 逃げようにも足元はどんどん崩れていく。
 板チョコレートのように、いとも簡単に地面が割れていく。天地崩壊、この世の終わりか。

 王妃様とモーラの闘いは文字通り、災害だった。
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