2 / 13
一晩考えさせてください
しおりを挟むパヴェルは口は悪いが良い人だ。
いつも私が嬉しい時には自分のことのように喜んでくれて、私が怒ってる時には私以上に激怒してくれる、そんな優しい男の子だった。
だからこそ、妹と、元婚約者……否、その旦那に一緒に復讐しようと言ってくれたのだろう。
妹モーラは不貞が発覚する一年も前から、私の元婚約者と密会していたらしい。
私と元婚約者は、うちの実家である伯爵家を継ぐため、長らく準備をしてきた。
執務室でよく、二人で将来のことを語らったものだ。希望に満ちてあふれていたと思う。二人の間には笑顔が絶えず、良い領主夫妻になれると信じて疑わなかった。
元婚約者とは身体の関係こそ無かったが、夫婦同然の仲だと私は認識していた。
だからこそ、ベッドで愛し合う二人を偶然見てしまった時、何かの間違いだと思ったし、雷に撃たれたかのように動けなかった。
──一時の気の迷いだと思ったのに。
背を丸め、頭を抱える。
元婚約者──スオルクは甘やかな美男子で、昔からモテていたことは知っていた。
私とて、世間をまったく知らないわけじゃない。
スオルクが多少他の女の人をみても、許そうと思っていたのだ。
しかしスオルクは、あろう事かうちの妹と不倫をしていた。子どもが出来るような行為に耽っていた。
私たちは婚約者同士といっても、家の運営に関わる仕事を共にし始めていて、夫婦同等の契約をすでに交わしていた。
それなのに、スオルクは妹と一年間も穢らわしい関係を持ち続けていたのである。
不貞が発覚し、むせび泣くモーラ。
私はただちに家を出、一生ここへは戻ってくるなとモーラへ言ったが、何故か追い出されたのは私の方だった。
両親は昔から妹に甘かった。
ミルクに蜂蜜をどばどば入れ、さらに砂糖を山ほど入れたぐらいにクソ甘かった。
『結婚前から身体の関係を持つぐらい愛し合っているのなら、モーラこそがスオルクの妻に相応しい』と言い出したのだ。
まったくもって信じられない。
スオルクと私は婚約破棄。
妹はそのままスオルクと結婚した。
あろうことか私が着るはずだった婚礼衣装を着て、妹はスオルクの妻の座についたのだ。
私はなんとか気を取り直して他の婿を取ろうとしたのに、うちの両親はどこまでも血迷っていて、スオルクと結婚したモーラに家を継がせると言いやがったのだ。
──今、思い出しても腹立つっっぅ……!
べきべきとこめかみや、握りしめた拳に血管が浮く。
復讐を提案してきたパヴェルには、『一晩考えるから返事は待ってほしい』と言ったが、そんな必要は無かった。
今でもクソほどむかついている。
なんなら実家ごと潰したい。実家のイリス家ごと消し去りたかった。
妹が生まれてから十八年。
あの家で育った私に人権など無かった。
それでもスオルクと、はじめて好きになった人と一緒にさえなれれば、私は幸せになれると信じていたのに。
私は今、本来モーラがやるはずだった王宮のお勤めに出ている。不幸中の幸いか、私は働くことは嫌いじゃないし、職場環境は実家とは比べものにならないほど良いので、『スオルクと結婚できなくてむしろ良かったわーハハッ』と思いはじめていたが、王城で幼馴染の王弟パヴェルと再会し、心の内をぶち撒けたら怒りが再熱した。
──モーラもスオルクも、お父様もお母様も許せない……!
かくして、私の心は決まった。
かつての家族と婚約者へ復讐すると。
21
お気に入りに追加
1,468
あなたにおすすめの小説
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~
ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。
そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。
自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。
マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――
※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。
※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))
書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m
※小説家になろう様にも投稿しています。

こんなはずではなかったと、泣きつかれても遅いのですが?
ルイス
恋愛
世界には二つの存在しか居ない、と本気で思っている婚約者のアレク・ボゴス侯爵。愛する者とそれ以外の者だ。
私は彼の婚約者だったけど、愛する者にはなれなかった。アレク・ボゴス侯爵は幼馴染のエリーに釘付けだったから。
だから、私たちは婚約を解消することになった。これで良かったんだ……。
ところが、アレク・ボゴス侯爵は私に泣きついて来るようになる。こんなはずではなかった! と。いえ、もう遅いのですが……。

【完結】私を無知だと笑った妹は正真正銘のバカでした(姉はため息を吐くだけです)
花波薫歩
恋愛
ブリジットの妹メリザンドは、お金欲しさにペラ新聞に貴族の暴露話を書いている。そのことは家族の誰も知らなかった。もちろんブリジットも。
その記事を読んだブリジットは眉をひそめた。人の小さなミスをあげつらい、鬼の首を取ったかのように偉そうに見下す記事には品性のかけらもなかった。
人を見下して笑うのはそんなに楽しい?
自分がされたらどんな気持ちになる?
ブリジットの幼馴染みで婚約者でもあるクロードは現在辺境伯の地位にある。ふざけて彼を「田舎貴族」と呼んだブリジットの言葉を真に受けて、メリザンドは姉をディスる話を新聞に書く。やがてそれを書いたのがメリザンドだと父にバレてしまい……。
短編。全12回。

【完結】元婚約者が偉そうに復縁を望んできましたけど、私の婚約者はもう決まっていますよ?
白草まる
恋愛
自分よりも成績が優秀だからという理由で侯爵令息アッバスから婚約破棄を告げられた伯爵令嬢カティ。
元から関係が良くなく、欲に目がくらんだ父親によって結ばれた婚約だったためカティは反対するはずもなかった。
学園での静かな日々を取り戻したカティは自分と同じように真面目な公爵令息ヘルムートと一緒に勉強するようになる。
そのような二人の関係を邪魔するようにアッバスが余計なことを言い出した。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる