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※お互いの事情

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「俺の名はハーシレフだ」
「ハーシレフ? 良い名前ね。私はロトニナ」

 半日もの間交わり続け、全身どろどろになった二人は、十人はゆうに入れるような広い風呂に浸かっていた。湯気が漂うゆったりとした雰囲気の中、今さらながら互いに自己紹介をした。

 リビングに敷いていたラグも汚れてしまい、今、ランドリールームにある魔道具製の洗濯機で洗っている。ランドリールームはこの風呂場に隣接している。ごうんごうんと洗濯機のプロペラが動く音がここまで鳴り響いていた。
 魔道具は魔力が動力源だ。この小屋には魔力を動力源とした便利がものが色々あった。

 ハーシレフと名乗った男の身体には、傷らしい傷はほとんど残っていない。性交で魔力を回復させたロトニナが、すみぐみまで癒したのだ。

「助かった。礼を言う」
「いいのよ。久しぶりのお客さんだもの。……食べようとしてごめんなさい」
「食べ……ああ、ところでここは何なんだ? 宿泊施設のようだが」

 ハーシレフは話題を変えようと首を巡らせる。最初にいた部屋もそうだが、一般人が暮らす住宅にしてはかなりだだっ広い。風呂も掛け流しの湯が常に流れている立派なものだ。

「百年前までは登山者向けの宿泊用のロッジだったの。ここの持ち主だったおばあさんが宿主を引退するからって私に売ってくれたのよ」
「聖女なのに、こんな山岳地帯の宿泊用ロッジとよく縁が出来たな?」

 ハーシレフは窓の外を覗く。いくつもの山々の峰が重なっているのが見えた。

「聖女だったのは人生の最初の頃……せいぜい四十年ぐらいよ。帝国の都にはたくさん聖女がいたから、私は親の介護を理由にさっさと引退したわ。親兄弟が死んでからは、各地を転々としたの。私は歳を取らないから、同じ場所にずっといると怪しまれるでしょ?」
「なかなか大変な人生だな」
「まぁね。別れの連続だった……。だから、私はこの地に結界を張って一人で暮らすことにしたのよ」
「寂しくはないのか?」

 ハーシレフの問いに、ロトニナは首を横に振る。束ねた髪から水滴が滴り落ちた。

「ここには動物達がたくさんいるから、飽きないわ。それに丘には綺麗な花が咲くし」
「綺麗な花……俺が丘の花を駄目にしてしまったな」
「いいのよ。また咲くわ。丘の花は強いから」

 そう言って微笑むロトニナの笑顔に、ハーシレフは湯に浸かった股間に張りが出るのを感じた。

 この目の前にいる女は自分を喰おうとしたが、よくよく見ると魅力的な女だった。全体的に細身だが、乳房と尻は適度に丸みを帯びていて、腰は蜂のようにくびれている。健康的な美しさを持っていた。
 元は白い肌だったが、湯に浸かり、今は肌を薔薇色に上気させている。胸元は隠しておらず、乳房の先端にある薄紅色の丸い乳輪をつい見てしまう。乳頭が小さい割に乳輪は大きめだった。

「もう一回する?」

 ハーシレフの視線に気がついたロトニナは、まとめきれなかった栗毛色の髪束を耳にかけると、湯から出て、湯船のすぐそばに造られた木のベンチに腰掛ける。ベンチには奥行きがあり、幼児ならば寝そべることも出来そうだ。

 彼は返事をすることなく、ざばばと水音をたてて立ち上がると、木のベンチに腰掛けたロトニナの前に跪く。そして、彼女の脚の間に顔を埋めた。濡れた下生えをかき分けて陰核を舐めると、すぐに悩ましい声が頭上から聞こえてきた。

 すでにさんざん耕した後である蜜口は、解さなくてもぱっくり紅い口を開けて物欲しそうに蠢いている。
 ハーシレフは先走りが滲む己を掴むと、軽く扱いてから彼女の入り口へと亀頭の先を押し付けた。
 つるりとした丸い先は、何の抵抗もなく蜜壺へと呑み込まれていく。湯に浸かったからか、先ほど交わった時よりも中が熱く感じる。

 ハーシレフは木のベンチの上に、ロトニナをゆっくり押し倒した。
 彼は腰を打ちつけながら、目の前にある乳房を握り込んだ。指が埋まるほど柔らかい。小さな乳頭を指の腹で擦ってやると、とろんとした目で見上げられた。この快楽に浮かされた顔にまた情欲がそそられる。

「はぁっ……。あぁっっ……ふうぅ」

 身体を前へ曲げ、甘い吐息が漏れる唇を唇で塞ぐ。何度か唇の表面を吸っていると、口が開いた。舌先を捩じ込んで、中を蹂躙する。
 そうしている内に、膣内が戦慄いた。この女の締め付けは酷く心地が良い。陰嚢が張って痛いぐらいになる。ハーシレフは腰を打ちつける速度を早めた。肌がぶつかりあう乾いた音が広い風呂場に響く。
 腰の動きを止めると、小さな呻き声を漏らしながら彼は断続的に精を吐き出した。何故かこの膣には精を注ぎたくて堪らなくなった。


 ◆


「お腹空いたでしょう? あなたは肉食? それとも草食?」
「別に人が食べられるものなら何でも食べられる」
「そう、良かった」

 風呂のあと、ロトニナは食事を出してくれた。
 ほこほこと湯気が立つ穀物の粥に豆のスープ、それに木苺。

「たまに結界の外へ転移して買い物に行くんだけど、今ちょうどストックが切れてきたところなのよね」
「いや、良い匂いだ。ありがとう」

 温かいものが食べられるだけでもありがたい。
 戦争が始まってから、ずっと保存食を口にする生活だった。野鳥を獲って食べる兵もいたが、飛竜でも野生味の少ないハーシレフには無理だった。

 穀物の粥に木のスプーンを入れ、少量掬って口へ運ぶ。塩味が効いていてとても美味しく感じた。

「おいしい?」
「美味い」
「良かったぁ。あなた、王子だって言っていたからお口に合うか不安だったの」
「王子だって、穀物の粥も豆のスープも飲むさ」

 ハーシレフは人間の世界に留学していた時のことを思い出す。身一つで留学という名の修行に出され、学校に通いながら朝晩働いたが、けして楽な生活では無かった。

 人間の世界は楽しかった。そのまま、人として生きて行きたいと思える程度には。
 しかし、黒竜人国の王子である自分にそんな自由は許されていなかった。

 ふと目の前にいるロトニナの顔を見る。目が合うと、空色の瞳に孤が描かれた。ハーシレフの種族である黒竜人は雄しか産まれない。仔を得るには、他の種族の雌と交配して産ませるしかなかった。

 飛竜の本能が、この女に自分の仔を産ませたいと強く訴えている。
 そんなことは二百年生きてきて初だった。

「ロトニナ、あんたには……つがいがいないと言っていたな?」
「ええそうね。だって、他の人間と寿命が合わないんだもの。聖女は長生きだけど、女しかいないし」
「どれぐらい生きるんだ? 聖女というものは」
「う~ん。平均で五百年。最高齢は千歳という話よ」
「飛竜とそう変わらないな」
「そうなのね」
「なぁ、ロトニナ」
「何?」
「俺とつがいにならないか?」

 ロトニナは持っていたスプーンの手を止める。そして、長いまつ毛を瞬かせた。

「あなた、王子様でしょう? 私、いくら元聖女と言っても市井の人間でしかないわよ」
「俺だって、人間界に降り立てば市井の人間だ」
「それに私、あなたの子どもを産めるかどうか」
「産めると思うぞ?」
「どうしてそんなことが分かるの?」
「本能だ」
「本能?」
「こんなに誰かを孕ませたいと思ったことはない。二百年生きてきて、ロトニナが初めてだ」

 あけすけ過ぎるハーシレフの言葉に、ロトニナは首まで真っ赤になる。

「わ、私、あなたを食べようとしたわ」
「それはあんたが生まれた国の習慣だから仕方がない。まぁ、同胞が喰われたかと思うと、ぞっとするがな」
「なら……」
「それ以上にあんたを孕ませたい。自分が喰われかけたことなど、どうでもよくなるぐらいに」

 これはとても強い衝動だった。おそらく、ロトニナは自分にとってのつがいに違いない。肌を何度も重ねたことで覚醒した本能だろう。

 食事を終えた二人は片付けもそこそこに、ロトニナが普段使っている寝室のベッドに傾れ込む。

 ハーシレフは忙しない手つきでロトニナのブラウスのボタンを取る。そして、あらわになった首筋に喰らいつく。

「ハーシレフ……!」

 いきなり首筋に牙を突き立てられたロトニナは驚く。しかしもう、ハーシレフは己の衝動を止めることが出来なかった。
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