11 / 62
11 うるせえですよ!
しおりを挟む「顔以外ではぼくなんか、普通の男子小学生よりもかなり劣っているほうだからね。告白してつきあうようになれば、相手の女の子だってそのうちイヤでもそのことに気づくことになるんだから。結果、幻滅して別れたいと思ったとしても、それは仕方のないことだよ」
ニヒルかつ寂しげな微笑をこぼしつつ言う駿介に、わたしは胸がきゅん! と痛むのを抑えることが出来ませんでした。一〇歳にして一二人もの女の子から別れ話を切り出されたことのある男の子というのは、こうまで美しくせつない笑みを浮かべられるものなのでしょうか……。
「いまだから言うけどさ。告白されてはすぐふられて、なんてことが一二回もあったもんだから、ぼくも一時はさすがにちょっと落ちこんじゃったんだ。ぼくは顔以外にはなんの価値もないつまらない男なんだって気がして、うじうじ悩んでたことがあったんだよ」
「……そうだったんですか。ちっとも気がつきませんでした」
駿介の告白を聞いて、わたしはショックを隠し切れませんでした。可愛い弟が苦しんでいた時に力になってあげられなかったどころか、悩んでいたことに気づきもしなかったなんて。
「そりゃ、自分のそんな情けない姿なんか家族にだけは見せたくないからね。家では精一杯虚勢を張っていたんだよ。て言うか、もし気づかれてたらそっちのほうがイヤだったし」
駿介はおどけた口ぶりで言いました。もちろんその言葉も半分は本音でしょうけれど、もう半分はわたしが自分を責めていることに気づき、気遣って言ってくれたのだと思います。
むかしから、人の気持ちを慮ることが出来るいい子でしたからねえ、駿介は。
決して、顔以外はなんの取り柄もないような子ではないのですよ。かつて駿介とつきあっていたという一二人の女の子たちは、そのことに気がつけていなかったようですけどね。
「そんな時だったんだ。ぼくが高内さんと出会ったのは」
そんなわたしの内心の思いをよそに、駿介は淡々と言葉を紡ぎ続けます。
「お姉ちゃん、覚えてるかな? 高内さんが初めてうちに遊びに来た時、お姉ちゃんの部屋で三人一緒にゲームで遊んだことがあったよね?」
「え? ええ。覚えていますよ。どんなゲームだったかは忘れましたけど」
「プレイヤーがとある大陸にある小国の王さまになって、軍備を整えたり資源を発掘したり商業や農業を促進したりしながらその国を大きく豊かに育てていくゲームだよ。四人まで同時にプレイ可能で、制限時間内に誰の国が一番大きくなるか競争も出来るってやつ」
「ああ。思い出しました。あの時は確かわたしの圧倒的勝利だったんですよね」
「うん。お姉ちゃんは近隣の弱い国ばかりを選んで戦争を仕掛けて併呑したり、強力な兵器を買うため国民に重税をかけたり、同盟を結んだ国にだまし討ちを仕掛けて滅ぼしたりといった非道な手段を惜しげもなく使うことで、あっと言う間に国を大きくしていったからね」
うるせえですよ!
「ぼくは荒地を開拓して農地を広げたり税金を安くして人の往来を増やしたりといった方法を取っていたんだけど、これだとなかなかうまくいかないんだよね。お姉ちゃんにも、そんな生ぬるい戦略ではいつまで経ってもわたしには勝てませんよとかってバカにされるし」
「バカになんてしていませんよ。ただあのゲームは戦争と謀略がメインで、裏切り裏切られ、だましだまされ、出し抜き出し抜かれの駆け引きが売りですからね。駿介のように牧歌的な手段ばかり使っていては敵に食い物にされるだけですから、勝つのは難しいと思っただけです」
「あの時、正直ぼくもそう思わないこともなかったんだけど。でもその後に続けて高内さんが言ってくれた言葉で、ぼくははっと胸を突かれたような気持ちになったんだ」
え? そうでしたっけ? わたしは首をひねりました。あの時ルルがそんな、駿介の心を打つようないいセリフなんか言いましたっけねえ?
「で? ルルはなんと言ったんです?」
「うん。『確かにゲームの趣旨的にはみっちゃんのやりかたのほうが正しいんだろうけど、あたしは駿介くんのやりかたのほうが好きだな。たとえゲームの中の話でも、誰かを裏切ったり傷つけたりしたくないっていう駿介くんの優しさ気高さを、あたしはとても素敵だと思うよ』って」
頰を赤らめ、どこかこそばゆそうな微笑を浮かべながら駿介は言葉をつまびきました。
おのれルルめ。あの時そんな悪魔のような甘言を用いて駿介を誘惑していたとは。何故当時のわたしはルルのその言葉を聞き流してしまったのでしょうか? もし時間を巻き戻すことが出来るならそんなたわけたことを言い出す前に、ルルの口を永久に封じてやりますのに!
「その高内さんの言葉を聞いて、ぼくはとっても嬉しかったんだ。いままでぼくは顔以外のことを女の子に褒められたことってあまりなかったから。ああ。このJKはぼくの顔じゃなくて心を、思いを、考えかたを見てくれて、その上で認めてくれたんだなあって思って」
顔をさらに赤らめ、本当に嬉しそうに駿介は言いました。なんかいい話っぽくなっていますけれど、それなら女子高校生をJK呼ばわりするのはやめてくれませんかねえ。
「高内さんとしては何気なくって言うか、単にフォローのつもりで心にもないことを言っただけかもしれないんだけどね。それでもあの言葉でぼくはずいぶん救われた気がするんだよ。いまから思えばあの時ぼくは、高内さんのことを好きになっていたのかもしれないな」
そんなことがあったから、高内さんもぼくのことを好きになってくれたんだと知った時は天にも昇る気持ちだったと、駿介は恋する少年そのものの顔で言葉を続けやがりました。わたしは苦々しい思いで、頭を抱えてしまいます。
たかがゲームの遊びかたにかこつけて内面を少し褒められたくらいで、女の子のことを好きになるなんて。駿介ってば、美形のくせにちょっとちょろすぎではないですかね?
この調子ではいつか、口先だけで甘い言葉を囁いてくるような悪い女にあっさりとだまされて、身も心も一途に捧げてしまいかねません。とても心配です。姉として。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
吉祥寺あやかし甘露絵巻 白蛇さまと恋するショコラ
灰ノ木朱風
キャラ文芸
平安の大陰陽師・芦屋道満の子孫、玲奈(れな)は新進気鋭のパティシエール。東京・吉祥寺の一角にある古民家で“カフェ9-Letters(ナインレターズ)”のオーナーとして日々奮闘中だが、やってくるのは一癖も二癖もあるあやかしばかり。
ある雨の日の夜、玲奈が保護した迷子の白蛇が、翌朝目覚めると黒髪の美青年(全裸)になっていた!?
態度だけはやたらと偉そうな白蛇のあやかしは、玲奈のスイーツの味に惚れ込んで屋敷に居着いてしまう。その上玲奈に「魂を寄越せ」とあの手この手で迫ってくるように。
しかし玲奈の幼なじみであり、安倍晴明の子孫である陰陽師・七弦(なつる)がそれを許さない。
愚直にスイーツを作り続ける玲奈の周囲で、謎の白蛇 VS 現代の陰陽師の恋のバトルが(勝手に)幕を開ける――!
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
人形の中の人の憂鬱
ジャン・幸田
キャラ文芸
等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。
【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。
【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる