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10 お姉ちゃんに断りもなく彼女を作るなんてどういう了見ですか!
しおりを挟む「じゅんずげぇ~っ!」
再び血の涙と汗と鼻汁とを部屋中に撤き散らしながら、わたしは駿介に向けて冷静かつ理性的に語りかけました。
「駿介っ! お姉ちゃんに断りもなく彼女を作るなんてどういう了見ですか!」
「どういう了見って……ぼくが彼女を作るのに、お姉ちゃんの許可なんかいらないだろ?」
わたしの勢いと迫力にやや引いたような怯えたような表情を浮かべつつ、駿介はたじろぎながらもそのように応えてきました。
これはまあたしかにその通りなので、わたしも一瞬言葉に詰まってしまいます。
「うっ……。そ、それはそうかもしれないですけど。それならせめて、その彼女の名前を教えてください! フルネームで。あと顔写真も見せてくれると嬉しいです」
「? ぼくの彼女の顔と名前なんか知って、どうするのさ?」
「決まっています! 顔を知っている人間の名前を書くと、その人物はたちまち死んでしまうという、死神のノートに記入するんですよ!!」
「……お姉ちゃん、そんなノートなんか持ってるの?」
「持っていますよ。理由があって中学生の時、アゾマンで購入しましたから」
「売ってるんだ!? 通販で」
「もちろん通販で買ったノートに人を殺す力なんてあるわけありませんが、実はわたしには前世から受け継がれた神性超魔力という能力があるのです。その力を注ぎこめばあ~ら不思議。ただのノートもたちまち本物の死神のノートと化してしまうのですよ。ふひひひひ」
「うわあ。誰か助けてぇー! 最近ようやく収まってきつつあると思ってたお姉ちゃんの厨二が、よみがえってこようとしてるよー!!」
魔王復活の神託を受けた巫女のように、天を仰ぎ絶望の雄叫びをあげる駿介でした。
厨二とは失礼な。わたしの前世は、宇宙の破壊を目論む暗黒大明王を斃すべく宇宙神に選ばれた七人の神性少女の一人で。前世では力及ばず敗れたものの、死の直前に最後の力を振り絞り転生の秘術を使うことで地球に生まれ変わってきたというのはまごうことなき事実なのに。
普通の女子高校生という現在の姿と立場はあくまで仮のもの。現在のわたしには前世の力も記憶もほとんど残っていませんが。それでも来たる暗黒大明王による地球襲来の時に備えて、こつこつと力を蓄えながら雌犬……もとい雌伏の時を過ごしているのです。
「……それはともかく」
内心で拳を奮い盛り上がっているわたしを、駿介は何故だか可哀想な女を見るような目つきで見ながら、両手で見えない箱を持ち上げ脇に置き直すという……いわゆる『おいといて』のジェスチャーをしてから再び言葉をつまびきます。
わたしも前世のことはとりあえず忘れて、駿介の話の続きを聞くべく耳を澄ましました。
「この際だから言うけど。こう見えてもぼくは実はこれまで、同級生の女の子一二人に告白されて、その全員とつきあっていたんだから。女の子のことについてだってそれなりには分かってるつもりだよ」
「一二人!?」
わたしは思わず仰天して、叫んでしまいました。三人四人じゃないだろうとは思っていましたけれど、さすがにまさかそんなに大勢いたとは思いもしませんでした。
「別に、驚くほどのことじゃないと思うけど? 一〇年も生きてれば女の子の五人や一〇人に告白されるくらい当たり前じゃん?」
わたしが驚いていることに驚いたと言うように、駿介は目をまん丸く見開きながら、真剣な表情を浮かべて言いました。さすが美少年。凡人とは恋愛観が根本から異なっています。
わたしは一六年間も生きていますが、告白なんかされたことは一度だってないですのに。
「あ。もちろん二股も三股もかけたことはないよ? つきあう時はちゃんと一人ずつだったからね。一人にふられてから次の子、その子にふられてからまた別の子って具合だったんだ」
「えーっ? 駿介をふるような女の子なんているのですか?」
自嘲するように肩をすくめながら言った駿介の言葉を聞いて、わたしは先程とは別の意味で驚愕して、悲鳴のような叫び声をあげたまま呆然とたたずんでしまいます。
そんなわたしに向けて駿介はそりゃあねと言わんばかりにうなずいてから、さらに言葉を続けます。
「どの女の子とも、ぼくは真面目に誠実につきあってきたつもりだったんだけど。残念ながら二か月以上もったためしはないんだよ。しばらくの間つきあっていると、特にケンカをしたわけでもないのに、女の子のほうから別れ話を持ち出してくるんだ」
「自分から告白しておいて、ですか? なんで?」
「理由を聞いたらね、みんな判で押したようにぼくとつきあってても面白くないからって言うんだよ。ぼくとつきあったらもっと刺激的で楽しい毎日を送れると思ってたのに、全然そんなことはない。むしろ退屈だ。がっかりだ。だまされた。裏切られたって」
だましたつもりも裏切ったつもりもないんだけどねと、駿介はため息を吐き言いました。
「彼女たちの言い分だって分からなくはないんだよ。確かにぼくは特に頭がいいわけでも運動神経が優れているわけでも、なにかの才能があるわけでもないんだから。長所と言えばちょっとゲームがうまいことと、同級生の中では際立って容姿がいいことくらいで」
再びはあとため息をこぼし、駿介は言います。どうでもいいことですけど……駿介。自分が美形だってことはちゃんと自覚していたんですねえ。イヤな小学生です。
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