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7 高校生のくせに小学生のことを好きになるなんて、とんだ変質者ですよね?

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 わたしの自宅は夜鍋よなべ市の田園調布でんえんちょうふと(ごく)一部で言われている、ちょっとした高級住宅街の一角に建てられている白亜はくあの洋風邸宅ていたくです。

 一般的な家よりはちょっと大きい6LDKで、庭も家庭菜園さいえんが出来る程度の広さはあります。もっともプールや池があるわけでもなく、周囲に刑務所ばりの高いへいが張りめぐらされているということも、ドーベルマンが放し飼いになっているということもありませんが。

 わたしは結構気に入っているのですが。町の他の地域ちいきよりも一段高い山の上に造成ぞうせいされた分譲地ぶんじょうちのど真ん中にあるため、どこかに出かけた帰りなどはいつもバカみたいに急で長い坂道をふうふう言いながら歩いて上らなければならないのが困りものです。

 直射日光やアスファルトからの照り返しをまともに受ける夏に比べれば、いまごろの季節はまだマシなほうなのですが。

 それでも坂を上りきって自宅に帰り着くころにはいつも、犬みたいにしたを出しながらハアハアと息を切らせる羽目はめになってしまうのです。まあ、それは坂がきついからというだけではなく、わたしに体力がないからということもあるのですが。

 ともあれ。今日も今日とてへろへろになりながらなんとか自宅に帰り着き玄関をくぐったわたしは、リビングルームに直行しました。

 わたしの部屋は二階にあるのですが。長く急な坂道を上ってようやく家に帰りついた後で、さらに階段を上れるほどの元気などは残っていません。なので一階のリビングで一息ついて体力を回復させてから自室に戻るというのが、帰宅後のわたしの習慣しゅうかんになっているのです。

 リビングにはすでに小学校から帰宅していたらしい、弟の駿介しゅんすけの姿がありました。彼は少し薄汚うすよごれた古いトレーナーとジャージのズボンを適当に着崩きくずしていて、ソファの上に寝転がりながらスマートフォンのゲームアプリに夢中になっています。

 実にだらしない格好と言うべきなのでしょうが。駿介の場合はまるでキッズモデルか子役タレントが意識してそのような着こなしをした上でわざとそういうリラックスしたポーズを取っているみたいに見えて、なんと言うか実に決まっているようなのが不思議です。

 結局のところ美少年や美少女というのは、どんな服を着てどんな格好をしていても絵になるということなのでしょうね。わたしなどが同じ格好をしていても、単にズボラで行儀ぎょうぎが悪いようにしか見えないに決まっているのですが。

「あ。お姉ちゃん、おかえりなさい」

 わたしが帰ってきたことに気づいたらしく、駿介はスマホから視線を外してこちらのほうに目を向けると、にこりと微笑ほほえみながら鈴を転がしたようなやわらかな声をかけてきます。

 うーん。こうして改めて見てみると、我が弟ながら実に美形で可愛らしいんですよねえ。

 身の程知らずにもルルが恋してしまったのもむべなるかな、です。

「ただいま、駿介。お父さんとお母さんはまだ帰っていないのですか?」

「うん。おじいちゃんとおばあちゃんもついさっき出かけたとこだし」

 わたしは『ふーん』と応えるとカバンを放り出して、駿介の向かいにあるソファに腰掛こしかけました。駿介はすでにわたしの存在など忘れたかのように、スマホのゲームに夢中です。

 カバンを開けてルルからあずかった手紙を取り出したわたしは、これを駿介に手渡すべきかどうかと少し逡巡しゅんじゅんしました。正直、やっぱり気が進まないんですよねえ。渡さなくていいものなら渡さずにませたいところです。約束してしまったのですから、そうもいきませんが。

「お姉ちゃん、なにその可愛らしい手紙? もしかしてラブレター?」

 さて、どうするべきでしょうかねえとなやみながら、しばしルルからの手紙を手の中でもてあそんでいると。駿介がこちらのほうに目を向けながらたずねてきました。

 駿介はそのひとみ好奇こうきの色をありありとたたえ、ゲームを中断しスマホをソファの上に投げ出しながらこちらのほうに歩み寄ってきます。そのからかうような面白がるような表情からすると、どうもこの手紙をわたしが誰かからもらったラブレターだと勘違かんちがいしているようですねえ。

「ええ。まあ、ラブレターはラブレターですけど。残念ながらわたしにではありませんよ。これは駿介。あなたてです」

 見つかってしまった以上隠すのもなんですので、わたしは渋々しぶしぶ手紙を駿介に手渡しながら言いました。その手紙を受け取りながら、彼は小さく首をかしげます。

「ぼくに? 誰から?」

「あなたも覚えていると思いますけど。わたしの通う高校のクラスメートで、この家にも何度か遊びに来たこともある高内たかうち流瑠るるという女の子です」

「ああ、あのにぎやかで面白いJKね。ゲームで一緒に遊んでくれた……」

 ルルのことは印象に残っていたようで。駿介はああ、彼女かと言うように応えました。どうでもいいですが、小学生にJKとか言われるとちょっとカチンときますね。

「で? そのJKがなんでぼくにラブレターなんかくれるの?」

「なんでって……ラブレターは普通、好きになった人にあげるものだからでしょう」

「え? 好きって、ぼくを!?」

「そうみたいですよ。高校生のくせに小学生のことを好きになるなんて、とんだ変質者ですよね? こんなけがらわしいもの、目を通すのもイヤだと思いますけど。お姉ちゃんの顔を立てると思って、読むだけでも読んでみてあげてくれませんか?」

「あのJK……高内さんが……ぼくのことを、好き……」

「もちろん読んだ後にきちんと断ってくれて全然構わないんですよ。ルルにはわたしが責任を持ってびしっと言っておきますから。もちろん二度と駿介の前に現れたり、こんなラブレターなんかを書いたりしないようにとも、きつくきつくきつーくくぎしておきますし」

「う、うん。分かった。読むよ」

 おや? そんな年増の変質者女が書いたラブレターなんか読みたくないとか言って、封筒ごとビリビリに破いてゴミ箱に捨ててしまうのではないかと期待……じゃなくて心配していたのですが、案外素直にうなずきましたね。しかも気のせいかもしれませんけどなんか、妙にうれしそうじゃないですか。

 うーん。特に理由はないですけれど、なんか気分悪いですねぇ。面白くないです……。




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