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4 変質者ですかあなたは!?

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「えーどうして? 約束が違うじゃないのさ。さっきは、わたしに出来ることならなんでも力になるって言ってくれたのに」

 至極しごくまっとうで常識的としか言いようのないわたしの言葉に、不当にもルルは頰袋ほほぶくろにエサをたっぷりめこんだリスみたいな顔をして、非難ひなんするような口ぶりで抗議をしてきます。

「えーどうしてじゃないでしょうがっ! 駿介しゅんすけはまだ小学四年生、一〇歳なんですよ? ついこの間までは九歳で、そのさらに前はなんと八歳だったんです! いい年こいて、そんな小さな子供のことを好きになったってどういう了見りょうけんです! 変質者ですかあなたは!?」

「そんなにムキになることないじゃない。一〇歳って言っても、あたしたちとは六歳しか違わないんだよ? 世の中、六歳くらい離れてるカップルなんて珍しくもないじゃん。たとえば九〇歳のおばあさんと八四歳のおじいさんの夫婦がいたって、別に問題はないでしょう?」

論点ろんてんをすりかえないでください! わたしは年齢差を問題にしているんじゃなくて、年齢そのものを問題にしているんです! あなたがいま九〇歳で駿介が八四歳だっていうのなら、わたしも二人が交際しようが結婚しようがラブラブチュッチュしようが文句はありませんが」

「ラブラブチュッチュ?」

「だけどいまはダメです! 姉として断じて認められません! 永久にダメだとは言いませんけれど、少なくともいまはまだ早すぎます! 男女交際は、もっと大人になってから!!」

「大人って、具体的にはいつならいいのさ?」

「そうですねえ。あなたが九〇歳、駿介が八四歳になった時でしょうか」

「大人すぎるよー! いくらなんでもそんなに待てない。あたし九〇歳になってから駿介くんの赤ちゃん産める自信ないし」

「なら、駿介があなたの年齢を追い抜いた時というのはどうです?」

「うーん。まあ、それくらいならいいか」

 いいんかい!

「じゃああと七年待って駿介くんが一七歳、あたしが一六歳になったら、あたしは晴れて駿介くんの赤ちゃんを産んでもいいということになるよね? じゃあいまのうちに練習しとかなきゃ! ハッハッ、フー。ハッハッ、フー!」

 ……まだそのネタ引っ張っているんですか? ラマーズ法好きですねえ。

「ちっともよくないですよ! なにが一六歳になったらですか。ルルはいま現在すでに一六歳でしょうが。なんで自分は年取らないんです。サザ○さんですかあなたは!」

「あ、そうか。七年経ったらあたしも七年分年を取るんだよね。すっかり忘れてた。あれ? でもそれだともしかして、いつまで経っても、あたしは駿介くんの赤ちゃんを産めなくない?」

「気づくの遅っ! と言うか産まなくていいです。むしろ産むな! そもそもなんでその前のプロセスを色々全部すっ飛ばして、いきなり出産する話になるんですか」

「その前のプロセスって?」

「決まっているでしょう。友達になったりデートしたり、告白したりおつきあいをしたり、プロポーズしたり婚約こんやくしたり、結婚式をしたりせきを入れたり一緒に暮らしたりですよ」

「ああ。なんだ、そっちの方向か」

「どっちの方向のことを想像していたのかはあえてきませんけどね。真面目な話、赤ちゃんを産むとかなんとか、生々しいことはあまり言わないでください。友達が自分の弟の赤ちゃんを産むなんて想像すると、なんかすっごく変な気分になってしまいますから」

「ふうん。ま、いいけどさ。そこまで言うんなら、駿介くんの赤ちゃんを産むとか言うのはやめるよ。将来お義姉ねえさんになる人の言葉は尊重そんちょうしなくちゃだしね」

「なっ……! き、君にお義姉さんと呼ばれる筋合すじあいはないっ!!」

「じゃあ、小姑こじゅうとさん? それともコトメ?」

「なんかムカつくから、その呼びかたもやめてください」

 わたしは両方のこめかみを手の指で押さえながら言いました。

 まったく。顔を真っ赤にしながら相談があると言うので『同じクラスの誰々くんを好きになった』とか『先輩の何々さんのことが気になる』といった、青くさい青春の香りただよう心どきどき胸キュンキュンな恋愛打ち明け話を親友から聞けると思って楽しみにしていましたのに。

 なのに実際に聞かされたのは小学生の男の子を好きになったという変愛打ち明け話なんですから、テンションダダ下がりです。しかもその相手がわたしの弟って、どんなばつゲームですか。

 まだ口をつけていなかったウィンナーコーヒーのカップを持ち上げ、わたしはげんなりしつつ、心の中でそのようにひとちました。

「そういうわけだからさ。あたし、駿介くんに自分の気持ちと想いをせつせつとつづった手紙を書いたんだけど。これ、駿介くんに渡してくれない?」

 なにがそういうわけなのかさっぱり分からないのですが。ルルはひざの上に乗せた学生カバン代わりのスポーツバッグの中身をごそごそと探り、中から可愛らしい水色の封筒を取り出しながら恥ずかしげに微笑ほほえみつつ言ってきました。

 封筒の表にはいかにも女子高生といった丸文字で『宮部みやべ駿介さまへ』と書かれています。

 これはどう考えてもラブレターでしょうね。この手紙を駿介に渡してくれって、もしかしてわたしに言っているのでしょうか彼女は? ここまでの話の展開はガン無視ですか。

 わたしは湿しめった吐息といきをこぼしつつ手紙を受け取ると、ふうを破って中身を取り出しました。


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