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2章 森の中の生活
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クロエは森の中を草を掻き分け歩いた。どれだけ歩いても、深い茂みが続いているだけだった。泥だらけの足が木の根に引っかかった。「あっ」と声をあげたときには、転がっていた。髪を結っていた紐がほどけ、泥だらけの髪が顔にかかった。身を起こし、顔に貼りつくそれをよけた。首元に手が触れる。噛み跡はすっかり消えていた。
――何となく、感づいていた。リーシャとブルーノや、里にいる他の番たちと、自分とルークの関係は違うと。
彼らはまるでお互いの気持ちがわかるように接していた。一方で、クロエはルークの気持ちがわからなかった。それでも、日々一緒にいるうちに、愛されていると感じた。
それでも。彼には番ではない自分の場所はわからないだろうかと思うと視界がにじんだ。
『行きたい方向へ行けば、そこに出られる』
ルークがいつか言っていた言葉を思い出す。導くように、草が揺れたことも。
(行きたい方向……)
立ち上がると、前の獣道を見据えた。里のことを考えるが、特に変化はなかった。次にルークのことを頭に浮かべた。やはり変化はない。
疲労感と空腹感からその場にへたりこんだ。空を見上げれば、日が沈みかけている。行きたい方向、と言っても何も思い浮かばなかった。
「――居場所ができたと、思ったのに」
思わず呟いていた。ルークに『ここにいたらいい』と言われて嬉しかった。
生まれて初めて自分の居場所ができた気がした。
そう言われたとき、夕陽に赤く染まった銀色の毛並みを思い出した。じんわりと温かい柔らかな感触を思い浮かべる。
――ふわりとした風の動きを感じた。顔を上げると目の前の茂みの葉が微かに揺れている。
『森を抜ける』
立ち上がると、そちらに向かってふらふらと歩き出した。
気がつくと、景色が変わっていた。背丈より高い藪の中に立っていて、顔に葉がぶつかった。クロエはその感覚に覚えがあった。茂みの中には、実が落ちて草だけになった野苺の葉が生えていた。
手で顔にかかる枝葉をはらいながら道を登る。やがて草がなくなりなだらかな道に出た。その先は開けた岩場になっている。視界の先に、真っ赤に染まる空と、緑の海に沈んでいく太陽が見えた。しゃがみこみ、膝を抱えて沈む太陽を見つめた。ここから立ち上がって彷徨う気力と体力はもうなかった。
その時、後ろから何かの足音が聞こえた。振り返ると銀色の狼が青い瞳を大きく開いて見つめていた。
***
ルークは森の中をクロエの匂いを辿って走り回ったが、彼女の姿を見つけることはできなかった。
(どこか、クロエが行けそうな場所はあるか)
必死に考える。番でない彼女はひとりでは里には入れないだろう。森を抜けるのは、明確に行きたい場所を意識することが必要だ。彼女が意識して行ける場所はどこだろうか。里の外にはあまり連れ出さなかった。あそこ――見晴らしのいい、周囲の森が見渡せるあの山の上、以外は。
(――もしかしたら)
望みをかけて草を掻き分ける。視界が開けた。その先に、膝を抱えて、赤い空を見つめるクロエがいた。
「良かった」
それだけ呟いて駆け寄る。彼女の服は泥だらけになっていた。
「怪我はないか。何も食べてないよな、水は」
顔を覗き込むと、クロエの小さい声が響いた。
「――私は、貴方の番じゃないのね」
ルークはしばらく黙って、頷いた。
「ここにいるって、よくわかったわね」
「――もしかしたらと思った。良かった」
クロエは顔を上げると、ルークの瞳を見つめて言った。
「ルーク、ねえ、それでも、番じゃなくても、私は……あなたを愛してるわ。一緒に、いたいの」
声が震えていた。彼女の切れ長の緑の瞳が潤んでいるのを見て、ルークは言葉が出てこなかった。彼女にこんな表情をしてほしくなかったのに。
泥だらけの姿を見つめた。
「俺も」だと言おうとして、言葉が喉の奥で止まった。里の方向感覚を失っていた。あの場所に自分が拒否されていることが、戻れない事がわかった。
(一緒にいれるか?)
この状態で、彼女を連れ回すわけにはいかない。
それに、自分が彼女に対して抱いている気持ちはきっと、花の香が感じさせるまやかしなのかもしれないと、不安だった。
うまく思考がまとめられず、苛立ちを感じて、拳で地面を叩いた。クロエはびくっと跳ねると、顔をくしゃっと歪めて「ルーク」と名前を呼んだ。頭を掻きむしる。リーシャに向かって無意識に爪を振り下ろしていたように、理性を失って何をしでかすかもわからなかった。
(クロエは外に、戻った方が良い)
ルークは視線をずらして、喉の奥から吐き出すように言った。
「――俺は、愛してない。俺たちが『愛してる』と言うのは番だけだ。クロエは、番じゃないから、」
彼女が息を飲む音が聞こえた。表情を見ることができずに、顔をさらに背けた。他の言葉を言って、何になるだろう。拳を握った。爪が掌に食い込む。
「――――怪我が治ったところで、外に戻せば良かったんだ。……悪かった」
「謝って欲しいわけじゃ……ないわ」
彼女が鼻をすする音が響く。太陽は吸い込まれるように木々の中に沈んでいく。周囲は暗闇に包まれていった。
ルークはクロエの肩に手を伸ばした。
「水も飲んでないだろ。とりあえず、水場に行こう」
ぱしん、と彼女はその手を払った。
「……放っておいて」
「――クロエ」
ルークはクロエを担いだ。彼女は身をゆすった。前に持ち直すと、身体を胸元に抱えるように押し付けた。やがて動きは小さくなって、小刻みな震えと、しゃくりあげる声に変わった。
水の匂いがする方に向かい、小川を見つけた。周辺をよく見ると湧水が見えた。抱えていた彼女を下すと、その湧水を手にすくい飲み下した。ルークは近くの茂みをあさった。季節を過ぎ、野苺も見当たらなかった。近くの木を見る。まだ小さいが、木の実が成っていた。幹を持ってゆすると、ぼとぼとと落ちてきたので、それを砕いて中身を出した。クロエのところに戻ると、それを差し出す。彼女は一口食べて、「苦いわ」と呟いて、膝に頭を埋めた。そのまま夜が明けた。
クロエを担いで森を抜ける。途中、休む度にルークは近くに生えている草を千切って持ってくると、彼女に語りかけた。
「これが痺れ草。これだけだと、ちょっとピリッとするだけだけど、夜香花を燃やした灰と混ぜて潰すと、効果が強まる。こっちが血止めの草。同じように、」
「どうして、今、そんな話」
「――外の人間は知らないだろ、きっと。前にいた、お屋敷というところに、戻るのは良くないと思うから、こういうのを知っとけば、何かに使えると思うから、」
「何に、使うのよ」
クロエは目の前に差し出された葉を手に取ると、地面に放った。ルークはぐる、と唸り声を漏らす。
(一緒にいたいと言って何になる?)
泥だらけの彼女を見た。火も起こせない、家もない、そんな山の中で、彼女を連れ回すことはできなかった。それに――ブルーノを切り裂いた爪の感触を思い出して、手を見つめた。いつまた、カッとして理性を失うかわからない。
森をどんどん抜けていく。2日ほど移動して、罠にひっかかった野兎がいる場所に出た。それは人里が近いことを示していた。ルークはクロエを背負い直すと、そのまま森の気配が薄い方へ向かった。やがて視界が開けて、視線の先に畑と小屋が見えた。クロエをおろし、その背中を撫でた。
「ここで大丈夫だろうか」
クロエは目の前に広がる小麦畑を眺めた。家の造りも見覚えがあった。辺境伯領の村であることは間違いなさそうだった。頷いて振り返ると、声を絞り出した。
「私は、ヘクセン辺境伯の屋敷にいるわ」
自分が番じゃないのは事実だ。――でも、もしかしたら、――もしかしたら、しばらくしたら、気持ちが変わるかもしれない。
(だって、何度も愛されてるって思ったもの)
その時に、どこにいるか伝えておかないと、もう会えない。
「クロエ、そこは出て――、どこか、別の場所で、」
「私は、ヘクセン辺境伯の屋敷にいるわ。貴方を待ってる」
ルークの言葉を遮り、もう一度繰り返して、踵を返すと、人里に向かって歩き出した。
森の出口まで、後ろから足音がついてくるのが聞こえた。
(もしかしたら、そのうち)
クロエは目元をぬぐった。もしかしたら、そのうち、彼が迎えにきてくれるかもしれない。そう考えていれば、これから先もやっていける気がした。
――何となく、感づいていた。リーシャとブルーノや、里にいる他の番たちと、自分とルークの関係は違うと。
彼らはまるでお互いの気持ちがわかるように接していた。一方で、クロエはルークの気持ちがわからなかった。それでも、日々一緒にいるうちに、愛されていると感じた。
それでも。彼には番ではない自分の場所はわからないだろうかと思うと視界がにじんだ。
『行きたい方向へ行けば、そこに出られる』
ルークがいつか言っていた言葉を思い出す。導くように、草が揺れたことも。
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立ち上がると、前の獣道を見据えた。里のことを考えるが、特に変化はなかった。次にルークのことを頭に浮かべた。やはり変化はない。
疲労感と空腹感からその場にへたりこんだ。空を見上げれば、日が沈みかけている。行きたい方向、と言っても何も思い浮かばなかった。
「――居場所ができたと、思ったのに」
思わず呟いていた。ルークに『ここにいたらいい』と言われて嬉しかった。
生まれて初めて自分の居場所ができた気がした。
そう言われたとき、夕陽に赤く染まった銀色の毛並みを思い出した。じんわりと温かい柔らかな感触を思い浮かべる。
――ふわりとした風の動きを感じた。顔を上げると目の前の茂みの葉が微かに揺れている。
『森を抜ける』
立ち上がると、そちらに向かってふらふらと歩き出した。
気がつくと、景色が変わっていた。背丈より高い藪の中に立っていて、顔に葉がぶつかった。クロエはその感覚に覚えがあった。茂みの中には、実が落ちて草だけになった野苺の葉が生えていた。
手で顔にかかる枝葉をはらいながら道を登る。やがて草がなくなりなだらかな道に出た。その先は開けた岩場になっている。視界の先に、真っ赤に染まる空と、緑の海に沈んでいく太陽が見えた。しゃがみこみ、膝を抱えて沈む太陽を見つめた。ここから立ち上がって彷徨う気力と体力はもうなかった。
その時、後ろから何かの足音が聞こえた。振り返ると銀色の狼が青い瞳を大きく開いて見つめていた。
***
ルークは森の中をクロエの匂いを辿って走り回ったが、彼女の姿を見つけることはできなかった。
(どこか、クロエが行けそうな場所はあるか)
必死に考える。番でない彼女はひとりでは里には入れないだろう。森を抜けるのは、明確に行きたい場所を意識することが必要だ。彼女が意識して行ける場所はどこだろうか。里の外にはあまり連れ出さなかった。あそこ――見晴らしのいい、周囲の森が見渡せるあの山の上、以外は。
(――もしかしたら)
望みをかけて草を掻き分ける。視界が開けた。その先に、膝を抱えて、赤い空を見つめるクロエがいた。
「良かった」
それだけ呟いて駆け寄る。彼女の服は泥だらけになっていた。
「怪我はないか。何も食べてないよな、水は」
顔を覗き込むと、クロエの小さい声が響いた。
「――私は、貴方の番じゃないのね」
ルークはしばらく黙って、頷いた。
「ここにいるって、よくわかったわね」
「――もしかしたらと思った。良かった」
クロエは顔を上げると、ルークの瞳を見つめて言った。
「ルーク、ねえ、それでも、番じゃなくても、私は……あなたを愛してるわ。一緒に、いたいの」
声が震えていた。彼女の切れ長の緑の瞳が潤んでいるのを見て、ルークは言葉が出てこなかった。彼女にこんな表情をしてほしくなかったのに。
泥だらけの姿を見つめた。
「俺も」だと言おうとして、言葉が喉の奥で止まった。里の方向感覚を失っていた。あの場所に自分が拒否されていることが、戻れない事がわかった。
(一緒にいれるか?)
この状態で、彼女を連れ回すわけにはいかない。
それに、自分が彼女に対して抱いている気持ちはきっと、花の香が感じさせるまやかしなのかもしれないと、不安だった。
うまく思考がまとめられず、苛立ちを感じて、拳で地面を叩いた。クロエはびくっと跳ねると、顔をくしゃっと歪めて「ルーク」と名前を呼んだ。頭を掻きむしる。リーシャに向かって無意識に爪を振り下ろしていたように、理性を失って何をしでかすかもわからなかった。
(クロエは外に、戻った方が良い)
ルークは視線をずらして、喉の奥から吐き出すように言った。
「――俺は、愛してない。俺たちが『愛してる』と言うのは番だけだ。クロエは、番じゃないから、」
彼女が息を飲む音が聞こえた。表情を見ることができずに、顔をさらに背けた。他の言葉を言って、何になるだろう。拳を握った。爪が掌に食い込む。
「――――怪我が治ったところで、外に戻せば良かったんだ。……悪かった」
「謝って欲しいわけじゃ……ないわ」
彼女が鼻をすする音が響く。太陽は吸い込まれるように木々の中に沈んでいく。周囲は暗闇に包まれていった。
ルークはクロエの肩に手を伸ばした。
「水も飲んでないだろ。とりあえず、水場に行こう」
ぱしん、と彼女はその手を払った。
「……放っておいて」
「――クロエ」
ルークはクロエを担いだ。彼女は身をゆすった。前に持ち直すと、身体を胸元に抱えるように押し付けた。やがて動きは小さくなって、小刻みな震えと、しゃくりあげる声に変わった。
水の匂いがする方に向かい、小川を見つけた。周辺をよく見ると湧水が見えた。抱えていた彼女を下すと、その湧水を手にすくい飲み下した。ルークは近くの茂みをあさった。季節を過ぎ、野苺も見当たらなかった。近くの木を見る。まだ小さいが、木の実が成っていた。幹を持ってゆすると、ぼとぼとと落ちてきたので、それを砕いて中身を出した。クロエのところに戻ると、それを差し出す。彼女は一口食べて、「苦いわ」と呟いて、膝に頭を埋めた。そのまま夜が明けた。
クロエを担いで森を抜ける。途中、休む度にルークは近くに生えている草を千切って持ってくると、彼女に語りかけた。
「これが痺れ草。これだけだと、ちょっとピリッとするだけだけど、夜香花を燃やした灰と混ぜて潰すと、効果が強まる。こっちが血止めの草。同じように、」
「どうして、今、そんな話」
「――外の人間は知らないだろ、きっと。前にいた、お屋敷というところに、戻るのは良くないと思うから、こういうのを知っとけば、何かに使えると思うから、」
「何に、使うのよ」
クロエは目の前に差し出された葉を手に取ると、地面に放った。ルークはぐる、と唸り声を漏らす。
(一緒にいたいと言って何になる?)
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森をどんどん抜けていく。2日ほど移動して、罠にひっかかった野兎がいる場所に出た。それは人里が近いことを示していた。ルークはクロエを背負い直すと、そのまま森の気配が薄い方へ向かった。やがて視界が開けて、視線の先に畑と小屋が見えた。クロエをおろし、その背中を撫でた。
「ここで大丈夫だろうか」
クロエは目の前に広がる小麦畑を眺めた。家の造りも見覚えがあった。辺境伯領の村であることは間違いなさそうだった。頷いて振り返ると、声を絞り出した。
「私は、ヘクセン辺境伯の屋敷にいるわ」
自分が番じゃないのは事実だ。――でも、もしかしたら、――もしかしたら、しばらくしたら、気持ちが変わるかもしれない。
(だって、何度も愛されてるって思ったもの)
その時に、どこにいるか伝えておかないと、もう会えない。
「クロエ、そこは出て――、どこか、別の場所で、」
「私は、ヘクセン辺境伯の屋敷にいるわ。貴方を待ってる」
ルークの言葉を遮り、もう一度繰り返して、踵を返すと、人里に向かって歩き出した。
森の出口まで、後ろから足音がついてくるのが聞こえた。
(もしかしたら、そのうち)
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