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1-2.私とどうでしょう

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 東くんは慌ててベッド下に転がっていたスウェットの上下を着て、床に正座してこちらを見ている。私はベッドの上でふとんを被って顔だけ出している状態。

「あの、篠塚さんいつからここに」

「ごめんなさい。あの、私の事故現場に花を持ってきてくれたときからです。ついてきちゃって、ごめんなさい」

「篠塚さんは、あの、事故に遭ったんだよね。―――死んでるんだよね?」

大きくうなづいた。

「成仏できないみたいで」

「つまりは幽霊?」

「そういうことみたい……」

自分の体を見た。だんだん、また透明になってきている。

「何で俺の部屋にいるの?というか、さっきのは何でしょうか」

 東くんがおどおどと言う。

「なぜ、俺のその、その、それを、」

 恥ずかしさでうつむいた。

「それは、その、成仏できそうだと思って」

 顔を上げて東くんを見つめた。

「東くん、申し訳ないんだけど、私とヤッてくれませんか」

「え?何を」

「その、せせSEXを!」

 思わず発音良く言ってしまって、余計恥ずかしくなりうつむく。

 一瞬の沈黙のあと、東くんの途方に暮れたような声。

「ヤると成仏できるの?」

「……できそうな気がする」

 東くんを見つめて、今度は強くお願いした。

「私と、どうでしょう」

「と言われても」

 東くんはうつむく。

「なんで、俺と?」

 私は大きく深呼吸した。

「私は、東くんのことが好きだった」

 東くんは驚いた顔をして、こちらを見た。

 それから、「そうかあ」とつぶやいて、彼はうつむいた。

 私は泣きたくなった。ダメってことかな。まあ普通そうだよね。

 何でこんなことをしているんだろう。そもそも全裸で不法侵入して股間に触るってヤバいでしょ。

「ごめんなさい、急に言われてもだよね。勝手に家に入ってごめんね」

 言って私は、窓の外に飛び出した。体は窓ガラスを通りぬける。そのまま地面に落下する。

 ふわりと、アパートの下の道路へ着地した。幽霊なのに飛べないなんてばかみたい。

 体をみると、だいぶ透明に戻っている。良かった。まだ全裸だったらどうしようかと思った。

 そもそも透明でも全裸だと思うと恥ずかしい。アパートの窓がガラガラと開いて、東くんが窓から身を乗り出していた。

「篠塚さん!」

 私の名前を呼び掛けてあたりを見回している。姿は見えていないようだ。

 私は駆け出した。

 時刻は21時、住宅街には帰宅途中のサラリーマンひとり歩いていた。私がその横を通り過ぎたとき、そのサラリーマンが振り返った。彼は、かけていた眼鏡をはずして、もう一度かけ直して私を見ている。

 なになになに、見えてるの。ちょっと待って。さっき東くんに見えたってことは他の人にも見えるの。全裸なんだけど私。

 私は近くの家の駐車場に停車してある車に飛び込んで丸くなった。もう死にたい。死んでるけど。てゆうか幽霊って裸なわけ?たいてい白いワンピースとか着てるよね、女の幽霊の場合。

 車の中で丸まっていると、外から私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

「しーのーづーかさーん!」

 車の窓からおそるおそる外を見ると、東くんがいた。

 スウェットの上に黒いコートを着て、周囲をキョロキョロしながら歩いている。

 この辺りは街灯が少ないので、すっかり暗闇に溶け込んでいる。

 近くのゴミ捨て場を覗いたりしている。…さすがに、そんなところに隠れないよ。

 危ないなあ。車も通るのに。私も黒いコートを着ててひかれたのに。

 その時、自動車の音がした。東くんは道の真ん中で、周りを見回していた。

 車が、彼に向かって走ってくる。夜間で歩行者がいないからか、スピードが速い。

「東くん!」

 私は外に飛び出すと、全力で彼の方にダッシュした。

 身体が軽いせいかスピードが出る。一瞬で彼のもとにたどりつく。

 車のライトに気づいて驚いた表情をしている彼を私は横に引っ張った。

 バランスを崩して、道路に倒れこむ。

 車は急ブレーキで停止して、何事も起こっていないことを確認すると去っていった。

 私たちは私が彼の上に重なる形で倒れこんでいた。

「篠塚さん……ありがとう」

「夜間は目立つ色を着た方がいいよ。黒だと見えないから」

 私は立ち上がった。東くんを助けようとしたときに血が上ったのが原因か、体がはっきりとしてくる。ああもう全裸だよ。完全に露出狂じゃん。深夜の住宅街で全裸。人は服を着ないと、無力だ。「これ」と東くんがコートを差し出した。私はそれを羽織った。東くんは私を見つめる。

「篠塚さん、さっきはごめん」

 彼はしばらく私を見つめると、深呼吸して言った。

「試してみよう」

 私は思わず「え?」と聞き返した。東くんはもう一度言う。

「ヤッてみよう。いける気がする」

「いいの?」

 おそるおそる聞くと、東くんはうなづいて、うつむいた。彼は、静かに言った。

「俺も篠塚さんのことが好きだったよ」
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