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4夜 夢のあとさき
4-12.その後の話(2)
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私は顔から火が出るような気持になった。視線をずらすと、ボーゲン先生が目を潤ませて満足そうに頷いている。ええ?その間に、フレディの顔が近づいてくる。彼は私に、キスをした。
お母さまが口に手を当て、お父さまが今までに見たことがない表情をしている。
急な展開に頭がついていっていないようで、お父さまは額の汗をぬぐうと、
「ま、また落ち着いて、話そうか、フレドリック君、ボーゲン先生」
とたどたどしい口調で言った。
私たちは妙に気まずい空気のまま夕食の席につく。
食事の配膳の前に、先生が重々しくこほん、と咳をした。
「実は、本日から、新しい使用人を2人雇っておりまして」
先生は、この別荘で私のお世話役と、執事的な役割も担っていて、使用人の選任なども行っている。彼は、メイドと、軽装の男を2人手招きした。
「シェリー!?」
私はガタンっと席を立ちあがった。右手に義手をつけた、そのメイド服の女性を見つめる。それは、行方不明とボーゲン先生が言っていた、彼女だった。
「ジェンソン夫妻だ。夫のテディには馬番を、妻のシェリルにはメイドをやってもらう」
よく日に焼けた肌の、がっしりとした好青年の夫を見つめる。その顔に見覚えがあった。
シェリーが熱を上げていた、あの馬番の青年だった。
「ソフィー……、久しぶりね」
シェリーが私を見てほほ笑んだ。
私の横でフレディが耳打ちする。
「君のことを心配している、意識の中に、彼女のものがあったから。意外と近くにいたよ」
驚いて彼を見ると、自信満々な様子で私を見つめた。
「ここ数日で、いろいろできるようになったんだ。――後で楽しませてあげるよ」
シェリーは、病気による噂を心配する親族のため実家に帰るわけにいかなくなってしまい、夫のテディと打ち合わせて、山中で落ち合い、表面上「行方不明」ということにして、テディの出身の村で一緒に暮らしていたらしい。
私は、食事中、良かったぁとひたすら繰り返していた。
お父さまたちは翌日帰るということになった。ボーゲン先生が、私に、これからここの部屋を使いなさいということで、2階にある客室の鍵を渡した。
そこは、ベッドが2つある部屋だった。
フレディが耳打ちする。
「先生が、ソフィーと一緒にいたいなら、きちんとご両親に挨拶すればいいって言ってくれたんだ」
私は真っ赤になって先生を見る。先生は気まずそうに目をそむけた。
「……シェリルを探し出してきて、お嬢様といたいからわかってくれと詰め寄られれば、それは、断れないでしょう。私ではお嬢様のご病気に、何もしてあげられなかった」
ボーゲン先生は背を向けると、その背中を震わせながら言った。
「お嬢様が、今ここにいて頂けることが、私にとって何よりですから」
私は一礼をした。
「ありがとうございます」
客室の扉を開ける。きれいに整頓されたベッドが2つならんでいる。
ごくり、と唾を動かした私の顔をフレディがにっこりと覗き込む。
「ソフィーは調子はどう?」
「左腕はまだ痛いけど、それなりに良くなったわ」
「良かった」
そう言って、しゃがむとよいせっと私を抱いて、持ち上げた。
まだ細い腕がぷるぷるしている。
「ちょ、ちょっと無理しないでよ」
「ちょっとしんどいかも」
そのままベッドに運んで、ぷるぷるしながらも丁寧にシーツの上に置かれる。
「それじゃあ」
フレディが仰々しく、ぱちんと指うちした。
すると、部屋の床と壁がなくなった。
周りを見回すと、ベッドが宙に浮いていて、下には砂漠が広がっていて、上には星空が広がっている。
目の前のフレディは、褐色の肌の魔人のフレディになっていた。
「あれ、傷は?」
「夢の中だからね。どうにでも」
フレディはくすくすと笑っている。
「戻れなくなったって言っていなかった?」
「いろいろできるようになったって言ってなかった?」
「また、何日も寝込まない?」
「そのあたりも何とか」
その時、キキ、と耳慣れた鳴き声がした。ベッドの横に、絨毯が飛んでくる。その上に、リッキーが乗っていた。子猿は絨毯の上で嬉しそうに跳ねている。
「ソフィー、見てみて」
フレディの指さす方を見ると、花火がばーんと何発も打ちあがっていた。
私は潤む目から涙をぬぐった。
全部がうまくいきすぎている。
「全部夢だったりしてね」
つぶやくと、そんな気もしてきてしまう。
「夢だけど、夢じゃないよ」
フレディが私を抱き寄せた。
「この前は、君に一方的にやられっぱなしだったから」
私の上に乗りながら、囁く。
「今度は俺の番だよ」
彼の唇が私の唇に重なった。
お母さまが口に手を当て、お父さまが今までに見たことがない表情をしている。
急な展開に頭がついていっていないようで、お父さまは額の汗をぬぐうと、
「ま、また落ち着いて、話そうか、フレドリック君、ボーゲン先生」
とたどたどしい口調で言った。
私たちは妙に気まずい空気のまま夕食の席につく。
食事の配膳の前に、先生が重々しくこほん、と咳をした。
「実は、本日から、新しい使用人を2人雇っておりまして」
先生は、この別荘で私のお世話役と、執事的な役割も担っていて、使用人の選任なども行っている。彼は、メイドと、軽装の男を2人手招きした。
「シェリー!?」
私はガタンっと席を立ちあがった。右手に義手をつけた、そのメイド服の女性を見つめる。それは、行方不明とボーゲン先生が言っていた、彼女だった。
「ジェンソン夫妻だ。夫のテディには馬番を、妻のシェリルにはメイドをやってもらう」
よく日に焼けた肌の、がっしりとした好青年の夫を見つめる。その顔に見覚えがあった。
シェリーが熱を上げていた、あの馬番の青年だった。
「ソフィー……、久しぶりね」
シェリーが私を見てほほ笑んだ。
私の横でフレディが耳打ちする。
「君のことを心配している、意識の中に、彼女のものがあったから。意外と近くにいたよ」
驚いて彼を見ると、自信満々な様子で私を見つめた。
「ここ数日で、いろいろできるようになったんだ。――後で楽しませてあげるよ」
シェリーは、病気による噂を心配する親族のため実家に帰るわけにいかなくなってしまい、夫のテディと打ち合わせて、山中で落ち合い、表面上「行方不明」ということにして、テディの出身の村で一緒に暮らしていたらしい。
私は、食事中、良かったぁとひたすら繰り返していた。
お父さまたちは翌日帰るということになった。ボーゲン先生が、私に、これからここの部屋を使いなさいということで、2階にある客室の鍵を渡した。
そこは、ベッドが2つある部屋だった。
フレディが耳打ちする。
「先生が、ソフィーと一緒にいたいなら、きちんとご両親に挨拶すればいいって言ってくれたんだ」
私は真っ赤になって先生を見る。先生は気まずそうに目をそむけた。
「……シェリルを探し出してきて、お嬢様といたいからわかってくれと詰め寄られれば、それは、断れないでしょう。私ではお嬢様のご病気に、何もしてあげられなかった」
ボーゲン先生は背を向けると、その背中を震わせながら言った。
「お嬢様が、今ここにいて頂けることが、私にとって何よりですから」
私は一礼をした。
「ありがとうございます」
客室の扉を開ける。きれいに整頓されたベッドが2つならんでいる。
ごくり、と唾を動かした私の顔をフレディがにっこりと覗き込む。
「ソフィーは調子はどう?」
「左腕はまだ痛いけど、それなりに良くなったわ」
「良かった」
そう言って、しゃがむとよいせっと私を抱いて、持ち上げた。
まだ細い腕がぷるぷるしている。
「ちょ、ちょっと無理しないでよ」
「ちょっとしんどいかも」
そのままベッドに運んで、ぷるぷるしながらも丁寧にシーツの上に置かれる。
「それじゃあ」
フレディが仰々しく、ぱちんと指うちした。
すると、部屋の床と壁がなくなった。
周りを見回すと、ベッドが宙に浮いていて、下には砂漠が広がっていて、上には星空が広がっている。
目の前のフレディは、褐色の肌の魔人のフレディになっていた。
「あれ、傷は?」
「夢の中だからね。どうにでも」
フレディはくすくすと笑っている。
「戻れなくなったって言っていなかった?」
「いろいろできるようになったって言ってなかった?」
「また、何日も寝込まない?」
「そのあたりも何とか」
その時、キキ、と耳慣れた鳴き声がした。ベッドの横に、絨毯が飛んでくる。その上に、リッキーが乗っていた。子猿は絨毯の上で嬉しそうに跳ねている。
「ソフィー、見てみて」
フレディの指さす方を見ると、花火がばーんと何発も打ちあがっていた。
私は潤む目から涙をぬぐった。
全部がうまくいきすぎている。
「全部夢だったりしてね」
つぶやくと、そんな気もしてきてしまう。
「夢だけど、夢じゃないよ」
フレディが私を抱き寄せた。
「この前は、君に一方的にやられっぱなしだったから」
私の上に乗りながら、囁く。
「今度は俺の番だよ」
彼の唇が私の唇に重なった。
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