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4夜 夢のあとさき

4-5.待ち望んでいたもの

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 ――ソフィー、よくやったね――

 私を迎えたその声は、いつものボーゲン先生のしゃがれ声ではなかった。
 長い指が私の髪をなでる。何で、
 私は彼の名前を呼んだ。

「フレディ」

 声が震える。

「何で、あなた、何で、ここにいるのよ」

 がっしりとした陰影の入った筋肉。男の裸体が目の前にあった。
 日に焼けた肌。海賊フレディの体から生傷をなくした感じ。彫りの深さは魔人フレディの名残がある。髪は金髪だった。ただ、目が、青ではなく赤く光っている。

 私は彼に手を伸ばそうとして、右手が何かにひっかかるのを感じた。
 見ると、ベッドの足に右手が括り付けられている。
 右足も動かそうとしてみたけれど、同じように縛られていた。
 左腕を見る。私が鏡の破片を突き立てた手首のあたりに包帯が何重にも巻かれ、じんわりと黒い染みが見えた。

「何で、こんなことしたんだよ。痛いだろ」

 フレディのごつごつした指が、包帯をさすった。ずきん、と鋭い痛みがはしって、私は顔を歪ませた。

「かわいそうに」

 フレディが悲しそうな目で私を見た。

「――先生!?」

 私は視界をベッド脇にずらした。ボーゲン先生が椅子に座って頭を膝につけるようにして眠っている。

「大丈夫、ぐっすり眠ってもらっているよ」
「どういうこと? それより、答えなさいよ、あなたは何でここに」

 ぎしぎしと縛られた縄を揺らして、私は暴れた。
 傷の手当をしてくれたのは先生だろう。そして、これ以上何かしないように縛ったのも先生だろう。そこまでは察しがついた。でも、フレディは何で。
 動くと左腕から血が滲んだ。

 フレディが私の腕と足を押さえてのしかかってくる。

「暴れないでよ、痛いだろ」

 彼の顔が私の顔の間近に迫る。私は、自分の顔がひどい状態なのを思い出して余計に暴れた。

「離れてよ、見ないで……っん、ん」

 言葉を途中で唇で塞がれる。フレディの舌が私の口内を舐めまわした。ぴちゃぴちゃという音が響く。ベッド横のボーゲン先生を見た。羞恥心で顔が熱くなる。
 唇を離したフレディが私の頬を撫でる。

「ソフィーはきれいだよ」
「先生をどうにかしてよ」

 小さい声でうめいた。フレディはちらりとそちらを見ると、「寝てるよ」と何気ない様子で答えた。

「無理だから、さすがに」

 私が口調を強めると、フレディはしばらく考える様子を見せて、立ち上がった。

「ちょっと待っててね」

 寝ている先生を椅子に乗せたまま、ずるずると部屋の外に引っ張っていく。途中先生が床に落ちそうになって、あたふたと元の体勢に戻していた。扉の外に出すと、肘でおでこを拭いて、ふう、と大げさに息を吐いた。
全裸で行われるその一連の動作は、妙に間が抜けていて、ああ、このフレディは本物だわ、と私は実感した。

「これでいいだろ」

 彼は何気ない様子でベッドに腰かける。

「何で、ここに」

 私はもう一度、強い口調で聞いた。てっきり、竜に焼かれて消えたかと思ったのに。
 涙がにじんでくる。フレディはそれに気づいてあたふたした様子で答えた。

「ソフィーから生気をたくさんもらったおかげか、成長したみたいなんだ、夢魔として」
「成長すると現実に出てこれるの」

 フレディはこくりとうなづいた。

「そうみたいだ。ごめんね、ソフィーをあっちの世界で1人にして。君があっちに1人で行っちゃうなんて思ってなくて。でも、竜を倒して、戻ってきてくれて良かった、本当に」

 彼は声を震わして、愛おしそうに私のざらざらのトカゲみたいな肌の頬をなでる。

「そっちに行こうとしたんだけど、何か、戻れなくて」

 申し訳なさそうに笑う。
 戻り方わからなくなってるんじゃないわよ。私は苦笑した。

「こっちの身体は重くて嫌だな」

 よっこらせ、と先生みたいに掛け声をかけてフレディは立ち上がった。
 彼の股間が目線の先に見える。もう見慣れたそれは、ぱんぱんに膨らんで直立していた。
 私は呆れていいのか、彼が無事なことに喜んでいいのかどう反応したらいいのかわからない感情に襲われた。

「ソフィーはどの姿がいい?」

 いつも通りの口調で、フレディは聞く。
 彼の姿が、変化した。最初に会った時の、10代の少年のような姿、そして20代後半くらいの海賊のときの姿、褐色の肌、色白の肌、日に焼けた肌、傷だらけの肌。身長も伸びたり、縮んだりする。筋肉隆々になたと思えば、あばら骨が透けるくらい痩せたり、お腹が出たり、いろいろな形に目まぐるしく変わる。

 私はその不思議な光景に息を飲んだ。
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