上 下
16 / 34
2夜 ワイルドな海賊の腕でさらわれたい

2-12.これは伝説の棒

しおりを挟む
 とぼとぼと波打ち際を歩いていく。後ろから「ソフィー!」とフレディの声が追いかけてきたので、私は走った。
 いっそ、さっきクラーケンに食べられてしまえば良かったと思った。
 
 生きていたって、身体はひどくなる一方だし。リッキーや、シェリーに病気を感染してしまって、不幸を人に振りまいている。何で私は生きているんだろう。
 お父さまだってお母さまだって、王都のお医者様が言ったように私をさっさと殺してくれればよかったのに。

 波打ち際を歩いていると、沖の方から何かが近寄ってくる気配がした。
 
 いいわよ。心の中でつぶやく。もういいわよ。

 それは私の足に絡みついた。タコの足のようなもの。さっき倒したはずのクラーケンの足。ずるずると水の中に引っ張られる。身体が海水に浸かった。口と鼻に塩水が入ってくる。鼻の奥が痛い。苦しい。その感覚は生々しくて、私は思わず海面に顔を出して暴れる。
 ――死にたいと思っているはずなのに。

 キキっと猿の鳴き声がした。驚いて顔を上げると、リッキーが私の腕にしがみついている。 私はリッキーを放そうと手をばたつかせた。――また、死んでしまう、私のせいで。リッキーはしっかりと私の腕しがみついて、いくら振っても離れない。水中に沈んだり、水面に顔を出たりしながらも、大声で鳴き続けている。

 その時、こちらに向かって走ってくる炎の灯りが見えた。

「ソフィー!!」

 それは大声で私の名前を叫ぶと、じゃぶじゃぶと波を立てながら、こちらに突進してくる。
 服くらい着てきなさいよ――私は水の中で苦笑した。全裸のフレディだった。松明たいまつを掲げてこちらに手を伸ばしてくる。

「くそっ」

 私の足に絡みつく、クラーケンの足に気づき、踏みつける。
 じゅっと火が消える音がした。フレディが、焚き木の棒でタコの足を殴っている。でも刃物じゃないので、ぼよんとそれを跳ね返してしまう。タコ足は一瞬動きを止めたが、また私を沖に引きずり出した。

「ソフィー、これは伝説の木の棒だ!」
 
 フレディが叫ぶ。何言ってんの。

「光って、魔物を、滅ぼす!」

 フレディが焚き木を空にかざすのが見える。何やってんのよ、もう。何よ、伝説の木の棒って。
 馬鹿じゃないの。私は海水をごぼごぼ飲み込みながら、水中で笑った。
 このまま死ぬの、馬鹿みたい。
 
 ――その瞬間、木の棒が輝き出した。

 彼は、それを私に絡みつくタコの足に振り下ろした。
 目の前が光りに包まれる。足を締め付けるものがなくなる。それは黒い霧になって海の中に消えていった。

 気が付くと、全身びしょぬれで、全裸のフレディに抱きしめられていた。
 そのまま抱きかかえられて陸地へ連れていかれる。

「何してるんだよ」

 彼は眉間に皺を寄せて、私を見下ろした。泣きそうな顔をしている。
 私は彼の顔を直視できずに、砂浜を見つめてつぶやいた。

「それはこっちのセリフよ」

 肩にリッキーが上ってくる。

「なんで、助けるのよ。私が消えた方がいいんでしょ」
「だから、俺は、」

 フレディがだんだんっと砂を足で踏んだ。今のがっしりした大人の男性の身体に似合わない動きだった。

「俺は、ソフィーに生きていてほしいんだ」

 私は彼を睨む。

「なんで? あなたは、私が死なないと私の夢の外に出られないんでしょう」
「そうだけど、……わからないけど、俺は、」

 フレディはうつむいた。彼の股間のものは、すっかり大きさを失って、しょぼしょぼした小さい塊になっている。リッキーが鳴いて、彼の肩に上った。

「こいつだって、君に死んでほしくないって、そう思ってるよ」

 フレディは子猿の頭をなでる。リッキーはもう死んでるのに。

「君の中では生きてるよ」

 フレディはしゃがみこむと、私にのしかかってきた。
 両手でじたばたすると、砂浜に強く押し付けられる。
 唇が押し付けられ、舌が絡んでくる。彼の手が、中に入ってきた。
 今まで何度も絶頂を感じているので、そこは容易く反応する。

「んんっ」

 私は喘いだ。フレディは唇を話すと、語り掛けるように言った。

「次は化け物なんかに邪魔させないくらい、気持ちよくしてあげるから」

 彼は私を抱き起すと髪を撫でて、泣きそうな声で言った。

「だから、ご飯をたくさん食べて、元気になってからまた夢を見てよ、ソフィー」

 彼は私の口に口付けた。ちゅっと優しく、唇と唇が触れるだけのキスだった。

「おやすみ、ソフィー、またね」

 周囲が闇につつまれる。私はその中に落ちていった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

高級娼婦×騎士

歌龍吟伶
恋愛
娼婦と騎士の、体から始まるお話。 全3話の短編です。 全話に性的な表現、性描写あり。 他所で知人限定公開していましたが、サービス終了との事でこちらに移しました。

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...