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4章 対峙と決別

4-5.小休止(2)*

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 何度か唇だけを優しく重ねる。アーティの手が私の背中と頭を抱いた。
 そのまま、ぎゅっと強く抱きしめられる。歯を割って舌が口内に入ってくる。
  
「……っ」
 
 唇と唇の間から吐息が漏れた。彼の右腕が背中をつたった。キスし易いように、私を自分の足の上に乗せる。アーティは大柄なので、私はすっぽりと腕の中に入る。そのまま私も腕を彼の頭と背中に回し、絡みついてくる、しっとりと湿った舌の感触を楽しんだ。

 キスを重ねるうちに、アーティの右腕が背中をさするように動きはじめた。やがて、その大きな掌が胸に当たると、一瞬動き止めた後、ゆっくりとそれを揉みはじめた。

「ん……」

 身体に快感が走る。思わず顔を離すと、口元から甘い声が漏れた。

「カミラ様」
 
 頬を上気させたアーティが熱に浮かされたように、私を見つめ、名前を呟いた。

「カミラでいいわよ」

 私は微笑んで再びキスしながら、シャツのボタンをいくつかはずして、アーティの首筋と骨ばった鎖骨を出した。仄かに皮膚が赤く色づいている。暗闇に彼の早まった鼓動の音が響くのを聞いた。指で触ると、首筋に走る大きな血管を勢いよく流れる流れる血流を感じる。私はそこに舌を這わせた。

「ここだと――ちょっと」

 アーティが私の肩を押して、顔を離させた。

 私は周囲を見回した。いつの間にやら狼が集まっている。何か異変を感じて寄ってきたのだろうか。私は近くにお座りしているヤラの背中をなでた。

 アーティは私の膝に手を入れると、抱きかかえるように立ち上がった。

「ここで、止める?」

 首に手を回し、耳元で囁くと、アーティは苦笑した。

「まさか」

 アーティはそのまま、すたすたと夜の山道を進んで行く。しばらく行くと、開けた場所に小屋が見えた。

「山の管理用の小屋なんですけど……、こんなことで使うことになるとは」

「こんなこと?」

 顔を覗き込むように見上げると、アーティは視線を泳がせた。

「こんなこと……ですね」
 
 キィィィと軋むような音を立てて、扉を開けた。丸太を組んだだけの簡素な小屋で、中には机と椅子と、寝袋なんかが置けそうな一段高い台があるだけだった。
 アーティはその台に腰かけると、私を見つめ、呟いた。

「俺も貴女が好きです」

 また、キスをする。アーティの手が、ドレス上衣を掴んで持ち上げた。色々と縛ったり留めたりしているので、そんなにするっと脱げずに首にひっかかて停まる。アーティの動きが止まった。私は頭に服が絡まった状態で、視界が遮られている。困った顔してそうね。不慣れな様子にふっと微笑むと、身体を霧化させた。はらりと、身体を失った服が床に落ちる。困惑した表情で黒い煙を見つめるアーティの前で、私は裸の身体を元に戻した。

「アーティ」

 名前を呼びながら、そのまま上に伸しかかる。アーティの身体がびくっと震えて、ごくりと唾を飲む音が聞こえた。私を見つめて、彼は呟いた。

「きれい、です」

 彼の皮膚が変化した。もさっと茶色い毛が生える。口元が裂けていき、耳が尖りはじめた。アーティは顔を押さえた。

「血を飲んでもらってもいいですか――ちょっと、抑制がきかなく―――」

 私は、彼の右腕を掴んで台に押し付けると、首元に牙を突き立てた。

「あ……がっ……あ……」

 アーティの声が室内に響く。どくどくと、生暖かい血液が私の中に流れ込んだ。彼の身体の力が抜け、獣化した身体がシュウゥゥゥと音を立て人間の身体に戻って行く。

「あんっ」

 思わず口から喘ぎ声が漏れる。身体の中に生気が宿るような気持ちだった。私たちは飲んだ血に精神的な影響を受ける。性行為中の吸血による血液が一番美味しく感じるのは、それが自分を求める気持ちに満ちているからだ。

 じんわりと自分の中が濡れるのがわかった。普段は痛みもあまり感じないし、そういう感覚的な面では人間より鈍っているけれど、今は別だ。アーティの欲情が私にも移っている。アーティはよろよろと身を起こすと私を抱きしめた。その手を下へ誘導する。彼の指がぬめった場所を触った。

「んんっ」

 身をよじって彼の胸元にしがみついた。私の身体を抱きしめると、彼はそのまま、ゆっくりと入り口を何度もたどるように指を動かした。そのたびに粘り気のある液体が中へ入って欲しいというように溢れ出て、私は身をよじった。

「すごい、こんなに濡れるんですね」

「あ……、あなたが、貴方の血が……、んっ、美味しいから……」

「10年以上、ずっと貴女のことを考えていましたから。――あなたたちにとっては、短い時間でしょうけど」

 にゅるりと、アーティの長い指が私の中に入ってくる。びくんと私の身体が跳ねた。
 中の壁を撫でるように、彼は指を動かした。お腹の中がかき回される。

「もうちょっと……、優しく」

 腕を押さえると、指の動きがゆっくりになった。頭の奥が痺れるような感じがした。頬が紅潮し、身体の力が抜ける。アーティは起き上がると私を向かい合わせの形で膝の上に乗せた。肩を左手で支え、胸元に頭を寄せる。胸の周りをざらりとした舌が這った。彼の背中を撫でる。さわさわとした毛の感覚がある。獣化しているようだった。

 私は目を閉じて、アーティからの刺激に身をまかせた。胸からお腹まで、舌が這いまわる。下半身からはくちゅくちゅと水音がする。ふっふっと音にならない声をあげて身をよじった。

「強気なあなたはとても綺麗ですけど、今の方が可愛らしくて、好きです」

 アーティは大きく息を吐くと、私を抱きしめてキスをした。舌が絡む。
 ……そう言われると、押したくなるのは天邪鬼かしら。
 私は彼のズボンのベルトを抜き取ると、足の間に手を滑り込ませ、股間のそれを撫でた。
 
「あ」
 
 アーティがびくり、と身体を動かした。私は頭を下げると、立ち上がったそれを、下から上へ舐め上げた。

「う」

 唸ったアーティが正気に戻ったような怯えた声で言った。

「歯を、たてないでくださいね……」

「貴方は……、……けっこう怖がりよね」

 その声色に傷ついたので、私はいーっと牙を出して上を向いた。アーティは「ひ」っと後ろに飛びのいて、ごつんと壁に頭をぶつけた。

「大丈夫? そこまで驚くとは思わなかったわ」

「びっくりしますよ、もう」

 目が合って、お互い噴き出した。アーティは私を抱き寄せると、またキスをしながら、ズボンを降ろした。脱いだシャツとそれを台に敷く。そこへ私を横たえると、彼は大きく息を吐いて私の足を開いた。どろどろと湿った私のそこに、熱い塊が当てられる。ずぶずぶとそれは私の身体の中に埋まっていった。

「あ、」

 ゆっくりと、アーティが腰を動かしはじめた。彼のお腹が私にぶつかる度、さわっとした狼の毛の感触がする。私は目を閉じて彼の動きに合わせて自分の腰も動かした。木で作った簡易な台は、壊れるんじゃないかっていうくらいぎしぎしと軋んだ。ぶるっと体の中でアーティが震えた。
 
「カミラ……さ」

 私の名前を呼び、彼は腰の動きを早める。ぐぐぐっと奥の奥まで押し込められた瞬間、アーティのものが弾けた。それから吐き出される液体を、私の中は逃さないようにと吸い上げる。それで何かが生まれることはないけれど。

 壁に寄りかかって肩で息をするアーティの胸に埋もれた。人間の姿の胸板は、筋肉で少し硬く感じた。

「顔は人間で、身体は獣化してくれる?」

「……我儘だなあ」

 アーティは苦笑しながら、言った通りにした。ふわふわした毛並みが気持ちよかった。

「器用ね」

 感心していると、彼は私を抱きしめた。

「――良いんですか、俺で」

「貴方がいいのよ、アーティ。やっぱり丈夫ね。血を吸ったのにこんなに元気で」

「――普通は、元気じゃないんですか」

 誉めたつもりが、複雑な表情をされてしまった。
 いっつも血を吸うと相手は気絶してしまうし、私もそれで満足してしまうし、その場を去らないといけないしで、きちんと行為に及ぶのはカミラの身体では100年以上ぶりだった。

 私はあたふたとして、彼にキスをすると微笑んだ。

「これから、もっと、しましょうね」

 アーティはワインに酔った時のように顔を赤くした。私はため息をつく。

「でも、貴方の一族には説明しないとね」

「どうとでもなりますよ。もともと、≪番≫も見つけられずにこの年ですから、皆諦め半分ですし」

 彼はだらりと力を抜いて天井を見つめた。

 後は、ヴィルヘルム卿とかいうハンターをどうにかすれば、解決。
 思わず笑みがこぼれる。

 そうしたら、問題なく、みんなここで幸せに暮らせるんじゃない?
 
 ――みんな?

 ふと、お父様とステファンの姿が浮かんだ。彼らは、幸せ?
 
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