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2章 舞踏会
2-6.義弟との散歩(2)
しおりを挟む アーロンはちらりとこちらを見た。
「僕は、この子たちと、静かにしていたいのに、父さんも兄さんも義姉さんも、みんな勝手だよね」
私は彼を見つめた。なんと言葉をかければいいか。
「……『勝手』っていうのは、パーティーに出てとか、人間の血を吸えとか、そういうこと?」
「全部だよ! 兄さん、僕をルシアに紹介して、何て言ってた?」
「『楽しそうだった』って」
アーロンは黙って川を見つめていた。
「楽しくなかった?」
「……、ルシアの友達が、僕にルシアをけしかけて笑うんだ」
今度の彼の返事は『別に』じゃなかったので、胸をなでおろす。
「けしかけて?」
「……わざと二人にして、後ろから覗いて笑ってたよ」
「……赤毛の女の子でしょ、主に」
アーロンは驚いたような顔でこちらを見た。
「まさか、見てたの?」
私はゲームで出てきた、ルシアの友達を思い出した。赤毛の、彼女の領地のお隣の子爵の幼馴染の女の子。スクールカーストでいったら上にいそうな、ちょっと強気なタイプの女の子。悪い子じゃないのよ。最終的に私に吸血鬼にされて、ルシアを襲おうとして、自我で抑えて死んでしまうくらい、意志の強い子なんだけど。
「ほら、私もこの前ルシアに会いにいったときに、いたからその子かなって」
「結局さ、その子たちも、兄さんも義姉さんも、父さんだって僕のことを馬鹿にしてるんだろ」
私はうーんと頭を抱えた。
馬鹿にしているつもりはないけれど、ステファンが面白がっていたのは事実だし、私も微笑ましいだろうなと思った。それは、彼にとっては馬鹿にされていると映るかもしれない。
「馬鹿にはしてると感じたならごめんなさい。ただ、お父様もステファンも、私もね、心配はしてるってことは、わかってほしいんだけど」
「わかってるよ、心配してくれてるってことは」
彼はフィオを抱き寄せ、白い毛皮に頭を埋める。
「ルシアはどう思った?」
私は話題を変えた。
「……かわいい子だと思ったよ」
アーロンは地面の生えたての雑草を引き抜いて川に向かって投げている。
雑草がいいくつも小川に乗って、川下側にいる私の前を通り過ぎた。
「そっか」
「彼女の家も狼を飼ってるんだって。10頭くらい」
「ルシアの実家の方は山深いものね」
「世話はルシアがやってるって」
「そうなの? すごいわね」
「餌は鹿肉と熊肉が多いって言ってた。一緒にいたルシアの執事の子のお父さんが熊狩りに行くみたいで」
「熊狩り……、すごいわね、人間ってどうやって狩るのかしら……」
そこで私ははっとした。
「『銃』ね」
火縄銃のような、大型の鉄砲が周辺の国の軍とかで標準装備になってきてるのよね、確か。90年前にこのアラスティシアを作った時は、銃は一般的な武器ではなかったけど、時代が変わっているんだった。彼女の実家は国境の方だから、外部とのやりとりがあって持っているのだろうか。
アーロンはうん、とうなづいた。
「罠仕掛けて、ばーんって。その執事の子と一緒に、一回こっそり見に行って、その執事の子のお父さんは一発で仕留めちゃうんだって」
それ、16歳の貴族子女の会話なのかしら……。
思いつつも、アーロンが何だか楽しそうに話しているので口ははさまなかった。
ちなみにその執事の子もゲームだと私が吸血鬼化するんだけど。
「うちは……何肉あげてるの?」
「鹿肉が多いかな。ここまで熊は下りてこないし」
そうだ、とアーロンが立ち上がった。
「そろそろ帰って、ご飯あげないと。義姉さんも戻る?」
私はヤラをよしよししながら答える。
「もう少し、ここにいようかな」
「わかった、ヤラは連れて帰ってきてもいいし、森で放してもいいよ」
「わかった」
私は狼を連れて去っていく彼に声をかけた。
「前に『役立たず』って言ってごめんね」
アーロンは振り返らずにぽつりと言った。
「別に」
彼はそのまま、森へ姿を消した。
「僕は、この子たちと、静かにしていたいのに、父さんも兄さんも義姉さんも、みんな勝手だよね」
私は彼を見つめた。なんと言葉をかければいいか。
「……『勝手』っていうのは、パーティーに出てとか、人間の血を吸えとか、そういうこと?」
「全部だよ! 兄さん、僕をルシアに紹介して、何て言ってた?」
「『楽しそうだった』って」
アーロンは黙って川を見つめていた。
「楽しくなかった?」
「……、ルシアの友達が、僕にルシアをけしかけて笑うんだ」
今度の彼の返事は『別に』じゃなかったので、胸をなでおろす。
「けしかけて?」
「……わざと二人にして、後ろから覗いて笑ってたよ」
「……赤毛の女の子でしょ、主に」
アーロンは驚いたような顔でこちらを見た。
「まさか、見てたの?」
私はゲームで出てきた、ルシアの友達を思い出した。赤毛の、彼女の領地のお隣の子爵の幼馴染の女の子。スクールカーストでいったら上にいそうな、ちょっと強気なタイプの女の子。悪い子じゃないのよ。最終的に私に吸血鬼にされて、ルシアを襲おうとして、自我で抑えて死んでしまうくらい、意志の強い子なんだけど。
「ほら、私もこの前ルシアに会いにいったときに、いたからその子かなって」
「結局さ、その子たちも、兄さんも義姉さんも、父さんだって僕のことを馬鹿にしてるんだろ」
私はうーんと頭を抱えた。
馬鹿にしているつもりはないけれど、ステファンが面白がっていたのは事実だし、私も微笑ましいだろうなと思った。それは、彼にとっては馬鹿にされていると映るかもしれない。
「馬鹿にはしてると感じたならごめんなさい。ただ、お父様もステファンも、私もね、心配はしてるってことは、わかってほしいんだけど」
「わかってるよ、心配してくれてるってことは」
彼はフィオを抱き寄せ、白い毛皮に頭を埋める。
「ルシアはどう思った?」
私は話題を変えた。
「……かわいい子だと思ったよ」
アーロンは地面の生えたての雑草を引き抜いて川に向かって投げている。
雑草がいいくつも小川に乗って、川下側にいる私の前を通り過ぎた。
「そっか」
「彼女の家も狼を飼ってるんだって。10頭くらい」
「ルシアの実家の方は山深いものね」
「世話はルシアがやってるって」
「そうなの? すごいわね」
「餌は鹿肉と熊肉が多いって言ってた。一緒にいたルシアの執事の子のお父さんが熊狩りに行くみたいで」
「熊狩り……、すごいわね、人間ってどうやって狩るのかしら……」
そこで私ははっとした。
「『銃』ね」
火縄銃のような、大型の鉄砲が周辺の国の軍とかで標準装備になってきてるのよね、確か。90年前にこのアラスティシアを作った時は、銃は一般的な武器ではなかったけど、時代が変わっているんだった。彼女の実家は国境の方だから、外部とのやりとりがあって持っているのだろうか。
アーロンはうん、とうなづいた。
「罠仕掛けて、ばーんって。その執事の子と一緒に、一回こっそり見に行って、その執事の子のお父さんは一発で仕留めちゃうんだって」
それ、16歳の貴族子女の会話なのかしら……。
思いつつも、アーロンが何だか楽しそうに話しているので口ははさまなかった。
ちなみにその執事の子もゲームだと私が吸血鬼化するんだけど。
「うちは……何肉あげてるの?」
「鹿肉が多いかな。ここまで熊は下りてこないし」
そうだ、とアーロンが立ち上がった。
「そろそろ帰って、ご飯あげないと。義姉さんも戻る?」
私はヤラをよしよししながら答える。
「もう少し、ここにいようかな」
「わかった、ヤラは連れて帰ってきてもいいし、森で放してもいいよ」
「わかった」
私は狼を連れて去っていく彼に声をかけた。
「前に『役立たず』って言ってごめんね」
アーロンは振り返らずにぽつりと言った。
「別に」
彼はそのまま、森へ姿を消した。
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