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1章 吸血鬼に転生しました。
1-12.よく考えると
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「お屋敷、戻ります? 街中、うろうろしてみます?」
アーティはどさりと床に座ると、自分の分のホットワインをちびちび飲みながらこちらを見た。彼のまわりをヤラじゃない方の狼がぐるぐる回ってる。
「勤務中に、お酒飲んでいいの?」
彼はにっと笑った。
「みんな飲んでますよ、今日は。王都は平和ですからね、お嬢様たちのお陰で」
私はまたヤラの胸元に顔をうずめた。嬉しいじゃない、そういう言い方をされると。
「ステファンに、夜になってから戻れって言われてるし。私が≪霧の館≫から出て、うろうろしてるのあんまり見られたくないみたいだし――それに、まだ本調子じゃないみたいだから、ここで休んでいくわ」
そのとき、ヤラがするりと私の腕をぬけ、アーティの方へ行ってしまった。
あっと声を出す。彼女は、床に伏せた状態でこっちを見ていた。
「そんなにずっと触られてたらこいつだって疲れちゃいますよ」
アーティが笑った。私は膝をかかえる。
「そうよね、ごめんなさい」
「お嬢様、狼そんなに好きでしたっけ。犬舎に来てみます?いっぱいいますけど」
私はぱあっと顔を上げた。それはいい考えな気がした。
「行く、あ、でも、館の方よね。ここから直接戻ると目立っちゃうかしら」
「あ、じゃあ」
アーティは立ち上がると、脱いで横においていた濃い緑色の長いマントをばさっと羽織った。
「ここ、入ってってください」
「え」
彼は不思議そうに首を傾げる。
「ふだん、日中の移動時はそうしてるじゃないですか」
私は自分の身体を見た。そう、そうね。いつもやっていることだから、
意識を集中して、身体を≪黒い霧≫状に変化させる。
着替える時に、腹部だけなくしたのを全身でやる感じだ。
身体の実体感がなくなる。頭まで全部霧化させると、視界がなくなる。ただ、気配で周りに何がどのようにあるかはわかる。ああ、でも見えないの不安。視界が欲しい。
そう思うと急に景色が戻った。アーティと狼二匹がこちらを不思議そうに見ている。
私は部屋の鏡を見つめた。黒い霧がなんとなく人型に発生していて、顔の付近に茶色い瞳の眼球がぎょろりと浮いている。私はひっと声を出した。その瞬間、顔の実体が戻って、鏡に浮かぶ生首が映った。眼以外の部分はすぐに霧状に戻る。
「お嬢様……、どうかされました? 眼だけ浮いてて怖いんですけど……」
アーティがよっこらせと言いながら、私の着ていた服を一式拾い上げた。
……ちょっと待って、服?
私は鏡で霧状になった自分の身体を見た。つまり、今、全裸?私?
いえ、改めて考えれば、当たり前なんだけど。今まで自然にやり過ぎてて、意識しなかっただけなんだけど。
「行きますよー」
ばさっとマントを広げて、アーティがそこに『入れ』と目線で言う。
霧状になった私は、空気中を浮いた状態で移動し、そこに収まる。
マントを被せられ視界が真っ暗になる。
アーティがすたすた歩きだすので、それにくっつくように移動した。
彼は1階に降りると、玄関で使用人に言って袋をもらって私の服をつめると、外に出て馬に乗った。もう一頭、私の乗ってきた馬を横に引いて、ゆっくり歩きだす。ヤラともう一頭の狼はその横をゆっくり歩いてついてくる。
その様子をマントのすき間から見ていたら、ばさっとそこを閉められた。
「お嬢様、眼、やめてください」
アーティが小声で言った。しょうがないので、私は視界ではなく『気配』に集中した。
いわゆるふだんの『見える』状態ではないけれど、目の前にアーティの鎧の甲冑を着た背中があること、マントの粗い分厚い布の揺れる様子、周囲に人が大勢いること、出店がでていること、どこになにがあるかが感覚でわかる。改めて考えると不思議だ。なにこれ。
……それ以上に、今、私は全裸。その考えが私を支配する。
そりゃ、カミラの身体は、どこに出してもいいような綺麗な体だけど、でも、全裸。
大勢の人の行き交う路上で、全裸。
どこの露出狂よ。
「アーティ、私、今、」
確認を求めるように声を出した。口と喉の感覚が一瞬戻る。
「私、今、裸よね」
アーティがぴたりと馬の脚を停めた。しばらくの沈黙。
彼が小さい声でつぶやいた。
「……そう言われれば……そうですね」
アーティはどさりと床に座ると、自分の分のホットワインをちびちび飲みながらこちらを見た。彼のまわりをヤラじゃない方の狼がぐるぐる回ってる。
「勤務中に、お酒飲んでいいの?」
彼はにっと笑った。
「みんな飲んでますよ、今日は。王都は平和ですからね、お嬢様たちのお陰で」
私はまたヤラの胸元に顔をうずめた。嬉しいじゃない、そういう言い方をされると。
「ステファンに、夜になってから戻れって言われてるし。私が≪霧の館≫から出て、うろうろしてるのあんまり見られたくないみたいだし――それに、まだ本調子じゃないみたいだから、ここで休んでいくわ」
そのとき、ヤラがするりと私の腕をぬけ、アーティの方へ行ってしまった。
あっと声を出す。彼女は、床に伏せた状態でこっちを見ていた。
「そんなにずっと触られてたらこいつだって疲れちゃいますよ」
アーティが笑った。私は膝をかかえる。
「そうよね、ごめんなさい」
「お嬢様、狼そんなに好きでしたっけ。犬舎に来てみます?いっぱいいますけど」
私はぱあっと顔を上げた。それはいい考えな気がした。
「行く、あ、でも、館の方よね。ここから直接戻ると目立っちゃうかしら」
「あ、じゃあ」
アーティは立ち上がると、脱いで横においていた濃い緑色の長いマントをばさっと羽織った。
「ここ、入ってってください」
「え」
彼は不思議そうに首を傾げる。
「ふだん、日中の移動時はそうしてるじゃないですか」
私は自分の身体を見た。そう、そうね。いつもやっていることだから、
意識を集中して、身体を≪黒い霧≫状に変化させる。
着替える時に、腹部だけなくしたのを全身でやる感じだ。
身体の実体感がなくなる。頭まで全部霧化させると、視界がなくなる。ただ、気配で周りに何がどのようにあるかはわかる。ああ、でも見えないの不安。視界が欲しい。
そう思うと急に景色が戻った。アーティと狼二匹がこちらを不思議そうに見ている。
私は部屋の鏡を見つめた。黒い霧がなんとなく人型に発生していて、顔の付近に茶色い瞳の眼球がぎょろりと浮いている。私はひっと声を出した。その瞬間、顔の実体が戻って、鏡に浮かぶ生首が映った。眼以外の部分はすぐに霧状に戻る。
「お嬢様……、どうかされました? 眼だけ浮いてて怖いんですけど……」
アーティがよっこらせと言いながら、私の着ていた服を一式拾い上げた。
……ちょっと待って、服?
私は鏡で霧状になった自分の身体を見た。つまり、今、全裸?私?
いえ、改めて考えれば、当たり前なんだけど。今まで自然にやり過ぎてて、意識しなかっただけなんだけど。
「行きますよー」
ばさっとマントを広げて、アーティがそこに『入れ』と目線で言う。
霧状になった私は、空気中を浮いた状態で移動し、そこに収まる。
マントを被せられ視界が真っ暗になる。
アーティがすたすた歩きだすので、それにくっつくように移動した。
彼は1階に降りると、玄関で使用人に言って袋をもらって私の服をつめると、外に出て馬に乗った。もう一頭、私の乗ってきた馬を横に引いて、ゆっくり歩きだす。ヤラともう一頭の狼はその横をゆっくり歩いてついてくる。
その様子をマントのすき間から見ていたら、ばさっとそこを閉められた。
「お嬢様、眼、やめてください」
アーティが小声で言った。しょうがないので、私は視界ではなく『気配』に集中した。
いわゆるふだんの『見える』状態ではないけれど、目の前にアーティの鎧の甲冑を着た背中があること、マントの粗い分厚い布の揺れる様子、周囲に人が大勢いること、出店がでていること、どこになにがあるかが感覚でわかる。改めて考えると不思議だ。なにこれ。
……それ以上に、今、私は全裸。その考えが私を支配する。
そりゃ、カミラの身体は、どこに出してもいいような綺麗な体だけど、でも、全裸。
大勢の人の行き交う路上で、全裸。
どこの露出狂よ。
「アーティ、私、今、」
確認を求めるように声を出した。口と喉の感覚が一瞬戻る。
「私、今、裸よね」
アーティがぴたりと馬の脚を停めた。しばらくの沈黙。
彼が小さい声でつぶやいた。
「……そう言われれば……そうですね」
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