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第七章「皇帝ゼファー」
71.兄弟会議
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ラフェル王城は大混乱に陥っていた。
突然のガナリア大帝国の侵攻。いきなりの開戦からの大苦戦。そうと思えばまさかの休戦。正騎士団ですら恐れた北の黒き兵団は引き波のように消えて行きそして今、その敵国の最高責任者である皇帝ゼファーがラフェル国王と同じテーブルに座っている。
ラフェル国王が眉間に皺を寄せて唸り声を上げる。
「う~ん、これは一体どう答えればよいのだ……」
帝国側は皇帝ゼファーと側近のふたり。ラフェル国王の後ろには正騎士団副団長シルバーや担当大臣が並ぶ。そして向かい合った両者の見つめるようにレフォードも席についている。国王の後ろに立つシルバーが言う。
「国王。休戦協定をその条件で受けるべきかと私は愚行致します」
「うーん……」
ガナリア大帝国皇帝ゼファーからの申し出は以下のようであった。
南方侵攻の中止、並びに周辺諸国と休戦協定の締結。今回の侵攻で被った被害は金銭にて帝国が補償。ゆくゆくは同盟を結び交易を盛んにしてお互いの更なる発展を目指す、と言ったものであった。素晴らしき提案。悩む国王にレフォードが言う。
「本当に申し訳ございませんでした。うちの愚弟が大変ご迷惑をお掛けしました」
そう言って深々と頭を下げるレフォード。もう何度目か分からない謝罪。国王が答える。
「その話はもう良い。お前のお陰でこの程度の傷で済んだ。うん、まあ、これからの帝国との付き合いもそなたがおってのことだ。逆に感謝すべきなのはこちら。うむ、皇帝ゼファーよ、この休戦協定、受けさせて貰おうと思うぞ」
ゼファーの顔がぱっと明るくなって言う。
「ラフェル国王、大変感謝致します。ならば私はすぐに帝国に戻って諸手続きを進めたい」
「分かった。周辺国の説得は私に任せてくれ。まあ、レフォードの弟と言えばほぼ問題ないであろう。ははははっ」
そう言って笑うラフェル国王。その意味をゼファーだけがよく理解できなかった。
「ありがとうございます。レー兄さん」
ラフェル国王との面談を終え、一度皆が待つレフォードの部屋にやって来たゼファーが軽く頭を下げて言った。レフォードが尋ねる。
「どうした急に『さん』付けで?」
先程までは『レー兄ちゃん』と呼んでいたゼファー。そう尋ねられて少し照れ臭そうな顔で答える。
「ああ、俺ももう子供じゃないし。いつまでもあの呼び方じゃあ、ちょっと恥ずかしくて……」
「そうか。好きにしろ」
そう言ってゼファーの肩をポンポンと叩くレフォード。今ゼファーは漆黒の鎧を脱ぎ捨て、戦闘用の服でもない私服を着ている。こうして見るとどこにでもいるような青年。いや好青年だ。ガイルが両手を頭で組みゼファーに言う。
「いやしかし驚いたよ。あのゼファーが帝国の皇帝だったなんてよ」
「本当にそう!」
「ホントだねぇ~」
「これは驚いたの」
「なんかの間違いじゃねえのか~??」
部屋にはミタリアとガイルの他に、ゼファーの訪問を聞きつけたレスティア、それに戦勝報告にやって来ていたヴァーナとルコもいる。ゼファーが困惑した顔で答える。
「驚いたって言えばみんなだってそうだよ。ミタリアはなんかすごく色っぽくなっているし、ヴァーナは『業火の魔女』だろ? レスティア姉さんは『聖女』だし、ルコは魔族。変わらないのはガイル兄さんだけかな?」
「はあ!? なんで俺だけ変わらねえんだよ!! 大人になったろ?? ほらほら!!」
そう言ってガイルは尖った髪を振り回してゼファーに見せる。それをミタリアが押しながら言う。
「ねえ、私が色っぽくなったって?? うふふふっ、そうでしょ~、さすがゼファーお兄ちゃんだね!! 伊達に皇帝じゃないよ。このままお兄ちゃんを口説いて結婚するのが私の目的なの。ね、手伝ってよ!!」
それを聞いたルコとヴァーナが怒りの表情で言う。
「ふ、ふざけるなよ!! ミタリア!!! 焼き殺すぞぉ!!!」
「暗闇に一生葬るの。覚悟して」
「おい、お前ら!! 馬鹿なこと言ってんじゃねえ!!」
呆れたレフォードが立ち上がって言う。ミタリアとルコとヴァーナはむっとしたままお互いの顔を見ようとしない。ゼファーが言う。
「いいな、やっぱり。こういうの……」
孤児院時代はそれほど兄弟達と交わらなかったゼファー。こうやってみんなで騒ぐのを傍から見ていたことが多かったのだが、今こうして大きくなって温かく迎えてくれる兄弟達と一緒に過ごせる時間はとても幸せに思える。
「でも……」
ゼファーの顔が少し暗くなる。そしてつぶやく。
「エルク兄さんはまだ眠ったままなんだよね……」
それを聞き静かになる一同。レフォードが立ち上がって言う。
「なーに、大丈夫だよ。俺達には『聖女様』がいるんだから。な、レスティア!!」
ドン!!!
そう言って近くにいたレスティアの背中を勢いよく叩くレフォード。座っていたレスティアが思わず椅子から落ちそうになって言う。
「痛~い!! 何すんよ!! レーレー!!!」
慌ててレフォードが謝る。
「わ、悪い!! そんなつもりじゃなくって……」
「えー、じゃあスイーツお腹いっぱいで手を打ってあげる。どぉ~、いいでしょ??」
部屋にはレスティアの管理役のマリアーヌはいない。まさに鬼の居ぬ間にと言うやつである。少し考えたレフォードが言う。
「まあいいか。お前も随分頑張っているし、時々はそれ位いいだろう」
それを聞いたミタリアが「はぁ」とため息をついて下を向く。レフォードが改めてレスティアに言う。
「エルクのことは頼んだ。俺達はこれから帝国に行く。早くあいつの元気な声を聞かせてくれ」
「了解~、ちょっとダルけど頑張るね~」
レスティアが気の抜けた声で返事をする。ミタリアが立ち上がって真剣な顔でレフォードに言う。
「お兄ちゃん!! やっぱり私も行きたいよ!!!」
一度はレフォードと共に帝国行きが決まっていたミタリア。だがその後のレフォードの危険との判断で留守番を言い渡されていた。レフォードが言う。
「だから何が起こるのか分からないから危ないだろ。ゼファーに恨みを持つ奴だっているはずだ」
圧政を敷いた皇帝ゼファー。それによって失脚した者や甘い汁を吸えなくなった者も多い。更に南方諸国と休戦をするとなると、不満分子による帝国内の動乱が起きる可能性もある。ミタリアが不満そうな顔で言う。
「でも、私も行きたいし……」
「ダメだ」
「ふーんだ!!」
ミタリアがプイと顔を背ける。レフォードの脳裏にこうやって留守番を言い渡したにもかかわらず、こっそりとルコの居た魔王城へ着いて来た記憶が蘇る。ルコとヴァーナが言う。
「ルコも行きたいの」
「レー兄!! 私も連れて行ってくれ!!!」
レフォードが首を振って断る。
「ダーメだ。お前らは国の守備があるだろ? ミタリアの監視も頼みたい」
「えー、何それ!? ひどぉーい、お兄ちゃん!!」
ミタリアが更にむっとした顔になる。ガイルが笑って言う。
「仕方ねえだろ。お前は前科があるからな」
魔王城のことである。
「し、知らないわよ!!」
ミタリアが顔を赤くしてまた顔を背ける。
レフォードが改めて神妙な顔になりゼファーに尋ねる。
「それでゼファー。魔導人体とは一体何だんだ?」
レフォードがずっと聞きたかった質問。ゼファーも落ち着いたようなので聞いても大丈夫だと判断した。ゼファーが少し考えてから答える。
「俺もよく分からないんだ。気付いたらそう呼ばれていて、すっごく強くなってた」
「何をされたんだ?」
「よく分からないけど帝国内の魔導部の人間に変な魔法を掛けられた。そこからおかしくなったんだ」
「魔法? どんな?」
「分からないよ。俺、魔法使えないし」
そう答えるゼファーを見てレフォードがルコに尋ねる。
「ルコ、何か分からないか?」
「分からないの」
ルコが首を振って答える。
「私も何も感じないぞ」
同じくヴァーナも分からないという。レフォードが腕を組んで考え込む。そして言った。
「健康に害がないならいいのだが、気にはなるな。まあ、考えていても仕方ないからとりあえず早めに帝国へ行こう。そこへ行けば何か手掛かりがつかめるかも知れん」
「そうだな、レフォ兄!!」
その案にガイルも賛成する。レフォードが言う。
「明日帝国へ向かうのは俺とガイルとゼファー、そしてジェネスの四人。それ以外は留守番だ。各自やることはたくさんあるはず」
「了解っ!!」
そう言って嬉しそうな顔で答えるガイル。同じく棚ぼた的にスイーツが許可されたレスティアも満面の笑みで応える。
対照的にミタリア、ルコ、ヴァーナの三名は同行が許可されなくてむっとし表情を浮かべる。お互いがけん制し合うことで抜け駆けもできない。まさにレフォードの思惑通りであった。
「じゃあ、行ってくる」
翌朝、帝国に向かったレフォード達をミタリア達妹とシルバー、ジェイク等が見送る。ミタリアがむっとした顔で言う。
「あー、つまんないつまんないつまんなーい!!!」
「うるさいの、ミタリア」
「くそっ、なんでいつも私は除け者なんだ!?」
姉妹それぞれが悔しさを表す。シルバーが言う。
「今回はそれほど危険な話ではなさそうなので安心です。何せ皇帝が同行するのですからね」
そう話すシルバーをミタリア達が睨みつける。
(ん? 何か変なこと言ったのかな……??)
状況が理解できないシルバーが困った顔でそれに応えた。
「シ、シルバー様っ!! 大変ですっ!!!」
レフォード達を見送ったその日の夕方過ぎ。副団長室で雑務処理をしていたシルバーに兵士が慌ててやって来る。シルバーが尋ねる。
「どうしたんだ、一体!?」
兵士の慌てように嫌な予感がしたシルバー。そしてそれは現実のものとなった。
「ガ、ガナリア大帝国で再び政変が!! 新たにハルクと名乗る者が皇帝に即位したと発表がありました!!!」
シルバーは手にしていた紅茶のカップを危うく落とし掛けるほど驚いた。
突然のガナリア大帝国の侵攻。いきなりの開戦からの大苦戦。そうと思えばまさかの休戦。正騎士団ですら恐れた北の黒き兵団は引き波のように消えて行きそして今、その敵国の最高責任者である皇帝ゼファーがラフェル国王と同じテーブルに座っている。
ラフェル国王が眉間に皺を寄せて唸り声を上げる。
「う~ん、これは一体どう答えればよいのだ……」
帝国側は皇帝ゼファーと側近のふたり。ラフェル国王の後ろには正騎士団副団長シルバーや担当大臣が並ぶ。そして向かい合った両者の見つめるようにレフォードも席についている。国王の後ろに立つシルバーが言う。
「国王。休戦協定をその条件で受けるべきかと私は愚行致します」
「うーん……」
ガナリア大帝国皇帝ゼファーからの申し出は以下のようであった。
南方侵攻の中止、並びに周辺諸国と休戦協定の締結。今回の侵攻で被った被害は金銭にて帝国が補償。ゆくゆくは同盟を結び交易を盛んにしてお互いの更なる発展を目指す、と言ったものであった。素晴らしき提案。悩む国王にレフォードが言う。
「本当に申し訳ございませんでした。うちの愚弟が大変ご迷惑をお掛けしました」
そう言って深々と頭を下げるレフォード。もう何度目か分からない謝罪。国王が答える。
「その話はもう良い。お前のお陰でこの程度の傷で済んだ。うん、まあ、これからの帝国との付き合いもそなたがおってのことだ。逆に感謝すべきなのはこちら。うむ、皇帝ゼファーよ、この休戦協定、受けさせて貰おうと思うぞ」
ゼファーの顔がぱっと明るくなって言う。
「ラフェル国王、大変感謝致します。ならば私はすぐに帝国に戻って諸手続きを進めたい」
「分かった。周辺国の説得は私に任せてくれ。まあ、レフォードの弟と言えばほぼ問題ないであろう。ははははっ」
そう言って笑うラフェル国王。その意味をゼファーだけがよく理解できなかった。
「ありがとうございます。レー兄さん」
ラフェル国王との面談を終え、一度皆が待つレフォードの部屋にやって来たゼファーが軽く頭を下げて言った。レフォードが尋ねる。
「どうした急に『さん』付けで?」
先程までは『レー兄ちゃん』と呼んでいたゼファー。そう尋ねられて少し照れ臭そうな顔で答える。
「ああ、俺ももう子供じゃないし。いつまでもあの呼び方じゃあ、ちょっと恥ずかしくて……」
「そうか。好きにしろ」
そう言ってゼファーの肩をポンポンと叩くレフォード。今ゼファーは漆黒の鎧を脱ぎ捨て、戦闘用の服でもない私服を着ている。こうして見るとどこにでもいるような青年。いや好青年だ。ガイルが両手を頭で組みゼファーに言う。
「いやしかし驚いたよ。あのゼファーが帝国の皇帝だったなんてよ」
「本当にそう!」
「ホントだねぇ~」
「これは驚いたの」
「なんかの間違いじゃねえのか~??」
部屋にはミタリアとガイルの他に、ゼファーの訪問を聞きつけたレスティア、それに戦勝報告にやって来ていたヴァーナとルコもいる。ゼファーが困惑した顔で答える。
「驚いたって言えばみんなだってそうだよ。ミタリアはなんかすごく色っぽくなっているし、ヴァーナは『業火の魔女』だろ? レスティア姉さんは『聖女』だし、ルコは魔族。変わらないのはガイル兄さんだけかな?」
「はあ!? なんで俺だけ変わらねえんだよ!! 大人になったろ?? ほらほら!!」
そう言ってガイルは尖った髪を振り回してゼファーに見せる。それをミタリアが押しながら言う。
「ねえ、私が色っぽくなったって?? うふふふっ、そうでしょ~、さすがゼファーお兄ちゃんだね!! 伊達に皇帝じゃないよ。このままお兄ちゃんを口説いて結婚するのが私の目的なの。ね、手伝ってよ!!」
それを聞いたルコとヴァーナが怒りの表情で言う。
「ふ、ふざけるなよ!! ミタリア!!! 焼き殺すぞぉ!!!」
「暗闇に一生葬るの。覚悟して」
「おい、お前ら!! 馬鹿なこと言ってんじゃねえ!!」
呆れたレフォードが立ち上がって言う。ミタリアとルコとヴァーナはむっとしたままお互いの顔を見ようとしない。ゼファーが言う。
「いいな、やっぱり。こういうの……」
孤児院時代はそれほど兄弟達と交わらなかったゼファー。こうやってみんなで騒ぐのを傍から見ていたことが多かったのだが、今こうして大きくなって温かく迎えてくれる兄弟達と一緒に過ごせる時間はとても幸せに思える。
「でも……」
ゼファーの顔が少し暗くなる。そしてつぶやく。
「エルク兄さんはまだ眠ったままなんだよね……」
それを聞き静かになる一同。レフォードが立ち上がって言う。
「なーに、大丈夫だよ。俺達には『聖女様』がいるんだから。な、レスティア!!」
ドン!!!
そう言って近くにいたレスティアの背中を勢いよく叩くレフォード。座っていたレスティアが思わず椅子から落ちそうになって言う。
「痛~い!! 何すんよ!! レーレー!!!」
慌ててレフォードが謝る。
「わ、悪い!! そんなつもりじゃなくって……」
「えー、じゃあスイーツお腹いっぱいで手を打ってあげる。どぉ~、いいでしょ??」
部屋にはレスティアの管理役のマリアーヌはいない。まさに鬼の居ぬ間にと言うやつである。少し考えたレフォードが言う。
「まあいいか。お前も随分頑張っているし、時々はそれ位いいだろう」
それを聞いたミタリアが「はぁ」とため息をついて下を向く。レフォードが改めてレスティアに言う。
「エルクのことは頼んだ。俺達はこれから帝国に行く。早くあいつの元気な声を聞かせてくれ」
「了解~、ちょっとダルけど頑張るね~」
レスティアが気の抜けた声で返事をする。ミタリアが立ち上がって真剣な顔でレフォードに言う。
「お兄ちゃん!! やっぱり私も行きたいよ!!!」
一度はレフォードと共に帝国行きが決まっていたミタリア。だがその後のレフォードの危険との判断で留守番を言い渡されていた。レフォードが言う。
「だから何が起こるのか分からないから危ないだろ。ゼファーに恨みを持つ奴だっているはずだ」
圧政を敷いた皇帝ゼファー。それによって失脚した者や甘い汁を吸えなくなった者も多い。更に南方諸国と休戦をするとなると、不満分子による帝国内の動乱が起きる可能性もある。ミタリアが不満そうな顔で言う。
「でも、私も行きたいし……」
「ダメだ」
「ふーんだ!!」
ミタリアがプイと顔を背ける。レフォードの脳裏にこうやって留守番を言い渡したにもかかわらず、こっそりとルコの居た魔王城へ着いて来た記憶が蘇る。ルコとヴァーナが言う。
「ルコも行きたいの」
「レー兄!! 私も連れて行ってくれ!!!」
レフォードが首を振って断る。
「ダーメだ。お前らは国の守備があるだろ? ミタリアの監視も頼みたい」
「えー、何それ!? ひどぉーい、お兄ちゃん!!」
ミタリアが更にむっとした顔になる。ガイルが笑って言う。
「仕方ねえだろ。お前は前科があるからな」
魔王城のことである。
「し、知らないわよ!!」
ミタリアが顔を赤くしてまた顔を背ける。
レフォードが改めて神妙な顔になりゼファーに尋ねる。
「それでゼファー。魔導人体とは一体何だんだ?」
レフォードがずっと聞きたかった質問。ゼファーも落ち着いたようなので聞いても大丈夫だと判断した。ゼファーが少し考えてから答える。
「俺もよく分からないんだ。気付いたらそう呼ばれていて、すっごく強くなってた」
「何をされたんだ?」
「よく分からないけど帝国内の魔導部の人間に変な魔法を掛けられた。そこからおかしくなったんだ」
「魔法? どんな?」
「分からないよ。俺、魔法使えないし」
そう答えるゼファーを見てレフォードがルコに尋ねる。
「ルコ、何か分からないか?」
「分からないの」
ルコが首を振って答える。
「私も何も感じないぞ」
同じくヴァーナも分からないという。レフォードが腕を組んで考え込む。そして言った。
「健康に害がないならいいのだが、気にはなるな。まあ、考えていても仕方ないからとりあえず早めに帝国へ行こう。そこへ行けば何か手掛かりがつかめるかも知れん」
「そうだな、レフォ兄!!」
その案にガイルも賛成する。レフォードが言う。
「明日帝国へ向かうのは俺とガイルとゼファー、そしてジェネスの四人。それ以外は留守番だ。各自やることはたくさんあるはず」
「了解っ!!」
そう言って嬉しそうな顔で答えるガイル。同じく棚ぼた的にスイーツが許可されたレスティアも満面の笑みで応える。
対照的にミタリア、ルコ、ヴァーナの三名は同行が許可されなくてむっとし表情を浮かべる。お互いがけん制し合うことで抜け駆けもできない。まさにレフォードの思惑通りであった。
「じゃあ、行ってくる」
翌朝、帝国に向かったレフォード達をミタリア達妹とシルバー、ジェイク等が見送る。ミタリアがむっとした顔で言う。
「あー、つまんないつまんないつまんなーい!!!」
「うるさいの、ミタリア」
「くそっ、なんでいつも私は除け者なんだ!?」
姉妹それぞれが悔しさを表す。シルバーが言う。
「今回はそれほど危険な話ではなさそうなので安心です。何せ皇帝が同行するのですからね」
そう話すシルバーをミタリア達が睨みつける。
(ん? 何か変なこと言ったのかな……??)
状況が理解できないシルバーが困った顔でそれに応えた。
「シ、シルバー様っ!! 大変ですっ!!!」
レフォード達を見送ったその日の夕方過ぎ。副団長室で雑務処理をしていたシルバーに兵士が慌ててやって来る。シルバーが尋ねる。
「どうしたんだ、一体!?」
兵士の慌てように嫌な予感がしたシルバー。そしてそれは現実のものとなった。
「ガ、ガナリア大帝国で再び政変が!! 新たにハルクと名乗る者が皇帝に即位したと発表がありました!!!」
シルバーは手にしていた紅茶のカップを危うく落とし掛けるほど驚いた。
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