56 / 76
第六章「悪魔のルコ」
56.青髪狩り
しおりを挟む デーアは結婚し、デーア・アルメヒティヒとなった。ヴァイスハイトが侯爵家を継いだので、アルメヒティヒ侯爵夫人になる。アンジュはゲニーがオラーケル家の婿養子になりゲニー・オラーケルとなったので、名前は変わらずオラーケル侯爵夫人になった。
ヴァイスハイトは文官になり、新人らしく事務仕事から始め、デーアも外務関連の部署の文官になった。だがある日定期的に行われる討論会で発言する機会があり、ヴァイスハイトはその場で宰相であるブライ侯爵に気に入られ、文官になって一ヶ月で宰相補佐に抜擢される。一方ゲニーは魔法の研究がしたいということで魔法団の第五部署、研究職の部署に就きたかったのだが、師匠である魔法団総帥のレーラー・ムスケルに第三部署の副団長の座が例の王子とその右腕を陥れるための事件で空白になったからなれと言われ、しぶしぶその座に就いた。第三部署は所謂戦いの時の皮切りの部署で、怪我も絶えなく、最悪命も落とす。なので治癒魔法が得意な者を集めた魔法治癒士もその部署に配属される。アンジュは治癒魔法が得意だったので、必然と第三部署に配属され、実質ゲニーの部下になった。
忙しい毎日だったが毎晩のように愛し合っていた二組の夫婦の蜜月は想像よりも甘く、両家の使用人が見てられないと恥ずかしがるほどだった。それは隠居し田舎へ引っ込んだ両親たちにも届いていて、孫が見られるのも早いと期待も必然と高くなっていた。
元々仲の良い四人は、週末各屋敷に交代で集まり食事を共にし、ついでにその日は泊まることになっている。
いつものように食事も終えて、四人だけでリビングルームでお茶を飲んでると、ヴァイスハイトが口を開く。
「これは極秘情報だが、隣国のクリーク帝国が我がエーデルシュタイン王国に攻め入る計画を立ててるらしい」
「それでか。師匠も最近眉間にしわ寄せて各団長たちと会議を重ねてるのは」
納得といったようにゲニーが頷く。
「ってか、極秘情報言っていいの?! ヴィーは仮にも宰相補佐でしょ?!」
アンジュがヴァイスハイトに突っ込み、デーアは心配そうにヴァイスハイトを見つめた。
「ちゃんと許可は取ってある。明日にはデーアの部署にも、ゲニーたちの部署にも通達される予定だ」
何事にも抜かりないヴァイスハイトが失態を犯すわけはなく、デーアは安心し胸を撫でおろす。
とうとう新生活になり三ヶ月が過ぎようとした頃、隣国のクリーク帝国がエーデルシュタイン王国に攻め入ってきた。事前に情報が入っていたエーデルシュタイン王国の応戦の支度は万全だった。魔力が少なく銃や剣など武力に優れているクリーク帝国と、魔力が多く魔法に優れているエーデルシュタイン王国の戦いの勢力は明白で、エーデルシュタイン王国が優勢である。ヴァイスハイトは宰相と共に戦略にあたり、ゲニーは魔法団総帥からの命令で戦いの最前線に出て、軍の指揮をとることになった。
ゲニーの帰りを待つアンジュは心細くなり、デーアのいるアルメヒティヒ家に住まわせてもらうようになった。
「ゲニーが最前線で指揮をとってから怪我人はいるもの、死者は出てないそうよ」
デーアは朝食の席で浮かない顔をしていたアンジュを励ました。愛する夫がいつ命を落とすか分からない状況の妹の心境は手に取るようにわかる。
「うん。ヴィーも被害が少ないような戦略を立ててるって聞いたよ。大丈夫、ゲニーが死ぬわけないよね」
そう言った可愛い妹が何とも辛そうにしていて、デーアは思わずアンジュを抱きしめる。
「そうよ。ゲニーなら大丈夫だわ。それに死んだらアンジュが未亡人になって、もしかしたら家のために再婚するかもしれないわ。ゲニーがそれを許すとは思えないもの。何がなんでも生き延びると思うわ。アンジュに対する執着心は底知れないもの」
「そこは執着より愛情と言って欲しいけど。ふふ、そうね。ゲニーなら死んでも自分に魔法をかけて生き返ってきそう。あと執着心はデーアの愛しの旦那様も底知れないよ? だって戦場から毎日朝晩と手紙が来るんでしょ?」
アンジュはやっと頬を緩まし、姉を揶揄った。
「あら、それはアンジュの愛しの旦那様もじゃなかったかしら? ゲニーの場合小さな花束も手紙につけて送ってくるみたいじゃない。アンジュもその花を毎回押し花にして大切にとってあるんでしょ? 羨ましいわ。ヴィーに見習って欲しいと言おうかしら?」
アンジュに揶揄われ、姉も負けじと目の前の妹を揶揄い返す。
そして二人はふふっと笑い合った。
ヴァイスハイトは文官になり、新人らしく事務仕事から始め、デーアも外務関連の部署の文官になった。だがある日定期的に行われる討論会で発言する機会があり、ヴァイスハイトはその場で宰相であるブライ侯爵に気に入られ、文官になって一ヶ月で宰相補佐に抜擢される。一方ゲニーは魔法の研究がしたいということで魔法団の第五部署、研究職の部署に就きたかったのだが、師匠である魔法団総帥のレーラー・ムスケルに第三部署の副団長の座が例の王子とその右腕を陥れるための事件で空白になったからなれと言われ、しぶしぶその座に就いた。第三部署は所謂戦いの時の皮切りの部署で、怪我も絶えなく、最悪命も落とす。なので治癒魔法が得意な者を集めた魔法治癒士もその部署に配属される。アンジュは治癒魔法が得意だったので、必然と第三部署に配属され、実質ゲニーの部下になった。
忙しい毎日だったが毎晩のように愛し合っていた二組の夫婦の蜜月は想像よりも甘く、両家の使用人が見てられないと恥ずかしがるほどだった。それは隠居し田舎へ引っ込んだ両親たちにも届いていて、孫が見られるのも早いと期待も必然と高くなっていた。
元々仲の良い四人は、週末各屋敷に交代で集まり食事を共にし、ついでにその日は泊まることになっている。
いつものように食事も終えて、四人だけでリビングルームでお茶を飲んでると、ヴァイスハイトが口を開く。
「これは極秘情報だが、隣国のクリーク帝国が我がエーデルシュタイン王国に攻め入る計画を立ててるらしい」
「それでか。師匠も最近眉間にしわ寄せて各団長たちと会議を重ねてるのは」
納得といったようにゲニーが頷く。
「ってか、極秘情報言っていいの?! ヴィーは仮にも宰相補佐でしょ?!」
アンジュがヴァイスハイトに突っ込み、デーアは心配そうにヴァイスハイトを見つめた。
「ちゃんと許可は取ってある。明日にはデーアの部署にも、ゲニーたちの部署にも通達される予定だ」
何事にも抜かりないヴァイスハイトが失態を犯すわけはなく、デーアは安心し胸を撫でおろす。
とうとう新生活になり三ヶ月が過ぎようとした頃、隣国のクリーク帝国がエーデルシュタイン王国に攻め入ってきた。事前に情報が入っていたエーデルシュタイン王国の応戦の支度は万全だった。魔力が少なく銃や剣など武力に優れているクリーク帝国と、魔力が多く魔法に優れているエーデルシュタイン王国の戦いの勢力は明白で、エーデルシュタイン王国が優勢である。ヴァイスハイトは宰相と共に戦略にあたり、ゲニーは魔法団総帥からの命令で戦いの最前線に出て、軍の指揮をとることになった。
ゲニーの帰りを待つアンジュは心細くなり、デーアのいるアルメヒティヒ家に住まわせてもらうようになった。
「ゲニーが最前線で指揮をとってから怪我人はいるもの、死者は出てないそうよ」
デーアは朝食の席で浮かない顔をしていたアンジュを励ました。愛する夫がいつ命を落とすか分からない状況の妹の心境は手に取るようにわかる。
「うん。ヴィーも被害が少ないような戦略を立ててるって聞いたよ。大丈夫、ゲニーが死ぬわけないよね」
そう言った可愛い妹が何とも辛そうにしていて、デーアは思わずアンジュを抱きしめる。
「そうよ。ゲニーなら大丈夫だわ。それに死んだらアンジュが未亡人になって、もしかしたら家のために再婚するかもしれないわ。ゲニーがそれを許すとは思えないもの。何がなんでも生き延びると思うわ。アンジュに対する執着心は底知れないもの」
「そこは執着より愛情と言って欲しいけど。ふふ、そうね。ゲニーなら死んでも自分に魔法をかけて生き返ってきそう。あと執着心はデーアの愛しの旦那様も底知れないよ? だって戦場から毎日朝晩と手紙が来るんでしょ?」
アンジュはやっと頬を緩まし、姉を揶揄った。
「あら、それはアンジュの愛しの旦那様もじゃなかったかしら? ゲニーの場合小さな花束も手紙につけて送ってくるみたいじゃない。アンジュもその花を毎回押し花にして大切にとってあるんでしょ? 羨ましいわ。ヴィーに見習って欲しいと言おうかしら?」
アンジュに揶揄われ、姉も負けじと目の前の妹を揶揄い返す。
そして二人はふふっと笑い合った。
28
お気に入りに追加
288
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる