49 / 76
第六章「悪魔のルコ」
49.魔族出撃!!
しおりを挟む
「そんな、お母さんが……、殺されて……」
気持ちの整理はまだつかないが、いつか会いたいと思っていた母親。その母は人間になぶり殺されていた。父親が魔族だったことも初めて知った。
(だからこの角が……)
ルコが頭に突然生えた角を触る。魔族の子ではないかとは心のどこかで思っていた。それでもその事実を知りぼろぼろと涙が流れる。震える体。厩舎の藁の上でひとり絶望と怒りに涙を流す。
(許さない、許さない……)
自分を苛めた人間。
母を殺した人間。
自分を殺そうとする人間。
全ての人間が憎かった。消えればいいと思った。この世から抹消したいと思った。
厩舎へやって来た別の使用人がルコを見つけて言う。
「わー、ルコだ!! 悪魔のルコだ!! 死んじゃえ、死んじゃえよ~!!!」
切れた。
ルコの中で何かが切れた。
「うるさいの。お前らが消えるの」
ドオオオオオオオオオオン!!!!!
「ぎゃあああああ!!!!」
突然の爆発。不気味な音を立ててルコがいた厩舎の屋根が吹き飛ぶ。
舞い上がる黒煙。空を漂う藁。厩舎にいた馬が悲痛な鳴き声を上げながら逃げて行く。
「痛てええ、痛てえよおお!!!」
命に別状はなかった使用人の男達。だが一体何が起こったのか全く理解できない。
「許さない。許さないの。消えればいいの。人間は消えればいいの」
無表情のまま、ルコから止めどなく発せられる邪のオーラ。それは正に魔族のオーラ。偶然か奇跡か、そのオーラは上級魔族の中でも特に上質なものであった。
「同胞よ。一体どうした?」
そんなルコの前に、全身真っ黒で背に翼のある魔族が舞い降りる。強い邪気。一見して上級魔族だと分かる。ルコが言う。
「人間コロスの。全部滅べばいいの」
(強い恨み。上質な魔力。こいつ、相当な力を持っている……)
一瞬でルコの力を見ぬいた魔族。ルコの前に立ち優しく言う。
「あいつらにやられたんだな。分かった。俺が潰して来てやる」
上級魔族はそう言うと、厩舎の爆発に驚いて出て来たサーガル家の人達の元へと向かう。
そこからルコの記憶はなくなっていた。
初めて魔族として覚醒したルコは、慣れない力の行使に気を失ってしまっていた。ただ後に、サーガル家は先の魔族によって滅ぼされたと聞かされた。
「お前、名前は?」
魔王城に運ばれたルコ。目が覚めた彼女の元を上級魔族が訪れた。漆黒の体。大きな翼。少し前なら恐怖におののいていたはずなのに、不思議とそんな感じはしない。
「ルコ……」
ルコが小さく答える。上級魔族はルコの手を取り言う。
「さあ、魔王様がお待ちだ。挨拶に行くぞ」
「分かったの……」
上級魔族は自分よりも強力な潜在能力を持つ目の前の紫色のボブカットの少女を早く魔王に会わせたかった。確実に戦力となる。幹部クラスの。
「ルコなの。よろしくなの」
最高責任者である魔王カルカルに無表情で挨拶するルコ。魔族として覚醒し心も潰されかけていたルコにとっては、魔王ですら畏怖する対象ではなかった。
魔王の側近達が、無礼な新参者の態度にガタガタと震え始める。しかし魔王の反応は意外なものであった。
「ルコ……、ルコちゃん……」
魔王カルカルは玉座から降りるこの元へ行きその小さな体を抱きしめる。意外過ぎる反応に側近達が唖然とする。
その日以来、魔王は『ロリコン』じゃないのかと言う噂が立つのだが、実は人間の妻を捨てて逃げた当時の弱小魔族がカルカルだったと言うのは後に皆の知ることとなる。
「ルコ様、出撃準備が整いました」
魔族として迎えられたルコは、その父親譲りの才覚であっという間に魔族長へと登り詰めた。実質ナンバー2。魔王以外、彼女に命令できる者はいない。
「分かったの。じゃあ、そろそろ行く。人間を滅ぼすの」
「御意!」
そんなルコの中に燃える人間への復讐心。それは決して消えることはなく、常に漆黒の炎となって彼女の心で燃え続けていた。側近が尋ねる。
「ルコ様、行き先は?」
「一番多く人間が集まってるとこは?」
「ラフェル王国でしょうか」
「そう、じゃあそこ」
「御意」
魔族長ルコ以下、魔王城幹部が揃って出陣。魔王カルカルも陰ながら応援する一大討伐隊。その目的は未だ目覚めぬ騎士団長エルクがいるラフェル王国と決まった。
「エルクお兄ちゃん」
ヴェスタ公国への出発の朝、最後に正騎士団長であり大切な兄弟のエルクを見舞いに来たレフォード達。未だ眠りから目覚めぬ彼を前に、妹のミタリアがその華奢な手を握る。
「もうちょっとだからね、エルクお兄ちゃん」
ラリーコットへ向かう時より随分と症状は良くなってきている。全身にあった黒いアザの数も減り、色も薄くなってきている。以前の力強い騎士団長が少しずつだが戻って来た感がある。
「レスティア、感謝するぞ」
レフォードはエルクの部屋にいた聖女レスティアに声をかける。まだ体が完治しない彼女。それでもここでの半強制的な規則正しい生活のお陰で、肌や髪に艶が出て来ている。レスティアがダルそうな顔で答える。
「はいはい。エルエルの為だからね~、ダルいけど頑張るよ」
そう言いながらエルクが眠るベッドの傍にずっと付き添っている元恋人のマリアーヌを見つめる。マリアーヌはエルクへの贖罪の為にすべてを捨ててその看病、並びにレスティアの管理を行っていた。レフォードが言う。
「マリアーヌにも感謝したい。レスティアの回復なしにはエルクは助からないからな」
「ありがとうございます、お義兄様。私はエーク様の為に全力で頑張ります」
それを聞き心底嫌そうな顔をするレスティア。食事規制に日々の運動。完全に生活を管理されているレスティアにとって、このマリアーヌと言う女性は受け例難い存在であった。レスティアがレフォードの姿を見て言う。
「しかしまあ、随分と立派な格好だね~、あのレーレーとは思えないよ~」
ラフェル王国の同盟大使として向かうレフォード。真っ白なラフェルの制服に腰に差された二本の剣。そのうち一本は王族が所有する『王家の剣』、まさに大使にぴったりの姿である。レフォードがやや困った顔をして答える。
「まあ、何というか……、あまり着心地のいい服じゃねえけどな……」
新調された固めの服。皺ひとつない制服にレフォードが苦笑いする。レスティアが言う。
「ほんと、似合ってないわ。剣も二本差しちゃってさ。って言うかレーレーって、剣とか扱えたの??」
幼少期から殴ってばかりいた印象しかないレフォード。思わぬ問い掛けに咄嗟に答える。
「あ、ああ、当然だろ……」
「ふえ~」
レスティアはあまり興味なく答えたが、部屋にいたラフェルの人間達は拳だけでも十分強いレフォードが、さらに剣術の心得まであると知って驚く。
(や、やべえ! 咄嗟にあんなこと言っちまったが……、まあこの状況で『飾り』とも言えんし。やはり早くエルクに起きて貰って剣術習わねえと!!)
「おい、レスティア」
「なに? レーレー」
「早くエルクを起こせ」
「……はあ? なによ、急に??」
脈絡のない問い掛けにさすがのレスティアも困惑する。ミタリアが言う。
「レスティアお姉ちゃん。私達ヴェスタで式典終えて、できるだけ早く戻って来るから」
赤いツインテールの可愛い妹。レスティアがミタリアに尋ねる。
「どうして? 何かあるの? あ、ヴァーヴァーが怖いとか??」
ヴェスタの『業火の魔女』がヴァーナだったと言う話は聞いた。ラフェルの正騎士団をも翻弄する凶悪な妹にレスティアが苦笑する。ミタリアが首を振って答える。
「ううん。違うよ、レスティアお姉ちゃん。ヴァーナちゃんはいい子だよ。あのね、実はここにルコちゃんが……」
ミタリアは小声でレスティアにルコの話をする。それを頷いて聞いたレスティアが言う。
「へえ~、ルコルコがねえ。でもあてもなく探すんでしょ? 超ダルそう~」
「うん。でもそれが今のお兄ちゃんのすべてだから」
そう言ってはにかむミタリア。兄弟達を心から心配する長兄。ミタリア自身もその思いはあるが、何より彼の手伝いがしたかった。レスティアがミタリアの頭を撫でながら言う。
「頑張るんだよ、ミタりん。ルコルコにも会いたいし」
「うん」
ミタリアも笑顔でそれに応える。傍に居たガイルが頭を掻きながら言う。
「おーい、そろそろ行かねえか。エル兄は大丈夫だからさ」
ガイルも早くヴェスタの仕事を終えてラフェルに戻り、妹ルコを探したい。それを感じたレフォードが答える。
「よし、じゃあ行くか」
「うん!」
ミタリアが真っ先にそれに答えた。
「お、見えて来たな!! よしよし!!!」
レフォード達がラフェル王国を出て数日、それに入れ替わるように馬に乗ったふたりの人物がラフェルに近付いていた。ふたりとも暗いフード付きのコートを着ているが、ひとりは中に真っ赤なタイトドレス、もうひとりは巨躯にビキニパンツと遠目からでも良く目立つ。ビキニパンツが言う。
「ねえ、ヴァーナちゃん。本当に良かったのかしら。勝手に来ちゃって」
深紅のドレスを着た女が、フードを脱ぎ赤い髪を靡かせながら答える。
「当たり前だろ。レー兄に会いたいんだよ!! レー兄もそう思ってるはず!!」
レフォードにヴェスタ公国の守りを言いつけられていたヴァーナ。だが会いたさゆえに勝手にやって来てしまっていた。ゲルチがため息をつきながら言う。
「そうかしら? レフォードちゃんはヴェスタで待ってろって言っていたはずじゃ……」
「待てるかー、私はレー兄に会いたい!! 会いたいんだ!! 分かるだろ??」
手綱を引きながらゲルチが答える。
「気持ちは分かるわ。私、男だけど心は乙女だから」
ゲルチもイケメン騎士団長や副団長シルバー、それにレフォードと言った粒ぞろいの面々を思い出し少しだけ興奮する。ヴァーナが言う。
「待ってろー、レー兄!! 今行くからなああああ!!! ヒャッハー!!!」
そう叫ぶとヴァーナが馬を走らせる。ゲルチも苦笑しながらそれに続いた。
「間もなくラフエルに到着です。ルコ様」
時を同じくしてラフェル王国近郊。その上空を移動するルコに側近が言った。
「分かったわ。人間を滅ぼすの」
「はっ」
側近は頭を下げ飛行を続ける。
不在の長兄レフォード、並びにエルクが未だ起きぬラフェル王国。そこに凶悪な妹ふたりが鉢合わせすることとなる。
気持ちの整理はまだつかないが、いつか会いたいと思っていた母親。その母は人間になぶり殺されていた。父親が魔族だったことも初めて知った。
(だからこの角が……)
ルコが頭に突然生えた角を触る。魔族の子ではないかとは心のどこかで思っていた。それでもその事実を知りぼろぼろと涙が流れる。震える体。厩舎の藁の上でひとり絶望と怒りに涙を流す。
(許さない、許さない……)
自分を苛めた人間。
母を殺した人間。
自分を殺そうとする人間。
全ての人間が憎かった。消えればいいと思った。この世から抹消したいと思った。
厩舎へやって来た別の使用人がルコを見つけて言う。
「わー、ルコだ!! 悪魔のルコだ!! 死んじゃえ、死んじゃえよ~!!!」
切れた。
ルコの中で何かが切れた。
「うるさいの。お前らが消えるの」
ドオオオオオオオオオオン!!!!!
「ぎゃあああああ!!!!」
突然の爆発。不気味な音を立ててルコがいた厩舎の屋根が吹き飛ぶ。
舞い上がる黒煙。空を漂う藁。厩舎にいた馬が悲痛な鳴き声を上げながら逃げて行く。
「痛てええ、痛てえよおお!!!」
命に別状はなかった使用人の男達。だが一体何が起こったのか全く理解できない。
「許さない。許さないの。消えればいいの。人間は消えればいいの」
無表情のまま、ルコから止めどなく発せられる邪のオーラ。それは正に魔族のオーラ。偶然か奇跡か、そのオーラは上級魔族の中でも特に上質なものであった。
「同胞よ。一体どうした?」
そんなルコの前に、全身真っ黒で背に翼のある魔族が舞い降りる。強い邪気。一見して上級魔族だと分かる。ルコが言う。
「人間コロスの。全部滅べばいいの」
(強い恨み。上質な魔力。こいつ、相当な力を持っている……)
一瞬でルコの力を見ぬいた魔族。ルコの前に立ち優しく言う。
「あいつらにやられたんだな。分かった。俺が潰して来てやる」
上級魔族はそう言うと、厩舎の爆発に驚いて出て来たサーガル家の人達の元へと向かう。
そこからルコの記憶はなくなっていた。
初めて魔族として覚醒したルコは、慣れない力の行使に気を失ってしまっていた。ただ後に、サーガル家は先の魔族によって滅ぼされたと聞かされた。
「お前、名前は?」
魔王城に運ばれたルコ。目が覚めた彼女の元を上級魔族が訪れた。漆黒の体。大きな翼。少し前なら恐怖におののいていたはずなのに、不思議とそんな感じはしない。
「ルコ……」
ルコが小さく答える。上級魔族はルコの手を取り言う。
「さあ、魔王様がお待ちだ。挨拶に行くぞ」
「分かったの……」
上級魔族は自分よりも強力な潜在能力を持つ目の前の紫色のボブカットの少女を早く魔王に会わせたかった。確実に戦力となる。幹部クラスの。
「ルコなの。よろしくなの」
最高責任者である魔王カルカルに無表情で挨拶するルコ。魔族として覚醒し心も潰されかけていたルコにとっては、魔王ですら畏怖する対象ではなかった。
魔王の側近達が、無礼な新参者の態度にガタガタと震え始める。しかし魔王の反応は意外なものであった。
「ルコ……、ルコちゃん……」
魔王カルカルは玉座から降りるこの元へ行きその小さな体を抱きしめる。意外過ぎる反応に側近達が唖然とする。
その日以来、魔王は『ロリコン』じゃないのかと言う噂が立つのだが、実は人間の妻を捨てて逃げた当時の弱小魔族がカルカルだったと言うのは後に皆の知ることとなる。
「ルコ様、出撃準備が整いました」
魔族として迎えられたルコは、その父親譲りの才覚であっという間に魔族長へと登り詰めた。実質ナンバー2。魔王以外、彼女に命令できる者はいない。
「分かったの。じゃあ、そろそろ行く。人間を滅ぼすの」
「御意!」
そんなルコの中に燃える人間への復讐心。それは決して消えることはなく、常に漆黒の炎となって彼女の心で燃え続けていた。側近が尋ねる。
「ルコ様、行き先は?」
「一番多く人間が集まってるとこは?」
「ラフェル王国でしょうか」
「そう、じゃあそこ」
「御意」
魔族長ルコ以下、魔王城幹部が揃って出陣。魔王カルカルも陰ながら応援する一大討伐隊。その目的は未だ目覚めぬ騎士団長エルクがいるラフェル王国と決まった。
「エルクお兄ちゃん」
ヴェスタ公国への出発の朝、最後に正騎士団長であり大切な兄弟のエルクを見舞いに来たレフォード達。未だ眠りから目覚めぬ彼を前に、妹のミタリアがその華奢な手を握る。
「もうちょっとだからね、エルクお兄ちゃん」
ラリーコットへ向かう時より随分と症状は良くなってきている。全身にあった黒いアザの数も減り、色も薄くなってきている。以前の力強い騎士団長が少しずつだが戻って来た感がある。
「レスティア、感謝するぞ」
レフォードはエルクの部屋にいた聖女レスティアに声をかける。まだ体が完治しない彼女。それでもここでの半強制的な規則正しい生活のお陰で、肌や髪に艶が出て来ている。レスティアがダルそうな顔で答える。
「はいはい。エルエルの為だからね~、ダルいけど頑張るよ」
そう言いながらエルクが眠るベッドの傍にずっと付き添っている元恋人のマリアーヌを見つめる。マリアーヌはエルクへの贖罪の為にすべてを捨ててその看病、並びにレスティアの管理を行っていた。レフォードが言う。
「マリアーヌにも感謝したい。レスティアの回復なしにはエルクは助からないからな」
「ありがとうございます、お義兄様。私はエーク様の為に全力で頑張ります」
それを聞き心底嫌そうな顔をするレスティア。食事規制に日々の運動。完全に生活を管理されているレスティアにとって、このマリアーヌと言う女性は受け例難い存在であった。レスティアがレフォードの姿を見て言う。
「しかしまあ、随分と立派な格好だね~、あのレーレーとは思えないよ~」
ラフェル王国の同盟大使として向かうレフォード。真っ白なラフェルの制服に腰に差された二本の剣。そのうち一本は王族が所有する『王家の剣』、まさに大使にぴったりの姿である。レフォードがやや困った顔をして答える。
「まあ、何というか……、あまり着心地のいい服じゃねえけどな……」
新調された固めの服。皺ひとつない制服にレフォードが苦笑いする。レスティアが言う。
「ほんと、似合ってないわ。剣も二本差しちゃってさ。って言うかレーレーって、剣とか扱えたの??」
幼少期から殴ってばかりいた印象しかないレフォード。思わぬ問い掛けに咄嗟に答える。
「あ、ああ、当然だろ……」
「ふえ~」
レスティアはあまり興味なく答えたが、部屋にいたラフェルの人間達は拳だけでも十分強いレフォードが、さらに剣術の心得まであると知って驚く。
(や、やべえ! 咄嗟にあんなこと言っちまったが……、まあこの状況で『飾り』とも言えんし。やはり早くエルクに起きて貰って剣術習わねえと!!)
「おい、レスティア」
「なに? レーレー」
「早くエルクを起こせ」
「……はあ? なによ、急に??」
脈絡のない問い掛けにさすがのレスティアも困惑する。ミタリアが言う。
「レスティアお姉ちゃん。私達ヴェスタで式典終えて、できるだけ早く戻って来るから」
赤いツインテールの可愛い妹。レスティアがミタリアに尋ねる。
「どうして? 何かあるの? あ、ヴァーヴァーが怖いとか??」
ヴェスタの『業火の魔女』がヴァーナだったと言う話は聞いた。ラフェルの正騎士団をも翻弄する凶悪な妹にレスティアが苦笑する。ミタリアが首を振って答える。
「ううん。違うよ、レスティアお姉ちゃん。ヴァーナちゃんはいい子だよ。あのね、実はここにルコちゃんが……」
ミタリアは小声でレスティアにルコの話をする。それを頷いて聞いたレスティアが言う。
「へえ~、ルコルコがねえ。でもあてもなく探すんでしょ? 超ダルそう~」
「うん。でもそれが今のお兄ちゃんのすべてだから」
そう言ってはにかむミタリア。兄弟達を心から心配する長兄。ミタリア自身もその思いはあるが、何より彼の手伝いがしたかった。レスティアがミタリアの頭を撫でながら言う。
「頑張るんだよ、ミタりん。ルコルコにも会いたいし」
「うん」
ミタリアも笑顔でそれに応える。傍に居たガイルが頭を掻きながら言う。
「おーい、そろそろ行かねえか。エル兄は大丈夫だからさ」
ガイルも早くヴェスタの仕事を終えてラフェルに戻り、妹ルコを探したい。それを感じたレフォードが答える。
「よし、じゃあ行くか」
「うん!」
ミタリアが真っ先にそれに答えた。
「お、見えて来たな!! よしよし!!!」
レフォード達がラフェル王国を出て数日、それに入れ替わるように馬に乗ったふたりの人物がラフェルに近付いていた。ふたりとも暗いフード付きのコートを着ているが、ひとりは中に真っ赤なタイトドレス、もうひとりは巨躯にビキニパンツと遠目からでも良く目立つ。ビキニパンツが言う。
「ねえ、ヴァーナちゃん。本当に良かったのかしら。勝手に来ちゃって」
深紅のドレスを着た女が、フードを脱ぎ赤い髪を靡かせながら答える。
「当たり前だろ。レー兄に会いたいんだよ!! レー兄もそう思ってるはず!!」
レフォードにヴェスタ公国の守りを言いつけられていたヴァーナ。だが会いたさゆえに勝手にやって来てしまっていた。ゲルチがため息をつきながら言う。
「そうかしら? レフォードちゃんはヴェスタで待ってろって言っていたはずじゃ……」
「待てるかー、私はレー兄に会いたい!! 会いたいんだ!! 分かるだろ??」
手綱を引きながらゲルチが答える。
「気持ちは分かるわ。私、男だけど心は乙女だから」
ゲルチもイケメン騎士団長や副団長シルバー、それにレフォードと言った粒ぞろいの面々を思い出し少しだけ興奮する。ヴァーナが言う。
「待ってろー、レー兄!! 今行くからなああああ!!! ヒャッハー!!!」
そう叫ぶとヴァーナが馬を走らせる。ゲルチも苦笑しながらそれに続いた。
「間もなくラフエルに到着です。ルコ様」
時を同じくしてラフェル王国近郊。その上空を移動するルコに側近が言った。
「分かったわ。人間を滅ぼすの」
「はっ」
側近は頭を下げ飛行を続ける。
不在の長兄レフォード、並びにエルクが未だ起きぬラフェル王国。そこに凶悪な妹ふたりが鉢合わせすることとなる。
28
お気に入りに追加
288
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる