32 / 76
第四章「偏食のレスティア」
32.ガイル vs サキュガル
しおりを挟む
『風のガイル』対『魔族長側近サキュガル』の一騎打ちは、周囲の者が動けなくなるほど凄まじい戦いとなった。
「はあっ!!!」
風の如く高速で移動し攻撃するガイル。サキュガルはそれを間一髪でかわし、得意のレイピアで反撃を繰り出す。サキュガルの自慢のタキシードはガイルの短剣によって何か所も切り刻まれ、逆にガイルの体もレイピアによる出血が止まらなかった。
(こんなヒト族がいたとは驚きです……)
サキュガルはガイルの見事な体の動きに感嘆していた。優に上位魔族並みの戦闘力を持つ相手。可能ならば味方に取り入れたいほどの人材である。
「お強いですね、あなた……」
レイピアを構えたサキュガルが敬意を込めて言う。
「当たり前だろ! 俺を誰だと思ってる!!」
そう言いながらもガイルの体力は底を尽きかけていた。ここに来るまでに既に多くの魔族を倒し、目の前の相手には初っ端から全力でぶつかっている。でなければやられる。サキュガルが言う。
「私の大事な一張羅をこんなに切り裂いてしまって。責任は取って貰いますよ」
未だ余裕を見せるサキュガルに対し、ガイルはこれ以上の戦闘の長期化はまずいと感じていた。
(ああ、ハラ減った。ヤギ肉食いてえ……)
ガイルが捨て身の攻撃を覚悟する。
「ウォークウォーク……」
同時に現れる自分の分身。館の中庭いっぱいに広がるガイルの残像にサキュガルが真剣な顔でレイピアを構える。
「その技はもう通用しません!!!」
初手で散々サキュガルを苦しめたガイルの得意技。しかし精神を集中して相手の位置を把握するサキュガルの前にこの技はもう通用しなかった。レイピアを振り上げて真正面のガイルを突き刺す。
「そこですっ!!!」
シュン!!
(なっ!?)
サキュガルのレイピアが虚しく空を切る。
グサッ!!!
同時に感じる背中の激痛。ガイルの極限まで精度を高めた幻影攻撃に惑わされたサキュガル。だが流れ落ちる血を押さえながらも、しっかりと反撃していた。
「うぐぐぐっ……」
サキュガルのレイピアが後方にいたガイルの足を貫いている。
一瞬の出来事。空を切ったサキュガルのレイピアが、勢いそのままに後方の敵へと向けられた。
「うぐっ……、お見事です。これは驚きました……」
傷口を押さえながらサキュガル言う。足を貫かれたガイルがそれに脂汗をかきながら答える。
「あ、当たり前だろ。俺を誰だと思ってんだ」
しかしその言葉に勢いはない。サキュガルが言う。
「少しあなたを見くびっていたかもしれません。私も治療が必要です。残念ですが今夜はこれで退くことにしましょう。またの対戦、楽しみにしていますよ」
サキュガルは大怪我を負いながらも決して諦めないガイルの目を見て今夜の撤退を決めた。ヒト族にも尊敬すべき存在がいる。それだけでもサキュガルにとっては大きな収穫だった。
(やべ、立ってられねえや……)
極度の疲労、深い傷。ガイルは魔族が撤退するのを確かめてから音を立てて地面に倒れた。
(くそっ、くそくそ!! なんでこの俺様が!!!!)
ジャセルはサキュガルに殴られた後、意識を失いそのまま病院へと運ばれた。幸い身に着けていた高性能の鎧のお陰で肋骨の骨折だけで済んだが、彼の怒りは収まらない。
病院から自宅へと戻って療養するジャセルが怒りで顔を赤くする。
「なんで俺様があんな役に立たない女の警護などをしなきゃならんのだ!!!」
恐ろしかった魔族。死をも覚悟した彼には、そのすべての原因が聖女レスティアだと決めつけていた。邪魔な者は消す、やりたい放題やって来たジャセルの思考がそちらへ傾き始めた時、部屋のドアが勢い良く開けられた。
バン!!
「ジャセル!!!」
それは唯一彼に命令ができる存在。ラリーコット自治区の長、ジャセルの父親である。
「親父……」
突然現れた父親に驚くジャセル。父親が言う。
「ラリーコット最強の兵を預けたのに魔族ごときに何たる失態!! 恥を知れっ!!」
「……すまねえ、親父」
ジャセルもこの父親だけには頭が上がらない。父親が声を荒げて言う。
「運良くラフェルの騎士団が来たから良かったものの、あのままでは聖女を攫われるところだったんだぞ!! 気を入れ直して明日からまた屋敷の警護に行け!! いいな!!!」
父親は怒り心頭で部屋を出て行く。今回の襲撃で大被害を受けまるでいい所のなかったジャセルが握りこぶしを作って言う。
「くそっ!! どいつもこいつも聖女様って。あー、くそっ!! もうどうでもいい!!!」
ジャセルの怒りがついに頂点に達する。そしてある計画を思いついた。
「お兄ちゃん、ガイルお兄ちゃん……、ううっ……」
ミタリアは病院のベッドで眠るふたりの兄を見て涙を流した。
レフォードはヤギ肉レストランで意識を失ってここに運ばれてからずっと眠ったまま。聖女様の屋敷に向かったガイルも無事に魔族を追い払ったが大怪我をして病院に運ばれて来て、今は応急処置の薬で眠っている。
ミタリアは服のポケットに入れたままの小瓶を取り出し思う。
(これ、これのせいよ!! 一体何の薬なの!!!)
ミタリアはふたりの看病を看護師に任せると、駆け足で街中にある小瓶を買った店へと向かう。
「ちょっと!! これ一体何の薬なの!! 全部飲ませたけど倒れちゃったわよ!!!」
血相を変えて怒鳴り込むミタリアを見て店の店主が驚いて言う。
「飲ませた? お嬢ちゃん、まさかあれを飲ませたのかい??」
「そうよ! 全部飲ませたわ!! 全然効かないじゃん!!!」
店主が驚いた顔で言う。
「これは飲み薬じゃないよ。嗅ぎ薬だよ……」
「え?」
店主が言う。
「ちょっと数滴を袖などに垂らして、その匂いを相手に嗅がせるだけだよ」
「そ、そんなこと言ってくれなかったじゃないですか!!」
「だってお嬢ちゃんが走って去って行ったんだろ?」
「だ、だって……」
一刻も早く薬を試したい。その想いでちゃんとした説明を聞かずに宿に帰ってしまったのだ。店主が尋ねる。
「それでその薬を飲まされた相手は大丈夫なのかい?」
ミタリアが泣きそうな顔で言う。
「ずっと眠ったままで……、私、どうしたら……」
「眠ったまま? それは驚いた。これは飲めば猛毒になる薬。よく生きているねえ、その人」
惚れと殺しは表裏一体。そんな言葉がよく似合う薬である。ミタリアが尋ねる。
「どうすれば目覚めるんですか?」
「まあ、すぐに死ななかったところを見ると多分じきに目覚めるよ。起きたら水をたくさん飲ませてあげておくれ」
「はい、分かりました! ありがとうございます!!」
ミタリアはそうお礼を言うと一直線に病院へと戻った。
ミタリアが病院へ戻ってすぐ、眠ったままだったレフォードが目を覚ました。
「う、ううん……」
「お兄ちゃん!!!!」
ミタリアが大きな声で名前を叫ぶ。
「あぁ、ミタリアか……、ここは?」
なぜ自分が眠っているのか全く理解できないレフォード。起き上がった彼に水を飲ませたミタリアが事情を説明する。眠ったまま全く起きなかったこと。その後魔族の襲撃があってガイルがひとりで戦ったことなど全て。
「そんなことがあったのか……」
レフォードは隣のベッドで眠る弟の痛々しい姿を見て強い怒りを表す。
「あれ、レフォ兄、目が覚めたのか……?」
レフォードとミタリアが話をしていると、ちょうど薬が切れたガイルが目を覚ました。
「ガイルお兄ちゃん!!」
ミタリアが安心した顔でガイルの元へと行く。魔族を退けてから記憶のないガイル。ミタリアがその後のことを彼に説明した。
「すまなかった、ガイル。そんな大変な時に俺は……」
突然の眩暈。強い睡魔。何が起こったのか分からないが、弟ひとりに大変な役目をさせてしまったことにレフォードが悔しい顔をする。ガイルが言う。
「な~に、大丈夫だって、レフォ兄。また来てもこの俺が蹴散らしてやるよ!!」
そう強がるガイルだが、俊足の要になる足の怪我によるダメージは大きい。レフォードが首を振って言う。
「一体俺は何をされたのだろうか?」
そう口にするレフォードを見てミタリアは目を反らし、流れる汗を拭きとる。ガイルが言う。
「まさか魔族が俺達の存在に気付いていて、予めレフォ兄に何か仕組んでいたとか??」
「十分考えられるな」
そう真剣に語るレフォードを見てミタリアが自責の念を強くする。
(いや違うの!! 私なの、私が変な薬を飲ませたの!! ごめんなさい、お兄ちゃん!!)
ガイルが言う。
「俺達に喧嘩を売った魔族にしっかりお礼をしなきゃな。そうだろ、レフォ兄?」
「無論だ。弟を可愛がってくれたお礼は十分にする」
(ああ、だから違うの!! 本当にごめんなさい、魔族さん!!)
ミタリアはこの先兄に殴られるであろう哀れな魔族を思い心の中で何度も謝罪した。
「ああ、気持ちがいいですね~」
魔族領に一時的に戻ったサキュガル。
自作の温泉風呂に浸かりながらガイルから受けた傷を癒す。熱めのお湯。心地良い疲れが体から抜けていく。
「本当にヒト族と言うのはどうしてこのような素晴らしい施設を思いつくのでしょう」
魔族にはないお湯に浸かる習慣。ヒト族やルコから学んだサキュガルが自領に独学で制作。源泉を掘り当て、時々やって来ては温泉を楽しんでいる。
「あの風使い……、いいですねえ。本当に」
サキュガルは自分と互角に戦ったガイルのことを思い出す。殺すには惜しい人材。ヒト族ではあるができれば配下として加えたい。
「次会った時は最初から全力で行きましょうか。治療師と一緒に捕獲して、彼は私の部下になって貰いましょう」
そう言ってちゃぽんとお湯で遊ぶサキュガル。
だが残念ながら彼がこの先ガイルと再戦することはなかった。代わりに激怒した彼の義兄と戦うことになることなどもちろん夢にも思っていない。
「はあっ!!!」
風の如く高速で移動し攻撃するガイル。サキュガルはそれを間一髪でかわし、得意のレイピアで反撃を繰り出す。サキュガルの自慢のタキシードはガイルの短剣によって何か所も切り刻まれ、逆にガイルの体もレイピアによる出血が止まらなかった。
(こんなヒト族がいたとは驚きです……)
サキュガルはガイルの見事な体の動きに感嘆していた。優に上位魔族並みの戦闘力を持つ相手。可能ならば味方に取り入れたいほどの人材である。
「お強いですね、あなた……」
レイピアを構えたサキュガルが敬意を込めて言う。
「当たり前だろ! 俺を誰だと思ってる!!」
そう言いながらもガイルの体力は底を尽きかけていた。ここに来るまでに既に多くの魔族を倒し、目の前の相手には初っ端から全力でぶつかっている。でなければやられる。サキュガルが言う。
「私の大事な一張羅をこんなに切り裂いてしまって。責任は取って貰いますよ」
未だ余裕を見せるサキュガルに対し、ガイルはこれ以上の戦闘の長期化はまずいと感じていた。
(ああ、ハラ減った。ヤギ肉食いてえ……)
ガイルが捨て身の攻撃を覚悟する。
「ウォークウォーク……」
同時に現れる自分の分身。館の中庭いっぱいに広がるガイルの残像にサキュガルが真剣な顔でレイピアを構える。
「その技はもう通用しません!!!」
初手で散々サキュガルを苦しめたガイルの得意技。しかし精神を集中して相手の位置を把握するサキュガルの前にこの技はもう通用しなかった。レイピアを振り上げて真正面のガイルを突き刺す。
「そこですっ!!!」
シュン!!
(なっ!?)
サキュガルのレイピアが虚しく空を切る。
グサッ!!!
同時に感じる背中の激痛。ガイルの極限まで精度を高めた幻影攻撃に惑わされたサキュガル。だが流れ落ちる血を押さえながらも、しっかりと反撃していた。
「うぐぐぐっ……」
サキュガルのレイピアが後方にいたガイルの足を貫いている。
一瞬の出来事。空を切ったサキュガルのレイピアが、勢いそのままに後方の敵へと向けられた。
「うぐっ……、お見事です。これは驚きました……」
傷口を押さえながらサキュガル言う。足を貫かれたガイルがそれに脂汗をかきながら答える。
「あ、当たり前だろ。俺を誰だと思ってんだ」
しかしその言葉に勢いはない。サキュガルが言う。
「少しあなたを見くびっていたかもしれません。私も治療が必要です。残念ですが今夜はこれで退くことにしましょう。またの対戦、楽しみにしていますよ」
サキュガルは大怪我を負いながらも決して諦めないガイルの目を見て今夜の撤退を決めた。ヒト族にも尊敬すべき存在がいる。それだけでもサキュガルにとっては大きな収穫だった。
(やべ、立ってられねえや……)
極度の疲労、深い傷。ガイルは魔族が撤退するのを確かめてから音を立てて地面に倒れた。
(くそっ、くそくそ!! なんでこの俺様が!!!!)
ジャセルはサキュガルに殴られた後、意識を失いそのまま病院へと運ばれた。幸い身に着けていた高性能の鎧のお陰で肋骨の骨折だけで済んだが、彼の怒りは収まらない。
病院から自宅へと戻って療養するジャセルが怒りで顔を赤くする。
「なんで俺様があんな役に立たない女の警護などをしなきゃならんのだ!!!」
恐ろしかった魔族。死をも覚悟した彼には、そのすべての原因が聖女レスティアだと決めつけていた。邪魔な者は消す、やりたい放題やって来たジャセルの思考がそちらへ傾き始めた時、部屋のドアが勢い良く開けられた。
バン!!
「ジャセル!!!」
それは唯一彼に命令ができる存在。ラリーコット自治区の長、ジャセルの父親である。
「親父……」
突然現れた父親に驚くジャセル。父親が言う。
「ラリーコット最強の兵を預けたのに魔族ごときに何たる失態!! 恥を知れっ!!」
「……すまねえ、親父」
ジャセルもこの父親だけには頭が上がらない。父親が声を荒げて言う。
「運良くラフェルの騎士団が来たから良かったものの、あのままでは聖女を攫われるところだったんだぞ!! 気を入れ直して明日からまた屋敷の警護に行け!! いいな!!!」
父親は怒り心頭で部屋を出て行く。今回の襲撃で大被害を受けまるでいい所のなかったジャセルが握りこぶしを作って言う。
「くそっ!! どいつもこいつも聖女様って。あー、くそっ!! もうどうでもいい!!!」
ジャセルの怒りがついに頂点に達する。そしてある計画を思いついた。
「お兄ちゃん、ガイルお兄ちゃん……、ううっ……」
ミタリアは病院のベッドで眠るふたりの兄を見て涙を流した。
レフォードはヤギ肉レストランで意識を失ってここに運ばれてからずっと眠ったまま。聖女様の屋敷に向かったガイルも無事に魔族を追い払ったが大怪我をして病院に運ばれて来て、今は応急処置の薬で眠っている。
ミタリアは服のポケットに入れたままの小瓶を取り出し思う。
(これ、これのせいよ!! 一体何の薬なの!!!)
ミタリアはふたりの看病を看護師に任せると、駆け足で街中にある小瓶を買った店へと向かう。
「ちょっと!! これ一体何の薬なの!! 全部飲ませたけど倒れちゃったわよ!!!」
血相を変えて怒鳴り込むミタリアを見て店の店主が驚いて言う。
「飲ませた? お嬢ちゃん、まさかあれを飲ませたのかい??」
「そうよ! 全部飲ませたわ!! 全然効かないじゃん!!!」
店主が驚いた顔で言う。
「これは飲み薬じゃないよ。嗅ぎ薬だよ……」
「え?」
店主が言う。
「ちょっと数滴を袖などに垂らして、その匂いを相手に嗅がせるだけだよ」
「そ、そんなこと言ってくれなかったじゃないですか!!」
「だってお嬢ちゃんが走って去って行ったんだろ?」
「だ、だって……」
一刻も早く薬を試したい。その想いでちゃんとした説明を聞かずに宿に帰ってしまったのだ。店主が尋ねる。
「それでその薬を飲まされた相手は大丈夫なのかい?」
ミタリアが泣きそうな顔で言う。
「ずっと眠ったままで……、私、どうしたら……」
「眠ったまま? それは驚いた。これは飲めば猛毒になる薬。よく生きているねえ、その人」
惚れと殺しは表裏一体。そんな言葉がよく似合う薬である。ミタリアが尋ねる。
「どうすれば目覚めるんですか?」
「まあ、すぐに死ななかったところを見ると多分じきに目覚めるよ。起きたら水をたくさん飲ませてあげておくれ」
「はい、分かりました! ありがとうございます!!」
ミタリアはそうお礼を言うと一直線に病院へと戻った。
ミタリアが病院へ戻ってすぐ、眠ったままだったレフォードが目を覚ました。
「う、ううん……」
「お兄ちゃん!!!!」
ミタリアが大きな声で名前を叫ぶ。
「あぁ、ミタリアか……、ここは?」
なぜ自分が眠っているのか全く理解できないレフォード。起き上がった彼に水を飲ませたミタリアが事情を説明する。眠ったまま全く起きなかったこと。その後魔族の襲撃があってガイルがひとりで戦ったことなど全て。
「そんなことがあったのか……」
レフォードは隣のベッドで眠る弟の痛々しい姿を見て強い怒りを表す。
「あれ、レフォ兄、目が覚めたのか……?」
レフォードとミタリアが話をしていると、ちょうど薬が切れたガイルが目を覚ました。
「ガイルお兄ちゃん!!」
ミタリアが安心した顔でガイルの元へと行く。魔族を退けてから記憶のないガイル。ミタリアがその後のことを彼に説明した。
「すまなかった、ガイル。そんな大変な時に俺は……」
突然の眩暈。強い睡魔。何が起こったのか分からないが、弟ひとりに大変な役目をさせてしまったことにレフォードが悔しい顔をする。ガイルが言う。
「な~に、大丈夫だって、レフォ兄。また来てもこの俺が蹴散らしてやるよ!!」
そう強がるガイルだが、俊足の要になる足の怪我によるダメージは大きい。レフォードが首を振って言う。
「一体俺は何をされたのだろうか?」
そう口にするレフォードを見てミタリアは目を反らし、流れる汗を拭きとる。ガイルが言う。
「まさか魔族が俺達の存在に気付いていて、予めレフォ兄に何か仕組んでいたとか??」
「十分考えられるな」
そう真剣に語るレフォードを見てミタリアが自責の念を強くする。
(いや違うの!! 私なの、私が変な薬を飲ませたの!! ごめんなさい、お兄ちゃん!!)
ガイルが言う。
「俺達に喧嘩を売った魔族にしっかりお礼をしなきゃな。そうだろ、レフォ兄?」
「無論だ。弟を可愛がってくれたお礼は十分にする」
(ああ、だから違うの!! 本当にごめんなさい、魔族さん!!)
ミタリアはこの先兄に殴られるであろう哀れな魔族を思い心の中で何度も謝罪した。
「ああ、気持ちがいいですね~」
魔族領に一時的に戻ったサキュガル。
自作の温泉風呂に浸かりながらガイルから受けた傷を癒す。熱めのお湯。心地良い疲れが体から抜けていく。
「本当にヒト族と言うのはどうしてこのような素晴らしい施設を思いつくのでしょう」
魔族にはないお湯に浸かる習慣。ヒト族やルコから学んだサキュガルが自領に独学で制作。源泉を掘り当て、時々やって来ては温泉を楽しんでいる。
「あの風使い……、いいですねえ。本当に」
サキュガルは自分と互角に戦ったガイルのことを思い出す。殺すには惜しい人材。ヒト族ではあるができれば配下として加えたい。
「次会った時は最初から全力で行きましょうか。治療師と一緒に捕獲して、彼は私の部下になって貰いましょう」
そう言ってちゃぽんとお湯で遊ぶサキュガル。
だが残念ながら彼がこの先ガイルと再戦することはなかった。代わりに激怒した彼の義兄と戦うことになることなどもちろん夢にも思っていない。
29
お気に入りに追加
288
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる