愚かな弟妹達は偉くなっても俺に叱られる。

サイトウ純蒼

文字の大きさ
上 下
14 / 76
第二章「空腹のガイル」

14.ガイルの提案、レフォードの提案

しおりを挟む
「みんな、紹介するよ。俺の兄貴のレフォード。よろしくな!!」

 山中にある蛮族『鷹の風』の拠点。その中央に設けられた会議室に集められたジェイクや三風牙の幹部、そして隊長クラスの面々に向かってガイルが言った。ジェイクが驚きながら言う。


「青髪の男……、まさか、お前が……」

 それは彼らにとって自分達に牙を剥いた得体の知れない敵。マルマジロの鎧を破壊するような攻撃力を持つ警戒すべき相手。それがまさか目の前の男だったとは。レフォードが頭を掻きながら言う。


「ああ、多分それは俺だな。一度お前らとやり合っている。な、そうだろ?」

 レフォードはそう言って部屋の隅にいる三風牙のひとりフォーレを見つめる。腕を組んでそれを聞いていたフォーレが答える。


「間違いない。その男だ。私の部下に大怪我をさせた張本人だ」

 その口調には決して『青髪の男』を仲間には認めないという強い意志が込められている。レフォードがガイルに尋ねる。


「それよりガイル。商家に行ったはずのお前がどうして蛮族なんかやってるんだ? 何があった?」

 ガイルがちょっと困った顔をしながら答える。


「ええっと、商家の家に行った日に蛮族に襲撃されて、それでここの幹部だった人に拾われていつの間にか頭領になっちゃって……」

 ガイルの話を聞いたレフォードがやや驚いた顔で答える。

「そうか、そんなことがあったのか」


「でも俺は幸せだったぜ。ここで会えたみんなは俺の財産。かけがえのない仲間だ」

 それを聞いた蛮族達の顔が笑顔になる。レフォードが言う。


「とは言え人様のものを奪うような蛮行は許すことはできない。特にお前が関わっているなら長兄として尚更見逃すわけにはいかない」

 ガイルが首を振って答える。


「それは違うよ、レフォにい

「違う? 何がだ?」

 ガイルが自信気に答える。


「俺達は蛮族じゃなくて『義賊』。世の中を正す正義の集団なんだぜ」

「世の中を正す? 人のものを奪っておいて何を言っている」

 レフォードはそう言いながらも以前にも聞いたその『義賊』と言う言葉を思い出す。レフォードの言葉に一部の蛮族達がむっとした顔をする。ガイルが説明する。


「違うって。俺達が対象にしているのは悪さをやっている奴らだけなんだ。一般の人達は決して狙わない」

「悪さをやっている奴?」

「そうだよ。違法な取引とかあくどいことをやっている奴。善良な人達から奪ったお金を俺達が取り返しているんだ」

 レフォードが考える。確かに蛮族が襲ったのは豪商ばかり。それも悪い噂がある家が多い。


「そうか。だがその奪ったお金を自分達の為に使っているんだろ? だったら同じだ」

「おっさん、それはちょっと違うよ」

 レフォードに三風牙のライドが話し掛ける。


「違うのか?」

「うん。確かに僕達のご飯とかにもなっているけど、奪ったお金は近くの村なんかにこっそり配っているんだ」

「本当なのか?」

「本当だよ」

 実際『鷹の風』は奪ったお金のうち少なくない額をその近隣の貧しい村に配っていた。レフォードが新聞の片隅にあったそのような記事を思い出す。


「とは言え、お前をこのまま放置しておくことはできんしな……」

 困った顔をするレフォードにガイルが言う。


「じゃあさ、レフォ兄がここのやってくれよ」


「は?」

 レフォードが驚いた顔でガイルを見つめる。


「レフォ兄は俺の兄貴。兄貴の言うことを聞くのが弟分。レフォ兄が俺達を導いてくれよ」

 それを聞いた蛮族の者達の一部が眉間にしわを寄せる。


「馬鹿なことを言うな。俺が蛮族の頭になる訳ないだろ」

「えー、いいじゃん。な、ジェイク?」

 ガイルは近くで話を聞くナンバー2のジェイクに尋ねる。


「私はガイル様の命に従うのみ。彼をかしらにすると言うのならば従いましょう」

 ジェイクは従者らしく主であるガイルの命に順応に従う。何よりレフォードの強さに驚愕していた。警戒していた『青髪の男』が逆に仲間になるのならこれは心強い。ガイルの兄貴分とのことだが、このふたりが協力すれば正騎士団とも渡り合える。


「僕も賛成だよ! おっさんと一緒に戦いたい!!」

 三風牙のライドも喜んで賛成する。元々彼はレフォードに興味津々であった。彼の強さを知る者のひとり。レフォードが首を振って言う。


「おいおい、だから俺はここのかしらなんてやるつもりはねえって言ってるだろ」

「えー、だったらどんどん悪いことしちゃうよ」

 ガイルが笑いながら言う。レフォードが頭を掻きながら答える。


「参ったな。どうすりゃいいんだ」

「いや、だからレフォ兄が頭になってこれまで通りにやりゃいいんだよ」

 笑顔でそう言うガイルを見ながらレフォードが答える。


「分かった、じゃあこうしよう。とりあえず正騎士団に行って今までのことを謝罪する。その後『鷹の風』を解散させる」

 その言葉に皆の顔が驚きの色に染まる。


「ちょ、ちょっと、レフォ兄!! それはできないよ!!」

 正騎士団と言えば言わば敵となる存在。下手したら皆捕まり処刑される可能性だってある。慌てるガイルにレフォードが言う。

「まあ聞け。解体した後に、逆に騎士団に加えて貰おうと思う」

「え、騎士団加えて貰う?」

 ガイルが驚きを持って言う。


「ああ、そうだ。騎士団としたら厄介な蛮族が無くなる上に強い味方が増えるのなら一石二鳥。決して悪い話じゃないはず」

「だとしても俺達を素直に受け入れると思う?」

 レフォードが少し考えて答える。


「これまでのことをきちんと謝罪して、国の為に働くとしっかり誠意を見せれば何とかなるだろう」

「うーん、でもなあ……」

 心配するガイルにレフォードが言う。


「安心しろ。騎士団への直訴は俺がやる。


「俺達? レフォ兄の他にも誰かいるのか?」

「ああ。ヴェルリット家当主、ここの領主様だ」

 その言葉に驚くガイル。


「え、レフォ兄って領主と繋がっていたの?」

「何言ってるんだ。お前だって繋がってるぞ」

「ええ?」

 意味が分からないガイル。レフォードが笑って言う。


「ヴェルリット家の当主の名前は、・ヴェルリットだ」


「ミタリア……、ミタリアって、あのミタリアなの??」

 驚くガイル。レフォードが頷いて答える。

「ああ、あのミタリアだ。彼女に騎士団との連絡役をやって貰う。きちんと話をすればきっと彼らだって理解してくれるはずだ」


「ミタリアが領主……、マジか……」

 基本孤児院では誰がどこに行ったのかは知らされない。レフォードだけが懇意にしてくれた主任使用人のミーアから密かに教えて貰っていただけ。よってガイルはミタリアがヴェルリット家に行ったことも知らないし、無論その後領主の跡を継いだことも知らない。


「ミタリアは元気なの? 会いたい……」

 またひとり大切な兄弟の名前が出たガイルが嬉しそうな顔をする。レフォードが笑って言う。


「ああ、領主としてお前の蛮行にカンカンに怒ってたぞ。俺はお前の首根っこを掴んで連れて来いと命じられている」

「マジか。あのミタリアに叱られるのか、俺?」

 そう言って笑い合うレフォードとガイル。



「そんなことは認めないっ!!!」


 騎士団加入と言う突拍子な話が出たものの、和やかな雰囲気になり始めていた会議室。そこへひとりの男が前に出てその意見に異議を唱えた。ガイルが尋ねる。


「フォーレ、お前は反対なのか?」

 三風牙のひとり、風魔法のフォーレ。その後ろには同じく三風牙の槍使いレンレン。ふたりが不満そうな表情で前に出る。


「反対です。ガイル様」

 普段は順応なフォーレ。しかし愛する『鷹の風』が消えるかも知れない事態に黙ってはいられない。


「ガイル様の長兄か何か知りませんが、そんな奴に大切な俺達の家族を預ける訳にはいきません。もしかしたら皆殺されるかもしれない。そんな危険があることを易々認める訳には行かないです!!」

 後ろにいるレンレンも同じく頷く。ガイルが困った顔をして言う。


「とは言ってもなあ。俺もレフォ兄には逆らえないし。考えたことはなかったが、騎士団として仕事ができるならそれは悪くないと思ってる」

「そんな上手い話があるはずないです!!」

 レンレンも負けじと声を出す。ガイルが尋ねる。


「今の頭は俺だ。俺の決定が不服なら、俺を頭の座を奪え」


「うっ……」

 単純なこと。『鷹の風』では基本強いものが頭領となる。頭領になりたければトップを倒すのみ。


「それは……」

 それはできない。やりたくないし、やったところでガイルに勝てるはずがない。フォーレがレフォードを指差して言う。


「じゃあ、俺達がそいつを倒す。それができたらこの計画は中止。それでいいですか?」

 指差されたレフォードを見てガイルがため息交じりに答える。

「まあ、俺はいっけど。レフォ兄、いい?」

「大切な弟に頼まれたからには受けざるを得んな」

「了解」

 レフォードが頷いて答える。



「おい、やめろよ。ふたりとも」

 同じく三風牙のライドがふたりに声を掛ける。フォーレが尋ねる。

「お前はあんな奴の言いなりになって悔しくないのか?」

「え? ないよ」

 あっけらかんと答えるライドにレンレンがイラっとして言う。


「あんな奴にこの大切な『鷹の風』を……」

「おっさん、強いって」

 ふたりが黙る。そして言う。


「そんなものやって見ないと分からない」

「分かるよ」

 フォーレとレンレンはもう何を話しても無駄だと言った顔でむっとする。
 レフォードに対しては『ガイルの兄』と言うだけでその強さは認めていなかった。ガイルだって兄だから抵抗しない。そう簡単に考えていた。


(愚か者め。あれで幹部を務めていたとは……)

 ジェイクが無言でフォーレとレンレンのふたりを見つめる。一瞬、先ほどレフォードがガイルを殴った際に一瞬だけ放たれた彼の覇気。あれに気付かなかったと言うのならばまだまだ鍛錬が足らない。


(可哀そうに。レフォ兄のげんこつ、マジで痛いんだぜ)

 そしてもうひとり。弟のガイルもレフォードに喧嘩を売った部下ふたりの身を案じる。
 それでもレフォードの強さを見せつけるにはちょうどいい。この話に納得いかない人間もいるのは明らか。新たな頭として認めて貰うにはあのふたりはちょうどいいかもしれない。


「表に出ろ。青髪の男」

 フォーレはレフォードにそう言うと先に部屋から退出する。


「レフォ兄、怪我させない程度に頼むよ」

 ガイルが少し苦笑いして言う。

「ああ、分かった」

 レフォードもふたりの後に続いて部屋を出た。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...