40 / 89
第三章「聖女就任式」
40.姫の女気
しおりを挟む
「あ、ロレンツさん。お疲れ様です!!」
「よお」
ロレンツは護衛職の合間、城内散歩の傍らネガーベル軍を見学に行くことも何度かあった。退役したとはいえ元軍人。今は自分が在籍する国の軍はやはり気になる。
「訓練に精が出るな」
「はい、もうこの間のような失態はできませんので!!」
【赤き悪魔】を退けたロレンツ。
聖騎士団長エルグですら勝てなかった魔物を倒したロレンツは、既にネガーベル軍の間でも有名となっており訪れれば皆が歓迎してくれた。そこへ見覚えのある男がやって来る。
「ロレンツさん、お久しぶりです!」
「あ、おめえは……」
それは以前『剣遊会』で戦った小隊長。拉致されていた家族を助けたが、それ以降は会っていない。小隊長は深く頭を下げてからロレンツに言った。
「魔物の撃退、感謝します。さすがはロレンツさんだ」
「あ、ああ、まあ……」
怒りに任せて討伐した先の戦い。
ロレンツは彼なりに反省しなければならないことがたくさんあった。小隊長が言う。
「是非ともネガーベル軍にご入隊頂きたいのですが……、姫様の『護衛職』なら仕方ないですね」
王族であるアンナ姫。彼女の『護衛職』はどこにも所属できない姫専用となり、軍への入隊は原則出来ない。ロレンツが答える。
「まあ、もう軍隊は遠慮したいな」
それを笑って聞く小隊長。そして言う。
「そう言えばロレンツさんは元マサルトのご出身とか」
「ああ」
小隊長はロレンツの艶のある銀髪を見ながら言う。
「マサルト軍、うちとの国境の近くで蛮族相手に大苦戦しているらしいですよ」
「大苦戦?」
ロレンツの表情が変わる。
「ええ、なんでも第三歩兵部ってのが応戦しているらしいけど、ほぼ孤立無援だとか」
(!!)
マサルト国軍、第三歩兵部。
それは以前ロレンツが所属していた部隊。ロレンツが少し震えた声で尋ねる。
「間違いないのか、それは?」
「ええ、うちが派遣している監視団からの報告ですので」
「そうか……」
ロレンツは静かに頷いて答えた。
「ねえ、ロレンツ」
「ん、なんだ?」
アンナの公務室に座っていたロレンツに彼女が尋ねる。
「飲まないの? コーヒー」
「ん?」
ロレンツは手にしたままひと口も飲んでいないコーヒーカップに気付き、慌てて口にする。
「ねえ」
アンナはロレンツの正面に座り、テーブルの上に顔を乗せて言う。
「なに悩んでるの?」
少し目を逸らしたロレンツが小さな声で答える。
「なんでもねえ」
アンナは分かりやすい性格だと思いながら尋ねる。
「何か手伝えることがあるなら言ってよね」
「アンナ様、なりません!! 今は公務中で……」
それまで黙って見ていた侍女のリリーが立ち上がって言う。アンナが答える。
「ちょっと休憩よ。それに『護衛職』の悩みを聞くのも私の仕事でしょ~?」
「そ、それはそうですが……」
『護衛職』が最高のパフォーマンスを出すために環境を整える。それも使役者の務め。アンナが再度尋ね直す。
「で、なに~? 私の美貌にやられちゃったとか~?」
無言。無表情のロレンツ。
「もう、言っちゃいなよ。もうすぐ審議会だし、あまり時間ないよ~」
(時間……)
ロレンツがコーヒーカップを置いて静かに言う。
「ネガーベルとマサルトの国境付近で、マサルト軍が蛮族と戦をしている」
アンナは自分の美貌とは関係ないと分かり、やや落胆しながら聞く。
「そこで戦っているのは第三歩兵部って言うんだが、俺が元所属していたとこだ」
アンナが驚いた顔をする。
「それって、じゃあ、そこにあなたのお友達とかが……」
「ああ、蛮族に攻められ、孤立無援状態だそうだ」
「ダメです!!!」
リリーが近寄って来て腕を組みながら言う。
「ダメです、ダメです!! この大事な時期にアンナ様にもしものことがあったらどうするんですか!! 『護衛職』でしょ? あなたは自覚がなさ過ぎます!!!」
リリーの言うことも尤である。
前回ロレンツが不在の時に【赤き悪魔】が襲来、先日も城内でアンナが襲われたばかりだ。リリーに怒鳴られ黙り込むロレンツ。そんな彼を見たアンナが尋ねる。
「でも、行ってあげたいんでしょ?」
「……」
それに答えようとしないロレンツ。少し間を置いてアンナが言う。
「いいわ、行って来て」
「ア、アンナ様っ!!!」
それを聞きリリーが顔を真っ赤にして怒る。アンナが言う。
「だって、そこで悩んじゃうのがこの人の性格でしょ? それにお友達を見捨てることなんてできないんでしょ?」
アンナがテーブルの上に両肘をついてロレンツに尋ねる。
「だが……」
ロレンツが小さな声で言う。アンナが立ち上がって言う。
「いいから行ってきなさい! そんなあなただから私は……」
思わず出そうになった次の言葉を慌てて飲み込むアンナ。一旦落ち着いてから言う。
「主として命じます。急ぎ行ってお友達を助けること。期限は明日の朝まで。いい?」
「嬢ちゃん……、すまねえ!!!」
ロレンツは立ち上がり軽く頭を下げると駆け足で部屋を出て行った。
「もー、なんですか!! あれは!!!」
リリーが出て行ったドアを見ながらむっとして言う。アンナが答える。
「いいじゃない。どうせあんなヘタレ状態だったら、護衛もできないだろうし」
「ですが、もしアンナ様にもしものことがあったら……、それはそうとさっき何と言いかけたんですか?」
「ん?」
「確か『そんなあなただから私は……』と仰った後です」
(うぐっ!)
幼いが頭脳明晰なリリー。しっかりとアンナの言葉を覚えている。
「そ、それはね、リリーもあと、そうだなぁ、五年もすれば分かるようになるかな……」
「意味が分かりません。五年後にしか分からない事って何ですか?」
「そ、それはね……」
アンナは目の前にいる青のツインテールの幼い少女にどうやって説明、いや誤魔化そうかと必死に考えた。
マサルト王国辺境、勢いをつけた蛮族が領内に次々と侵攻して来ている。
それを迎えるマサルト国軍。だが軍本部の指揮は壊滅状態で、前線に取り残された第三歩兵部が孤軍奮闘していた。
「部隊長!! 援軍要請に向かった早馬ですが……、敵に捕まり処刑されたそうです」
「くっ……」
マサルト全体で士気は落ち、まともな武器すらなかった蛮族にも既に勝てぬ状態。愚政続きだった領地民からも見放され、一部では蛮族と一緒になって戦っているとの報告もある。兵が言う。
「もはや我々だけでは勝ち目はありません!! 撤退を、撤退をご決断ください!!!」
兵は涙ながらに頭を下げて言った。
撤退。
軍としては受け入れがたい屈辱。上層部からも『死ぬまで戦え』との命令が届いている。
部隊を預かる長とて皆の命は大切にしたい。だが発せられた部隊長の言葉は厳しい現実を再認識させられる辛いものであった。
「撤退は不可能だ。既に我々は四方を蛮族に囲まれ、マサルトに戻ることもできない。少しだけまだ手薄な個所はあるが、その先は敵国ネガーベル。いずれにせよ、全て敵だ」
兵士達も頭のどこかで分かっていた事実。
しかし改めてその現実を突きつけられると、皆が暗い顔をして黙り込んだ。
「お、おい!! 誰だ、貴様っ!! ここをどこだと思っている!!!」
そんな部隊長本営に見張りの兵士の怒声が響いた。部隊長が尋ねる。
「何事だ?」
慌てて報告にやって来た兵士が伝える。
「はっ、突然ひとりの見知らぬ男がやって来まして、部隊長に会わせろと言っているんです」
「見知らぬ男?」
部隊長が首をかしげる。こんな敵の真ん中で一体誰が来たというのか。
「お、おい!! お前、勝手に入るんじゃ……」
部隊長の近くで響く兵の怒声。しかしその巨躯の銀髪の男はそんな声を気にすることもなく、部隊長の前までやって来る。周りにいた兵が抜刀して叫ぶ。
「貴様っ、何奴っ!!!」
部隊長は兵士を手で制し、震えながら現れたその男へ歩み寄る。
「ロレンツ、さん……」
「よお、随分出世したな」
部隊長は目に涙を浮かべてロレンツの元に行き片膝をついて頭を下げる。
「ぶ、部隊長……?」
周りにいた若い兵士が驚いてその光景を見つめる。
この部隊長は小隊長だった時のロレンツの元部下。ロレンツの不当裁判を、悔し涙を流しながら見つめた仲間のひとり。部隊長が涙を流しながら言う。
「すみません、すみませんでした、あの時……」
ロレンツは涙を流し謝る部隊長の肩を持ち立ち上がらせる。
「長がそんな簡単に泣くんじゃねえ」
「はい……」
部隊長は涙を拭いロレンツに尋ねる。
「どうしてここに? まさか……」
「ああ、ちょっくら暴れに来た」
「ロレンツさん……」
部隊長は嬉しさで体が震える。
「ただ、明日の朝までには戻らなきゃならんがな」
「明日の朝? 戻る……?」
部隊長が首をかしげる。そして冗談っぽく尋ねる。
「ロレンツさん、ご結婚されたとか? まさか奥様の元へお帰りになるんでしょうか?」
少し驚いた顔をしたロレンツ。すぐに笑って答える。
「まあ、似たようなもんかな」
そしてロレンツは蛮族の本陣の場所を聞くと別れを告げ、そのまま単騎乗り込んで行った。驚く兵達が部隊長に尋ねる。
「あ、あの男は一体? ひとりで大丈夫なんでしょうか??」
部隊長が笑顔で答える。
「心配ない。それよりよく見ておけ。あれが『マサルト最強』と言われた方の背中だ」
その後、たったひとりの男に指揮官を討たれた蛮族達は、一晩で壊滅状態に追い込まれる。
言葉通り朝には居なくなったロレンツを頭に思い浮かべた部隊長が自陣で深く頭を下げ、マサルト第三歩兵部は無事撤退を成し遂げた。
「よお」
ロレンツは護衛職の合間、城内散歩の傍らネガーベル軍を見学に行くことも何度かあった。退役したとはいえ元軍人。今は自分が在籍する国の軍はやはり気になる。
「訓練に精が出るな」
「はい、もうこの間のような失態はできませんので!!」
【赤き悪魔】を退けたロレンツ。
聖騎士団長エルグですら勝てなかった魔物を倒したロレンツは、既にネガーベル軍の間でも有名となっており訪れれば皆が歓迎してくれた。そこへ見覚えのある男がやって来る。
「ロレンツさん、お久しぶりです!」
「あ、おめえは……」
それは以前『剣遊会』で戦った小隊長。拉致されていた家族を助けたが、それ以降は会っていない。小隊長は深く頭を下げてからロレンツに言った。
「魔物の撃退、感謝します。さすがはロレンツさんだ」
「あ、ああ、まあ……」
怒りに任せて討伐した先の戦い。
ロレンツは彼なりに反省しなければならないことがたくさんあった。小隊長が言う。
「是非ともネガーベル軍にご入隊頂きたいのですが……、姫様の『護衛職』なら仕方ないですね」
王族であるアンナ姫。彼女の『護衛職』はどこにも所属できない姫専用となり、軍への入隊は原則出来ない。ロレンツが答える。
「まあ、もう軍隊は遠慮したいな」
それを笑って聞く小隊長。そして言う。
「そう言えばロレンツさんは元マサルトのご出身とか」
「ああ」
小隊長はロレンツの艶のある銀髪を見ながら言う。
「マサルト軍、うちとの国境の近くで蛮族相手に大苦戦しているらしいですよ」
「大苦戦?」
ロレンツの表情が変わる。
「ええ、なんでも第三歩兵部ってのが応戦しているらしいけど、ほぼ孤立無援だとか」
(!!)
マサルト国軍、第三歩兵部。
それは以前ロレンツが所属していた部隊。ロレンツが少し震えた声で尋ねる。
「間違いないのか、それは?」
「ええ、うちが派遣している監視団からの報告ですので」
「そうか……」
ロレンツは静かに頷いて答えた。
「ねえ、ロレンツ」
「ん、なんだ?」
アンナの公務室に座っていたロレンツに彼女が尋ねる。
「飲まないの? コーヒー」
「ん?」
ロレンツは手にしたままひと口も飲んでいないコーヒーカップに気付き、慌てて口にする。
「ねえ」
アンナはロレンツの正面に座り、テーブルの上に顔を乗せて言う。
「なに悩んでるの?」
少し目を逸らしたロレンツが小さな声で答える。
「なんでもねえ」
アンナは分かりやすい性格だと思いながら尋ねる。
「何か手伝えることがあるなら言ってよね」
「アンナ様、なりません!! 今は公務中で……」
それまで黙って見ていた侍女のリリーが立ち上がって言う。アンナが答える。
「ちょっと休憩よ。それに『護衛職』の悩みを聞くのも私の仕事でしょ~?」
「そ、それはそうですが……」
『護衛職』が最高のパフォーマンスを出すために環境を整える。それも使役者の務め。アンナが再度尋ね直す。
「で、なに~? 私の美貌にやられちゃったとか~?」
無言。無表情のロレンツ。
「もう、言っちゃいなよ。もうすぐ審議会だし、あまり時間ないよ~」
(時間……)
ロレンツがコーヒーカップを置いて静かに言う。
「ネガーベルとマサルトの国境付近で、マサルト軍が蛮族と戦をしている」
アンナは自分の美貌とは関係ないと分かり、やや落胆しながら聞く。
「そこで戦っているのは第三歩兵部って言うんだが、俺が元所属していたとこだ」
アンナが驚いた顔をする。
「それって、じゃあ、そこにあなたのお友達とかが……」
「ああ、蛮族に攻められ、孤立無援状態だそうだ」
「ダメです!!!」
リリーが近寄って来て腕を組みながら言う。
「ダメです、ダメです!! この大事な時期にアンナ様にもしものことがあったらどうするんですか!! 『護衛職』でしょ? あなたは自覚がなさ過ぎます!!!」
リリーの言うことも尤である。
前回ロレンツが不在の時に【赤き悪魔】が襲来、先日も城内でアンナが襲われたばかりだ。リリーに怒鳴られ黙り込むロレンツ。そんな彼を見たアンナが尋ねる。
「でも、行ってあげたいんでしょ?」
「……」
それに答えようとしないロレンツ。少し間を置いてアンナが言う。
「いいわ、行って来て」
「ア、アンナ様っ!!!」
それを聞きリリーが顔を真っ赤にして怒る。アンナが言う。
「だって、そこで悩んじゃうのがこの人の性格でしょ? それにお友達を見捨てることなんてできないんでしょ?」
アンナがテーブルの上に両肘をついてロレンツに尋ねる。
「だが……」
ロレンツが小さな声で言う。アンナが立ち上がって言う。
「いいから行ってきなさい! そんなあなただから私は……」
思わず出そうになった次の言葉を慌てて飲み込むアンナ。一旦落ち着いてから言う。
「主として命じます。急ぎ行ってお友達を助けること。期限は明日の朝まで。いい?」
「嬢ちゃん……、すまねえ!!!」
ロレンツは立ち上がり軽く頭を下げると駆け足で部屋を出て行った。
「もー、なんですか!! あれは!!!」
リリーが出て行ったドアを見ながらむっとして言う。アンナが答える。
「いいじゃない。どうせあんなヘタレ状態だったら、護衛もできないだろうし」
「ですが、もしアンナ様にもしものことがあったら……、それはそうとさっき何と言いかけたんですか?」
「ん?」
「確か『そんなあなただから私は……』と仰った後です」
(うぐっ!)
幼いが頭脳明晰なリリー。しっかりとアンナの言葉を覚えている。
「そ、それはね、リリーもあと、そうだなぁ、五年もすれば分かるようになるかな……」
「意味が分かりません。五年後にしか分からない事って何ですか?」
「そ、それはね……」
アンナは目の前にいる青のツインテールの幼い少女にどうやって説明、いや誤魔化そうかと必死に考えた。
マサルト王国辺境、勢いをつけた蛮族が領内に次々と侵攻して来ている。
それを迎えるマサルト国軍。だが軍本部の指揮は壊滅状態で、前線に取り残された第三歩兵部が孤軍奮闘していた。
「部隊長!! 援軍要請に向かった早馬ですが……、敵に捕まり処刑されたそうです」
「くっ……」
マサルト全体で士気は落ち、まともな武器すらなかった蛮族にも既に勝てぬ状態。愚政続きだった領地民からも見放され、一部では蛮族と一緒になって戦っているとの報告もある。兵が言う。
「もはや我々だけでは勝ち目はありません!! 撤退を、撤退をご決断ください!!!」
兵は涙ながらに頭を下げて言った。
撤退。
軍としては受け入れがたい屈辱。上層部からも『死ぬまで戦え』との命令が届いている。
部隊を預かる長とて皆の命は大切にしたい。だが発せられた部隊長の言葉は厳しい現実を再認識させられる辛いものであった。
「撤退は不可能だ。既に我々は四方を蛮族に囲まれ、マサルトに戻ることもできない。少しだけまだ手薄な個所はあるが、その先は敵国ネガーベル。いずれにせよ、全て敵だ」
兵士達も頭のどこかで分かっていた事実。
しかし改めてその現実を突きつけられると、皆が暗い顔をして黙り込んだ。
「お、おい!! 誰だ、貴様っ!! ここをどこだと思っている!!!」
そんな部隊長本営に見張りの兵士の怒声が響いた。部隊長が尋ねる。
「何事だ?」
慌てて報告にやって来た兵士が伝える。
「はっ、突然ひとりの見知らぬ男がやって来まして、部隊長に会わせろと言っているんです」
「見知らぬ男?」
部隊長が首をかしげる。こんな敵の真ん中で一体誰が来たというのか。
「お、おい!! お前、勝手に入るんじゃ……」
部隊長の近くで響く兵の怒声。しかしその巨躯の銀髪の男はそんな声を気にすることもなく、部隊長の前までやって来る。周りにいた兵が抜刀して叫ぶ。
「貴様っ、何奴っ!!!」
部隊長は兵士を手で制し、震えながら現れたその男へ歩み寄る。
「ロレンツ、さん……」
「よお、随分出世したな」
部隊長は目に涙を浮かべてロレンツの元に行き片膝をついて頭を下げる。
「ぶ、部隊長……?」
周りにいた若い兵士が驚いてその光景を見つめる。
この部隊長は小隊長だった時のロレンツの元部下。ロレンツの不当裁判を、悔し涙を流しながら見つめた仲間のひとり。部隊長が涙を流しながら言う。
「すみません、すみませんでした、あの時……」
ロレンツは涙を流し謝る部隊長の肩を持ち立ち上がらせる。
「長がそんな簡単に泣くんじゃねえ」
「はい……」
部隊長は涙を拭いロレンツに尋ねる。
「どうしてここに? まさか……」
「ああ、ちょっくら暴れに来た」
「ロレンツさん……」
部隊長は嬉しさで体が震える。
「ただ、明日の朝までには戻らなきゃならんがな」
「明日の朝? 戻る……?」
部隊長が首をかしげる。そして冗談っぽく尋ねる。
「ロレンツさん、ご結婚されたとか? まさか奥様の元へお帰りになるんでしょうか?」
少し驚いた顔をしたロレンツ。すぐに笑って答える。
「まあ、似たようなもんかな」
そしてロレンツは蛮族の本陣の場所を聞くと別れを告げ、そのまま単騎乗り込んで行った。驚く兵達が部隊長に尋ねる。
「あ、あの男は一体? ひとりで大丈夫なんでしょうか??」
部隊長が笑顔で答える。
「心配ない。それよりよく見ておけ。あれが『マサルト最強』と言われた方の背中だ」
その後、たったひとりの男に指揮官を討たれた蛮族達は、一晩で壊滅状態に追い込まれる。
言葉通り朝には居なくなったロレンツを頭に思い浮かべた部隊長が自陣で深く頭を下げ、マサルト第三歩兵部は無事撤退を成し遂げた。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
異世界の物流は俺に任せろ
北きつね
ファンタジー
俺は、大木靖(おおきやすし)。
趣味は、”ドライブ!”だと、言っている。
隠れた趣味として、ラノベを読むが好きだ。それも、アニメやコミカライズされるような有名な物ではなく、書籍化未満の作品を読むのが好きだ。
職業は、トラックの運転手をしてる。この業界では珍しい”フリー”でやっている。電話一本で全国を飛び回っている。愛車のトラクタと、道路さえ繋がっていれば、どんな所にも出向いた。魔改造したトラクタで、トレーラを引っ張って、いろんな物を運んだ。ラッピングトレーラで、都内を走った事もある。
道?と思われる場所も走った事がある。
今後ろに積んでいる荷物は、よく見かける”グリフォン”だ。今日は生きたまま運んで欲しいと言われている。
え?”グリフォン”なんて、どこに居るのかって?
そんな事、俺が知るわけがない。俺は依頼された荷物を、依頼された場所に、依頼された日時までに運ぶのが仕事だ。
日本に居た時には、つまらない法令なんて物があったが、今では、なんでも運べる。
え?”日本”じゃないのかって?
拠点にしているのは、バッケスホーフ王国にある。ユーラットという港町だ。そこから、10kmくらい山に向かえば、俺の拠点がある。拠点に行けば、トラックの整備ができるからな。整備だけじゃなくて、改造もできる。
え?バッケスホーフ王国なんて知らない?
そう言われてもな。俺も、そういう物だと受け入れているだけだからな。
え?地球じゃないのかって?
言っていなかったか?俺が今居るのは、異世界だぞ。
俺は、異世界のトラック運転手だ!
なぜか俺が知っているトレーラを製造できる。万能工房。ガソリンが無くならない謎の状況。なぜか使えるナビシステム。そして、なぜか読める異世界の文字。何故か通じる日本語!
故障したりしても、止めて休ませれば、新品同然に直ってくる親切設計。
俺が望んだ装備が実装され続ける不思議なトラクタ。必要な備品が補充される謎設定。
ご都合主義てんこ盛りの世界だ。
そんな相棒とともに、制限速度がなく、俺以外トラックなんて持っていない。
俺は、異世界=レールテを気ままに爆走する。
レールテの物流は俺に任せろ!
注)作者が楽しむ為に書いています。
作者はトラック運転手ではありません。描写・名称などおかしな所があると思います。ご容赦下さい。
誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第、直していきますが、更新はまとめてになると思います。
誤字脱字、表現がおかしいなどのご指摘はすごく嬉しいです。
アルファポリスで先行(数話)で公開していきます。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる