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第三章「聖女就任式」
33.ネガーベルの抗戦
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「パパぁーーーーっ、助けてーーーーっ!!!!!」
「ロレンツ、ロレンツ、どこにいるのよ!!! 私を守るって約束したでしょ!!!!」
(な、なんだ。これは……!?)
目の前で泣き叫ぶイコやアンナ。
真っ赤で得体の知れない大きな何かが容赦なくふたりを追い詰める。
(やめろっ、やめてくれ!!! ふたりは俺が、俺が守ると約束して……)
動かない体。
発せられない声。
その間にもふたりに確実に迫る恐怖。
(やめてくれえええええええ!!!!!!)
ガクッ
「え?」
ロレンツは体中汗だくになっているのに気付いた。息は荒く、心臓ははっきりとその存在が分かるほど鼓動している。
(夢……、幻なのか……?)
覆面バー。
周りはざわざわとお酒を飲む人達で溢れている。
(俺は酒を飲みながら眠ってたのか……?)
ロレンツは今見ていた夢を思い出す。
イコやアンナが何かに襲われる恐ろしい夢。
真っ赤で熱く、圧倒的な強さ。
ロレンツの手が震えた。
「イコ……、嬢ちゃん!!!!!」
ロレンツは酒代をカウンターに置くと、そのままバーを出て闇の中へと走るように消えて行った。
「うぐっ、はあ、はあ……」
破壊的な攻撃を受けうずくまる聖騎士団団長エルグ。突如現れた【赤き悪魔】レッドドラゴンはそんな彼に対して大きな口を開け、真っ赤な炎を漲らせる。
「はああああああっ!!!!!」
そこへその顎の下から副団長であるキャロルが渾身の突きを放つ。
ズンズンズンズンズン!!!!!
ボフッ、ドドオオオオオオン!!!!
大きな口を強引に閉じられたレッドドラゴン。そのまま口の中で充填された炎が爆発する。
「ギャガアアアアア!!!!!」
「きゃあ!!!」
エルグへの直撃は避けられたが、暴発により近くにいたキャロルが地面に叩きつけられる。反撃を受けたレッドドラゴンだが、それに臆することなくエルグに向かって再度突進する。
「聖剣……」
崩れた瓦礫の中からエルグが立ち上がり、剣を構える。
「一文字斬り!!!!」
ズン!!!
「ギャガアアアアアアア!!!!!」
エルグは手にした白銀の剣をレッドドラゴンに対し真横に切り裂いた。
強靭な皮膚を持ったレッドドラゴンだが、エルグの渾身の一撃に胸元をえぐるように斬られ悲痛の雄叫びを上げる。
「エ、エルグ様……」
床に倒れていたキャロルがレイピアを杖に立ち上がる。
「大丈夫か、キャロル!!」
そう声をかけるエルグもあばらを数本折られており、声を出すだけで全身に痛みが走る。キャロルが言う。
「あいつは、どこへ行ったの……?」
そしてふたりはその赤き悪魔を見て愕然とした。
「ぎゃあああ!!!」
「助けてくれ!!!!!」
攻撃を受け興奮したレッドドラゴンは、狂い乱れるように王城内を飛び回り建物にぶつかっては次々と破壊していた。
壊れた建物の中には泣き叫び、逃げ惑う貴族たち。中にはもうぐったりして動かなくなっている者もいる。平和だったネガーベル城。突然の魔物襲来に大パニックとなっていた。
「キャロル、行けるか?」
「大丈夫でーす!!!」
壊れた壁際に立ち、下を飛行するレッドドラゴンを見つめるエルグ。
突然の魔物襲来に城内の兵士も多く駆け付けているが、圧倒的破壊力で暴れる赤き悪魔に手も足も出ない状況だ。エルグが言う。
「行くぞっ!!!!」
騎士団長と副団長は剣とレイピアを持って赤き悪魔に向って飛び降りた。
「きゃああ!!!」
「アンナ様!!!」
暴れたレッドドラゴンは王城内にあるアンナの私室も半壊させていた。眺望が良い角の部屋。最も破壊されやすい場所にあったアンナの部屋はすぐにレッドドラゴンの被害を受けた。イコが叫ぶ。
「アンナ様、避難を!!!!」
「い、一緒に行くわよ!!!」
アンナは震えながらもイコを抱き上げ、壊れていないドアから避難を始める。
「ギャガアアアアアアア!!!!!」
しかし狂ったように暴れるレッドドラゴンが再びアンナの部屋に向かって飛来する。リリーが叫ぶ。
「アンナ様、早くお逃げを!!!!」
ドオオン!!!!
「ゴギャアアアアア!!!!」
その瞬間、エルグとキャロルが飛び降りながらレッドドラゴンの背中に攻撃する。上空からの不意打ちを受けたレッドドラゴンは雄叫びを上げながら地面へと叩きつけられた。リリーが叫ぶ。
「い、今のうちに避難しましょう!!!」
アンナはイコをしっかりと抱きかかえ王城の中を右へ左へと逃げ始める。
しかし至る所が破壊された王城。瓦礫を登りようやく外に出られたと安堵したアンナ達は、その光景を見て愕然とした。
「何よ、これ……」
そこは王城中庭。
広く可憐な花々が咲き誇るネガーベル城の中庭だが、崩れた瓦礫で埋め尽くされ、逃げ場を失った多くの貴族達がレッドドラゴンに震えながら蹲っている。
その先頭には騎士団長エルグと副団長キャロル。強力な攻撃を繰り出すレッドドラゴンの前に、エルグ達は防戦一方となっていた。
「こんな、こんなことって……」
逃げ場を断たれたアンナ達。
目の前には見たこともないような真っ赤な悪魔。先程から恐怖で泣いているイコをしっかり抱きしめ、アンナが思う。
(ロレンツ、助けて……)
アンナも泣きたくなる衝動を必死に抑えながら目の前の悪魔に意識を集中した。
ネガーベル王国の北にあるミスガリア王国。
高山の要所に建てられたミスガリア王城の謁見の間にいた国王に、ひとりの兵士が報告に上がった。
「国王、申し上げます。無事にレッドドラゴンを召喚。目的に聖騎士団団長エルグを設定完了したとのことです」
国王は頷きながら尋ねる。
「うむ。こちらの被害は?」
「はっ。召喚した赤の魔導士達は全滅しました」
「……」
召喚された魔物は召喚者を喰らう。
古の書物に書かれていたことは本当であった。国王は厳しい顔をして皆に言った。
「エルグを討った後、あの赤き悪魔はどこへ行くかは分からぬ。ここミスガリアへ飛来し、破壊をもたらすかもしれぬ。皆の者、すぐに最大級の警戒態勢を取れ!!!」
「ははっ!!!」
その場にいた軍関係の責任者が散開する。国王は窓の外の空を見て思う。
(赤で倒せるだろうか。それで駄目なら本格的に黒を進めねばならぬか……)
国王は赤き悪魔で無事にエルグを討ち取って欲しいと心から願った。
「はあ、はあ、はあ……」
ネガーベル王城に現れたレッドドラゴンは王城を破壊しながらエルグと長時間戦い続けている。既に日は傾き辺りは暗くなっていた。
エルグにキャロル、その他騎士隊や魔導隊によって反撃を続けていたネガーベルであったが、積み重なる死傷者にそれぞれの体力の限界も近付いていた。
だがエルグはネガーベル最強の誇りを胸に、欠けた剣で何度もレッドドラゴンに立ち向かう。
「はああああああ!!!!!」
もはや立っているだけでも不思議じゃないエルグ。
キャロルは既に疲労と怪我で動けなくなっている。後方で見ている貴族達も涙を流しながら迫り来る自分達の死に恐怖した。
ドン!!!
「ぐわああああ!!!!」
何度目だろうか。
レッドドラゴンの太い尾がエルグの真横に直撃する。
「エルグ!!!」
アンナはレッドドラゴンに吹き飛ばされて目の前にやって来た騎士団長に声をかける。
「ひ、酷い……」
全身血塗れで着ている服もボロボロ。
顔は腫れ上がり、あのイケメンで爽やかなエルグの面影はもうない。
(私が聖女ならば、治癒の魔法が使えれば……)
アンナは何もできない自分の無力さに怒りすら感じる。
「ギャガアアアアアアア!!!!」
エルグと一緒に居たアンナに、レッドドラゴンが大きな雄叫びを上げる。そして振り上げられる大きくて鋭利な爪。
「アンナ様ああ!!!!」
後ろでイコを抱きしめていたリリーが叫ぶ。
エルグはもはや精魂尽きぐったりしており動けない。アンナは恐怖で止まらない涙をぼろぼろと流しながら、ついにその名を大声で叫んだ。
「ロレンツーーーーーーっ!!!!!」
シュン!!!!
その瞬間、レッドドラゴンの目の前を漆黒の風が吹き抜けた。
ドン!!!!
「グギャアアアアアア!!!!!」
絶叫と共に血を噴き上げながら床に落ちる赤き悪魔の腕。大きくて鋭い爪が血に染まって行く。
「ロレンツ……」
アンナは目を真っ赤にしながらその漆黒の剣を持ち、鬼の形相で立つ男の名を口にした。ロレンツが剣を振り上げ叫びながら突進する。
「許さねえぞおおお、貴様っ!!!!!」
その姿は後世、皆を恐怖させた【赤き悪魔】よりも、更に恐るべき姿として語り継がれることとなる。
「ロレンツ、ロレンツ、どこにいるのよ!!! 私を守るって約束したでしょ!!!!」
(な、なんだ。これは……!?)
目の前で泣き叫ぶイコやアンナ。
真っ赤で得体の知れない大きな何かが容赦なくふたりを追い詰める。
(やめろっ、やめてくれ!!! ふたりは俺が、俺が守ると約束して……)
動かない体。
発せられない声。
その間にもふたりに確実に迫る恐怖。
(やめてくれえええええええ!!!!!!)
ガクッ
「え?」
ロレンツは体中汗だくになっているのに気付いた。息は荒く、心臓ははっきりとその存在が分かるほど鼓動している。
(夢……、幻なのか……?)
覆面バー。
周りはざわざわとお酒を飲む人達で溢れている。
(俺は酒を飲みながら眠ってたのか……?)
ロレンツは今見ていた夢を思い出す。
イコやアンナが何かに襲われる恐ろしい夢。
真っ赤で熱く、圧倒的な強さ。
ロレンツの手が震えた。
「イコ……、嬢ちゃん!!!!!」
ロレンツは酒代をカウンターに置くと、そのままバーを出て闇の中へと走るように消えて行った。
「うぐっ、はあ、はあ……」
破壊的な攻撃を受けうずくまる聖騎士団団長エルグ。突如現れた【赤き悪魔】レッドドラゴンはそんな彼に対して大きな口を開け、真っ赤な炎を漲らせる。
「はああああああっ!!!!!」
そこへその顎の下から副団長であるキャロルが渾身の突きを放つ。
ズンズンズンズンズン!!!!!
ボフッ、ドドオオオオオオン!!!!
大きな口を強引に閉じられたレッドドラゴン。そのまま口の中で充填された炎が爆発する。
「ギャガアアアアア!!!!!」
「きゃあ!!!」
エルグへの直撃は避けられたが、暴発により近くにいたキャロルが地面に叩きつけられる。反撃を受けたレッドドラゴンだが、それに臆することなくエルグに向かって再度突進する。
「聖剣……」
崩れた瓦礫の中からエルグが立ち上がり、剣を構える。
「一文字斬り!!!!」
ズン!!!
「ギャガアアアアアアア!!!!!」
エルグは手にした白銀の剣をレッドドラゴンに対し真横に切り裂いた。
強靭な皮膚を持ったレッドドラゴンだが、エルグの渾身の一撃に胸元をえぐるように斬られ悲痛の雄叫びを上げる。
「エ、エルグ様……」
床に倒れていたキャロルがレイピアを杖に立ち上がる。
「大丈夫か、キャロル!!」
そう声をかけるエルグもあばらを数本折られており、声を出すだけで全身に痛みが走る。キャロルが言う。
「あいつは、どこへ行ったの……?」
そしてふたりはその赤き悪魔を見て愕然とした。
「ぎゃあああ!!!」
「助けてくれ!!!!!」
攻撃を受け興奮したレッドドラゴンは、狂い乱れるように王城内を飛び回り建物にぶつかっては次々と破壊していた。
壊れた建物の中には泣き叫び、逃げ惑う貴族たち。中にはもうぐったりして動かなくなっている者もいる。平和だったネガーベル城。突然の魔物襲来に大パニックとなっていた。
「キャロル、行けるか?」
「大丈夫でーす!!!」
壊れた壁際に立ち、下を飛行するレッドドラゴンを見つめるエルグ。
突然の魔物襲来に城内の兵士も多く駆け付けているが、圧倒的破壊力で暴れる赤き悪魔に手も足も出ない状況だ。エルグが言う。
「行くぞっ!!!!」
騎士団長と副団長は剣とレイピアを持って赤き悪魔に向って飛び降りた。
「きゃああ!!!」
「アンナ様!!!」
暴れたレッドドラゴンは王城内にあるアンナの私室も半壊させていた。眺望が良い角の部屋。最も破壊されやすい場所にあったアンナの部屋はすぐにレッドドラゴンの被害を受けた。イコが叫ぶ。
「アンナ様、避難を!!!!」
「い、一緒に行くわよ!!!」
アンナは震えながらもイコを抱き上げ、壊れていないドアから避難を始める。
「ギャガアアアアアアア!!!!!」
しかし狂ったように暴れるレッドドラゴンが再びアンナの部屋に向かって飛来する。リリーが叫ぶ。
「アンナ様、早くお逃げを!!!!」
ドオオン!!!!
「ゴギャアアアアア!!!!」
その瞬間、エルグとキャロルが飛び降りながらレッドドラゴンの背中に攻撃する。上空からの不意打ちを受けたレッドドラゴンは雄叫びを上げながら地面へと叩きつけられた。リリーが叫ぶ。
「い、今のうちに避難しましょう!!!」
アンナはイコをしっかりと抱きかかえ王城の中を右へ左へと逃げ始める。
しかし至る所が破壊された王城。瓦礫を登りようやく外に出られたと安堵したアンナ達は、その光景を見て愕然とした。
「何よ、これ……」
そこは王城中庭。
広く可憐な花々が咲き誇るネガーベル城の中庭だが、崩れた瓦礫で埋め尽くされ、逃げ場を失った多くの貴族達がレッドドラゴンに震えながら蹲っている。
その先頭には騎士団長エルグと副団長キャロル。強力な攻撃を繰り出すレッドドラゴンの前に、エルグ達は防戦一方となっていた。
「こんな、こんなことって……」
逃げ場を断たれたアンナ達。
目の前には見たこともないような真っ赤な悪魔。先程から恐怖で泣いているイコをしっかり抱きしめ、アンナが思う。
(ロレンツ、助けて……)
アンナも泣きたくなる衝動を必死に抑えながら目の前の悪魔に意識を集中した。
ネガーベル王国の北にあるミスガリア王国。
高山の要所に建てられたミスガリア王城の謁見の間にいた国王に、ひとりの兵士が報告に上がった。
「国王、申し上げます。無事にレッドドラゴンを召喚。目的に聖騎士団団長エルグを設定完了したとのことです」
国王は頷きながら尋ねる。
「うむ。こちらの被害は?」
「はっ。召喚した赤の魔導士達は全滅しました」
「……」
召喚された魔物は召喚者を喰らう。
古の書物に書かれていたことは本当であった。国王は厳しい顔をして皆に言った。
「エルグを討った後、あの赤き悪魔はどこへ行くかは分からぬ。ここミスガリアへ飛来し、破壊をもたらすかもしれぬ。皆の者、すぐに最大級の警戒態勢を取れ!!!」
「ははっ!!!」
その場にいた軍関係の責任者が散開する。国王は窓の外の空を見て思う。
(赤で倒せるだろうか。それで駄目なら本格的に黒を進めねばならぬか……)
国王は赤き悪魔で無事にエルグを討ち取って欲しいと心から願った。
「はあ、はあ、はあ……」
ネガーベル王城に現れたレッドドラゴンは王城を破壊しながらエルグと長時間戦い続けている。既に日は傾き辺りは暗くなっていた。
エルグにキャロル、その他騎士隊や魔導隊によって反撃を続けていたネガーベルであったが、積み重なる死傷者にそれぞれの体力の限界も近付いていた。
だがエルグはネガーベル最強の誇りを胸に、欠けた剣で何度もレッドドラゴンに立ち向かう。
「はああああああ!!!!!」
もはや立っているだけでも不思議じゃないエルグ。
キャロルは既に疲労と怪我で動けなくなっている。後方で見ている貴族達も涙を流しながら迫り来る自分達の死に恐怖した。
ドン!!!
「ぐわああああ!!!!」
何度目だろうか。
レッドドラゴンの太い尾がエルグの真横に直撃する。
「エルグ!!!」
アンナはレッドドラゴンに吹き飛ばされて目の前にやって来た騎士団長に声をかける。
「ひ、酷い……」
全身血塗れで着ている服もボロボロ。
顔は腫れ上がり、あのイケメンで爽やかなエルグの面影はもうない。
(私が聖女ならば、治癒の魔法が使えれば……)
アンナは何もできない自分の無力さに怒りすら感じる。
「ギャガアアアアアアア!!!!」
エルグと一緒に居たアンナに、レッドドラゴンが大きな雄叫びを上げる。そして振り上げられる大きくて鋭利な爪。
「アンナ様ああ!!!!」
後ろでイコを抱きしめていたリリーが叫ぶ。
エルグはもはや精魂尽きぐったりしており動けない。アンナは恐怖で止まらない涙をぼろぼろと流しながら、ついにその名を大声で叫んだ。
「ロレンツーーーーーーっ!!!!!」
シュン!!!!
その瞬間、レッドドラゴンの目の前を漆黒の風が吹き抜けた。
ドン!!!!
「グギャアアアアアア!!!!!」
絶叫と共に血を噴き上げながら床に落ちる赤き悪魔の腕。大きくて鋭い爪が血に染まって行く。
「ロレンツ……」
アンナは目を真っ赤にしながらその漆黒の剣を持ち、鬼の形相で立つ男の名を口にした。ロレンツが剣を振り上げ叫びながら突進する。
「許さねえぞおおお、貴様っ!!!!!」
その姿は後世、皆を恐怖させた【赤き悪魔】よりも、更に恐るべき姿として語り継がれることとなる。
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