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第一章「氷姫が出会った男」
6.似合ってる。
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(むかっ!! むかむかっ!!!)
アンナは中立都市『ルルカカ』にある帽子店で、両手に帽子を持ちながらひとり苛ついていた。無論その原因は銀髪の男ロレンツである。
学校へ行くイコを見送ってから街へやって来たアンナとロレンツ。
アンナは『ルルカカ』に行くにあたり庶民的な服を着て変装しているが、さすがに一国の姫が白昼堂々顔を出して歩くわけにはいかない。
「帽子を買いたいのだけど、いいかしら」
「……ああ」
武骨なロレンツの返事。
嫌なのか面倒なのか分からない。ただ『あまり関心がない』ことだけはアンナにもよく分かった。
「あのお店に入るわよ。来て」
少しむっとしながらロレンツと一緒に通りにある帽子店に入る。
(私のこと綺麗とか言っていたし、さすがにその女の子が色々帽子を選ぶんだから、一緒に選んでくれるわよね?)
淡い期待をもって店内に入ったアンナは、数秒でそれが空しい希望であったことを思い知らされる。
「ふわ~あ……」
ロレンツにとっては退屈この上ない帽子店。
入店早々壁にもたれて腕を組んだまま動かなくなり、つまらない光景に何度もあくびを始めた。
(むかっ、むかむかっ!!!)
一緒に入店したのに帽子を選ぶのはアンナだけ。
特に恋人同士でもないので彼が何をしてようと問題なく、逆に自分の買い物に付き合って貰っているアンナこそ感謝すべきだろうが、やはり感情的にはそうはいかない。
(ちょっとぐらい一緒に選んでくれてもいいじゃない!!)
全く話もして貰えないアンナが手にした帽子を持ちロレンツの元へ行く。
「ねえ」
「……ん?」
顔を上げるロレンツ。早く行くぞ、と言わんばかりの表情のロレンツにアンナの怒りが増長する。
「これ、似合うかしら?」
「ああ……」
帽子をかぶって見せたアンナに答えるロレンツ。更に別の帽子を手に取り頭に乗せ尋ねる。
「こっちの方がいいかしら?」
「ああ……」
(むかっ、むかむかむかっ!!!!)
そっけない返事についにアンナの堪忍の緒が切れる。
「ちょっと、なによその返事っ!!」
大きな声を出したアンナにロレンツが腕組みをしたまま答える。
「決まったのか。行くぞ」
(むかーーーーーっ!!!)
碌に見もせずにそう答えるロレンツにアンナが大きな声で言う。
「ちょっとぐらい選んでくれてもいいでしょ!! せっかく一緒に来て……」
「それがいい。それが似合ってる」
(え?)
アンナは赤い帽子を手にしたまま固まる。そして小さな声で尋ねる。
「え? 今なんて……?」
「それが似合ってるって言ったんだ。さ、行くぞ」
「あ、う、うん……」
アンナは真っ赤になってしまった顔を隠すようにカウンターへ行き料金を支払う。そして手にした赤い帽子を見て思う。
(これが似合うんだ……、うふっ)
金色の長い髪に赤の帽子が良く映える。意外と趣味の良いロレンツに驚きながら、帽子をかぶったアンナが外で待っていた彼に言う。
「ど、どうかな? 似合ってる……?」
少し上目遣いで頬を赤くし尋ねるアンナ。選んでくれたんだし、これで少しは自分に興味を持ってくれるかと期待してロレンツを見つめる。
「ああ」
そうぶっきらぼうに返事をして歩き出すロレンツ。
アンナはもう怒る気力もなくなり、ため息をつきながら彼の後へとついて歩き出した。
(私のこと『綺麗』とか言っておきながら、全然興味ないじゃん……、ぶつぶつ……)
中立都市『ルルカカ』。
戦時中でも物流は絶えることなく、各地方から様々な品や人が集まる。異文化、異種族、身分の低いものから貴族まで様々な物や人が常に集まるのがこの街だ。
(本当にたくさんの人。お店もいっぱいあるし……)
アンナは夜の街、覆面バーぐらいしかしらない『ルルカカ』の昼の顔に驚く。ロレンツが一緒に歩いてくれているから良いが、ひとりで歩くには少し人が多すぎて危険だ。
アンナは初めて『ルルカカ』に来た時の興奮や冒険心と言ったものは既になくなり、いつの間にかその男の隣に歩くことに安心感を覚えていた。
(こ、こうやってふたりで買い物したりして街を歩いていると、なんだかまるでデート見たいよね……)
アンナは客観的に今の自分達を見て思う。
一方で覆面バーに来たってことは素性を知られたくないという意味でもある。冒険者と言うことは分かったけど、それ以上こちらかは聞けない。
「あれ、お前ロレンツじゃねえか?」
そんなふたりの前にひとりの目つきの悪い男が現れた。ロレンツが言う。
「ゴードン歩兵団長……」
(歩兵団長?)
アンナがその言葉を頭の中で繰り返す。彼はロレンツのマサルト王国時代の元上官であり、ロレンツが嫌う『腐った軍部』の象徴的な人間でもある。ゴードンが馬鹿にした笑みを浮かべて言う。
「ほぉ~、軍を首になって何してるかと思ったら、こんな所で生きてやがったのか」
「……」
黙ってそれを聞くロレンツ。
「お前、冒険者やってるのか? 馬鹿なお前にはぴったりの仕事だな。がはははっ!!」
この時代、冒険者というのは決して誇れる職業ではなかった。
戦争時の傭兵として、時には貴族や豪商人などの表立ってできない仕事の手伝いなど、他人に胸を張って言える職業ではない。国のために働く華やかな軍人とは対照的だった。
「あなたなんなの!? 失礼にも程があるでしょ!!!」
黙り込むロレンツをよそに、隣にいたアンナは怒りの表情を浮かべてゴードンに言った。いきなり現れて馬鹿にする。そんな失礼な相手に我慢ならなかった。ゴードンがアンナを舐めまわすような目で見ながら言う。
「なんだ、その女? 娼婦か? 下賤な冒険者にはぴったりだな。ぎゃはははっ!!!」
その言葉を聞いたロレンツがギッっとゴードンを睨みつけて言った。
「無礼なっ、許さねえぞっ!!!」
アンナ同様、一緒にいる連れを貶されることは我慢ならない。ロレンツの右手が無意識に斜め下に下ろされた。
アンナは中立都市『ルルカカ』にある帽子店で、両手に帽子を持ちながらひとり苛ついていた。無論その原因は銀髪の男ロレンツである。
学校へ行くイコを見送ってから街へやって来たアンナとロレンツ。
アンナは『ルルカカ』に行くにあたり庶民的な服を着て変装しているが、さすがに一国の姫が白昼堂々顔を出して歩くわけにはいかない。
「帽子を買いたいのだけど、いいかしら」
「……ああ」
武骨なロレンツの返事。
嫌なのか面倒なのか分からない。ただ『あまり関心がない』ことだけはアンナにもよく分かった。
「あのお店に入るわよ。来て」
少しむっとしながらロレンツと一緒に通りにある帽子店に入る。
(私のこと綺麗とか言っていたし、さすがにその女の子が色々帽子を選ぶんだから、一緒に選んでくれるわよね?)
淡い期待をもって店内に入ったアンナは、数秒でそれが空しい希望であったことを思い知らされる。
「ふわ~あ……」
ロレンツにとっては退屈この上ない帽子店。
入店早々壁にもたれて腕を組んだまま動かなくなり、つまらない光景に何度もあくびを始めた。
(むかっ、むかむかっ!!!)
一緒に入店したのに帽子を選ぶのはアンナだけ。
特に恋人同士でもないので彼が何をしてようと問題なく、逆に自分の買い物に付き合って貰っているアンナこそ感謝すべきだろうが、やはり感情的にはそうはいかない。
(ちょっとぐらい一緒に選んでくれてもいいじゃない!!)
全く話もして貰えないアンナが手にした帽子を持ちロレンツの元へ行く。
「ねえ」
「……ん?」
顔を上げるロレンツ。早く行くぞ、と言わんばかりの表情のロレンツにアンナの怒りが増長する。
「これ、似合うかしら?」
「ああ……」
帽子をかぶって見せたアンナに答えるロレンツ。更に別の帽子を手に取り頭に乗せ尋ねる。
「こっちの方がいいかしら?」
「ああ……」
(むかっ、むかむかむかっ!!!!)
そっけない返事についにアンナの堪忍の緒が切れる。
「ちょっと、なによその返事っ!!」
大きな声を出したアンナにロレンツが腕組みをしたまま答える。
「決まったのか。行くぞ」
(むかーーーーーっ!!!)
碌に見もせずにそう答えるロレンツにアンナが大きな声で言う。
「ちょっとぐらい選んでくれてもいいでしょ!! せっかく一緒に来て……」
「それがいい。それが似合ってる」
(え?)
アンナは赤い帽子を手にしたまま固まる。そして小さな声で尋ねる。
「え? 今なんて……?」
「それが似合ってるって言ったんだ。さ、行くぞ」
「あ、う、うん……」
アンナは真っ赤になってしまった顔を隠すようにカウンターへ行き料金を支払う。そして手にした赤い帽子を見て思う。
(これが似合うんだ……、うふっ)
金色の長い髪に赤の帽子が良く映える。意外と趣味の良いロレンツに驚きながら、帽子をかぶったアンナが外で待っていた彼に言う。
「ど、どうかな? 似合ってる……?」
少し上目遣いで頬を赤くし尋ねるアンナ。選んでくれたんだし、これで少しは自分に興味を持ってくれるかと期待してロレンツを見つめる。
「ああ」
そうぶっきらぼうに返事をして歩き出すロレンツ。
アンナはもう怒る気力もなくなり、ため息をつきながら彼の後へとついて歩き出した。
(私のこと『綺麗』とか言っておきながら、全然興味ないじゃん……、ぶつぶつ……)
中立都市『ルルカカ』。
戦時中でも物流は絶えることなく、各地方から様々な品や人が集まる。異文化、異種族、身分の低いものから貴族まで様々な物や人が常に集まるのがこの街だ。
(本当にたくさんの人。お店もいっぱいあるし……)
アンナは夜の街、覆面バーぐらいしかしらない『ルルカカ』の昼の顔に驚く。ロレンツが一緒に歩いてくれているから良いが、ひとりで歩くには少し人が多すぎて危険だ。
アンナは初めて『ルルカカ』に来た時の興奮や冒険心と言ったものは既になくなり、いつの間にかその男の隣に歩くことに安心感を覚えていた。
(こ、こうやってふたりで買い物したりして街を歩いていると、なんだかまるでデート見たいよね……)
アンナは客観的に今の自分達を見て思う。
一方で覆面バーに来たってことは素性を知られたくないという意味でもある。冒険者と言うことは分かったけど、それ以上こちらかは聞けない。
「あれ、お前ロレンツじゃねえか?」
そんなふたりの前にひとりの目つきの悪い男が現れた。ロレンツが言う。
「ゴードン歩兵団長……」
(歩兵団長?)
アンナがその言葉を頭の中で繰り返す。彼はロレンツのマサルト王国時代の元上官であり、ロレンツが嫌う『腐った軍部』の象徴的な人間でもある。ゴードンが馬鹿にした笑みを浮かべて言う。
「ほぉ~、軍を首になって何してるかと思ったら、こんな所で生きてやがったのか」
「……」
黙ってそれを聞くロレンツ。
「お前、冒険者やってるのか? 馬鹿なお前にはぴったりの仕事だな。がはははっ!!」
この時代、冒険者というのは決して誇れる職業ではなかった。
戦争時の傭兵として、時には貴族や豪商人などの表立ってできない仕事の手伝いなど、他人に胸を張って言える職業ではない。国のために働く華やかな軍人とは対照的だった。
「あなたなんなの!? 失礼にも程があるでしょ!!!」
黙り込むロレンツをよそに、隣にいたアンナは怒りの表情を浮かべてゴードンに言った。いきなり現れて馬鹿にする。そんな失礼な相手に我慢ならなかった。ゴードンがアンナを舐めまわすような目で見ながら言う。
「なんだ、その女? 娼婦か? 下賤な冒険者にはぴったりだな。ぎゃはははっ!!!」
その言葉を聞いたロレンツがギッっとゴードンを睨みつけて言った。
「無礼なっ、許さねえぞっ!!!」
アンナ同様、一緒にいる連れを貶されることは我慢ならない。ロレンツの右手が無意識に斜め下に下ろされた。
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