小学生の時にかけた恋のおまじないが、さっき発動しました。

サイトウ純蒼

文字の大きさ
上 下
57 / 58
第六章「タケルの恋まじない。」

57.アヒル、バレる!?

しおりを挟む
「ん? 中島からのメッセージ……」

 クリスマスの朝。ベッドから起きたタケルが携帯を見ると、友人の中島からのメッセージが届いていることに気付いた。


『今日のお昼、時間ある? 大切な話があるんだ』

 そして待ち合わせの時間と大学の近くにあるカフェのアドレスが張り付けてあった。


「大事な話? 何だろう……」

 優花との約束は夕方から。大学も休みに入っているし、昼なら問題ないだろう。タケルはベッドから起き上がると朝食に向かった。




「ええっと、ああ、あそこか」

 お昼、どんよりと曇った街を歩くタケル。今日の天気予報は夕方から雪となっていたが、分厚く黒い雲を見ていると今すぐにでも降ってきそうだ。タケルは中島に指示されたカフェへと入る。


「いらっしゃいませ」

 外の凍るような空気とは違い、中はほんのり暖かい。年の瀬のカフェ。色々な層のお客で賑わっている。


「ええっと……」

 店内を見回したタケルの目に、立ち上がって手を振る中島の姿が映った。タケルが移動する。


「えっ……」

 そこには中島の元カノである加賀美理子が向かい合わせにソファーに座っていた。タケルに気付いた理子が自分の横のソファーを軽く叩いて言う。


「一条先輩、ここ。ここに座って下さい!」

「え、あ、ああ。じゃあ……」

 状況が理解できないままタケルが理子の横へ座る。真正面には中島。さらにいつもと違い密接して座る理子に違和感を覚える。タケルが言う。


「な、なあ、大切な話って何だよ」

 タケルが前に座った中島に尋ねる。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

 そこへカフェの店員がやって来る。タケルはコーヒーを頼むと中島の答えを待つ。


「私が答えます。一条先輩」

 話そうとしない中島に代わり、隣に座った理子が言った。
 ボブカットに赤色のメガネ。大きな胸を強調するような薄手のニットに思わずタケルの目が行く。


「やっぱり先輩だったんですね。さん」


「え?」

 固まった。
 タケルは理子の言葉を聞き体が固まった。中島はテーブルに置かれたコーヒーを見つめたままじっと動かない。


「え、理子、ちゃん……?」

 驚くタケルに理子が言う。


「写真が上がったんです、私のSNSに」

「写真?」

 理子は頷くとスマホを開き、その写真を見せた。


(げっ!)

 それはハロウィンのコスをした記念写真。ポーズを決めて映る女性の後ろに、アヒルの着ぐるみを着た人物がメイド服の女の子と一緒に走っている。そして拡大されたそのメイドの女の子、それは間違いなく桐島優花であった。


「これ、桐島先輩ですよね? となるとどう考えてもこのアヒルさん、先輩になるんですよ」

 タケルが顔を青くして答える。

「い、いや、だからってそれが俺って証拠は……」


「ごめん、一条君。僕が話した」


「は?」

 何とか誤魔化そうとしていたタケルに中島が最後の砦を壊す言葉を投げ入れた。中島が言う。


「だって、もう隠しきれないよ。これだけ証拠を掴まれたら」

「い、いやだからって……」

 心底困った顔をするタケルに隣に座った理子が言う。


「やっぱり……、先輩だったんですね」

 理子が更に体をタケルに密着させ、潤んだ瞳で見上げるようにして言う。


(ううっ、可愛い……)

 中島の彼女。
 理子は友人の彼女であり、決してそう言った目で見たことが無かったタケルだが初めて理子をとして見てしまった。理子が肩までに切られた髪を耳にかき上げてから言う。


「私、本当にあの時怖くて……、震えて動けなくなっちゃたんです……」

 思い出すハロウィンの夜。中島が間違えてチンピラ達を挑発するような行為をした夜。
 タケルは優花と一緒に夢中になって作戦遂行のために頑張ったのだが、結果『アヒルがチンピラを投げ飛ばす』と言う訳の分からない結果に終わってしまった。タケルが困った顔をして言う。


「いや、あれは何とか理子ちゃんに振り向いて貰おうとして、一生懸命考えて……、ごめん……」

「理子ちゃんそうなんだよ。一条君達は悪くないんだよ。つまらない計画だったことは認めるよ……」

 中島も改めて理子に謝罪し、頭を下げる。理子はタケルをじっと見つめ、そして少し甘えた声で尋ねる。


「本当に、本気だったんですか……?」

 少し雰囲気の違う理子に一瞬戸惑いながらもタケルははっきりと答える。


「ああ、もちろん。本気だった。今思えばあんな姑息な手を使わずに、堂々と伝えるべきだったと思うよ」

 つまらない計画を実行したばかりに、結果この様なこじれた結末になってしまったことを少なからず後悔していたタケル。その言葉に嘘偽りはなかった。理子が下を向いて恥ずかしそうに言う。


「そんな変な作戦、立てなくても良かったのに……」

(ん?)

 その言葉の意味が分からないタケルが隣の理子を見つめる。理子は顔を上げてタケルに言った。


なら、そんなことしなくても全然OKだったのに……」


「え?」

 タケルの目が点になる。それ以上に慌てた中島が理子に尋ねる。


「り、理子ちゃん。それってどういう意味で……」

 理子はそんな中島の方を見向きもせずに、隣に座ったタケルの手を握って言った。


「私のヒーローの一条先輩。あんなカッコいい姿見せられて、私、ずっとずっと探していたんです。先輩もそんなに私のことを想っていてくれたのなら、私はもちろんお応え致します。で、もちろん別れてくれますよね? 桐島先輩と」

「……」

 目の前にいる女の子の言葉が理解できない。
 何か別の星の言葉のようにすら聞こえる。しかし少しずつタケルがその意味を理解し始める。


(え、理子ちゃんは俺をずっと探していて、それはお礼を言うとかじゃなくて憧れで……、中島とのよりを戻すための作戦だったはずなのに、ええっと、間違って『俺が落とすための作戦』になってしまってことか!?)

 状況を理解したタケルの顔が青くなる。中島が言う。


「え、ええ!? なに、なんでそうなるの!!??」

 慌てる中島をガン無視する理子がタケルに言う。


「私、桐島先輩ほど可愛くはないんですけど、胸にはちょっと自信があって、一緒にお風呂に入った友達からも『綺麗』とか『形がいい』とか言われて。あと男の人ともお付き合いしたことなくて、先輩が『初めての人』なんです……」


「り、理子ちゃん……」

 目の前にいるの中島の顔が真っ白になる。まるで精魂が抜けた後の抜け殻のように灰色がかっている。


(むちゃくちゃだ……、ダメだこの子。想像を超えて壊れている……)

 タケルは目の前で恥ずかしそうにこちらを見つめる女の子に恐怖した。まともに構っていたら危ない。男としての本能がそう告げている。タケルが立ち上がっている。


「ごめん、ふたりとも。この後優花とデートなんだ。じゃあ!」


「ちょ、ちょっと一条君!?」

 この状態でタケルが居なくなったらと恐怖した中島が情けない声で言う。

「一条先輩!! 桐島先輩と別れてくれるんですね!!!」


「それは無理っ!! じゃあ!!」

 タケルはカフェから逃げるようにして走り出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放課後はネットで待ち合わせ

星名柚花(恋愛小説大賞参加中)
青春
【カクヨム×魔法のiらんどコンテスト特別賞受賞作】 高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。 何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。 翌日、萌はルビーと出会う。 女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。 彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。 初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?

何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。 しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

おてんばプロレスの女神たち ~男子で、女子大生で、女子プロレスラーのジュリーという生き方~

ちひろ
青春
 おてんば女子大学初の“男子の女子大生”ジュリー。憧れの大学生活では想定外のジレンマを抱えながらも、涼子先輩が立ち上げた女子プロレスごっこ団体・おてんばプロレスで開花し、地元のプロレスファン(特にオッさん連中!)をとりこに。青春派プロレスノベル「おてんばプロレスの女神たち」のアナザーストーリー。

勿忘草~尚也side~

古紫汐桜
青春
俺の世界は……ずっとみちるだけだった ある日突然、みちるの前から姿を消した尚也 尚也sideの物語

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...