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第六章「タケルの恋まじない。」
55.CM撮影会!!
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「そう、うん、そうなんだ……、ふふふっ……」
佐倉このみは自宅に届いた新しい本、『恋成就必須!! 必ず叶う恋まじない100』と言う本を見ながらひとり笑みを浮かべた。
「今はこんなおまじないもあるんだ。いいね……」
そのたくさんある眉唾物のおまじないからひとつを選び出し、しおりを挟む。
「私は諦めないわよ。一条君。必ずあなたを振り向かせてみせるから」
このみは赤いツインテールにそっと手をやり新しいおまじないを見つめた。
「じゃあ、スタート!!」
聡明館大学から少し離れた街中にある撮影スタジオ。
そこに来期のCM撮影のために集まった関係者が、息を殺して主役のふたりを見つめた。
「そうか!!」
上半身裸のタケル。もちろん撮影は水着。
真冬なのにこの撮影のために暖房をガンガン効かしているので、タケル達以外は上着を脱ぎ薄手の服となっている。タケルの言葉に同じく水着の優花が振り返って笑顔で言う。
「そうだよ!!!」
ふたりは緑色の無地のスクリーンの上で演技を行う。優花の声にタケルも合わせてふたりならんでぐっと拳を握り最後の締めの言葉を言う。
「総館大!!!」
「総きゃん大っ!!!」
「ストーーーーーップ!!!!」
タケルは今日何度目か分からないミスに再びため息をついてがっくりした。優花が怒った顔で言う。
「もー、何よぉ、総きゃん大って!!!」
「ご、ごめん。やっぱ慣れなくて……」
最初はNGを連発するタケルにギスギスした空気だった現場も、笑ってしまうようなミスをする彼に今は和やかなムードで撮影が行われている。
「暖房が効いていても寒いんだから、ちゃんとやってよ!!」
「あ、はい……」
スタッフも相手は素人の学生。通常は厳しい指導などもするのだが今日に限っては優しく、逆にその叱る役目を優花がしてくれている。撮影監督がカメラを指示し、再度撮り直しが行われる。
「スタート!!!」
位置に着いたタケルと優花が演技を始める。
「そうか!!」
「そうだよ!!!」
ふたりがポーズを決めて言う。
「「総館大っ!!!!」」
「オッケー!!!」
監督のその声で張りつめていた空気が一瞬で和む。そしてスタッフの間から起こる拍手。優花とタケルはすぐに上着を着てスタッフから労われる。
「お疲れ様、疲れたでしょ?」
そう撮影スタッフに言われた優花が笑顔で答える。
「いえ、楽しかったです!!」
それは優花の本心。
結城との撮影なら意地でも行かないつもりだったが、大好きなタケルとの撮影だったためか想像以上に楽しかった。水着もコスプレだと思えば意外と何ともない。そのスタッフがタケルにも声をかける。
「一条さんはこれから別カットの撮影ですね。休憩後、準備をお願いしますね」
「あ、はい……」
別カット。それはもちろん柔道のシーン。
あまり気乗りはしなかったが優花の強い勧めもあって渋々受け入れた。
「うーーーっす!!」
その時スタジオに耳覆いたくなるような大きな声が響いた。大きな体に角刈り、そして柔道着を着込んだ総館大柔道部主将、五里が意気揚々と現れた。スタッフが言う。
「ああ、ええっと、ゴリさんでしたね。お待ちしていました」
「いやいや、この俺を撮影に使うなど、監督もなかなか目が良いですなあ。はははっ」
一体どこからその自信が出てくるのかと不思議になる。優花が挨拶をする。
「あ、あの、こんにちは。ゴリさん」
五里は優花の姿、色っぽいビキニに上着を着ただけの姿を見て鼻の下を伸ばして言う。
「これはこれはミスコングランプリの桐島じゃねえか。いやいや、まさかこんな美人と共演できるとはな。あはははっ!!」
勘違いにも程がある。五里はタケルの投げられ役。ただただ投げられるだけに呼ばれた男である。タケルが思う。
(みんな絶対に『ゴリ』って言ってるよな……、なぜ俺はちゃんと五里と呼んでいるのにいつも怒られるんだ??)
黙って立つタケルに五里が近付いて言う。
「よお、一条」
「お、お疲れっす……」
五里はタケルの水着姿を見て顔をしかめて言う。
「何だそのだらしない格好は? 柔道を馬鹿にしているのか? すぐに着替えて来い!!」
「あ、はい!!」
タケルは五里にそう言われると走って更衣室へと向かう。それを見た優花が慌ててフォローする。
「あ、あのゴリさん。タケル君は今まで水着の撮影をして……」
「あいつの肩など持たなくてもいいぞ、桐島。本当はこの俺の鍛えられた筋肉と撮影したかったんだろ?」
「あ、いえ。そう言うの結構です」
冷たく言い放つ優花に五里は少ししょんぼりしてから言う。
「と、とりあえず今日はこの俺がカッコ良く投げるところを撮影して……」
「はーい、時間ですよ。一条さん、ゴリさん、こちらへどうぞ!!」
話をしていた五里の耳に自分を呼ばれる声が聞こえる。
「あ、はい。今行きます!!」
ちょうど道着に着替えたタケルもその声に応じてスタジオスクリーンの前へと向かう。休憩中に床には簡易的な畳が敷かれ、広くはないが投げだけなら十分できるスペースが作られていた。スタッフがタケルに尋ねる。
「こんなもんでよろしいでしょうか?」
撮影はプロだが柔道は素人。タケルが答えようとすると五里が前に出て行った。
「まあ、問題ないでしょう。じゃあ撮りましょうか」
五里はそう言うとタケルの背中をドンと叩いて一緒に畳に上がる。監督がふたりに声をかける。
「じゃあそこで投げてからぐっと拳を握って『行こうよ!! 総館大!!』って感じでお願いしますね」
「うっす!!」
気合入りまくりの五里。目の前に立つタケルにも大きな声で言う。
「気合入れて行くぞ、一条!!」
「は、はいっ!!」
そしてかかる監督の号令。
「じゃあ、スター……!?」
ドオオン!!!
(え?)
監督が号令を掛け終えるより先に、五里の体はタケルによって投げられ畳の上に倒れていた。
静寂。
誰もがあまりにも速すぎるタケルの投げに気付くこともできなかった。
「え、え、俺……、何が起こって……」
暗いスタジオの天井を見つめたまま五里が混乱する。タケルが慌てて五里に手を差し出す。
「うわっ、ご、五里さん!! 大丈夫でしたか!?」
無言のままタケルの手を取り起き上がる五里。未だに一体何が起きたのか分からなかったが、投げられたことだけはようやく理解し始めた。小さな声でタケルに言う。
「な、なあ、俺が投げ役じゃなかった、のか……?」
答えようとしたタケルに監督がやって来て言う。
「ちょ、ちょっと一条君!! 速すぎるよ!! もう少しゆっくり、ゆっくり頼むよ!!」
スタジオにいた人達は改めて『天才柔道家』として脚光を浴びるタケルの凄さを理解した。五里以外は。
「俺が投げじゃなかったのか……、まあ、一条、お前は一本背負いだけは中々のものがある。俺も甘んじて投げられよう」
「あ、ありがとうございます!!」
その後スタジオにいた人達は、美しいタケルの投げに心奪われることとなる。
「うーん、疲れたね!」
撮影が終わるとすっかり暗くなっていた。
これから編集をかけてCMとして製作されるのだが、一体どんなものになるのだろうかと正直怖い。暗くなった夜道を歩きながら優花が言う。
「今年の夏は、水着着て一緒に海に行こうね!」
「え? あ、ああ、うん……」
非モテ男として『彼女と海に行く』と言うのは憧れであり、男としての階段を上がるための大切な行事。タケルは心の中でガッツポーズを取る。優花が恥ずかしそうな顔で続ける。
「その前にさあ……」
「なに?」
優花は手を後ろに組んでタケルの前に行くと、はにかみながら言った。
「明日のクリスマス、一緒に過ごせる?」
(ク、クリスマス……)
『彼女とクリスマスを過ごす』
それは夏のビーチと並んで恋人にとっての一大イベント。これまで彼女無しで生きて来たタケルにとってはクリスマスがすぐそこに迫って来ていることなど全く気付かなかった。
「い、いいよ。俺で良かったら……」
「やったーー!! 嬉しいっ!!」
優花は全身で喜びを現わしタケルに抱き着く。
ただタケルには優花の瞳の水色がまるで呪いの様に心を締め上げる。
(彼女は本当の優花じゃない。それでいいのか、俺は……)
悩むタケル。
そんな彼の心配を知ってか知らぬか、優花は本物の恋人のように腕を組んで駅へと歩く。
圧倒的に可愛い優花はどこへ行っても周囲の注目を浴びる。対照的に隣を歩く男は柔道を除けばまるで冴えない男。優花が可愛ければ可愛いほど、好意を示してくれればくれるほどタケルの心はゆらゆらと沈んでしまいそうな感覚となる。
そんなふたりが最寄りの駅に降りた時、思いがけぬ人物が現れた。
「一条君……」
赤みがかったツインテール。細い体形に似合わない大きな胸。タケルが言う。
「このみ……」
優花とタケルはその意外な人物をじっと見つめた。
佐倉このみは自宅に届いた新しい本、『恋成就必須!! 必ず叶う恋まじない100』と言う本を見ながらひとり笑みを浮かべた。
「今はこんなおまじないもあるんだ。いいね……」
そのたくさんある眉唾物のおまじないからひとつを選び出し、しおりを挟む。
「私は諦めないわよ。一条君。必ずあなたを振り向かせてみせるから」
このみは赤いツインテールにそっと手をやり新しいおまじないを見つめた。
「じゃあ、スタート!!」
聡明館大学から少し離れた街中にある撮影スタジオ。
そこに来期のCM撮影のために集まった関係者が、息を殺して主役のふたりを見つめた。
「そうか!!」
上半身裸のタケル。もちろん撮影は水着。
真冬なのにこの撮影のために暖房をガンガン効かしているので、タケル達以外は上着を脱ぎ薄手の服となっている。タケルの言葉に同じく水着の優花が振り返って笑顔で言う。
「そうだよ!!!」
ふたりは緑色の無地のスクリーンの上で演技を行う。優花の声にタケルも合わせてふたりならんでぐっと拳を握り最後の締めの言葉を言う。
「総館大!!!」
「総きゃん大っ!!!」
「ストーーーーーップ!!!!」
タケルは今日何度目か分からないミスに再びため息をついてがっくりした。優花が怒った顔で言う。
「もー、何よぉ、総きゃん大って!!!」
「ご、ごめん。やっぱ慣れなくて……」
最初はNGを連発するタケルにギスギスした空気だった現場も、笑ってしまうようなミスをする彼に今は和やかなムードで撮影が行われている。
「暖房が効いていても寒いんだから、ちゃんとやってよ!!」
「あ、はい……」
スタッフも相手は素人の学生。通常は厳しい指導などもするのだが今日に限っては優しく、逆にその叱る役目を優花がしてくれている。撮影監督がカメラを指示し、再度撮り直しが行われる。
「スタート!!!」
位置に着いたタケルと優花が演技を始める。
「そうか!!」
「そうだよ!!!」
ふたりがポーズを決めて言う。
「「総館大っ!!!!」」
「オッケー!!!」
監督のその声で張りつめていた空気が一瞬で和む。そしてスタッフの間から起こる拍手。優花とタケルはすぐに上着を着てスタッフから労われる。
「お疲れ様、疲れたでしょ?」
そう撮影スタッフに言われた優花が笑顔で答える。
「いえ、楽しかったです!!」
それは優花の本心。
結城との撮影なら意地でも行かないつもりだったが、大好きなタケルとの撮影だったためか想像以上に楽しかった。水着もコスプレだと思えば意外と何ともない。そのスタッフがタケルにも声をかける。
「一条さんはこれから別カットの撮影ですね。休憩後、準備をお願いしますね」
「あ、はい……」
別カット。それはもちろん柔道のシーン。
あまり気乗りはしなかったが優花の強い勧めもあって渋々受け入れた。
「うーーーっす!!」
その時スタジオに耳覆いたくなるような大きな声が響いた。大きな体に角刈り、そして柔道着を着込んだ総館大柔道部主将、五里が意気揚々と現れた。スタッフが言う。
「ああ、ええっと、ゴリさんでしたね。お待ちしていました」
「いやいや、この俺を撮影に使うなど、監督もなかなか目が良いですなあ。はははっ」
一体どこからその自信が出てくるのかと不思議になる。優花が挨拶をする。
「あ、あの、こんにちは。ゴリさん」
五里は優花の姿、色っぽいビキニに上着を着ただけの姿を見て鼻の下を伸ばして言う。
「これはこれはミスコングランプリの桐島じゃねえか。いやいや、まさかこんな美人と共演できるとはな。あはははっ!!」
勘違いにも程がある。五里はタケルの投げられ役。ただただ投げられるだけに呼ばれた男である。タケルが思う。
(みんな絶対に『ゴリ』って言ってるよな……、なぜ俺はちゃんと五里と呼んでいるのにいつも怒られるんだ??)
黙って立つタケルに五里が近付いて言う。
「よお、一条」
「お、お疲れっす……」
五里はタケルの水着姿を見て顔をしかめて言う。
「何だそのだらしない格好は? 柔道を馬鹿にしているのか? すぐに着替えて来い!!」
「あ、はい!!」
タケルは五里にそう言われると走って更衣室へと向かう。それを見た優花が慌ててフォローする。
「あ、あのゴリさん。タケル君は今まで水着の撮影をして……」
「あいつの肩など持たなくてもいいぞ、桐島。本当はこの俺の鍛えられた筋肉と撮影したかったんだろ?」
「あ、いえ。そう言うの結構です」
冷たく言い放つ優花に五里は少ししょんぼりしてから言う。
「と、とりあえず今日はこの俺がカッコ良く投げるところを撮影して……」
「はーい、時間ですよ。一条さん、ゴリさん、こちらへどうぞ!!」
話をしていた五里の耳に自分を呼ばれる声が聞こえる。
「あ、はい。今行きます!!」
ちょうど道着に着替えたタケルもその声に応じてスタジオスクリーンの前へと向かう。休憩中に床には簡易的な畳が敷かれ、広くはないが投げだけなら十分できるスペースが作られていた。スタッフがタケルに尋ねる。
「こんなもんでよろしいでしょうか?」
撮影はプロだが柔道は素人。タケルが答えようとすると五里が前に出て行った。
「まあ、問題ないでしょう。じゃあ撮りましょうか」
五里はそう言うとタケルの背中をドンと叩いて一緒に畳に上がる。監督がふたりに声をかける。
「じゃあそこで投げてからぐっと拳を握って『行こうよ!! 総館大!!』って感じでお願いしますね」
「うっす!!」
気合入りまくりの五里。目の前に立つタケルにも大きな声で言う。
「気合入れて行くぞ、一条!!」
「は、はいっ!!」
そしてかかる監督の号令。
「じゃあ、スター……!?」
ドオオン!!!
(え?)
監督が号令を掛け終えるより先に、五里の体はタケルによって投げられ畳の上に倒れていた。
静寂。
誰もがあまりにも速すぎるタケルの投げに気付くこともできなかった。
「え、え、俺……、何が起こって……」
暗いスタジオの天井を見つめたまま五里が混乱する。タケルが慌てて五里に手を差し出す。
「うわっ、ご、五里さん!! 大丈夫でしたか!?」
無言のままタケルの手を取り起き上がる五里。未だに一体何が起きたのか分からなかったが、投げられたことだけはようやく理解し始めた。小さな声でタケルに言う。
「な、なあ、俺が投げ役じゃなかった、のか……?」
答えようとしたタケルに監督がやって来て言う。
「ちょ、ちょっと一条君!! 速すぎるよ!! もう少しゆっくり、ゆっくり頼むよ!!」
スタジオにいた人達は改めて『天才柔道家』として脚光を浴びるタケルの凄さを理解した。五里以外は。
「俺が投げじゃなかったのか……、まあ、一条、お前は一本背負いだけは中々のものがある。俺も甘んじて投げられよう」
「あ、ありがとうございます!!」
その後スタジオにいた人達は、美しいタケルの投げに心奪われることとなる。
「うーん、疲れたね!」
撮影が終わるとすっかり暗くなっていた。
これから編集をかけてCMとして製作されるのだが、一体どんなものになるのだろうかと正直怖い。暗くなった夜道を歩きながら優花が言う。
「今年の夏は、水着着て一緒に海に行こうね!」
「え? あ、ああ、うん……」
非モテ男として『彼女と海に行く』と言うのは憧れであり、男としての階段を上がるための大切な行事。タケルは心の中でガッツポーズを取る。優花が恥ずかしそうな顔で続ける。
「その前にさあ……」
「なに?」
優花は手を後ろに組んでタケルの前に行くと、はにかみながら言った。
「明日のクリスマス、一緒に過ごせる?」
(ク、クリスマス……)
『彼女とクリスマスを過ごす』
それは夏のビーチと並んで恋人にとっての一大イベント。これまで彼女無しで生きて来たタケルにとってはクリスマスがすぐそこに迫って来ていることなど全く気付かなかった。
「い、いいよ。俺で良かったら……」
「やったーー!! 嬉しいっ!!」
優花は全身で喜びを現わしタケルに抱き着く。
ただタケルには優花の瞳の水色がまるで呪いの様に心を締め上げる。
(彼女は本当の優花じゃない。それでいいのか、俺は……)
悩むタケル。
そんな彼の心配を知ってか知らぬか、優花は本物の恋人のように腕を組んで駅へと歩く。
圧倒的に可愛い優花はどこへ行っても周囲の注目を浴びる。対照的に隣を歩く男は柔道を除けばまるで冴えない男。優花が可愛ければ可愛いほど、好意を示してくれればくれるほどタケルの心はゆらゆらと沈んでしまいそうな感覚となる。
そんなふたりが最寄りの駅に降りた時、思いがけぬ人物が現れた。
「一条君……」
赤みがかったツインテール。細い体形に似合わない大きな胸。タケルが言う。
「このみ……」
優花とタケルはその意外な人物をじっと見つめた。
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