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第六章「タケルの恋まじない。」

52.新たな決意

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「大学のCM撮影の私の相手にタケル君が決まったの!! 水着撮影、柔道パフォーマンスもあるんだよ!!」


 嬉しそうに言う優花に唖然とするタケルと雫。

「ちょ、ちょっと優花。何だよ、その水着とか柔道の撮影って……」

「え? 何って大学のCM撮影じゃん」

「な、なんで俺が出るの?」

 未だ状況がつかめないタケルが首をかしげて尋ねる。


「えー、だって予定していた結城先輩が辞退して……、それでタケル君になったんだよ」

(結城先輩って、ああ、あの時の……。って言うか、優花はあいつと水着撮影するつもりだったのか!?)

 初めて知らされる事実。
 タケルがちょっとむっとした顔で言う。


「分かった。じゃあ優花はビキニな」

 タケルがどうだと言わんばかりの顔で言う。優花が答える。


「もちろんよ!! タケル君もビキニパンツね!!」

「へ?」

 思わぬカウンターにタケルが一瞬怯む。すかさず優花がタケルの耳元でささやくように言う。


「この間一緒にコスしたあの水着、着ちゃう??」

「げげっ!?」

 以前優花とアニメの水着コスをした時の衣装、ほぼ裸に近いような優花の水着に食い込みが激しいタケルのビキニパンツ。エッチ過ぎる優花と自分の情けない姿に混乱しながら四苦八苦した水着コス。


「ば、馬鹿!! あんなの着れるかよ!!」

 それを聞いてむふっと笑う優花。


「ちょ、ちょっと、そこ!! 何を話してるんですか!!!」

 ひとり会話に加われない雫が怒りながら言う。

「一体何ですか?? ビキニパンツって!!」

 優花が笑いながら答える。


「何って、ビキニパンツよ。タケル君の」

「お、おい、優花!!」


「意味分からないです!! 雫にもちゃんと教えて……」

 そこまで言った時、柔道部の方から声がかかる。


「おーい、お茶買って来てくれ。青葉!!!」


「は~い、雫ちゃんはお使いですね~、それじゃあ帰ろっか、タケル君」

「え、ああ、もう!! 後でちゃんと話聞かせてくださいよ!!!!」

 雫はそう言い残すと部員達の方へと走って行った。ふたりきりになった優花がタケルに言う。


「じゃあ、行こっか」

「え、どこへ?」

 本当に分からないタケルが優花に聞き返す。優花が再びタケルの耳元でささやくように言う。


「水着を買いに行くんだよ」

「ひゃっ!?」

 タケルはそう言ってクスッと笑う優花を見て心から可愛いと思った。





「やっぱりないね……、タケル君……」

 優花とふたり、水着を買いにショッピングセンターにやって来たタケル。
 しかし間もなくクリスマスを控えたこの寒い時期。水着など売っているはずもない。辛うじて見つけた水着もほとんど種類もサイズもない。優花があまり特徴のない水着を手にして言う。


「うーん、これじゃあねえ。タケル君はこういうの好き?」

 優花の水着なら何でも好きだよ、と言う言葉を飲み込んでタケルが答える。

「いいと思うよ」

「う~ん、そうなの? 男性用のビキニパンツもないし……」

 なぜビキニパンツにこだわるのか、とタケルは不思議に思う。優花が言う。


「まあタケル君は男だし、普通の下着で撮っちゃおうか?」

(おいおい、勘弁してくれ。何が楽しくて大学生活に胸膨らませる奴らに俺のパンツ姿を見せなきゃならんのだ??)


「私も、下着にしちゃおうかな~」


(え?)

 タケルは冗談で言った優花の言葉を聞き、想像する。


(下着の優花、下着の優花、下着の優花、見たーーーーいっ!!!!)

 優花はそんなタケルの顔をしたから覗き込むようにして言う。


「あれ~? 一体何を想像しているのかな~、わる~いタケル君?」

「ち、違うよ!! 俺はそんなもん考えていない!!!」

 優花がクスッと笑って言う。

「あー、ムキになった!! 図星だね!!」

 もはや優花の手のひらの上で転がされるだけのタケル。すべてを見透かされしゅんとなったタケルに優花が言う。


「仕方ないなあ、ネットで買おうか。今日、行っていい?」

 それは『タケルの部屋に行く』っていう意味。あの日以来、初めてである。


「うん、いいよ」

「じゃ、帰ろ」

 そう言うとふたりは並んで歩き出した。





(あれ以来、黒目の優花は現れなくなった……)

 タケルの家へ向かう電車。
 隣に座った優花の目は透き通った水色。『恋まじない』状態にある優花だが、素の優花だと思っていた黒目の優花はあの日を境に出てこない。


(このみの言っていた『嫌いになるまじない』って言うのは本当だったのかな……)

 まじないをかけた本人を振る、それで解けるその『嫌いのまじない』。とても信じられることではないが、疑う気もタケルにはない。そこでにタケルが気付く。


(あれ、ちょっと待てよ。黒色がこのみのまじないで、水色が優花のまじない。ってことは本当の優花は一体どこにいるんだ??)

 タケルは電車の窓ガラスに映った隣に座る優花を見つめる。
 外は真っ暗。窓ガラス越しに家の明かりが左から右へと勢いよく流れて行く。


(今の水色の目は優花のまじない状態。本気かどうか分からない状態でかけた遊びのまじない。じゃあ、これが解けたら、このまじないが解けたら、本当の優花だけが残る……)

 タケルは新たに気付いたその事実に体が震える。
 優花はタケルの隣に座り、首をその肩にあずける。綺麗な栗色の髪。鼻腔をくすぐる甘い香り。そんな優花の全てが一瞬遠い存在に思えた。


(聞きたいけど、やっぱり聞けない……)

『嫌いになるまじない』が解除できるなら、『好きになるまじない』も解く方法はあるはず。下手な探りを入れて優花自身が自分にまじないが掛かっていると気付けば、可能性もある。


(そうすれば、俺は、俺は……)


「タケルく~ん……」

 優花はタケルの肩に頭を乗せながら、指をタケルの膝でなぞりながら甘える。


(この優花との関係も、終わってしまう……)

 タケルがその想像したくない未来を思い、体を震わせる。反応のないタケルに気付いた優花が少し心配した顔で尋ねる。


「ねえ、どうしたの? タケル君」

 タケルは前を真っすぐ見たまま小さく答える。


「何でもない。大丈夫……」

 優花が自分の膝の上に乗せたタケルの手を握って言う。


「そう言う時は絶対『何でもある』時。どうしたの? 教えて」

 タケルは思わず目頭が熱くなるのを我慢して言った。


「ありがとう、一緒に居てくれて……」

 それを聞いてきょとんとする優花。すぐに笑顔になって言う。


「ぜーったい変っ!! でも嬉しいよ、そう言ってくれて」

 優花はそう言って再びタケルの腕に抱き着く。


(俺は、やっぱり彼女を諦めたくない。一緒に居たい。だから絶対に優花を落とす!!!)

 タケルは居るかどうかも分からない、未知の優花に対して気持ちを新たにした。
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