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第五章「告白と告白と、告白」
48.勇気
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「早く来なさい。優花」
結城家に到着した優花と父親。チャイムを鳴らす父親が車から降りて動こうとしない娘に強めの口調で言った。
「……」
優花は無言のままゆっくりと門の方へと歩き出す。
純和風の門。外からでもきちんと手入れのされた庭園があるのが分かる。しばらくすると家政婦らしき中年の女性が現れてふたりに挨拶をした。父親が優花に言う。
「じゃあ、しっかりとやってくるんだぞ」
父親はそう言い残すと優花を残し、ひとり車で帰って行く。今日の食事会は結城レンの希望で、レンと優花のふたりだけの食事会となっている。無論、そんなことは優花は知らない。
「どうぞ、お入りください」
家政婦に招き入れられ優花が軽く会釈をしてから中に入る。
桐島家より格上の結城家。その名家に相応しい大きな純日本風の家で、立派な庭園を囲むように長い廊下が続いている。冬なので広葉樹の葉は落ちてしまっているが、秋や新緑の季節には見事な庭園となるだろう。
(怖い。怖いよ……)
冬の冷たい廊下のせいかそれとも恐怖の為か、優花の手足は感覚がなくなるほど冷たく冷え切ってしまっている。これから起こることを考え、想像するだけで恐怖で逃げ出したくなる。でも、
(きちんとこんな『面談』は断って、もう一度しっかりとタケル君に伝えなきゃ……)
――あなたが好きって。
「やあ、優花ちゃん」
広い和室。
その真ん中で正座をしてしばらく座っていた優花に、奥の障子から面談相手である結城レンが現れた。優花がその姿を見て顔を強張らせる。
「あれ~、優花ちゃん。俺とお揃いじゃん」
真っ白なスーツを着崩した結城。不幸にも優花も真っ白なハーフコートに白いニットを着ていた。結城が言う。
「まるで新郎新婦じゃん? あはははっ」
優花は自分が選んだ服について心底後悔した。
結城とこの訳の分からぬ関係を終わらせ、タケルとの新たな門出を祝すために選んだ純白の服。それがこのような事になるとは。結城がズボンのポケットに手を突っ込んだまま言う。
「とりあえずここに来たってことは、俺のものになるってことでいいのかな?」
無言で下を向く優花。
返事をしない彼女を見て苛立つ結城が言う。
「何か言えよ!!!」
一瞬体をビクッとさせた優花が弱々しい声で答える。
「……りします」
「はあ?」
消え入りそうな声。
恐怖や混乱。父親の激怒する姿に、家庭崩壊。様々な想いが優花の体や頭をきつく締めあげる。
「ちゃんと言えよ」
(タケル君……)
そんな彼女の頭に、タケルの顔が思い浮かんだ。
ずっとそばにいてくれたタケル。
誰よりも自分を見てくれたタケル。
元気をくれたタケル。
大好きなタケル。
――タケル君と一緒に居たい!!!
優花の中にあった全ての悩みを『一条タケル』が押しやった。
「お断りします」
優花は顔を上げ、しっかりと結城レンを見て言った。
「ほお……」
その言葉を微動たりせずに聞いた結城。しかし明らかに自分に対して向けられた敵意の目にカッとなって右手を上げた。
パン!!!
「きゃあ!!」
乾いた音共に、結城の右手が優花の頬を殴りつけた。
「もうちょっとだからね、タケル君」
タケルは茜の運転する車の中でひとりじっと考えていた。
(あのメッセージ……、あれはどの優花が送ってきたんだろう?)
さすがのタケルでもあの短い文章だけでは判断がつかない。ただひとつだけはっきりとしていることがある。
(黒目の優花がもうすぐ消える……)
最近めっきり姿を見て見せなくなった黒目の優花。このみの話を信じるならばあれは彼女のまじないで生まれた優花であり、まじないを解いた今その優花が消えてしまう可能性もある。
(そんなこと、普通は信じないよな……)
しかしここ数ヶ月に起こったことを考えると、笑って一蹴できるほど能天気ではない。そしてタケルが思う。
(今、行かなきゃ。でないと黒目の優花とはもう……)
そこまで考えた時、運転席の茜が言った。
「着いたわよ」
純日本風の立派な家。
タケルは車を降り、その分厚い門を見つめる。車の窓ガラスを開けて茜が言う。
「私はここまでね。頑張ってね、タケル君」
タケルは軽く頷いてから答える。
「ありがとうございました。茜さん」
「うん」
茜はそう答えると車を走らせた。
(あの迷いのない顔。あれなら何とかなるかも……)
茜は運転しながら何の根拠もないが『もしかしたら彼なら』と思った。
ピンポーン
タケルは門に着いたインターフォンを鳴らす。
対応に出た女性は約束がないタケルに帰るよう伝える。しかしタケルは何度もインターフォン、そして門を叩いて叫ぶ。
「開けろーーーーーっ!!!」
門を叩きながら冷静な自分が思う。
(これって殴り込みだよな……、私闘の禁止。いやそれ以前に不法侵入で普通に警察沙汰じゃん……)
家の前で騒ぐタケル。
門がゆっくりと開いて中から屈強な男が現れる。男が静かに言う。
「帰れと言われたのが分からんのか? ガキ」
タケルは自然と身構えた。
パン!!
乾いた音が誰も居ない静かな和室に響いた。結城に殴られた優花が横に倒れるように崩れ、赤く腫れた頬を押さえる。
「何様なんだよ、お前?」
結城のゆっくりとした口調。しかし重く圧のある声。優花は目を赤くして言い返す。
「私はもう心に決めた人がいるの。あなたのものになんか決してならない!!」
それを無言で聞く結城。ゆっくりと優花に近付く。
「跪けよ。お前の家はうちに跪く家なんだよ!!!」
結城は顔に青筋を立てながら強く言った。優花は立ち上がり、目に涙を溜めながら言い返す。
「嫌っ!! あなたなんかに跪かない。私はあなた達とは関係ないの!!!」
バン!!!
「きゃあ!!」
再び結城の手が、今度は優花の反対側の頬を殴る。そのままよろよろと後ろに下がる優花。恐怖で足が震える。結城がポケットに手を入れたまま優花に尋ねる。
「心に決めた人って、もしかして『一条タケル』って奴か?」
「!!」
さすがの優花もその言葉を聞いて激しく動揺した。
知るはずもないタケルの存在。自分の知らないところで何が起こっているのか想像もできない。
「目障りな男よ。そのうちしっかりと俺が片付けてやる。その前にお前だよ……」
結城が部屋の隅に下がった優花に近付く。
「早く楽になれよ。あなたを愛しますって言って、床に頭をこすりつけて懇願すれば許してやるよ。俺は優しいからな」
優花の顔が恐怖で震える。
目からはボロボロと涙が溢れる。
それでも心を強く持とうとしてギッと結城を睨みつけて言う。
「最低っ、あなたなんか大嫌いっ!!!!」
プチン
その言葉で結城の中の何か切れた。
「この生意気な女がああああ!!!!」
結城が優花に向けて右足を思い切り振り上げた。優花は恐怖で小さくなる。
(怖いよ、怖いよ、タケル君ーーーっ!!!)
バーン!!!!
広い和室に勢いよく開かれた障子の音が響く。
「優花っ!!!!」
タケルがポケットに手を入れ右足を上げた結城、そしてその前で小さくなる優花を見て瞬間湯沸かし器の様に一瞬で怒りが頂点となる。
「何やってんだよおおおおお!!!!」
ガン!!!!!!
タケルの右拳が結城の顔面に入る。
「ぐぎゃっ!!!」
突然殴られた結城が後ろに倒れながら情けない声を上げる。
「優花、優花っ!!!」
タケルは床で小さくなる優花を強く抱きしめた。
「タケル君、ごめんね、ごめんね……」
優花は涙を流しながらタケルより強く抱き返した。
結城家に到着した優花と父親。チャイムを鳴らす父親が車から降りて動こうとしない娘に強めの口調で言った。
「……」
優花は無言のままゆっくりと門の方へと歩き出す。
純和風の門。外からでもきちんと手入れのされた庭園があるのが分かる。しばらくすると家政婦らしき中年の女性が現れてふたりに挨拶をした。父親が優花に言う。
「じゃあ、しっかりとやってくるんだぞ」
父親はそう言い残すと優花を残し、ひとり車で帰って行く。今日の食事会は結城レンの希望で、レンと優花のふたりだけの食事会となっている。無論、そんなことは優花は知らない。
「どうぞ、お入りください」
家政婦に招き入れられ優花が軽く会釈をしてから中に入る。
桐島家より格上の結城家。その名家に相応しい大きな純日本風の家で、立派な庭園を囲むように長い廊下が続いている。冬なので広葉樹の葉は落ちてしまっているが、秋や新緑の季節には見事な庭園となるだろう。
(怖い。怖いよ……)
冬の冷たい廊下のせいかそれとも恐怖の為か、優花の手足は感覚がなくなるほど冷たく冷え切ってしまっている。これから起こることを考え、想像するだけで恐怖で逃げ出したくなる。でも、
(きちんとこんな『面談』は断って、もう一度しっかりとタケル君に伝えなきゃ……)
――あなたが好きって。
「やあ、優花ちゃん」
広い和室。
その真ん中で正座をしてしばらく座っていた優花に、奥の障子から面談相手である結城レンが現れた。優花がその姿を見て顔を強張らせる。
「あれ~、優花ちゃん。俺とお揃いじゃん」
真っ白なスーツを着崩した結城。不幸にも優花も真っ白なハーフコートに白いニットを着ていた。結城が言う。
「まるで新郎新婦じゃん? あはははっ」
優花は自分が選んだ服について心底後悔した。
結城とこの訳の分からぬ関係を終わらせ、タケルとの新たな門出を祝すために選んだ純白の服。それがこのような事になるとは。結城がズボンのポケットに手を突っ込んだまま言う。
「とりあえずここに来たってことは、俺のものになるってことでいいのかな?」
無言で下を向く優花。
返事をしない彼女を見て苛立つ結城が言う。
「何か言えよ!!!」
一瞬体をビクッとさせた優花が弱々しい声で答える。
「……りします」
「はあ?」
消え入りそうな声。
恐怖や混乱。父親の激怒する姿に、家庭崩壊。様々な想いが優花の体や頭をきつく締めあげる。
「ちゃんと言えよ」
(タケル君……)
そんな彼女の頭に、タケルの顔が思い浮かんだ。
ずっとそばにいてくれたタケル。
誰よりも自分を見てくれたタケル。
元気をくれたタケル。
大好きなタケル。
――タケル君と一緒に居たい!!!
優花の中にあった全ての悩みを『一条タケル』が押しやった。
「お断りします」
優花は顔を上げ、しっかりと結城レンを見て言った。
「ほお……」
その言葉を微動たりせずに聞いた結城。しかし明らかに自分に対して向けられた敵意の目にカッとなって右手を上げた。
パン!!!
「きゃあ!!」
乾いた音共に、結城の右手が優花の頬を殴りつけた。
「もうちょっとだからね、タケル君」
タケルは茜の運転する車の中でひとりじっと考えていた。
(あのメッセージ……、あれはどの優花が送ってきたんだろう?)
さすがのタケルでもあの短い文章だけでは判断がつかない。ただひとつだけはっきりとしていることがある。
(黒目の優花がもうすぐ消える……)
最近めっきり姿を見て見せなくなった黒目の優花。このみの話を信じるならばあれは彼女のまじないで生まれた優花であり、まじないを解いた今その優花が消えてしまう可能性もある。
(そんなこと、普通は信じないよな……)
しかしここ数ヶ月に起こったことを考えると、笑って一蹴できるほど能天気ではない。そしてタケルが思う。
(今、行かなきゃ。でないと黒目の優花とはもう……)
そこまで考えた時、運転席の茜が言った。
「着いたわよ」
純日本風の立派な家。
タケルは車を降り、その分厚い門を見つめる。車の窓ガラスを開けて茜が言う。
「私はここまでね。頑張ってね、タケル君」
タケルは軽く頷いてから答える。
「ありがとうございました。茜さん」
「うん」
茜はそう答えると車を走らせた。
(あの迷いのない顔。あれなら何とかなるかも……)
茜は運転しながら何の根拠もないが『もしかしたら彼なら』と思った。
ピンポーン
タケルは門に着いたインターフォンを鳴らす。
対応に出た女性は約束がないタケルに帰るよう伝える。しかしタケルは何度もインターフォン、そして門を叩いて叫ぶ。
「開けろーーーーーっ!!!」
門を叩きながら冷静な自分が思う。
(これって殴り込みだよな……、私闘の禁止。いやそれ以前に不法侵入で普通に警察沙汰じゃん……)
家の前で騒ぐタケル。
門がゆっくりと開いて中から屈強な男が現れる。男が静かに言う。
「帰れと言われたのが分からんのか? ガキ」
タケルは自然と身構えた。
パン!!
乾いた音が誰も居ない静かな和室に響いた。結城に殴られた優花が横に倒れるように崩れ、赤く腫れた頬を押さえる。
「何様なんだよ、お前?」
結城のゆっくりとした口調。しかし重く圧のある声。優花は目を赤くして言い返す。
「私はもう心に決めた人がいるの。あなたのものになんか決してならない!!」
それを無言で聞く結城。ゆっくりと優花に近付く。
「跪けよ。お前の家はうちに跪く家なんだよ!!!」
結城は顔に青筋を立てながら強く言った。優花は立ち上がり、目に涙を溜めながら言い返す。
「嫌っ!! あなたなんかに跪かない。私はあなた達とは関係ないの!!!」
バン!!!
「きゃあ!!」
再び結城の手が、今度は優花の反対側の頬を殴る。そのままよろよろと後ろに下がる優花。恐怖で足が震える。結城がポケットに手を入れたまま優花に尋ねる。
「心に決めた人って、もしかして『一条タケル』って奴か?」
「!!」
さすがの優花もその言葉を聞いて激しく動揺した。
知るはずもないタケルの存在。自分の知らないところで何が起こっているのか想像もできない。
「目障りな男よ。そのうちしっかりと俺が片付けてやる。その前にお前だよ……」
結城が部屋の隅に下がった優花に近付く。
「早く楽になれよ。あなたを愛しますって言って、床に頭をこすりつけて懇願すれば許してやるよ。俺は優しいからな」
優花の顔が恐怖で震える。
目からはボロボロと涙が溢れる。
それでも心を強く持とうとしてギッと結城を睨みつけて言う。
「最低っ、あなたなんか大嫌いっ!!!!」
プチン
その言葉で結城の中の何か切れた。
「この生意気な女がああああ!!!!」
結城が優花に向けて右足を思い切り振り上げた。優花は恐怖で小さくなる。
(怖いよ、怖いよ、タケル君ーーーっ!!!)
バーン!!!!
広い和室に勢いよく開かれた障子の音が響く。
「優花っ!!!!」
タケルがポケットに手を入れ右足を上げた結城、そしてその前で小さくなる優花を見て瞬間湯沸かし器の様に一瞬で怒りが頂点となる。
「何やってんだよおおおおお!!!!」
ガン!!!!!!
タケルの右拳が結城の顔面に入る。
「ぐぎゃっ!!!」
突然殴られた結城が後ろに倒れながら情けない声を上げる。
「優花、優花っ!!!」
タケルは床で小さくなる優花を強く抱きしめた。
「タケル君、ごめんね、ごめんね……」
優花は涙を流しながらタケルより強く抱き返した。
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