小学生の時にかけた恋のおまじないが、さっき発動しました。

サイトウ純蒼

文字の大きさ
上 下
14 / 58
第三章「ライバルたちの群雄割拠」

14.『理子ちゃん機嫌直し作戦』

しおりを挟む
「なるほど。それは深刻だな……」

 大学の学食。窓から見える木々もすっかり赤や黄色に染まった晩秋の中、タケルと中島は昼を食べながら真剣な顔で話をしていた。タケルが言う。


「だが、それはお前が悪い」

 そう言い放つ友人の言葉に中島がうな垂れる。

「そう、だよな……」

「当たり前だ。腰や肩はいいとしても、はダメだろう。ガラスとダイアモンドぐらい差がある。調子に乗り過ぎだ」

「はい……」

 以前から理子と口をきいて貰えない中島。その理由は彼の電車でのボディタッチ。調子に乗って腰にのせていた手をお尻に移動させてしまったとのこと。タケルが言う。


「幾ら仲が良くっても電車の中じゃダメだろう。せめてふたりきりの部屋とかじゃないと」

「え、じゃあ、一条君は触ったの? 優花ちゃんの……」

 そこまで言い掛けた時、ふたりの前に影が現れる。


「私がどうしたって?」


「げっ!?」

 それは長い栗色の髪が美しいミスコングランプリの優花。噂をされていたと思ったのか昼食を乗せたプレートを持ちながら優花がむっとした顔をしている。タケルが慌てて答える。


「い、いや、何でもない!! 何でもないんだ、優花……」

 タケル自身も、先日の雫との件で彼女を怒らせてしまっており、あれから何度も頭を下げて許しを得たばかりであった。優花が言う。


「ここ、座るね。いいでしょ?」

「あ、ああ。どうぞ……」

 タケルも幾分緊張して答える。


「それで、何の話をしていたの?」

 優花が昼食のサンドイッチの乗ったプレートをテーブルに置くと、ふたりの顔を見て言った。タケルが答える。


「ええっと、実は中島のことなんだが……」

 タケルは先程中島から相談された彼女の恋人理子について話をした。黙って話を聞いていた優花が頷いて言う。


「そりゃ理子ちゃん、怒るわよね」

「だよね……」

 中島がしょんぼりと答える。タケルは優花の目が水色であることを確認してから尋ねる。


「なあ、優花。優花もそんなことされたら、やっぱり怒るのか?」

「え?」

 少し驚いた顔の優花。すぐに答える。

「あ、当たり前でしょ。でも、もしタケル君がどうしてもっていうなら、こそっとならいいかな……」

 自分で言いながら顔を赤くする優花。それを見たタケルが内心喜びを爆発させる。


(うおおおおおお!!!! マジか!? なんて可愛いんだ、優花ああああ!!!!!)


「なあ、そういうの、向こうでやってくれる?」

 顔を赤らめて恥ずかしがる優花と、その喜びが顔から溢れ出るタケル。理子のことで真剣に悩んでいる中島には目障り意外何物でもない。タケルが言う。


「あ、ああ。ごめんごめん。そんなつもりはなかった」

「ごめんね、中島君」

 中島は苦笑いで応えながら学食のランチを口にする。タケルが言う。


「でさ、さっき俺いいアイデア思いついたんだけど、聞きたい?」

 タケルの言葉に中島が顔を明るくして答える。

「それって『理子ちゃん機嫌直し作戦』ってこと?」

「ああ、そうだ」

 自信満々のタケルを見て優花は不安でいっぱいになった。タケルが言う。


「もうすぐさ、ハロウィンだろ?」

「うん」

「そこで仮装する訳だ」

「おお、なるほど!!!」

 それを聞いて手を叩いて喜ぶ中島。タケルが突っ込む。


「いや、仮装するって言っただけで、それじゃ何も変わらんだろう」

「そ、そうだね。一条君。それでどうするの?」

「ああ、そこで仮装中に理子ちゃんを人気ひとけのない路地に誘い込んで……」

「うんうん……」

 中島が真剣に聞く。



「そこで悪役に仮装した俺が理子ちゃんを襲い、それをお前が助ける!!!」

「おお!! それはすごい!!!!」

 タケルの作戦に中島が両手を上げて喜ぶ。タケルが言う。

「俺も仮装して行くから正体はバレないし、お前も『彼女の為に勇気を奮う男』を演出できる。どうだ、完璧だろう!!」

「すごいよ、一条君。それで僕にボコボコにやられるんだね!!」

「え? あ、ああ。まあ、そうだな……」

 タケルは一瞬自分の作戦に戸惑う。黙ったまま隣に座っている優花に気付き尋ねる。


「どうだ、いい作戦だと思うだろ? 優花」

 尋ねられた優花は何度も頷きながらふたりに言う。

「本当に男の子の考えることって幼稚よね~」

「え、ダメなのか?」

 悲しそうな顔をするタケルに優花が首を振って言う。


「ダメじゃないよ。ハマれば凄い威力を発揮するよ、女の子にとっては」

「そ、そうだような!」

 少し安心したタケルが頷いて言う。


「だから、私コスプレする」


「は?」

 中島とタケル。ふたりで笑みを浮かべる優花を見つめる。

「な、なあ、優花。ちゃんと話を聞いていたんか?」

「聞いていたよ」


「俺は暴漢役になって理子ちゃんを襲うんだぞ? 女のお前が行っても暴漢にはなれないだろ」

「そんなことどうでもいいよ。私もマスクかなんか被るから大丈夫! 一緒にコスプレしよ!!」

 黙って嬉しそうに話す優花を見つめるふたり。タケルが言う。


「な、なあ。コスプレじゃなくて仮装だぞ。遊びじゃなくて……」

「えー、そんなの同じでしょ!? コスプレやろうよ!!」

 中島は既に青い顔をして下を向いている。


「優花、これは中島の『楽しいキャンパスライフ計画』をかけた大事な作戦なんだ。失敗は即、彼の大学生活の終焉を意味する。重大な作戦だ。分かるよな?」

「分かるよ! だから私も頑張るって!!」

 そう言ってにこにこ笑う優花を見て絶対計画は難航するだろうなとタケルはひとり思った。





「お、タケル。遅かったな」

 夕方、自宅に帰ったタケルに道場へ先に来ていた兄の慎太郎しんたろうが声をかけた。
 捨て猫のミャオを預かる代わりに再び柔道を真面目にやらなければならなくなったタケル。週に数回、時間のある時にこうして道場へ足を運んでいる。タケルが兄の腕に巻かれた包帯を見て言う。


「あれ、どうしたの。その腕?」

 道着ではなく完全な私服。しかも痛々しいほどの包帯。慎太郎が答える。



「ああ、ちょっと大学の練習中に怪我しちゃってさ。大したことないよ」

 いや、十分大したことあるだろうと思いながら、怪我が多い兄の慎太郎をタケルが見つめる。道場には学校を終えた小学生たちが数名やって来ていて、父の重蔵がその指導を行っている。タケルに気付いた重蔵が声をかける。


「遅いぞ、タケル。アップはしたのか?」

「あ、いや、まだ……」

 重蔵は汗を拭きながら言う。


「じゃあ、すぐに走って来い」

「わ、分かったよ……」

 タケルはそう答えると道着のまま家の外へと向かって走り出す。暗くなるまでの数時間。ほぼ全力で走るのが一条家のウォーミングアップ。冷たい風の吹く中、汗だくになったタケルがゼイゼイ息をしながら戻って来る。


「タケル。この子の相手をしろ」

 道着を着た時の父重蔵はまるで別人のように厳しくなる。子供の頃を思い出しタケルも思わず背筋がピンと伸びる。
 重蔵に紹介されたのはタケルとほぼ同じぐらいの背丈の男の子。見た目は大人しそうだが、一見して分かる強者。


「彼は先日の県の高校選手権で優勝した。今のお前で太刀打ちできるかな?」

 男の子は謙遜しながらもタケルを見る目は真剣である。伝説の柔道家、一条先生の息子。相当ブランクがあるとのこと。男の子が心の中で思う。


(柔道はそんなに甘くないぞ!!)

 畳の上で静かに向き合うタケルと男の子。ふたりの間に立った重蔵が声をかける。


「始めっ!!」

 道場に緊張が走る。
 男の子が様子見をしようと軽く左右に飛び跳ねようとする。その瞬間、目の前にいたタケルの姿が消えた。


(え?)

 気が付けば多くの小学生たちが見守る中、彼の両足が綺麗に揃い宙を舞っていた。


 ドオオン!!


「一本っ!!」

 県大会優勝の彼。
 開始二秒で敗北という初めての屈辱を味わうと同時に、世の中にはこんな凄い人がいるんだと目に映る天井を見ながら思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放課後はネットで待ち合わせ

星名柚花(恋愛小説大賞参加中)
青春
【カクヨム×魔法のiらんどコンテスト特別賞受賞作】 高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。 何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。 翌日、萌はルビーと出会う。 女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。 彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。 初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?

何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。 しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

勿忘草~尚也side~

古紫汐桜
青春
俺の世界は……ずっとみちるだけだった ある日突然、みちるの前から姿を消した尚也 尚也sideの物語

優秀賞受賞作【スプリンターズ】少女達の駆ける理由

棚丘えりん
青春
(2022/8/31)アルファポリス・第13回ドリーム小説大賞で優秀賞受賞、読者投票2位。 (2022/7/28)エブリスタ新作セレクション(編集部からオススメ作品をご紹介!)に掲載。 女子短距離界に突如として現れた、孤独な天才スプリンター瑠那。 彼女への大敗を切っ掛けに陸上競技を捨てた陽子。 高校入学により偶然再会した二人を中心に、物語は動き出す。 「一人で走るのは寂しいな」 「本気で走るから。本気で追いかけるからさ。勝負しよう」 孤独な中学時代を過ごし、仲間とリレーを知らない瑠那のため。 そして儚くも美しい瑠那の走りを間近で感じるため。 陽子は挫折を乗り越え、再び心を燃やして走り出す。 待ち受けるのは個性豊かなスプリンターズ(短距離選手達)。 彼女達にもまた『駆ける理由』がある。 想いと想いをスピードの世界でぶつけ合う、女子高生達のリレーを中心とした陸上競技の物語。 陸上部って結構メジャーな部活だし(プロスポーツとしてはマイナーだけど)昔やってたよ~って人も多そうですよね。 それなのに何故! どうして! 陸上部、特に短距離を舞台にした小説はこんなにも少ないんでしょうか! というか少ないどころじゃなく有名作は『一瞬の風になれ』しかないような状況。 嘘だろ~全国の陸上ファンは何を読めばいいんだ。うわーん。 ということで、書き始めました。 陸上競技って、なかなか結構、面白いんですよ。ということが伝われば嬉しいですね。 表紙は荒野羊仔先生(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/520209117)が描いてくれました。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

処理中です...