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第一章「再会」
2.告白
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一条タケル。やや陰キャ寄りの性格で、聡明館大学二年生。友人の中島と非モテ同盟を結び惨めな傷を舐め合っていたが、そんな友人に彼女ができたことを知り愕然とする。
(こいつ、マジで彼女ができると変わる奴だな……)
一緒に出掛けた聡明館大学の文化祭『総館祭』。
中島は彼女になった理子を連れて来て、だらしない顔を憚ることなく晒している。非モテ同盟結成時に約束していた『たとえ彼女ができても俺達は変わらない!!』と言った言葉が今となってはとても滑稽に思える。
「あ、ミスミスコンやってるよ!」
童顔で巨乳のメガネっ子の理子がひと際大勢人が集まっている方を指差して言う。そのステージには大きく『ミス・ミスターコンテスト』と書かれている。聡館大のミスミスコン。優勝者には芸能界やモデルの道も開かれる有名なコンテスト。文化祭で一番盛り上がるイベントだ。
「え、あれ見たいの?」
心底こういったものに興味がないタケルが嫌そうな顔で言う。
「えー、だっていい男が見られるでしょ? 楽しみ。ね、二郎君」
「うん、そうだね。理子ちゃん!」
理子の言葉に中島は何も考えずに返事をする。
(こいつ、彼女の言うことなら何でも肯定だな。彼女が自分以外のいい男が見たいって言ってるんだぞ……)
「さ、行きましょ。ふたりとも!!」
「え、わわっ!?」
理子は先程から動こうとしないふたりの腕を組んでステージの方へと歩いて行く。
「うわ、マジですげえ人だな」
会場近くにやって来たタケルたち。既に多く人の熱気で渦巻く群衆に驚く。
少し遠めだが辛うじてステージが見られる場所に移動しステージに目を向けると、ちょうどミスターコンテストグランプリのインタビューが行われていた。理子がちょっと不満そうな顔で言う。
「えー、あんまりイケメンじゃないなあ」
「そりゃ、だって今は見た目だけで決める訳じゃないでしょ」
タケルがそう言うものの、やはり見た目に期待していた理子が悲しそうな顔をする。そんな彼女を見ながらタケルが思う。
(イケメン好きなら何故、中島を選んだ?)
きっと他人には理解できない深い理由があるのだろう、そうタケルは思うようにした。
「じゃあ次は、いよいよミスキャンパスの最終選考に移るぜーーーーーっ!!」
そんな三人の耳にステージに居た軽そうなパリピ司会者の声が響く。
ミスターコンテストより注目度がはるかに高いミスコン。噂では芸能界のスカウトなども見に来ていると言われるほど毎年高レベルの戦いが行われている。司会者の煽るような言葉に群衆もどんどんヒートアップしていく。
(マジで吐きそうだぞ、これ……)
最も自分と対極に居るような人たち。一緒に居るだけで自分の居場所がなく、すぐにでもどこかへ行きたくなる。
「いえー!! いえ、いえーーい!!」
どうやら種族が違った理子は、パリピ司会者の言葉に既に酔っている。非モテ同盟だったはずの中島も彼女の腰に手を当て合わせるように手を上げノリノリである。
(こんな情けない奴だったんか……)
ミスミスコンなど自分達にとっては対極に暮らす人たちのイベント。その無縁の世界のイベントにこれほどまで自己を忘れて酔いしれるとは。タケルは友人の臨終を心から悔やんだ。
「では、最終候補に残ったのはぁ~、この三人だーーーーっ!!!!」
パリピ司会者がそう言って大声で叫ぶと、ステージ脇から美しい着物姿に着替えた三名の女性が現れる。割れんばかりの歓声。群衆たちの盛り上がりも最高潮へと達する。
「じゃあ、最後にここまで残った三人にィ~、これからの目標を聞いちゃうぜ~!!」
酒でも入っているんじゃないかと思うほどハイテンションな司会者。ファイナルに残った三名が順番に今後の抱負を述べて行く。芸能界の憧れや大学に貢献したいなど、優等生のような回答が会場に響く。
全く興味がなくそれらを見もせずに欠伸をしてたタケルだが、最後の候補者の名前が耳に入った瞬間思わず顔を上げた。
「じゃあ、最後は桐島優花ちゃん!! さ、どうぞ~!!!」
(え!?)
タケルがステージ上の女性を見つめる。
栗色の長い髪。透き通るほどの白い肌。愛嬌のある笑顔。
(マジかよ、あれって、あれってさ……)
――桐島じゃん
小学校の頃の同級生。初恋の人。
放課後のクラスで馬鹿なことを言って笑い合った淡い思い出が蘇る。
「優花ちゃんの目標は何かな~?」
パリピ司会者が持っていたマイクを優花に差し出し尋ねる。桃色の可愛らしい着物を着た優花が笑顔になって答える。
「私は、大好きな人と結婚して、幸せな家庭を作りたいです!!」
「うおおおおおおっ!!!!」
ありきたりな回答。
そんな普通過ぎる回答でも、特別なステージにいる優花にパリピ化した群衆は異常な熱気で応える。
(桐島、同じ大学だったんか……)
小学校を卒業してから私立中学へ進んだ優花。それ以降タケルに会うことはなく、お互い別々の道を進んでいた。
タケルにとっては淡い初恋の思い出。結局想いを伝えられぬまま時間は過ぎていったのだが、まさか同じ大学に進学していたとは思わなかった。
(桐島……、マジで綺麗になったな……)
遠いステージの上。
かつて隣の席で馬鹿を言い合っていたクラスメートが、今はその距離以上に遠く感じる。それでも良かった。再び彼女の顔を見られるだけでタケルは不思議と幸せを感じていた。
(会えて良かった。俺はそれだけで十分嬉し……、え?)
観客席の外れ、ステージから最も遠い場所にいたタケル。
そのタケルと壇上の優花の目が一瞬、合った。
ずきゅん!
(え、なに、今の……?)
突然タケルの心臓を突き刺すような心地よい快感。
何か懐かしく温かいものが心を通り抜けていく感覚。
気付くはずのない優花が自分を見つけてくれたかと錯覚するような気持ち。
(ば、馬鹿なことを。あいつとはもう十年近く会っていないし、俺のことなんか忘れて……)
「では、グランプリの発表だぜ!!!」
そう戸惑っていたタケルの耳に、パリピ司会者の乾いた声が響く。
「グランプリは……、三番、桐島優花ちゃん!!!!!」
「うごおおおおおお!!!!」
グランプリの発表と同時に観客席の群衆は今日最高の盛り上がりを見せる。ステージ下から煙が上がり、頭上からは紙吹雪が舞って来る。タケルは自然と拍手をしながら思った。
(すげえよ、マジですげえよ、桐島。ただの同級生だった俺でも自慢したくなる……)
壇上でグランプリのティアラとマントが優花にかけられる。花束に賞金、そして温泉旅行と書かれた目録が手渡される。
いつしか顔を赤くして涙を流す優花。パリピ司会者がやって来てマイクを向けて尋ねる。
「おっめでとう、優花ちゃん!! 今の気持ちをみんなに教えてくれるかい??」
優花が涙を拭いて答える。
「ありがとうございます! 私、今とても幸せです!!」
その言葉ひとつひとつに盛り上がる観衆。パリピ司会者が更に尋ねる。
「じゃあ、改めて聞くね。これからの目標、希望ぅを、さあ~、どうぞ!!!」
優花は大きく頷くと司会者からマイクを受け取り、突然ステージを下り始めた。
「え?」
唖然とする司会者。
優花は頭にティアラ、女王のマントを羽織り、突然の行動に静まり返った観客の中をまっすぐ歩いて行く。
「ゆ、優花ちゃん、どこへ……?」
ステージにいた司会者の小さな声ももう皆の耳は届かない。
そして優花は花束を持ったまま、ステージから一番離れた場所にいたある男の方へと歩いて行く。
(お、おい、嘘だろ!? なんで……)
優花はそのままタケルの前に来てマイクを持って言った。
「私の目標はあなた。一条君、私と付き合ってください」
会場中に響く声。マイクを両手で持ち、顔を赤くした優花が目に涙を溜めて言った。
(桐島……)
余りに突然のことに脳の処理速度が追い付かないタケル。そんな彼はもちろん彼女の目が綺麗な水色に染まっていたことなど気付きもしなかった。
(こいつ、マジで彼女ができると変わる奴だな……)
一緒に出掛けた聡明館大学の文化祭『総館祭』。
中島は彼女になった理子を連れて来て、だらしない顔を憚ることなく晒している。非モテ同盟結成時に約束していた『たとえ彼女ができても俺達は変わらない!!』と言った言葉が今となってはとても滑稽に思える。
「あ、ミスミスコンやってるよ!」
童顔で巨乳のメガネっ子の理子がひと際大勢人が集まっている方を指差して言う。そのステージには大きく『ミス・ミスターコンテスト』と書かれている。聡館大のミスミスコン。優勝者には芸能界やモデルの道も開かれる有名なコンテスト。文化祭で一番盛り上がるイベントだ。
「え、あれ見たいの?」
心底こういったものに興味がないタケルが嫌そうな顔で言う。
「えー、だっていい男が見られるでしょ? 楽しみ。ね、二郎君」
「うん、そうだね。理子ちゃん!」
理子の言葉に中島は何も考えずに返事をする。
(こいつ、彼女の言うことなら何でも肯定だな。彼女が自分以外のいい男が見たいって言ってるんだぞ……)
「さ、行きましょ。ふたりとも!!」
「え、わわっ!?」
理子は先程から動こうとしないふたりの腕を組んでステージの方へと歩いて行く。
「うわ、マジですげえ人だな」
会場近くにやって来たタケルたち。既に多く人の熱気で渦巻く群衆に驚く。
少し遠めだが辛うじてステージが見られる場所に移動しステージに目を向けると、ちょうどミスターコンテストグランプリのインタビューが行われていた。理子がちょっと不満そうな顔で言う。
「えー、あんまりイケメンじゃないなあ」
「そりゃ、だって今は見た目だけで決める訳じゃないでしょ」
タケルがそう言うものの、やはり見た目に期待していた理子が悲しそうな顔をする。そんな彼女を見ながらタケルが思う。
(イケメン好きなら何故、中島を選んだ?)
きっと他人には理解できない深い理由があるのだろう、そうタケルは思うようにした。
「じゃあ次は、いよいよミスキャンパスの最終選考に移るぜーーーーーっ!!」
そんな三人の耳にステージに居た軽そうなパリピ司会者の声が響く。
ミスターコンテストより注目度がはるかに高いミスコン。噂では芸能界のスカウトなども見に来ていると言われるほど毎年高レベルの戦いが行われている。司会者の煽るような言葉に群衆もどんどんヒートアップしていく。
(マジで吐きそうだぞ、これ……)
最も自分と対極に居るような人たち。一緒に居るだけで自分の居場所がなく、すぐにでもどこかへ行きたくなる。
「いえー!! いえ、いえーーい!!」
どうやら種族が違った理子は、パリピ司会者の言葉に既に酔っている。非モテ同盟だったはずの中島も彼女の腰に手を当て合わせるように手を上げノリノリである。
(こんな情けない奴だったんか……)
ミスミスコンなど自分達にとっては対極に暮らす人たちのイベント。その無縁の世界のイベントにこれほどまで自己を忘れて酔いしれるとは。タケルは友人の臨終を心から悔やんだ。
「では、最終候補に残ったのはぁ~、この三人だーーーーっ!!!!」
パリピ司会者がそう言って大声で叫ぶと、ステージ脇から美しい着物姿に着替えた三名の女性が現れる。割れんばかりの歓声。群衆たちの盛り上がりも最高潮へと達する。
「じゃあ、最後にここまで残った三人にィ~、これからの目標を聞いちゃうぜ~!!」
酒でも入っているんじゃないかと思うほどハイテンションな司会者。ファイナルに残った三名が順番に今後の抱負を述べて行く。芸能界の憧れや大学に貢献したいなど、優等生のような回答が会場に響く。
全く興味がなくそれらを見もせずに欠伸をしてたタケルだが、最後の候補者の名前が耳に入った瞬間思わず顔を上げた。
「じゃあ、最後は桐島優花ちゃん!! さ、どうぞ~!!!」
(え!?)
タケルがステージ上の女性を見つめる。
栗色の長い髪。透き通るほどの白い肌。愛嬌のある笑顔。
(マジかよ、あれって、あれってさ……)
――桐島じゃん
小学校の頃の同級生。初恋の人。
放課後のクラスで馬鹿なことを言って笑い合った淡い思い出が蘇る。
「優花ちゃんの目標は何かな~?」
パリピ司会者が持っていたマイクを優花に差し出し尋ねる。桃色の可愛らしい着物を着た優花が笑顔になって答える。
「私は、大好きな人と結婚して、幸せな家庭を作りたいです!!」
「うおおおおおおっ!!!!」
ありきたりな回答。
そんな普通過ぎる回答でも、特別なステージにいる優花にパリピ化した群衆は異常な熱気で応える。
(桐島、同じ大学だったんか……)
小学校を卒業してから私立中学へ進んだ優花。それ以降タケルに会うことはなく、お互い別々の道を進んでいた。
タケルにとっては淡い初恋の思い出。結局想いを伝えられぬまま時間は過ぎていったのだが、まさか同じ大学に進学していたとは思わなかった。
(桐島……、マジで綺麗になったな……)
遠いステージの上。
かつて隣の席で馬鹿を言い合っていたクラスメートが、今はその距離以上に遠く感じる。それでも良かった。再び彼女の顔を見られるだけでタケルは不思議と幸せを感じていた。
(会えて良かった。俺はそれだけで十分嬉し……、え?)
観客席の外れ、ステージから最も遠い場所にいたタケル。
そのタケルと壇上の優花の目が一瞬、合った。
ずきゅん!
(え、なに、今の……?)
突然タケルの心臓を突き刺すような心地よい快感。
何か懐かしく温かいものが心を通り抜けていく感覚。
気付くはずのない優花が自分を見つけてくれたかと錯覚するような気持ち。
(ば、馬鹿なことを。あいつとはもう十年近く会っていないし、俺のことなんか忘れて……)
「では、グランプリの発表だぜ!!!」
そう戸惑っていたタケルの耳に、パリピ司会者の乾いた声が響く。
「グランプリは……、三番、桐島優花ちゃん!!!!!」
「うごおおおおおお!!!!」
グランプリの発表と同時に観客席の群衆は今日最高の盛り上がりを見せる。ステージ下から煙が上がり、頭上からは紙吹雪が舞って来る。タケルは自然と拍手をしながら思った。
(すげえよ、マジですげえよ、桐島。ただの同級生だった俺でも自慢したくなる……)
壇上でグランプリのティアラとマントが優花にかけられる。花束に賞金、そして温泉旅行と書かれた目録が手渡される。
いつしか顔を赤くして涙を流す優花。パリピ司会者がやって来てマイクを向けて尋ねる。
「おっめでとう、優花ちゃん!! 今の気持ちをみんなに教えてくれるかい??」
優花が涙を拭いて答える。
「ありがとうございます! 私、今とても幸せです!!」
その言葉ひとつひとつに盛り上がる観衆。パリピ司会者が更に尋ねる。
「じゃあ、改めて聞くね。これからの目標、希望ぅを、さあ~、どうぞ!!!」
優花は大きく頷くと司会者からマイクを受け取り、突然ステージを下り始めた。
「え?」
唖然とする司会者。
優花は頭にティアラ、女王のマントを羽織り、突然の行動に静まり返った観客の中をまっすぐ歩いて行く。
「ゆ、優花ちゃん、どこへ……?」
ステージにいた司会者の小さな声ももう皆の耳は届かない。
そして優花は花束を持ったまま、ステージから一番離れた場所にいたある男の方へと歩いて行く。
(お、おい、嘘だろ!? なんで……)
優花はそのままタケルの前に来てマイクを持って言った。
「私の目標はあなた。一条君、私と付き合ってください」
会場中に響く声。マイクを両手で持ち、顔を赤くした優花が目に涙を溜めて言った。
(桐島……)
余りに突然のことに脳の処理速度が追い付かないタケル。そんな彼はもちろん彼女の目が綺麗な水色に染まっていたことなど気付きもしなかった。
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