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普通の幸せ
しおりを挟む「…寂しくなるね」
由莉は、ただその一言を呟いた。
そして私も、ただ一言。
「…うん」
そう呟いた。
今日は卒業式だ。
私達は中庭の中央にある大きな木が生えている花壇に座っていた。
クラスメイト達は、それぞれ泣きながら笑いながら別れを惜しんでいた。
由莉とは、小中高ずっと一緒だった。
大切な親友であり━━━━恋人だ。
その関係は、ずっと続くと思っていた。
「…ねぇ、紗綾、私たち、別れよっか」
由莉は、はっきりとその言葉を口にした。
「……。」
私には黙って、由莉の次の言葉を待つことしか出来なかった。
「…高校も卒業だし、いつまでもこんなことできないでしょ?」
『こんなこと』その言葉が重くのしかかった。
私たちの関係は、所詮『こんなこと』だったのだろうか。
女の子同士なんて…。
そうだ、忘れよう。
これは、思春期特有の思い違い。
由莉とは、今までもこれからも親友なんだ。
「…そっか。わかった……。」
由莉は、私の言葉に安心したのか、
少し安堵の表情を見せた。
由莉は、花壇から軽くジャンプするように降りた。
そして、子供っぽいと嫌がっていた、おさげをほどいた。
振り返り由莉は言った。
「さーちゃん、大好きだったよ」
笑顔だった。
昔から変わらない笑顔。大好きな笑顔。
「…うん。私も大す…ッ」
その言葉を返そうと思ったが、由莉に止められた。
「…えへへ、キスしちゃった」
こんなに悲しいキスは初めてだった。
「…じゃあね、紗綾」
彼女は、その一言と赤いヘアゴムを残し去っていった。
「…そんなのずるいよ」
私は人目を避け、誰もいないところを探した。
今は、今だけは1人になりたい。
由莉は、いつもそうだった。
いきなり、女の子が好きだ。と言われた。
そして、私のことが好きだと言われた。
私はずっとずっと大好きだったのに、
由莉から付き合おうと言われ、恋人になった。
最後だって、『大好き』その一言さえ言わせてくれない。
本当に身勝手だ。
「…大好きだよ…由莉ちゃん…」
涙が止まらなかった。悲しかった。
辛かった。
彼女は、これから先、
素敵な旦那さんを見つけて、赤ちゃんを産んで、幸せな家庭を築くのだろうか。
私には、その『普通の幸せ』を手に入れることが出来るのだろうか。
私は、由莉のことを忘れることが出来るのだろうか。
初恋は、甘酸っぱくて素敵な恋だと思っていた。
なのに、
私の初恋は、とても辛く悲しい恋だった。
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