学校専用肉便器に恋した話

眠りん

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後編

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 俺は意を決して彼に声をかけた。

「あの……」

「あっ。赤津……君」

 彼はボロボロなのに綺麗で、美しいと思った。俺が彼を幸せにしたい、とも思った。

「名前……覚えててくれたんだ?」

「一日一緒に過ごしましたし……」

 夏休み。学年トップを取った報酬に、彼と一日過ごした。俺は何も出来なかった。
 今までもずっと、何もして来なかった。ただ見ているだけだった。

「ごめん、何も出来なくて」

「何がですか?」

 彼はきょとんと困ったように首を傾げる。

「いじめ、止められなくて。学校もおかしいよ、こんなの」

「あぁ、だから昼に邪魔してくれたんですね?」

「じゃ……邪魔、だなんて……」

「今後、僕が何をされても無視してください。あなた、僕をいじめる気ないですよね?
 それなら傍観者のままでいてくれた方がマシです」

 彼の目が冷たくなった。いつものオドオドとした雰囲気は一切ない。これが本当の彼なのか?

「あの、俺……あなたが好き……です」

「はい、知ってますよ。だから何だというのです? あなたは僕が好き、僕はあなたが邪魔だと思ってる。
 それで終わりです」

「待ってよ! なんだってあなたはいじめを受け入れてるの? こんなの酷いよ。
 それとも、本当にドMなの?」

「はぁ……。君が頭が良いのはテストの点数だけって事かな? 学校側にそう報告しておこう。次、君が学年トップの場合、一日デート権は二位の人に与えるようにしてもらう」

 彼は苛立ちの表情を見せた。俺に怒っているようにも見える。

「なんで!? 俺は君を助けたいだけだよ。俺が君を守りたいんだ」

「いらない。必要ない。これは僕が納得してやってる事だ。
 一つだけ教えてあげる」

「何を……?」

「僕が学校でいじめられ役をやってるのは金の為だよ。月給も入ってるし、結構良いマンションに住めてるんだよね。
 卒業後の進路も決まってるし、君達より良い人生のレールが敷かれてんの。三年間いじめられるくらい、我慢出来るよ。
 僕、天涯孤独ってやつでさ。親がいる奴らより人生ハードモードだし。
 それなら三年間不遇な立場になったとしても、その後ずっと安泰なら勝ち組でしょ。
 だから、邪魔すんな」

 キッ! と睨まれる。見下されていたのは俺達の方だったんだ。それを知っても、彼の綺麗さは変わらない。好きな気持ちも、すぐに捨てられるものなんかじゃない。
 ここで話を終わらせてやるもんか。

「学校はなんでこんな事……」

「学校はある研究室から依頼されて協力してるだけ。これはいじめに関する加害者の心理状態の変化を見る実験だからね。君達は被験者ってところ。
 まさか犯されるとは思わなかったけど」

「嫌な事我慢する事ないじゃん! なんなら俺が君を──」

「守るって? ガキが妄想膨らませてんなよ。大人の世界はシビアだ。
 資本主義社会じゃ、金を持ってる奴が勝つ。持たざる者は搾取されるだけなんだ。
 僕はもう搾取されるつもりはない。たった三年我慢して、残りの人生楽になるんならそっちを選ぶ。
 君も、あと数年したら分かる」

「あなたは、大人……なの?」

 年上には見えない。年下だと言われれば納得しそうな程、あどけない顔に華奢な体躯だ。

「さてね。これ以上は教えない。君は明日からも傍観者でい続けてよ。まぁ邪魔したらそれはそれで実験の結果の一つになるだけだから、それでもいいならやれば?」

 彼はニッと優しく笑うと俺に背を向けた。尻のズボンは切れていて白い尻が俺を誘っているかのようだ。
 だが、ハッキリとした拒絶が頭から離れない。この尻を独り占めしたかったのに、それは叶わない。

「じゃ、また明日ね」

 笑顔で手を振られる。俺は咄嗟に手を振り返してしまった。 
 まだ話したい事がたくさんあるのに、彼は学校へと戻ってしまった。

 これで俺の初恋は終わった……──。


 それからも彼は毎日犯され続けた。学年が上がって、彼とクラスが変わっても、俺は傍観者であり続けた。
 恋心がなくなるはずもなく、悲しい気持ちで彼を見ていた。学期末試験は毎回トップだったが、声がかからないという事は彼に拒否されているという事だ。
 好きな人に嫌われてしまった事実も悲しい。それでも好きな気持ちはまだ続いていた。

 三年に上がったある日、その日は朝から頭痛が酷く、授業中に医務室で休む事にした。
 医務室へ向かう途中、彼が廊下の隅でうずくまっているところを見てしまった。
 今日も朝から犯されて、最近は乱暴な後輩から殴られたりもしていた。どこか痛めたのだろうか? 心配になる。

「君、大丈夫か?」

「赤津君か。何? ようやく君も僕をいじめたくなった?」

 彼はゆっくりと青白い顔を向けてきた。俺以上に体調悪そうだ。

「そんなわけないだろ」

「だよね、赤津君、偽善者だもんね」

「偽善者でもいいよ、俺と医務室行こう。こんな日くらい休めよ」

「そうしようかな。ちょっと体調悪くて。疲れてるし、一週間くらい有給使おうかな」

「有給あるのかよ」

「まぁね。赤津君はこんなところでどうしたの? 今授業中でしょ? グレた?」

「俺も体調不良なんだよ。ったく、こんな事まだ続けてるなんて」

「とか言いながら毎朝僕のエッチなところ見てる癖に。でも僕の役目もあと半年ってところだよ。寂しい?」

「……寂しい。あなたに会えなくなるのが寂しい」

「相変わらずだなぁ。僕に優しくしてくれたのは赤津君だけだったよ。ありがとう。君はこんな僕の事なんてすぐに忘れて、良い人生歩んでね」

「あなたこそ。絶対幸せになってよ。こんな毎日忘れちゃうくらい」

「ふふ。本当、赤津君は優しいね。そういうとこ苦手だったけど……寂しくなるなぁ」

 二人で医務室に行った。彼はすぐに帰宅し、俺は昼休みまでベッドで休んだ。
 彼と関わったのはそれが最後だった。


 俺は高校を卒業して大学に入った。順風満帆だったと思う。就活は大変だったけど、大学卒業後はそこそこの企業に入って、一人暮らしを始めた。
 社会人としての生活にも慣れて、周りから「彼女でも作れ」なんて言われるようになった。
 それでも、俺の頭に残っているのは初めて恋をした彼だけで。それ以外の誰とも付き合う気にはなれない。
 きっと今、彼は幸せで豊かな人生を歩んでいるに違いない。その為にあんな非道な行為を受け入れていたのだから……。

 そんなある日。夜、仕事帰りに偶然彼を街で見掛けた。スーツ姿だが、まだ十代でも通用しそうな童顔だ。疲れきった顔に、辛そうに寄せている眉間が哀れだ。
 たまたまだった。飲み屋街で見掛けた彼は身なりこそ上等だが、それに見合った顔付きをしていない。

「な、なぁ!!」

 名前が分からないから必死に呼んだ。彼は面倒そうな顔を一瞬してこちらに顔を向けると、目を丸くした。

「あ……あか……なんだっけ?」

「赤津だよ! 久しぶり。どうしたんだ?」

 心配して近寄ると、彼は自嘲するように笑って答えた。

「久しぶり。赤津君は昔と変わらないね。笑える話、高校出た後企業に就職して、ずっと安泰~なんて思ってたらコレだよ。あははっ」

「何があったの?」

「一流企業に入社出来たのは良かったんだけど、やる事って結局高校時代と変わらなかったんだよね。
 僕の仕事は皆の性処理する事で、相手は男女問わずになるし、枕営業させられるし」

 彼は悔しそうだった。俺も悔しい。高校さえ出てしまえば、もう苦しむ事はないと信じていただけに、彼からしたら裏切られた気分になっただろう。

「なんですぐ辞めないんだよ!? 訴えれば良いだろうに」

「出来ないよ。俺を拾ってくれた人に恩を仇で返すなんて事、出来ない。
 赤津君にあんな偉そうな事言ってさ、拒絶して、結局コレだ。良い気味だと思うでしょ?
 僕も自業自得だって思うよ」

「そんな事思わないよ。あなたは頑張ったじゃないか。こんなに辛い思いして、それでも逃げずに戦ってるじゃないか。
 偉いと思う。俺はあなたをずっと……昔からずっと尊敬していたよ。それは今も変わらない」

 とうとう俺は彼を抱き締めてしまった。嫌がられているだろうか、拒まれるだろうか。そんな恐怖がないわけではない。
 ただ、彼の身体を支えたいと思った。無意識に思うがままに動いていた。

「赤津君」

「俺、あなたが好きだ。昔から、今もずっと好きだ。そんな会社辞めて、俺にあなたを救う権利をくれませんか?」

「僕を、救う?」

「これからは俺があなたの支えになるよ。ヒモになって一生遊んで暮らしていい。俺の傍にいてくれるだけでいい。
 あなたがやりたいと思った事、出来る範囲で全部やろう。全部付き合うよ。
 安心して欲しい、肉体関係の要求は一切しないから。あなたから求められたら……したい、とは思うけど……」

「な、何それ。それ、赤津君に何の得があるの?」

「俺が嬉しい。あなたが毎日俺の隣にいてくれたら、俺が幸せになれるんだ。
 ダメかな? あなたに得がないかな?」

「なくないよ! 僕に得しかない、赤津君に不利な条件ばっかり提示して、赤津君はそれでいいの?」

「うん。俺がそうしたい。今度こそは頷いてくれないか?」

 俺の顔を見上げて、困惑した表情を見せる彼は、目を伏せると共に頭をゆっくりと下へ下げた。そして、また顔を上げてじっと俺を見つめた。

「成立だな」


 それからすぐに、これから営業の予定だという彼を引っ張って自宅に連れ帰った。一人でも十分広いアパートの部屋に彼がいる。
 少し狭くなったように感じて嬉しくなった。

「どうしよう……。そこまで大口の顧客じゃないけど、それなりに付き合い長い取引先だから、すっぽかしたら大騒ぎだ」

「そんなの気にすんな。やってる事は犯罪だ。大事にはしないだろ。
 そうだ、明日にでも私物をこっち持って来いよ。貴重品とかさ。辞めるって言えないんなら退職代行サービス使えばいいさ」

「うん」

「それよりさ、昔からずっと知りたかった事があるんだ」

「なに? 真剣な顔して……借金とかないから安心してよ」

 俺はどんな顔をしてるんだろう? 彼は一瞬ビクリと身体を震わせた。怖い顔になっているのかもしれない。

「あなたの名前が知りたい」

「……あぁ、ごめんね。そういえば名前で呼ばれる事なんてずっとなかったな。赤津君に呼んでもらえるの、なんか嬉しい」

 彼はクスクスと楽しそうに笑うので、俺は口を尖らせてみせた。早く知りたいと急かす。

「もったいぶるなよ」

田宮洸希たみやこうき。親が生きてた頃はこー君って呼ばれてたよ」

「そう呼べってこと?」

「察しろよな」

「じゃあこー君。俺は親にトモ君って呼ばれてるからそう呼んでよ」

「トモ?」

「俺の下の名前、智樹っていうの。赤津君って呼ぶの禁止な」

「分かったよ、トモ君」

 ニコッと可愛い笑顔を見せたこー君が、急に立ち上がった。どこに行くのかと見ていると俺の隣に座って肩にもたれかかってきた。

「これからよろしくね、トモ君」

「こちらこそ、こー君」

 俺の下半身が反応しないわけがない。けれど、それに気付かれないように堂々とこー君に寄り添った。
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