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不倫して別れた元妻が、久々に会ったら酷い事になっていた
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俺は自分で言うのもなんだが、一流企業勤めで収入が良く、サラリーマンの中ではエリートの方だ。
共働き夫婦が増えている中、俺は二十五歳にして、妻を一人で養っている。
俺は妻の由利江を愛している。彼女に苦労させない為ならどんな事でも頑張れる……そう思って仕事に励んでいた。
今思えば、家庭を顧みない夫になっていたのかもしれない。
そんな夫婦生活が二年目に差し掛かる頃、由利江の様子がなんだかおかしくなった。
由利江は俺より二歳年上の、二十七歳だ。
職場で知り合ったのだが、その頃から由利江は大人しく、清楚で、いつもニコニコと微笑んでいる女性だった。
大声で笑ったりしないし、食事の所作も優雅で、見ただけでお嬢様なのだと分かる。
実際、由利江の両親は会社経営をしており、裕福な家庭だ。
だが、そんな由利江が元気がない日が続いた。俺は「悩みでもあるのか?」と聞いたが、顔を青くして首を横に振るだけだ。
かと思いきや、急に声を上げて笑い出す時もあったり、俺に不満げな顔を向ける時もあった。
俺は女性とはそういうものだと思っていた。特に俺の母親が、俺がまだ幼少期に情緒不安定で、急に怒り出したりする事があったからだ。
今まで由利江は無理していたのだろうから、家や俺の前でくらい感情を爆発させても受け入れよう……俺はそんな風に思っていたんだ。
だが、それは間違いだった。それから由利江は夜間の外泊が多くなった。
最初は友人とお泊まりだと言ったり、実家に帰省すると言ったりしていたが、それが週に一~二回と頻繁なのだ。
俺は興信所に依頼し、由利江の素行調査を依頼した。結果は真っ黒だった。
友人との泊まりは、ガラの悪そうな男とラブホテルにお泊まりで、家を出る時は落ち着いた化粧なのに、途中公園によって化粧直しをして、色っぽい化粧にしてから男と会っていたのだ。
ショックが大きくて、泣き出したくなった。俺は知らない男と、愛する妻を共有させられていたのだ。
気持ちが悪くてどうにかなりそうだ。
俺はすぐに俺の両親と、由利江の両親を呼び、四人で話し合った。
「由利江、なんでこんな事をしたんだ?」
まず俺は由利江に聞いた。理由があれば知りたかった。
俺にも責任はあると思ったからだ。もっと早く気付いていれば……、ずっと後悔していた。
「……全部、私が悪いのよ。
二ヶ月前かな、友達に無理に誘われて飲みに行ったの。彼はそこで……」
由利江は言いにくいのか言葉が途切れた。
「そこで知り合ったんだな? ナンパされて付いて行ったのか?」
「うん……。私、断れなくて、男の人が怖くて、言う事を聞いてしまったの。
友達も、それくらい皆やってるって……。バレなきゃ大丈夫だよって言われて……」
由利江はたどたどしく説明をする。確かに由利江は大人しい性格だ。
働いていた時も、人からの頼みを断れずに仕事を抱え込んでいた。
俺が由利江の仕事を手伝い始めた事で距離が縮まったのも確かだ。
だが、どんな事情があるにせよ、不倫は事実だ。俺はどうしても許す事が出来なかった。
「どうして断ってくれなかったんだ?」
「友達に嫌われたらどうしようって……。断って男の人に暴力を受けたらと思うと怖かったの」
「俺に嫌われるとは思わなかったのか?
男に乱暴されたのか?」
俺は責めるように問い詰めた。だが、由利江は泣いてしまって話にならない。
俺の両親も、義父母も暗い顔で、俺達の話を聞きながら、義父母は俺に何度も謝っていた。
とにかく今事実として、由利江が不倫をした事は分かっている。
それなら答えは一つしかなかった。
「由利江、離婚だ。俺は不倫するような人をもう信用出来ないし、今後一緒に人生を歩めると思えない。
君の優しく奥ゆかしい性格が好きだったけれど、男に誘われて断れない人だとは思わなかった。
財産分与はしない代わりに、慰謝料は要らない。だから何も言わずに離婚してくれ」
由利江が頷くと、俺は席を立ち、その話し合いから離脱した。
それから俺の行動は早かった。翌日には、離婚届をテーブルに置いて家を出た。
しばらくはホテル暮らしをしながら仕事をしていたが、ここは由利江との思い出が多過ぎる。
どうしても辛くて、俺は会社に退職届を出し、辞めた後は遠く後へと旅立った。
後に親から、由利江が離婚届を提出したと報告があった。
慣れない土地での新しい環境。それは傷付いた俺の心を癒すにはちょうど良かった。
新しい職場は一流企業ではなかったが、そこそこ大手の企業に入れたし、残業が殆どない職種なので、趣味に映画鑑賞をするようになり、空いた時間を有意義に過ごしていた。
そんな生活も三年。俺は二十代後半にさしかかった。周りからも、良い女性を見つけて再婚したら? と言われる。
俺は再婚は考えられなかった。
まだ胸の奥には由利江がいて、まだ夢に見るんだ。
俺と由利江が温かい家庭を築いていて、不倫なんて事実は存在しなかった。
そんな幸せな夢を見ては、朝現実に戻ると落胆している。
あの時、一度だけでも不倫を許していたら、と考えては否定する。
俺は他の男に抱かれた由利江をもう愛する事は出来ない。
きっと由利江に触れる度に、他の男の影がチラついて、もう抱く事は出来ない。
ある休日の日の事。俺はレンタルビデオ屋にでも行こうと外をプラプラ歩いていた。
閑静な住宅街を歩いていると、前から女性が歩いてきた。
その隣をトコトコと歩き慣れない様子で、二歳程の男の子が歩いている。
女性は男の子に合わせながら前に進んでおり、
「あんよが上手、あんよが上手」
微笑ましい母子の一場面。だが、俺は彼女を見て身体が硬直した。
その女性は由利江だったから……。
俺が呆然と二人を見つめていると、由利江も俺に気付いた。
その瞬間──、由利江は子供を抱きかかえ、俺に背を向けた。
「ごめんなさい。私の顔なんか見たくないのに……。でも、あなたがここにいるなんて知らなかったの。本当よ。
私、西区の方に住んでるの。こっちの方にはもう来ないから。
ごめんなさい」
由利江は何度も謝ってきた。
ここは俺や由利江の実家からも遠く、会う筈がなかった。
だから一瞬、由利江が俺に会いに来てくれたのかと思いそうになったが、違うようだ。
「由利江はなんでここに?」
「だ、旦那の転勤で……」
「子供は一、二歳くらいか? 俺と離婚した後に出来たんだな?
不倫相手との子かよ?」
俺は何故か由利江に質問攻めをしていた。
もう離婚した他人だ。気にする必要のなんかないのに。
「ごめんなさい。もう行くね。これからは擦れ違っても、知らない人のフリをしよう。
あなたには本当に悪い事をしたと思ってる」
由利江はそう言うと、子供を抱いたまま来た道を戻って行った。
俺はまだ聞きたい事がたくさんあった。
今なら落ち着いて由利江の話を聞いてあげられる余裕がある。
あの時、何故不倫をしたのか? あれからどうやって生きてきたのか? 子供はなんていう名前をつけたのか? 今の旦那とは上手くやれているのか?
今、君は幸せか?
不倫した女なんて、もうどうだっていい筈だ。許す気なんて一切ない。
それなのに、まだ由利江に未練でもあるのか。
それからは由利江を見掛ける事は一切なかった。西区に住んでいると言っていたが、俺の職場は奇しくも西区にある。
だが、出勤や退勤時に由利江を見掛ける事はなかった。
それから三年程が経った。由利江と出くわす事もなく、俺は平穏に暮らしていた。
合コンで知り合った女性、沙織とLINEでやり取りをするようになり、もう少し慣れてきたら交際を申し込もうかと思っていた。
そんなある日、職場の後輩から仕事で相談があると言われ、退勤後に後輩の行きつけの居酒屋に寄った。
散々愚痴を聞き、泣き始めてしまった後輩を慰めて、解散した。
帰りは、普段通る事のない道を歩いた。
住宅地を抜ければ知っている道に辿り着くだろう、そう思い歩いていると、アパートの一室から怒号が響いた。
物が壊れるような音、悲鳴に、俺の足は止まった。
その後すぐに、問題の部屋と思われる一室のドアがバンッと開き、女性が子供を抱きかかえて出てきた。
その女性の顔は痣だらけで、身体は痩せ細っていて、見るだけで痛々しい。
俺はそれが由利江だとすぐに分かった。
由利江は俺に気付かず、すぐ側を横切って走っていった。
抱えている子供は、三年前に会った時の子だろう。小学生前と思われる幼児だった。
気付けば俺は走っていた。由利江を追いかける。
意外と由利江の足は速く、運動不足の俺ではなかなか追い付けない。
だが、由利江は小さい公園に着くと、足を止めた。
「ゆ……由利江……」
俺が声を掛けると、由利江は驚いた顔で振り返った。
その瞬間顔が真っ青になり、涙を流し始めた。
「由利江? どうしたんだ?」
「ごめんなさい! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
身体を震わせて泣きながら何度も謝る。地面に下ろされた子供は、由利江を見て驚き、
「お母さん、大丈夫? 痛い?」
と、心配している。
「もう謝るな。怒ってないから」
俺は由利江を抱き締めていた。
他人の男に抱かれた身体など、もう触れないと思っていたのにもかかわらず、気付けば触れていた。
由利江が汚いとは思えなかった。こんなにも小さく震えて、あまりにも哀れだった。
「駄目。あなただけは私を怒らなきゃ。
私、あなたに酷い事をしたの。許されない罪を犯した。
だから……」
「うん。怒るかどうかは俺が決める。それより、君の話が聞きたいよ」
それから由利江は、子供……高志君に公園で遊ぶように言った。
高志君が視界に入る位置にあるベンチに、並んで座った。
「実はね、高志はあなたの子なの」
由利江は怯えた顔で俺に告白した。さすがに俺も驚く。
「な、なんだって!?」
「ごめんなさい。本当は離婚した時、私妊娠してるの分かってたの。
その時はもう妊娠三ヶ月だったし、不倫していたのは二ヶ月間だけだったから、あなた以外に有り得ないのよ」
「どうして言わなかった?」
なるべく責めないようにゆっくりした口調で聞く。
「だって、子供が出来たらあなたを縛りそうで、言えなかった。
あれだけあなたを傷付けたのに、子供がいるから養育費を払わせるなんて……、あなたに負担を強いる事はしたくなかったの」
「それは今の旦那は知っているのか?」
「ええ。あなたと離婚した時に言ったわ。
不倫がバレて離婚したけど、お腹には夫の子がいるって。
どうしたらいいだろう? って相談したの。
そしたら、じゃあ俺と結婚して、俺の子として育てていいって。
だから、私、その通りにしてしまったの」
由利江の話をそのまま信じる事は出来ない。
間男はなんだってそんな要求をしたのか、理解出来ないからだ。
由利江を本当に愛しているから、自分の子でなくとも、一緒に育てる覚悟を決めたという様にも見えるだろう。
だが、現に今その間男は、由利江を苦しめ、高志君も幸せに出来ているとは思えない。
「なんだってそんな事……」
「ごめんなさい。全部私のせいなの。
今じゃ、子供を認知してやったよな? って言って、無茶苦茶な要求ばかりされるのよ」
「無茶苦茶な要求?」
「家事と育児は全て私一人でやれとか。子育ての分の費用は、私が働いて稼げとか。
スマホは旦那と仕事以外の連絡先は入れてはいけないとか……。
旦那の命令は絶対に聞かないと、殴られるようになった」
要するに、モラハラとDVを受けているという事だ。
酷い内容に、俺は顔を顰めた。
「でもね、私が旦那の言う事を聞けば、子供には何もしないって言ってくれてるの。
それにこうなったのは、全部私の自業自得だし、こんな状況を受け入れてるんだ」
俺は心のどこかで、由利江が俺に助けを求めてくれるのではないか、そう思っていた。
だが、由利江は俺に救いを求めちゃいなかった。
高志君を見て微笑んでいる。笑える状況でもないだろうに、全ての不幸を受け入れ、それが当然だとでも思っているかのように……。
由利江を追い詰めたのは誰だ? 不倫相手である今の旦那か? それとも俺か?
由利江は大人しい性格だ。仕事でも、人に頼まれたら断れなくて、終わらない仕事を抱えて残業するような、不器用な人だ。
不倫したのだって、元々は友人に飲みに誘われ、その時にナンパされて、断りきれずに抱かれたと言っていた。
本当は由利江は断ったんじゃないか? でも、無理矢理誘われて、恐怖で断れなかったんじゃないか?
「由利江。本当は、不倫じゃなかったんじゃないか?
例えば……乱暴された、とか……」
俺が恐る恐る聞いてみると、由利江は悲しそうに笑った。
「もう。たっくんは優し過ぎるよ」
たっくん……。離婚するまで由利江が呼んでいた俺のあだ名だ。
一瞬にして、由利江と愛し合っていた頃の時間に戻ったような錯覚に陥った。
「例え乱暴されて、写真を撮られて、それをネタにされたとしても……私はたっくんに相談しなかった。
嫌われるのが怖くて、相手の言われるがままに要求を受け入れ続けたんだよ。
旦那は、私を不幸にしたいんだって。
私は覚えてないんだけどね、学生時代に彼が私に告白したんだって。
私が男の人が苦手だからって言って振ったのに、たっくんと結婚したから、ずっと復讐したかったんだって」
例え話……じゃないよな。これはあの不倫について話し合いをした時、由利江が言おうと思って言えなかった事だ。
だとしたら、由利江は悪くないじゃないか。
全てはあの男が悪かったのだ。
何故由利江は全てを受け入れているんだ? こんな不幸があっていいわけがないのに。
「どうして、今更そんな話……」
「うん。だからね、もう私の事は忘れて。たっくんはたっくんの幸せを見つけて欲しい」
気付いたら、俺の目からはボタボタ涙が零れては落ちて、ズボンに吸い込まれていった。
すると、高志君が俺の前まで来ていた。
「おじさん、大丈夫?」
オロオロと俺を心配しているようだ。確かによくよく見てみれば、高志君の目元とか、俺によく似ている。
「大丈夫だよ」
「お母さんとケンカしたの?」
「ううん。俺が君のお母さんに酷い事をしたんだ」
「じゃあ、あやまって仲直りだね」
俺は「そうだね」と言って頷いた。由利江は、高志君に、
「違うよ。私が悪い事をしたんだよ。謝っても、もう許されない悪い事をしたの」
「あやまっても?」
「そう。だから、私は幸せになっちゃいけないんだ。でもね、高志は悪い事してないから、あなただけは私が幸せにするからね」
由利江はまた高志君を抱っこすると、その場から立ち去った。
「たっくん、もう私に関わらないでね」
そんな言葉を残して……。
俺はどこで間違えたのだろうか。由利江の為と言いながら、一流企業でバリバリ働く自分に酔って、由利江をずっと一人きりにさせていた。
由利江がおかしくなっても、女性だからよくある事だろうと放置した。
あんなに分かりやすい外泊を続けていたのは、俺にSOSを伝えようとしていたのではないか?
それなのに俺は何をした?
興信所に頼って、由利江の不倫の証拠を押さえて、責めた。
本当は乱暴されて、心も身体も傷付いていたのは由利江の方だったのに。
俺はその翌日、午前休をもらった。予め用意しておいた物を持って、由利江のアパート前で待つ。
間男が仕事に出たのを確認し、ごみ捨てに出てきた由利江を捕まえた。
「由利江!」
「あっ……」
由利江は俺から目を逸らして、知らないフリをしようとした。
そんな由利江の手を掴んだ。そして、袋を手渡す。
「この中に小型監視カメラと、小型のボイスレコーダが入ってる。
俺の連絡先も。これでモラハラやDVの証拠を掴め。それでさっさと別れろ。
養育費くらい俺が出す。つか、俺の子なら、俺に養育義務があるんだ。
全部片付いたら、連絡くれよ」
伝えたい事を全て話し、たちさろうとすると、由利江が、
「どうしてここまでしてくれるの?」
と聞いてきた。
「お前の家の家庭環境じゃ俺の子供が不幸になるだろ。
せめて子供くらいは幸せにしてくれよな」
変なプライドが邪魔をして、そんな言い方になってしまった。
本当は、由利江と高志君は大事な人だから、このまま放置出来るわけないだろ、と言ってあげたかったが。
それから一ヶ月が過ぎた。俺は合コンで知り合った沙織に「好きな人が出来た」と言って、別れを告げた。
と言っても、まだ付き合ってすらいなかったが。
だが、半年が過ぎても、由利江からは何も連絡はこない。
俺は由利江の家に足を運んだが、既に空き室になっていた。
隣の部屋の人に聞いたところ、モラハラ夫は逮捕され、過去にも色々やらかしていたようで、実刑判決が下ったそうだ。
その流れで、由利江が高志君を連れて実家に戻ったという情報を得られた。
由利江に連絡しようと思ったが、由利江や、由利江の実家の連絡先を知らない。
離婚の時に傷心で全て消してしまったのだ。
俺は母に連絡をする事にした。
母なら由利江の実家の連絡先を知っていると思ったからだ。
だが、母も知らないらしい。
俺は、数日有給を取得し、地元へ帰ってきた。
実家へは戻らずに、すぐに由利江の実家に向かった。
チャイムを鳴らし、出てきた元義母は俺を見て驚いた顔をしていた。
「どうしたんですか?」
と、聞いてくる元義母に俺は膝を着き、土下座をした。
「以前は大変申し訳ありませんでした!!」
「一体どうしたんです? 謝るのはこちらの方……」
「いえ! 由利江さんの件、悪いのは全面的に私です!
娘さんを不幸にしてしまい、大変申し訳ありませんでした!
ですが、もう一度だけ、たった一度でいいですから、俺にチャンスを下さい!
由利江さんを幸せにするチャンスを…!」
俺の声で気付いたのか、由利江が家の奥から走って出てきた。
「たっくん……!」
「私は今度こそ由利江さんを幸せにしたいのです。高志君も一緒に。
今度こそ間違えません。家族を大事にすると誓います!」
俺の必死の叫びは、近所中に聞こえていたらしく、由利江は顔を真っ赤にしていて、俺も恥ずかしかった。
そこで俺は由利江に婚約指輪を渡した。
「また俺と結婚してください!」
そう叫んで……。由利江は泣きながら、何度も頷いていた。
それから俺と由利江は夫婦に戻った。高志もすぐに俺に懐いてくれて、仲良し家族だ。
結婚するにあたって、俺と由利江は約束事を交わした。
何かあったら必ず相談する事。この約束だけは必ず守るように決めた。
それから由利江は些細な事でも俺になんでも聞くようになった。
俺が家にいる時は、俺の傍を離れようとしないのだ。可愛くて、愛しくて……俺は由利江への愛が止まらなくなった。
そんな俺と由利江を高志が茶化してくる。
だから、俺と由利江とで、高志を挟んで抱き締めた。
君は俺と由利江の大事な宝なのだよ、そう言いながら──。
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※
お読みいただき、ありがとうございます。
どんな理由があるにせよ不倫を許すのは読者が嫌がるので…とボツになった作品です。
当人がいいなら別にいいと思うんですが。結構過激な考えの方も多いのも事実。
こちらに投稿させていただきました。
共働き夫婦が増えている中、俺は二十五歳にして、妻を一人で養っている。
俺は妻の由利江を愛している。彼女に苦労させない為ならどんな事でも頑張れる……そう思って仕事に励んでいた。
今思えば、家庭を顧みない夫になっていたのかもしれない。
そんな夫婦生活が二年目に差し掛かる頃、由利江の様子がなんだかおかしくなった。
由利江は俺より二歳年上の、二十七歳だ。
職場で知り合ったのだが、その頃から由利江は大人しく、清楚で、いつもニコニコと微笑んでいる女性だった。
大声で笑ったりしないし、食事の所作も優雅で、見ただけでお嬢様なのだと分かる。
実際、由利江の両親は会社経営をしており、裕福な家庭だ。
だが、そんな由利江が元気がない日が続いた。俺は「悩みでもあるのか?」と聞いたが、顔を青くして首を横に振るだけだ。
かと思いきや、急に声を上げて笑い出す時もあったり、俺に不満げな顔を向ける時もあった。
俺は女性とはそういうものだと思っていた。特に俺の母親が、俺がまだ幼少期に情緒不安定で、急に怒り出したりする事があったからだ。
今まで由利江は無理していたのだろうから、家や俺の前でくらい感情を爆発させても受け入れよう……俺はそんな風に思っていたんだ。
だが、それは間違いだった。それから由利江は夜間の外泊が多くなった。
最初は友人とお泊まりだと言ったり、実家に帰省すると言ったりしていたが、それが週に一~二回と頻繁なのだ。
俺は興信所に依頼し、由利江の素行調査を依頼した。結果は真っ黒だった。
友人との泊まりは、ガラの悪そうな男とラブホテルにお泊まりで、家を出る時は落ち着いた化粧なのに、途中公園によって化粧直しをして、色っぽい化粧にしてから男と会っていたのだ。
ショックが大きくて、泣き出したくなった。俺は知らない男と、愛する妻を共有させられていたのだ。
気持ちが悪くてどうにかなりそうだ。
俺はすぐに俺の両親と、由利江の両親を呼び、四人で話し合った。
「由利江、なんでこんな事をしたんだ?」
まず俺は由利江に聞いた。理由があれば知りたかった。
俺にも責任はあると思ったからだ。もっと早く気付いていれば……、ずっと後悔していた。
「……全部、私が悪いのよ。
二ヶ月前かな、友達に無理に誘われて飲みに行ったの。彼はそこで……」
由利江は言いにくいのか言葉が途切れた。
「そこで知り合ったんだな? ナンパされて付いて行ったのか?」
「うん……。私、断れなくて、男の人が怖くて、言う事を聞いてしまったの。
友達も、それくらい皆やってるって……。バレなきゃ大丈夫だよって言われて……」
由利江はたどたどしく説明をする。確かに由利江は大人しい性格だ。
働いていた時も、人からの頼みを断れずに仕事を抱え込んでいた。
俺が由利江の仕事を手伝い始めた事で距離が縮まったのも確かだ。
だが、どんな事情があるにせよ、不倫は事実だ。俺はどうしても許す事が出来なかった。
「どうして断ってくれなかったんだ?」
「友達に嫌われたらどうしようって……。断って男の人に暴力を受けたらと思うと怖かったの」
「俺に嫌われるとは思わなかったのか?
男に乱暴されたのか?」
俺は責めるように問い詰めた。だが、由利江は泣いてしまって話にならない。
俺の両親も、義父母も暗い顔で、俺達の話を聞きながら、義父母は俺に何度も謝っていた。
とにかく今事実として、由利江が不倫をした事は分かっている。
それなら答えは一つしかなかった。
「由利江、離婚だ。俺は不倫するような人をもう信用出来ないし、今後一緒に人生を歩めると思えない。
君の優しく奥ゆかしい性格が好きだったけれど、男に誘われて断れない人だとは思わなかった。
財産分与はしない代わりに、慰謝料は要らない。だから何も言わずに離婚してくれ」
由利江が頷くと、俺は席を立ち、その話し合いから離脱した。
それから俺の行動は早かった。翌日には、離婚届をテーブルに置いて家を出た。
しばらくはホテル暮らしをしながら仕事をしていたが、ここは由利江との思い出が多過ぎる。
どうしても辛くて、俺は会社に退職届を出し、辞めた後は遠く後へと旅立った。
後に親から、由利江が離婚届を提出したと報告があった。
慣れない土地での新しい環境。それは傷付いた俺の心を癒すにはちょうど良かった。
新しい職場は一流企業ではなかったが、そこそこ大手の企業に入れたし、残業が殆どない職種なので、趣味に映画鑑賞をするようになり、空いた時間を有意義に過ごしていた。
そんな生活も三年。俺は二十代後半にさしかかった。周りからも、良い女性を見つけて再婚したら? と言われる。
俺は再婚は考えられなかった。
まだ胸の奥には由利江がいて、まだ夢に見るんだ。
俺と由利江が温かい家庭を築いていて、不倫なんて事実は存在しなかった。
そんな幸せな夢を見ては、朝現実に戻ると落胆している。
あの時、一度だけでも不倫を許していたら、と考えては否定する。
俺は他の男に抱かれた由利江をもう愛する事は出来ない。
きっと由利江に触れる度に、他の男の影がチラついて、もう抱く事は出来ない。
ある休日の日の事。俺はレンタルビデオ屋にでも行こうと外をプラプラ歩いていた。
閑静な住宅街を歩いていると、前から女性が歩いてきた。
その隣をトコトコと歩き慣れない様子で、二歳程の男の子が歩いている。
女性は男の子に合わせながら前に進んでおり、
「あんよが上手、あんよが上手」
微笑ましい母子の一場面。だが、俺は彼女を見て身体が硬直した。
その女性は由利江だったから……。
俺が呆然と二人を見つめていると、由利江も俺に気付いた。
その瞬間──、由利江は子供を抱きかかえ、俺に背を向けた。
「ごめんなさい。私の顔なんか見たくないのに……。でも、あなたがここにいるなんて知らなかったの。本当よ。
私、西区の方に住んでるの。こっちの方にはもう来ないから。
ごめんなさい」
由利江は何度も謝ってきた。
ここは俺や由利江の実家からも遠く、会う筈がなかった。
だから一瞬、由利江が俺に会いに来てくれたのかと思いそうになったが、違うようだ。
「由利江はなんでここに?」
「だ、旦那の転勤で……」
「子供は一、二歳くらいか? 俺と離婚した後に出来たんだな?
不倫相手との子かよ?」
俺は何故か由利江に質問攻めをしていた。
もう離婚した他人だ。気にする必要のなんかないのに。
「ごめんなさい。もう行くね。これからは擦れ違っても、知らない人のフリをしよう。
あなたには本当に悪い事をしたと思ってる」
由利江はそう言うと、子供を抱いたまま来た道を戻って行った。
俺はまだ聞きたい事がたくさんあった。
今なら落ち着いて由利江の話を聞いてあげられる余裕がある。
あの時、何故不倫をしたのか? あれからどうやって生きてきたのか? 子供はなんていう名前をつけたのか? 今の旦那とは上手くやれているのか?
今、君は幸せか?
不倫した女なんて、もうどうだっていい筈だ。許す気なんて一切ない。
それなのに、まだ由利江に未練でもあるのか。
それからは由利江を見掛ける事は一切なかった。西区に住んでいると言っていたが、俺の職場は奇しくも西区にある。
だが、出勤や退勤時に由利江を見掛ける事はなかった。
それから三年程が経った。由利江と出くわす事もなく、俺は平穏に暮らしていた。
合コンで知り合った女性、沙織とLINEでやり取りをするようになり、もう少し慣れてきたら交際を申し込もうかと思っていた。
そんなある日、職場の後輩から仕事で相談があると言われ、退勤後に後輩の行きつけの居酒屋に寄った。
散々愚痴を聞き、泣き始めてしまった後輩を慰めて、解散した。
帰りは、普段通る事のない道を歩いた。
住宅地を抜ければ知っている道に辿り着くだろう、そう思い歩いていると、アパートの一室から怒号が響いた。
物が壊れるような音、悲鳴に、俺の足は止まった。
その後すぐに、問題の部屋と思われる一室のドアがバンッと開き、女性が子供を抱きかかえて出てきた。
その女性の顔は痣だらけで、身体は痩せ細っていて、見るだけで痛々しい。
俺はそれが由利江だとすぐに分かった。
由利江は俺に気付かず、すぐ側を横切って走っていった。
抱えている子供は、三年前に会った時の子だろう。小学生前と思われる幼児だった。
気付けば俺は走っていた。由利江を追いかける。
意外と由利江の足は速く、運動不足の俺ではなかなか追い付けない。
だが、由利江は小さい公園に着くと、足を止めた。
「ゆ……由利江……」
俺が声を掛けると、由利江は驚いた顔で振り返った。
その瞬間顔が真っ青になり、涙を流し始めた。
「由利江? どうしたんだ?」
「ごめんなさい! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
身体を震わせて泣きながら何度も謝る。地面に下ろされた子供は、由利江を見て驚き、
「お母さん、大丈夫? 痛い?」
と、心配している。
「もう謝るな。怒ってないから」
俺は由利江を抱き締めていた。
他人の男に抱かれた身体など、もう触れないと思っていたのにもかかわらず、気付けば触れていた。
由利江が汚いとは思えなかった。こんなにも小さく震えて、あまりにも哀れだった。
「駄目。あなただけは私を怒らなきゃ。
私、あなたに酷い事をしたの。許されない罪を犯した。
だから……」
「うん。怒るかどうかは俺が決める。それより、君の話が聞きたいよ」
それから由利江は、子供……高志君に公園で遊ぶように言った。
高志君が視界に入る位置にあるベンチに、並んで座った。
「実はね、高志はあなたの子なの」
由利江は怯えた顔で俺に告白した。さすがに俺も驚く。
「な、なんだって!?」
「ごめんなさい。本当は離婚した時、私妊娠してるの分かってたの。
その時はもう妊娠三ヶ月だったし、不倫していたのは二ヶ月間だけだったから、あなた以外に有り得ないのよ」
「どうして言わなかった?」
なるべく責めないようにゆっくりした口調で聞く。
「だって、子供が出来たらあなたを縛りそうで、言えなかった。
あれだけあなたを傷付けたのに、子供がいるから養育費を払わせるなんて……、あなたに負担を強いる事はしたくなかったの」
「それは今の旦那は知っているのか?」
「ええ。あなたと離婚した時に言ったわ。
不倫がバレて離婚したけど、お腹には夫の子がいるって。
どうしたらいいだろう? って相談したの。
そしたら、じゃあ俺と結婚して、俺の子として育てていいって。
だから、私、その通りにしてしまったの」
由利江の話をそのまま信じる事は出来ない。
間男はなんだってそんな要求をしたのか、理解出来ないからだ。
由利江を本当に愛しているから、自分の子でなくとも、一緒に育てる覚悟を決めたという様にも見えるだろう。
だが、現に今その間男は、由利江を苦しめ、高志君も幸せに出来ているとは思えない。
「なんだってそんな事……」
「ごめんなさい。全部私のせいなの。
今じゃ、子供を認知してやったよな? って言って、無茶苦茶な要求ばかりされるのよ」
「無茶苦茶な要求?」
「家事と育児は全て私一人でやれとか。子育ての分の費用は、私が働いて稼げとか。
スマホは旦那と仕事以外の連絡先は入れてはいけないとか……。
旦那の命令は絶対に聞かないと、殴られるようになった」
要するに、モラハラとDVを受けているという事だ。
酷い内容に、俺は顔を顰めた。
「でもね、私が旦那の言う事を聞けば、子供には何もしないって言ってくれてるの。
それにこうなったのは、全部私の自業自得だし、こんな状況を受け入れてるんだ」
俺は心のどこかで、由利江が俺に助けを求めてくれるのではないか、そう思っていた。
だが、由利江は俺に救いを求めちゃいなかった。
高志君を見て微笑んでいる。笑える状況でもないだろうに、全ての不幸を受け入れ、それが当然だとでも思っているかのように……。
由利江を追い詰めたのは誰だ? 不倫相手である今の旦那か? それとも俺か?
由利江は大人しい性格だ。仕事でも、人に頼まれたら断れなくて、終わらない仕事を抱えて残業するような、不器用な人だ。
不倫したのだって、元々は友人に飲みに誘われ、その時にナンパされて、断りきれずに抱かれたと言っていた。
本当は由利江は断ったんじゃないか? でも、無理矢理誘われて、恐怖で断れなかったんじゃないか?
「由利江。本当は、不倫じゃなかったんじゃないか?
例えば……乱暴された、とか……」
俺が恐る恐る聞いてみると、由利江は悲しそうに笑った。
「もう。たっくんは優し過ぎるよ」
たっくん……。離婚するまで由利江が呼んでいた俺のあだ名だ。
一瞬にして、由利江と愛し合っていた頃の時間に戻ったような錯覚に陥った。
「例え乱暴されて、写真を撮られて、それをネタにされたとしても……私はたっくんに相談しなかった。
嫌われるのが怖くて、相手の言われるがままに要求を受け入れ続けたんだよ。
旦那は、私を不幸にしたいんだって。
私は覚えてないんだけどね、学生時代に彼が私に告白したんだって。
私が男の人が苦手だからって言って振ったのに、たっくんと結婚したから、ずっと復讐したかったんだって」
例え話……じゃないよな。これはあの不倫について話し合いをした時、由利江が言おうと思って言えなかった事だ。
だとしたら、由利江は悪くないじゃないか。
全てはあの男が悪かったのだ。
何故由利江は全てを受け入れているんだ? こんな不幸があっていいわけがないのに。
「どうして、今更そんな話……」
「うん。だからね、もう私の事は忘れて。たっくんはたっくんの幸せを見つけて欲しい」
気付いたら、俺の目からはボタボタ涙が零れては落ちて、ズボンに吸い込まれていった。
すると、高志君が俺の前まで来ていた。
「おじさん、大丈夫?」
オロオロと俺を心配しているようだ。確かによくよく見てみれば、高志君の目元とか、俺によく似ている。
「大丈夫だよ」
「お母さんとケンカしたの?」
「ううん。俺が君のお母さんに酷い事をしたんだ」
「じゃあ、あやまって仲直りだね」
俺は「そうだね」と言って頷いた。由利江は、高志君に、
「違うよ。私が悪い事をしたんだよ。謝っても、もう許されない悪い事をしたの」
「あやまっても?」
「そう。だから、私は幸せになっちゃいけないんだ。でもね、高志は悪い事してないから、あなただけは私が幸せにするからね」
由利江はまた高志君を抱っこすると、その場から立ち去った。
「たっくん、もう私に関わらないでね」
そんな言葉を残して……。
俺はどこで間違えたのだろうか。由利江の為と言いながら、一流企業でバリバリ働く自分に酔って、由利江をずっと一人きりにさせていた。
由利江がおかしくなっても、女性だからよくある事だろうと放置した。
あんなに分かりやすい外泊を続けていたのは、俺にSOSを伝えようとしていたのではないか?
それなのに俺は何をした?
興信所に頼って、由利江の不倫の証拠を押さえて、責めた。
本当は乱暴されて、心も身体も傷付いていたのは由利江の方だったのに。
俺はその翌日、午前休をもらった。予め用意しておいた物を持って、由利江のアパート前で待つ。
間男が仕事に出たのを確認し、ごみ捨てに出てきた由利江を捕まえた。
「由利江!」
「あっ……」
由利江は俺から目を逸らして、知らないフリをしようとした。
そんな由利江の手を掴んだ。そして、袋を手渡す。
「この中に小型監視カメラと、小型のボイスレコーダが入ってる。
俺の連絡先も。これでモラハラやDVの証拠を掴め。それでさっさと別れろ。
養育費くらい俺が出す。つか、俺の子なら、俺に養育義務があるんだ。
全部片付いたら、連絡くれよ」
伝えたい事を全て話し、たちさろうとすると、由利江が、
「どうしてここまでしてくれるの?」
と聞いてきた。
「お前の家の家庭環境じゃ俺の子供が不幸になるだろ。
せめて子供くらいは幸せにしてくれよな」
変なプライドが邪魔をして、そんな言い方になってしまった。
本当は、由利江と高志君は大事な人だから、このまま放置出来るわけないだろ、と言ってあげたかったが。
それから一ヶ月が過ぎた。俺は合コンで知り合った沙織に「好きな人が出来た」と言って、別れを告げた。
と言っても、まだ付き合ってすらいなかったが。
だが、半年が過ぎても、由利江からは何も連絡はこない。
俺は由利江の家に足を運んだが、既に空き室になっていた。
隣の部屋の人に聞いたところ、モラハラ夫は逮捕され、過去にも色々やらかしていたようで、実刑判決が下ったそうだ。
その流れで、由利江が高志君を連れて実家に戻ったという情報を得られた。
由利江に連絡しようと思ったが、由利江や、由利江の実家の連絡先を知らない。
離婚の時に傷心で全て消してしまったのだ。
俺は母に連絡をする事にした。
母なら由利江の実家の連絡先を知っていると思ったからだ。
だが、母も知らないらしい。
俺は、数日有給を取得し、地元へ帰ってきた。
実家へは戻らずに、すぐに由利江の実家に向かった。
チャイムを鳴らし、出てきた元義母は俺を見て驚いた顔をしていた。
「どうしたんですか?」
と、聞いてくる元義母に俺は膝を着き、土下座をした。
「以前は大変申し訳ありませんでした!!」
「一体どうしたんです? 謝るのはこちらの方……」
「いえ! 由利江さんの件、悪いのは全面的に私です!
娘さんを不幸にしてしまい、大変申し訳ありませんでした!
ですが、もう一度だけ、たった一度でいいですから、俺にチャンスを下さい!
由利江さんを幸せにするチャンスを…!」
俺の声で気付いたのか、由利江が家の奥から走って出てきた。
「たっくん……!」
「私は今度こそ由利江さんを幸せにしたいのです。高志君も一緒に。
今度こそ間違えません。家族を大事にすると誓います!」
俺の必死の叫びは、近所中に聞こえていたらしく、由利江は顔を真っ赤にしていて、俺も恥ずかしかった。
そこで俺は由利江に婚約指輪を渡した。
「また俺と結婚してください!」
そう叫んで……。由利江は泣きながら、何度も頷いていた。
それから俺と由利江は夫婦に戻った。高志もすぐに俺に懐いてくれて、仲良し家族だ。
結婚するにあたって、俺と由利江は約束事を交わした。
何かあったら必ず相談する事。この約束だけは必ず守るように決めた。
それから由利江は些細な事でも俺になんでも聞くようになった。
俺が家にいる時は、俺の傍を離れようとしないのだ。可愛くて、愛しくて……俺は由利江への愛が止まらなくなった。
そんな俺と由利江を高志が茶化してくる。
だから、俺と由利江とで、高志を挟んで抱き締めた。
君は俺と由利江の大事な宝なのだよ、そう言いながら──。
───────────────────
※
お読みいただき、ありがとうございます。
どんな理由があるにせよ不倫を許すのは読者が嫌がるので…とボツになった作品です。
当人がいいなら別にいいと思うんですが。結構過激な考えの方も多いのも事実。
こちらに投稿させていただきました。
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