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最終話

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 俺が和泉を追いかけて、二階の和泉の部屋に向かおうとすると、キャリーバッグを持った和泉が階段から降りてきた。

「つばさ……」

「和泉、どこ行くんだ!?」

「俺、響生を不幸にしてやったらこの家出て行くつもりだったんだ。伯父さんは、ああいうの絶対許さないから、響生なんか勘当されて、路頭に迷えばいいって思った。
 お前とも縁を切って、さよなら~ってさ」

 和泉は俺にお構いなしにズンズン歩いていって、玄関で靴を履くと外に出て行ってしまった。俺もすぐに靴を履いて慌てて追いかけた。

「待ってよ、どこ行くの!?」

「お前に教える義理はない」

「俺も行く!」

「迷惑! やめてくれる? 俺の復讐計画、全部台無しにしておいて、まだ彼氏面すんの?
 俺は女の子が好きなんだよ。お前なんか、ただの駒でしかなかった」

「それでも!」

「何? 可哀想な奴見ると、自殺した元カノでも思い出すの?
 残念でした。俺は加害者。被害者だったお前の元カノとは比べ物にならないくらい悪い人間だよ」

「分かってるよ!」

 普段からランニングしてるからかな、和泉は歩いてるのに追いつけなくて、俺は必死に走った。
 走って和泉の腕を掴んだ。

「最初は和泉が可哀想だと思った。俺が救わなきゃって、でも酷いイジメ受けてたのに、和泉は俺が敵わないくらい強いじゃん!
 俺が助けようと思っても、必要ないくらい強くて、復讐で自分を犠牲にしてまで相手を不幸にしてやるって、凄いエネルギーあると思うよ」

「それ、褒めてんの? 貶してんの?
 俺はお前が守りたい和泉じゃないの。だから、もう放っておいてよ」

「やだ!」

 あぁ。和泉は強いな。心も強いのに、身体も強い。抱き締めたけど、すぐにでも振り払われそうなくらい筋肉ついてて、理々栖みたいなか弱さは微塵も感じさせない。

 なんでこんな強い人を助けたいなんて。救いたいなんて思ったんだろう。
 俺のエゴでしかなかった。和泉を軽んじていたんだ。

「俺は和泉が好きだよ。可愛いだけじゃなくて、響生さんを陥れる為に乳首にピアスつけるなんてカッコイイと思うし!
 俺、この先和泉がどんな悪者になっても、何度加害者になっても、絶対に見捨てない。
 味方でい続ける。
 救ってあげたいなんておこがましい事は考えず、ただ寄り添える存在になりたい。
 なぁ、ダメ? 俺じゃダメ?
 性別気になる? 俺、女の子になった方がいいかな?」

「バカじゃねぇの? やめろよ! もう俺に近寄んな!」

 それから十数分押し問答して、結局俺は和泉を見送るしかなかった。
 あれだけ拒絶されたら、さすがにね。

 でも和泉を愛してるって気持ちは全然衰えない。何度拒絶されても、俺は和泉にアプローチを続けるって決めた。


 その数日後、大学で和泉と会った。同じ大学通ってるから当然だな。

「いーずーみー!」

 大声で呼ぶけど、和泉は俺の顔を見て、嫌そうな顔して避けた。

 昼休みは和泉が座る隣の席を死守したし、走るの大っ嫌いだけど、俺はランニングサークルに入った。
 和泉は俺に合わせてくれる事はなかったけど、それでも良かった。和泉が好きな事を俺も共有したかったんだ。

 ランニングして分かった。走りながらネガティブになんかなれないって事。
 走るとなんかスッキリするし、今まで以上に前向きに考えられるようになった。
 きっと和泉の強さはここから来てるのかもしれないな。

 帰りは和泉の横を無理に並んで歩いた。和泉は途中で走っちゃうけど、何ヶ月かそれを繰り返してたら、和泉が今住んでる家までついていけた。
 響生さんに聞いてみたら、生まれ育った家だって教えてもらえた。

「ストーカーで訴えるよ!?」

 最後に和泉と話してから、久々に和泉の声を聞けた。

「いいよ。俺、和泉と仲良くする為なら、前科者になる覚悟ある!」

「ざけんな!」

 和泉が俺の頭をチョップしてきた。痛い。けど、相手してもらえて嬉しい。

「また付き合いたいって言ってるわけじゃないよ。友達でいいじゃん。普通に、同性の友達として俺と一緒にいて欲しいよ」

「お前は、俺が性格悪いの知ってるじゃん」

「うん。知ってる」

「卑怯者だし。もしかしたら、つばさを陥れるよ? いざという時裏切る自信あるし」

「大丈夫大丈夫。俺、元カノと一緒に自殺しようとしたんだぜ? まぁ俺は結局死ねなかったし、今後も死ぬのはちょっと無理だけど。
 だから、それ以外の事は受け入れられるよ」

 和泉の心がグラついてるのが分かる。何度でも俺を試していいよ。その度に和泉が大好きって証明するから。

「お前を不幸にしてやる! って思ったら、響生の時みたいにお前を悪者にするし」

「いいよ。和泉と一緒なら、幸せも不幸もあんまり変わらないって。
 でも和泉と離されたら、さすがに泣くから。それ以外で俺にどんな事してもいい」

「なんだよそれ。お前、本当、バカなんじゃねぇの?」

 諦めたような感じだけど、和泉が久々に俺に笑顔を見せてくれた。
 嬉しくて、愛おしくて、つい和泉の唇にキスをしてしまった。

 友達でいようと思ったのに。あぁ、絶対和泉に嫌われた。
 恐る恐る和泉を見ると、和泉は顔を真っ赤にさせていて、大人しくなった。

「和泉?」

「いいよ」

「え?」

「俺をつばさにあげる。条件はあるけど」

「いいよ、なんでもしてあげる」

 和泉が俺の胸の中にいる。力強く抱き締めると、和泉はそれ以上の力で俺の身体を締め付けてくる。
 この、負けず嫌いめ。

 ただイジメを受けている和泉を救いたかっただけだった。きっとその願いは全くの見当違いで、和泉に救いなんて必要なかった。

 寧ろ、救われたのは俺の方だ。
 ずっと理々栖に心を縛られていたのに、和泉が俺を解放してくれたんだ。
 そんな君を愛さないわけないじゃん。悪い事したからって嫌いになれるわけないじゃん。

 付き合えるなら、どんな条件だって受け入れられるよ。


「……毎朝、ランニング付き合ってくれたらいいよ」


 うん。ちょっと考えさせてもらおうかな。




───────────────────

あとがき

 ここまで読んでくださってありがとうございます。
 この作品、本当に読者いるのか?って感じですが、一人でもいてくだされば嬉しいです。


 私が中学生の時、いじめにあってたクラスメイトを助けようとした事があったんです。
 私はいじめっ子の方と友達だったので「そういうのやめようよ」って言える立場でした。
 まぁ、言ったところでいじめっ子は複数人だし、止まらなかったのですが。

 いじめられてる子とも友達だったので「大丈夫?話聞くよ」と声を掛けて、話聞いて、いじめっ子達と被害者の間に入ってました。

 私は自分が人を助けられる人間だと、勘違いしてたんです。

 でもある日、ぱたりといじめは終わりました。私には何があったのか分かりません。
 ただ、いじめられていた子が自分で乗り越えたのは確かだと思います。
 他の友達作って楽しそうにしていたので。
 いじめていた子達も、いじめなんかなかったみたいに平和に過ごしてました。

 私がしゃしゃり出なくても、その子の力でどうにか出来たんですよ。私が思っていた以上に強い子だったんです。
 その時、私は自分が傲慢だったのだと気付きました。まるでヒーローにでもなったように感じていたのですから。

 助けようと思った行動は間違いだとは思っていませんが、自分の庇護欲を満たそうとしていた事には変わりありません。
 恥ずかしいばかりです。

 まぁ、そんな事を思い出して書いた作品です。

 この話は誰にもした事がなかったのですが、読者数が少ないこの作品に本音をポロッとこぼしました。
 聞き流していただければ幸いです。

 ここまでありがとうございました。
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