嘘つきな俺たち

眠りん

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二十七話 唯一の味方

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 全てを話してしまった。今まであった事、妹や母さんの死、お義父さんへの想い、怜治との確執、俺がした事、全部。

 豊坂さんはただ聞いてくれていた。
 誰が聞いても、俺がおかしいと、俺が悪いと分かる話なのに。軽蔑も、侮蔑も、嫌悪も微塵も感じさせない様子で聞いてくれた。

「俺が気持ち悪かったら追い出していいですよ」

「バカ言うな。そんな事しない」

「俺が関わった人達を皆不幸にしてきました。お母さんが死んだのは俺のせいなんだ。俺が殺した」

「潤ちゃんは……罰が欲しいんじゃないのか?」

 豊坂さんは意味の分からない事を言い出した。

「いや、そんな事……」

「潤ちゃんは誰かに叱られたいんだと思うよ。悪い事をした自覚があるから。
 今までにきちんと叱ってくれた人はいた?」

「……俺が悪い事したら、母さんがそれはダメって。普通の事ですよ」

「子供はね、わざと悪い事をしたりするもんだ。母親にはそれもしなかったんだろう?」

「しないですよ。わざとって、何の為に?」

「親に構ってもらいたいから。叱ってもらいたいからだよ」

 豊坂さんが何を言いたいのか分からない。俺が叱ってもらいたくてわざとあんな事したって?
 まさか、そんな事絶対ない……と思う。

「試し行動って言うんだ。自分が悪さをしたとして、相手がどこまで許してくれるのか相手を試す。
 それは、叱られる事で、構ってもらえたと満足感を得てしまうものなんだ」

「それを俺がしたって?」

「違うかな? 嘘をついて悪い事をして、バレた時の怜治君の反応を知りたかったんじゃないのか?」

「まさかぁ……。お義父さんなら分かるけど、怜治なんて復讐のつもりだったし」

「じゃあ、実際怜治君が怒って潤ちゃんに酷い暴行をした時、君はどう思ってた?
 嬉しいと思ったりしなかったか?」

「……思い、ました」

 確かに喜んだ。怜治が俺に怒りをぶつけてきて、嬉しくて感じてしまった。
 でも、あんなに憎まれて、悲しかった。

「試し行動っていうのはね、自分が人から本当に愛されているのか確認する行為なんだ。
 きっと、お母さんから愛されてないと思って育ったんだろう? お義父さんは親として本気で君と向き合う人だったか? そうじゃないから恋愛対象になってしまったのかもしれない」

「それはあるかな。思えば、風花……妹に何度か怪我をさせようとした事がありました。
 妹は俺のせいって言わずに我慢していたようでしたけど」

「じゃあ悪い事をしても叱られなかったんだね。
 俺は専門家じゃないから、実際は分からないけどね。でも話聞いてそう思った」

「そうかもしれませんね。妹を傷付けて、母さんが俺に向き合ってくれるのを期待してたのかも」

「潤ちゃんには誰かからの愛情が必要なんだ。
 俺は友達として潤ちゃんを助ける。君がどんな悪い事をしようが、俺は絶対に見放さないから安心して甘えていいよ」

「豊坂さん……」

 豊坂さんは俺が寝るまでずっと抱き締めてくれた。「もうそんな事はしなくていいんだ」って、「安心しなさい」って言って優しくしてくれた。
 誰かにこんなに優しくされたのって、いつぶりだろう……。


 朝身を覚ますと、豊坂さんは仕事へ行く準備をしていた。

「家にいてもやる事ないだろう。学校は行けるか?」

「……ちょっと……」

 怜治の事を思うと学校に行こうと思えなかった。今日は休む事にした。

「気晴らしに出掛けてもいいんじゃないかな」

「でも」

「いいから。ちゃんとここに帰ってくればいいよ。じゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい!!」

 豊坂さんには悪いけど、今日から仕事を探さなければ。
 中卒でも働ける場所……ないかな。


 その日のうちにバイトを決めてきた。
 夜ご飯を作りながら豊坂さんの帰りを待つ。きっと女装カフェに寄ってから帰ってくるのかな? なんて思っていたら結構早めに帰ってきた。

「あれ、お帰りなさい! 寄り道しなかったんですか?」

「女装カフェの事かい? 待ってる人がいるのに、寄り道なんて出来ないさ」

「ありがとうございます」

「いいのいいの。そうそう、潤ちゃん。君のお義父さんの電話番号教えてもらえる?」

「え……?」

 それは、勝手に教えていいものなのか。さすがにマナー違反ではないだろうか。

「じゃあお義父さんに許可を取ってもらえるか? 今、個人情報がうるさいからね」

「分かりました……」

 俺はラインで『友達がお義父さんと話があるそうなので、連絡先を教えてもいいですか?』と聞いてみたが、お義父さんからは『だめだ』とだけ返事が来た。

 豊坂さんは俺のスマホからお義父さんにメールを送信した。

『初めまして。関原潤君の友人の豊坂誠司と申します。歳は三十五歳。〇×商事の総務部課長を務めております。
 今潤君を預かっております。本人はもう家には帰らず働くと言っているのですが、さすがに今の世の中、高校は出た方が良いでしょう。
 学費の件含め、話がしたいのでお返事願えますでしょうか?』

 豊坂さんの年齢と職業を初めて知ったんだが。

 すると、すぐお義父さんから電話が来た。豊坂さんが対応して、詳しい話は後日でと電話を切った。

「ね、豊坂さんっ。俺高校行けるのかな?」

「行けるよ。もしお義父さんが面倒見ないなら、俺がバックアップするから。出世払いで君に投資しよう」

「そ、そんな!! さすがにそれは悪いですよ!!」

「いいのいいの。ここからは俺達大人の話だから。潤ちゃんはなーんも気にしないの。子供はお金の心配しない」

「でも……」

「本当、遠慮ばっかだな。俺には甘えていいんだよ」

「うん。分かった!」

 豊坂さんの言葉に安堵して頷いた。
 それから一ヶ月程高校は休学する事になった。採用されたバイトは女装カフェだ。夕方五時から閉店の九時まで週三で通う事となった。

 それから、豊坂さんとお義父さんは二人で会って話し合いをしたらしい。
 お義父さんがせめてもの親の責務だと、高校卒業までは学費を出してくれる事になった。

 すぐに俺は豊坂さんのマンション近くの高校に転校をした。前よりも少し偏差値が低めの高校だけど、授業についていくのが楽になったし、俺には合ってるように感じた。
 その高校を出るまでは豊坂さんの部屋で生活をする事となったのだった。
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