嘘つきな俺たち

眠りん

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十話 君も嘘つき

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 玄関の扉を開いたら、ちょうどお義父さんが立っていた。今ドアを開こうと思っていたらしい、「うわっ」て声が聞こえた。

「お義父さん! お帰りなさい」

「潤。ただいま……あれ、後ろの方は?」

「あの、俺は関原君の友人の橋村です」

 怜治は慣れた感じでお義父さんに頭を下げた。友達が多いから、友人の親に挨拶くらいは慣れてるんだろうな。

 特に臆する様子もないし、罪悪感で気が重いだろうに、はつらつに笑っている。
 君も俺と同じだったんだ。笑顔を作る癖がついていて、難なく嘘もつける。

「お義父さん、橋村をそこまで送ってくるよ」

「ああ。そうしてあげなさい。橋村君、息子と仲良くしてくれてありがとう」

 お義父さんは橋村に頭を下げた。
 俺と怜治が出て行って、お義父さんが家に入るのを確認。いつもは早くても二十時を越えるのに、今日はどうしたんだろう。
 家に入る時に見えた顔が少し暗いように見えた。

「なぁ、関原ってファザコン?」

「……うん?」

 唐突な問いにドキッと胸が揺れた。図星過ぎる。咄嗟に笑顔で首を傾げたけど、内心ヒヤヒヤだ。
 まさか俺がお義父さんに恋してるなんて、知ってるわけないよな?

 それがバレたら終わりだ。
 何がバレても、それだけは知られたくない。

「あはは、まさか。感謝はしてるよ。血の繋がりのない俺を息子だと認めてくれて、育ててくれた。ちょっとファザコン気味でもいいだろ」

「へぇ、てっきり恋でもしてるのかと。
 俺にした事は、お義父さん相手に出来ない欲求不満からなのかな……なんて。はははっ、そんな事あるわけないか」

「あはは、有り得ないよ」

 鋭い。
 というか、もしかして怜治は俺と同類なのかもしれない。
 常に嘘で表面を固めて、仮面をいくつも被っている。

 ただの能天気な男……なんて思って足元掬われたらマズい。また嘘に嘘を重ねなければ。俺はそうやってしか生きていけないんだから。

「お義父さんさ、妹が死んでから本当に弱っちゃってね。だからお義父さんの前では妹の話は禁句なんだ」

「そうだよね、大事な娘が自殺したんだから」

「うん。だから、うちで妹の話はしないでな」

「分かった」

 これで風花が自殺したわけじゃない事も、中学三年じゃなくて中学一年の時に死んでたって事も橋村には伝わらないだろう。

「あ、じゃあここまでで大丈夫だよ。今日は俺の悩み聞いてくれてありがとう~! また明日な」

「橋村じゃあまた明日!」

 返す前に、橋村の肩にそっと手を置いて耳打ちした。

「明日から、またいつもと同じように……な」

「あ、あのさぁ」

 橋村は両手で俺の両手をぎゅっと握ってきた。そして続けた。

「俺、今日関原とシタの、気持ち良かったよ。もし、関原が嫌じゃなかったら、またしようよ」

「……えっ」

「それとも、もう俺とは嫌?」

 橋村は寂しそうな顔で俺を凝視してきた。可愛過ぎる顔に、俺は嫌なんて言えない。

「別に嫌じゃ……」

「それなら! 俺ね、関原を初めて見た瞬間、風花ちゃんに似てるなって思った。苗字も同じだし、なんか雰囲気も似てて、凄く気になってた」

「……もしかして兄妹だって分かってた?」

「ううん。ただ一緒にいて落ち着くなぁとか、風花ちゃんと付き合ってたらこうだったのかな……なんて、思ってた。不謹慎だよね」

「そう、かもな」

 ムッとした顔を橋村に見せる。
 妹の事を思えば、そんな事を言われて複雑な気分にならない兄はいないだろう。
 橋村からしたら、妹は橋村のせいで死んだ事になってるんだから。

「でも、ゲイってカミングアウトされて、気付いたんだ。俺、関原の事……好き。風花ちゃんの代わりにするつもりは全然ないよ。
 だから、俺と付き合ってくれる?」

「……いいのか? 橋村はノンケだろ?」

「いいよ。関原が相手なら」

「ありがとう」

 俺が顔を近付けると橋村は目を瞑った。優しく口付けをする。
 初めてのキスは、柔らかくて、その場は幸せな気持ちになれた。


 ──だが、同時にある事に気付いてしまう。
 俺は笑顔で橋村と別れて、自宅へと足を早める。

 分かってるんだ。橋村は好きな人に優しく出来ない。それは近親者である姉相手でもだ。
 俺を好きだなんて嘘だ。

「君も嘘つきじゃないか」

 嘘を知られてはならない。俺は橋村に対して今まで以上に警戒心を強くする事にした。


 家に帰ると、お義父さんが「おかえりなさい」って笑顔で迎えてくれた。
 お義父さんと話す時は、常に持ち歩いている録音機の録音ボタンを押すのが癖になっている。

「今日は早いんだね?」

「急に明日から出張になってな。明日の準備をしろって早く帰らされたんだよ」

「へぇ、何日くらい行くの?」

「三日だよ。潤は頼りになるから、俺も安心して行けるよ。いつもありがとう」

「それくらい当たり前だよ」

 今日も俺への褒め言葉録音出来た。
 お義父さんが安心して仕事に打ち込めるようにするくらい当たり前だ。褒められる為ならな。
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