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夫を養う私。勘違いした義母が離婚しろと迫ってきたので、泣く泣く応じてみたwww
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「守から聞いたわ。昔はキャリアウーマンだったから、未だにそのステータスに
しがみついてるって。
もう専業主婦なんだから、社会人だった事は忘れて、守に尽くしなさいよ」
義母の言葉を聞いた時、私の頭の中で「何言ってるんだ?この人は」と思い、イライラが込み上げた。
なぜ、義母から専業主婦だと思われているのか。
なぜ、1円も生活費を入れない夫の為に、尽くさねばならないのか。
それは全て嘘つきな夫のせいだ。
私は諸悪の根源である夫に、憎しみのこもった目を向けたのだった。
私は清香、35歳になってようやく結婚出来て、安心している兼業主婦だ。
結婚するまでは、一人でも十分稼げるし、結婚は必要ないと思っていた。
だが、母に勧められたお見合いで、私はビビっと衝撃を受けた事で、結婚しようかなという気にさせられた。
お見合い相手が、私のタイプの顔をしていたからだ。
すごくイケメンというわけではないが、素朴な感じで、無害そうな感じである。
私はこういう男性を求めていた。
というのも、20代の時に結婚しようとしていた相手が、結構整った顔をしていたのだが、その事で私を見下してくる事が多かった。
あんな男と付き合っていたのは、黒歴史と言えるだろう。
お見合い相手の守は38歳で、落ち着いた大人という雰囲気だ。
見た目は童顔で、30代前半くらいにしか見えないし、微笑むと可愛く思えた。
お見合いでの会話で仲良くなった私達は、年齢の事もあるしと、付き合って1年も経たずに結婚したのである。
元々私は、結婚を諦めていたので、30代前半でマンションを購入していた。
30階建ての高級タワーマンションだ。
私の部屋は25階で、部屋から眺める景色は最高なのだ。
結婚してからは、守がそこに移り住む事になり、何不自由ない生活を送れると思っていた。
そう、結婚するまでは…。
私はてっきり、結婚したら守の稼ぎもあるので、仕事をセーブして、守と穏やかな生活を送れると信じていた。
なのに、守は何の仕事をしているのか、平日の昼間は家にいて、夕方になるとプラっとどこかへ行ってしまう。
お見合いの時は、「クリエイティブな仕事をしています」なんて言っていたが、結婚してから、
「結局、守の仕事って具体的にどんな事をしているの?
収入はどれくらい?
夫婦の財布は別でいいと思うけど、お互いどれくらい生活費を出すか、話し合わなきゃ」
私がそう言ったところ、守はあからさまに不機嫌な顔になった。
「お前も金にがめついのかよ。
お前が稼いでるんだから、それでいいだろ?」
守はそう言って逃げてしまう。
「お前も」という言葉が気になったが、私は元カノの話かな?と思い、特に気にしなかった。
話し合いが何もされないので、家賃や光熱費、水道代、その他にかかる費用全てを私が払う羽目になった。
仕事をセーブして…なんていうのは夢のまた夢だ。
しかも守は家にいるのに、家事を一切してくれない。
「ねぇ守、家にいるなら家事くらいしてくれない?
私仕事が忙しいんだよ、それくらいしてくれなきゃ、困るよ!」
と私が言うと、守は大激怒した。
「うるさいな!お前があれこれ言うから、今頭に浮かんでたアイデアが消えただろ!
あーもう、お前といると最悪!」
守はそう言って、自室へと戻って行った。
自室と言うと語弊がある。
私が客室にと空けていた部屋を、勝手に自分の部屋にしてしまったので、そこは本来守の部屋ではない。
結局、私が全ての家事をするしかなくなった。
部屋の雰囲気に合わせた、シックな棚の上にフィギュアが置かれているので、棚の上の埃を拭き取る時、とても邪魔だ。
私はそのフィギュアを見る度に、イライラするようになった。
なぜ結婚してしまったのか、私は自分の選択ミスを嘆いた。
この事を両親に相談したものの、全くの無意味だった。
「ねぇお母さん、私結婚失敗した!今すぐ別れたいんだけど!」
「でもねぇ。結婚してすぐでしょ?
今離婚したら、周りに何て言えばいいか…」
「私よりも体裁の方が大事なわけ?」
「そういうわけじゃないけど…。
清香、結婚っていうのはね、耐えるって事なの。
皆そうやって頑張ってきたのよ」
「多少の欠点ならそれで済んだかもしれないけどね。
守の場合、生活費は入れない、昼間家にいて夜にどっかに出掛けて、夜中に帰ってくる、家事すらしないから、夫婦に何の利益ももたらさないんだよ!」
「それはちょっと酷いわねぇ…」
「ちょっとで済む話!?」
「うーん、でも今離婚するのは…。せめて1年待ちましょうよ。
そうすれば、皆もそれだけ頑張ったなら、
仕方ないねって許してくれるわ」
「私の結婚生活なのに、なんで他人の許しが必要なのよ?
もうお母さんには頼らないから!」
私はすぐに電話を切った。
年齢を理由に結婚を急かしてきたのも母だ。
あんまりうるさいから見合いに応じたが、そもそもそれが間違いだったと痛感した。
そして、その間違いを押し付けた相手に連絡したのが、そもそもの間違いだったと、通話終了になったスマホの画面を見つめ、落胆した。
それからしばらくして、休日に掃除をしているとピンポーンとチャイムが鳴った。
すると、元は客室だった部屋にこもっていた守が慌てて出てきて、インターホンに出た。
「あっ、ママ!来たんだね!」
ママ…?
私は聞き間違いだと思い、掃除道具を片付けて、守と一緒に、エントランスまで義母を迎えに行った。
義母はどこにでもいる主婦という見た目だ。
普段は工場で製造業のパートをしながら、家事をしていると聞いていたので、働き者という印象があった。
義母は部屋の中に入ると、嬉しそうな顔をした。
「まぁ綺麗にしているのねぇ」
「さっきまで掃除していたので。
恥ずかしながら、
いつもはここまで綺麗じゃないんですよ」
当然私は謙遜してそう言ったのだが、義母はそれが通用しなかった。
「あら、結婚したんだから家を守る自覚を持たなきゃね。
あなたは専業主婦なんだから、いつも部屋を綺麗にしておくのは当然の事よ?」
義母は何かを誤解しているようなので、私は苦笑いで事実を伝えた。
「いえ、私も働いていますが」
私が働かなければ、このマンションでの生活なんて、夢のまた夢ですよ~。そう言いたい気持ちを抑えた。
「そうなの?でも守の話と違うわね。
あなたは毎日、家でのんびりしていて、守だけが一生懸命働いてるって聞いたわよ?」
「えっ?いや、それは…」
私が否定しようとすると、守が急に口を挟んできた。
「いやぁ、そうなんだよね。
母さんの前だから、清香もちょっと見栄を張ったみたい」
「そうよね。
あなたが嘘をつくはずないもの。
というかあなた、客が来ているのにお茶の用意もしないの?
もう35歳なんだから、そういう常識がないとね。
あなたが無知だと、守が恥ずかしい思いをするのよ」
義母の発言にイライラしながらも、私はキッチンでお茶の準備をした。
今日、義母が来るなんて聞いていないし、もちろんお茶菓子の用意もしていない。
守はどういうつもりなのだろうかと思うと、腹立たしい。
お茶を用意すると、義母は「お菓子の用意もないの?」と言い出す。
「今日、いらっしゃると聞いていなかったので…」
怒りをこらえながら返すと、義母は溜息をついた。
「ダメね。
いつ来客があるかなんて分からないんだから、常に用意しなきゃ…」
恐らく、私と義母の関係はこれを機に最悪なものとなった。
義母は平日働いている事もあって、毎週末うちにやってきては、私にあれこれダメ出しをするようになったのである。
「主婦なんだから、毎日の家事はしっかりしなきゃダメよ」
そう言われて、私がいくら、
「普段は仕事をしていますので、掃除は土日にしか出来ないんですよ」
と言って、スーツや仕事用の鞄を見せても、
「守から聞いたわ。昔はキャリアウーマンだったから、未だにそのステータスにしがみついてるって。
もう専業主婦なんだから、社会人だった事は忘れて、守に尽くしなさいよ」
と言ってくる。私も我慢がならず、守に不満をぶちまけた。
「あなたからも何とか言ってよ。
そもそも、あなたがいつも家でゴロゴロして、家にお金を入れないから、私が必死に稼いでるのよ?
お義母さんに見栄を張りたいなら、まずは自分がお義母さんに言っている事を
有言実行したらどうなの!?」
だが、守は私の目を逸らして、義母に嘘を吹き込んでしまう。
「清香ったら、何言ってるんだろうな~。
このマンションだって、俺が買ったのに」
「はぁ!?何言ってんの!?
私が買ったマンションなんだけど!」
守が嘘に嘘を重ねるので、私の怒りは爆発した…と言いたいところだが、義母のお陰でその怒りはどこかへ消え去った。
「嫁のくせに最低ね。
守のお陰で良い暮らしが出来てるっていうのに。
あなたは守の妻に相応しくないわ。
離婚して、このマンションから出て行きなさい!」
母に言われた事で、心のどこかで離婚してはいけないような気がしていたが、相手に離婚しろと言われたなら話は別だ。
希望の光が見えると、私の行動も早かった。
「えぇっ、離婚ですか?でも、私離婚したくないです~」
わざとらしかっただろうか、と不安になりつつ義母を見て安堵した。
私の大根演技は通用したようだ。
「そりゃあ、このマンションで生活が出来なくなるものね。
だらしない女に、これ以上贅沢はさせたくないもの。
さっさと離婚してちょうだい」
「でも私、離婚される理由がないんですよね。
家事だってちゃんとやっていましたし。
そういう時って、解決金とか必要になってきません?」
私は嫌な女を演じ、ニヤニヤとした笑みを義母に向けた。
すると、思っていた以上に義母が反応した。
「なんなのこの女!
分かったわよ、手切れ金として50万渡すわ。
それで十分でしょ?」
そんな金額で許す筈がない。
守が消費した、食費やら光熱費、水道代、あと家賃の分、本来守が出すべきだった金額からは程遠い。
「100万…」
「はぁ?」
「ですから、手切れ金100万用意して、二度とお互い関わらないと決めましょう。
そうすれば、離婚してあげますよ。
後々何があっても文句は言いませんし。
そう考えたら、安いと思いませんか?」
私が笑顔を向けると、義母は舌打ちして同意した。
念の為、約束を反故にしないよう、契約書を書いた。
そこにはもちろん、守が私に手切れ金として100万円を支払う旨も書いてある。
約束事を交わし、私と義母で拇印を押した。
しかも義母は、どれだけ私が気に食わなかったのか、最初から離婚させる気満々で、離婚届を持ってきていた。
「口うるさい女と結婚して最悪だったし、ママが来てくれて本当に良かったよ」
「そうね、今まで守の気持ちを理解しない女ばっかりだったし、次のお嫁さんは良い人と巡り会えるといいわね」
守と義母の言葉に、私は唖然とした。
「は…?まさか、守は離婚歴があるんですか?」
私が厳しい目で問い詰めると、義母が落ち着かない様子で答える。
「ま…まぁねぇ。でも、離婚するんだからいいじゃない」
私も義母と同じように、離婚するのだからまぁいいかと思い、離婚届に判を押した。
それから3人で提出しに行き、私と守は晴れて他人となった。
マンションの部屋に戻ると、思ったとおり義母が面白い事を言い出した。
「清香さん、急な離婚だったから、準備期間が必要よね。
今月中に住む場所を決めて、このマンションから出て行きなさい」
その瞬間、守の顔色が悪くなった。
義母がそう言い出す事が、予想出来なかったのだろうか。
急に慌てた態度になり、
「あ、あのさ、ママ…。
清香との思い出が残ってて気持ち悪いから、このマンションを売ろうと思ってるんだ」
と言い出した。
私はすぐに気付いた。守は義母に、このマンションが自分の物だと嘘をついた為、後々売ったと嘘をついて、自分の実家にでも戻るつもりなんだろう。
どれだけ嘘を重ねれば気が済むのだろう。
「何言ってるの?買ったばかりなんでしょ?
いくら高級マンションだからって、ローンが残ったまま、誰かに貸したり売ったりするのは、リスクが大きいわよ」
「だ、大丈夫なんだ。一括で買ったから…」
「え?いくら、在宅ワークOKの良い会社に入社出来たと言っても、このマンションを
一括で買える程じゃないでしょ?
だって、このマンションって8000万くらいするものね。
一生懸命働いてるのは分かるけど…」
義母が何かを言えば言う程、守の顔は冷や汗が流れていく。
「だから、問題ないんだって。俺ママと一緒に実家に暮らすし。
それでいいだろ?」
「お母さん、あの邪魔な女を追い出して、一緒にこのマンションに住もうと思っていたのよ?
お父さんにもその話をしたら喜んでいたわ。
それなのに、なんでそういう事を言うの?
本当にあなたが買ったの?」
「ほ、本当だよ…」
徐々に声が小さくなる守に、義母は不信感を抱いたようだ。
「給料明細を見せなさい」
義母はそう言うが、守は無言で突っ立ったままだ。
すると、義母がすぐに行動に移した。
守が自室にしている客室に入り、荷物を漁ったのだ。
「母さん、やめてくれよ。そこに給料明細ないから!」
守が慌てた様子で止めようとするも、義母は止まらない。
諦めたのか、棚の上のファイルの封筒を取り出し、義母に渡した。
「はい、ママ給料明細だよ。驚かないでね…」
守の顔は真っ青だ。義母が封筒を開き、中の給料明細を見て、口をぽかんと開いて一言呟いた。
「9万…」
「それは、たまたまって言うか。
やっぱり広い部屋だと落ち着かないからね。
実家の俺の部屋なら、もっと仕事が捗って給料も多くなるよ」
義母はもう守の言い訳を聞いてはいなかった。
「清香さん、これはどういう事!?
結婚した時、守がこのマンションを買ったんじゃないの?」
2人のやり取りがコントにしか見えなかった私は、クスクスと笑いながら否定した。
「あはは、何言ってるんですか。
このマンションは、私が独身時代に購入したものですよ。
言いましたよね?私が買ったって。
守の話を100%信じたのは、お義母さんじゃないですか」
「一括で買ったのね?
だから守の給料で、あなたが専業主婦でいられたのよね?」
「残念ながら、私は独身時代と変わらずバリバリ働いていますよ。
ちょっと待ってて下さい」
私は寝室に行き、保管しているファイルから一枚の紙を持って、守と義母の元へ戻った。
「ちなみに私の給料明細です」
それを見せると、義母は目を丸くして驚いた。
「なっ…!なんで、こんなにもらえてるのよ!?」
「そりゃあ、ベンチャー企業でバリバリ営業やって、今は役職にもついて年収1000万超えてるからですよ。
このマンションは私がローンを組んだんです。
それなのに…」
私が守を睨むと、彼は蛇に睨まれた蛙のように、身を縮ませてブルブルと体を震えさせた。
何も言えないようなので、私は守への不平不満を全てぶちまけた。
「こいつ、私の稼ぎが良いからって、日中はずっと家にいて、夜になるとどこかへ出掛けるんですよ。
給料明細があるって事は、働いているみたいですけどね。
家にお金を1円も入れないし、家事も全然しないし。
お義母さんには、良い会社に入社したって言ってたんですよね?
私にはクリエイティブな仕事だって言ってましたよ」
「あ、清香、ごめん。謝るからそれ以上は言わないでくれ」
「嫌よ!人の部屋好き勝手使ってくれちゃってさ。
私に養ってもらってる分際で、よくいつも偉っそうに文句言えたわね!?
一体、何してたのよ!?」
すると、守は慌てて弁解した。
「在宅ワークをしていたのは本当なんだ。事務スタッフのバイトっていうか…。
バイト代は全部小遣いにしてたから、夕方から夜はパチンコ行って、それから居酒屋行ったりしてた。
ほら、生活費は清香が払ってくれてたからさ」
「私、何度もあなたに生活費を出すよう言ったよね?」
「ごめんなさい!」
今までずっと強気な態度で、まるで私が悪いかのように言ってきたくせに、自分の分が悪くなってようやく謝ってきた。
最初見た時に可愛いと思っていた男が、なんだか情けない存在にしか見えなくなった。
「お義母さん、先程も申し上げた通り、ここは私の部屋です。
もう他人ですから、出て行ってください。
守も、実家に戻るなら今すぐ荷物をまとめて出て行って!
不幸な女性を増やさないように、二度と結婚なんてするんじゃないわよ」
私は今まで胸に溜めていたストレスを、守にぶつけるように吐き出すと、荷物を持った。
「3時間ほど、ストレス発散に行ってきます。
帰った時にまだあなた方がいれば、荷物をまとめられたかどうかにかかわらず、追い出しますから!」
そして、玄関の扉を開いて外へ出た。
その後ろから義母が走ってきて、私の腕を掴んだ。
「お願いします、許してください!全面的に私達が悪かったわ。
また守と再婚してちょうだい。私が説教して、もう二度と守に大きい顔はさせないから!ねっ?」
必死に懇願してくる義母に、私は笑顔を向けた。
「お義母さん、色々と勘違いしてくれてありがとうございました。
守の嘘も見抜けないなんて、本当に可哀想ですね」
「何よ、その言い方!絶対可哀想だなんて思ってないでしょ?」
「ええ。思っている事をそのまま口に出すとしたら…、ざまぁみろってところですかね。
まぁ、結婚前に戻るだけですよ。何も問題ないじゃないですか」
「で、でも…」
「そういえば、守って全く掃除できないんですよ。
3時間で荷物はまとめられるのかしら?」
私がそう言うと、義母の手が緩んだ。
その手を振りほどいて、私はストレス発散にと、マンション近くのオシャレなカフェに向かったのだった。
3時間後、部屋に戻ると守と義母はおらず、守の荷物も全てなくなっていた。
私一人の荷物は少ないので、ずいぶん寂しい部屋になったものだと感じた。
それだけ守の荷物が多かったとも言える。
守がフィギュアを飾っていた棚を見て、私は呟いた。
「観葉植物でも飾ろうかしら」
それからは母から聞いた話だが、義母はずっと守がきちんと仕事をしているのに、相手の女性がワガママを言っているのだと思っていたそうだ。
夫婦仲が悪くなると義母が干渉して、更に状況を悪化させ、最終的にキレた義母が別れさせる、という流れが出来ていたそうなのだ。
だが、今回守の収入を目の当たりにした義母は、自分が間違っていたと後悔しているとの事だ。
守は親のスネをかじる気満々で、実家に寄生していたそうだが、義両親の2人がかりで、守を追い出したそうだ。
月9万の給料を全て自分の小遣いにしていただろうが、これからは全て生活費になるだろう。
「月9万で生活かぁ~、それが出来たらいいね」
私はクスクスと笑いながら、母の話を聞いた。
仕事の忙しさも相まって、離婚のショックはあまり大きくなかった。
守がどうなろうと知った事ではないし、手切れ金100万円を受け取ったしと、気楽な気持ちで母の話を聞いた。
「清香は、大丈夫?」
母は、自分が私に何を言ったのか覚えていないのか、心配そうな声でそう聞いてきた。
「結婚してた時よりも元気よ。
お母さんがあの時、離婚したら周りがどうのって言わなければ、お姑さんが離婚しろって言うところまで発展しなかっただろうし。
離婚を止めてくれてありがとうね」
「あっ、じゃあ、私の事は許してくれる?」
さすがの母も、私の嫌味に気付いたらしい。
そう聞かれて笑みが零れる。私の答えは既に決まっていたからだ。
「ふふっ、娘が苦しんでるのに、冷たく突き放したあなたを、これからも母親だなんて思えないよ。
もう、冠婚葬祭以外で連絡してこないでね。
お父さんにも伝えておいて。
連絡するなら、お父さんからメールを送ってねって」
「えっ、ちょっ…」
母が何かを言おうとしていたが、私は電話を切って、両親の電話番号を着信拒否にした。
幸い、私はもう10年も前から一人暮らしをしていて、親とは結婚の事がなければ、連絡すら取っていなかった。
私は離婚をバネに、より一層仕事に励んだ。
その結果、私はまた昇格する事になった。
私は男運がないようだし、もう恋愛も結婚もこりごりだ。
こうなったら、会社の役員を目指して頑張ろうと思う。
しがみついてるって。
もう専業主婦なんだから、社会人だった事は忘れて、守に尽くしなさいよ」
義母の言葉を聞いた時、私の頭の中で「何言ってるんだ?この人は」と思い、イライラが込み上げた。
なぜ、義母から専業主婦だと思われているのか。
なぜ、1円も生活費を入れない夫の為に、尽くさねばならないのか。
それは全て嘘つきな夫のせいだ。
私は諸悪の根源である夫に、憎しみのこもった目を向けたのだった。
私は清香、35歳になってようやく結婚出来て、安心している兼業主婦だ。
結婚するまでは、一人でも十分稼げるし、結婚は必要ないと思っていた。
だが、母に勧められたお見合いで、私はビビっと衝撃を受けた事で、結婚しようかなという気にさせられた。
お見合い相手が、私のタイプの顔をしていたからだ。
すごくイケメンというわけではないが、素朴な感じで、無害そうな感じである。
私はこういう男性を求めていた。
というのも、20代の時に結婚しようとしていた相手が、結構整った顔をしていたのだが、その事で私を見下してくる事が多かった。
あんな男と付き合っていたのは、黒歴史と言えるだろう。
お見合い相手の守は38歳で、落ち着いた大人という雰囲気だ。
見た目は童顔で、30代前半くらいにしか見えないし、微笑むと可愛く思えた。
お見合いでの会話で仲良くなった私達は、年齢の事もあるしと、付き合って1年も経たずに結婚したのである。
元々私は、結婚を諦めていたので、30代前半でマンションを購入していた。
30階建ての高級タワーマンションだ。
私の部屋は25階で、部屋から眺める景色は最高なのだ。
結婚してからは、守がそこに移り住む事になり、何不自由ない生活を送れると思っていた。
そう、結婚するまでは…。
私はてっきり、結婚したら守の稼ぎもあるので、仕事をセーブして、守と穏やかな生活を送れると信じていた。
なのに、守は何の仕事をしているのか、平日の昼間は家にいて、夕方になるとプラっとどこかへ行ってしまう。
お見合いの時は、「クリエイティブな仕事をしています」なんて言っていたが、結婚してから、
「結局、守の仕事って具体的にどんな事をしているの?
収入はどれくらい?
夫婦の財布は別でいいと思うけど、お互いどれくらい生活費を出すか、話し合わなきゃ」
私がそう言ったところ、守はあからさまに不機嫌な顔になった。
「お前も金にがめついのかよ。
お前が稼いでるんだから、それでいいだろ?」
守はそう言って逃げてしまう。
「お前も」という言葉が気になったが、私は元カノの話かな?と思い、特に気にしなかった。
話し合いが何もされないので、家賃や光熱費、水道代、その他にかかる費用全てを私が払う羽目になった。
仕事をセーブして…なんていうのは夢のまた夢だ。
しかも守は家にいるのに、家事を一切してくれない。
「ねぇ守、家にいるなら家事くらいしてくれない?
私仕事が忙しいんだよ、それくらいしてくれなきゃ、困るよ!」
と私が言うと、守は大激怒した。
「うるさいな!お前があれこれ言うから、今頭に浮かんでたアイデアが消えただろ!
あーもう、お前といると最悪!」
守はそう言って、自室へと戻って行った。
自室と言うと語弊がある。
私が客室にと空けていた部屋を、勝手に自分の部屋にしてしまったので、そこは本来守の部屋ではない。
結局、私が全ての家事をするしかなくなった。
部屋の雰囲気に合わせた、シックな棚の上にフィギュアが置かれているので、棚の上の埃を拭き取る時、とても邪魔だ。
私はそのフィギュアを見る度に、イライラするようになった。
なぜ結婚してしまったのか、私は自分の選択ミスを嘆いた。
この事を両親に相談したものの、全くの無意味だった。
「ねぇお母さん、私結婚失敗した!今すぐ別れたいんだけど!」
「でもねぇ。結婚してすぐでしょ?
今離婚したら、周りに何て言えばいいか…」
「私よりも体裁の方が大事なわけ?」
「そういうわけじゃないけど…。
清香、結婚っていうのはね、耐えるって事なの。
皆そうやって頑張ってきたのよ」
「多少の欠点ならそれで済んだかもしれないけどね。
守の場合、生活費は入れない、昼間家にいて夜にどっかに出掛けて、夜中に帰ってくる、家事すらしないから、夫婦に何の利益ももたらさないんだよ!」
「それはちょっと酷いわねぇ…」
「ちょっとで済む話!?」
「うーん、でも今離婚するのは…。せめて1年待ちましょうよ。
そうすれば、皆もそれだけ頑張ったなら、
仕方ないねって許してくれるわ」
「私の結婚生活なのに、なんで他人の許しが必要なのよ?
もうお母さんには頼らないから!」
私はすぐに電話を切った。
年齢を理由に結婚を急かしてきたのも母だ。
あんまりうるさいから見合いに応じたが、そもそもそれが間違いだったと痛感した。
そして、その間違いを押し付けた相手に連絡したのが、そもそもの間違いだったと、通話終了になったスマホの画面を見つめ、落胆した。
それからしばらくして、休日に掃除をしているとピンポーンとチャイムが鳴った。
すると、元は客室だった部屋にこもっていた守が慌てて出てきて、インターホンに出た。
「あっ、ママ!来たんだね!」
ママ…?
私は聞き間違いだと思い、掃除道具を片付けて、守と一緒に、エントランスまで義母を迎えに行った。
義母はどこにでもいる主婦という見た目だ。
普段は工場で製造業のパートをしながら、家事をしていると聞いていたので、働き者という印象があった。
義母は部屋の中に入ると、嬉しそうな顔をした。
「まぁ綺麗にしているのねぇ」
「さっきまで掃除していたので。
恥ずかしながら、
いつもはここまで綺麗じゃないんですよ」
当然私は謙遜してそう言ったのだが、義母はそれが通用しなかった。
「あら、結婚したんだから家を守る自覚を持たなきゃね。
あなたは専業主婦なんだから、いつも部屋を綺麗にしておくのは当然の事よ?」
義母は何かを誤解しているようなので、私は苦笑いで事実を伝えた。
「いえ、私も働いていますが」
私が働かなければ、このマンションでの生活なんて、夢のまた夢ですよ~。そう言いたい気持ちを抑えた。
「そうなの?でも守の話と違うわね。
あなたは毎日、家でのんびりしていて、守だけが一生懸命働いてるって聞いたわよ?」
「えっ?いや、それは…」
私が否定しようとすると、守が急に口を挟んできた。
「いやぁ、そうなんだよね。
母さんの前だから、清香もちょっと見栄を張ったみたい」
「そうよね。
あなたが嘘をつくはずないもの。
というかあなた、客が来ているのにお茶の用意もしないの?
もう35歳なんだから、そういう常識がないとね。
あなたが無知だと、守が恥ずかしい思いをするのよ」
義母の発言にイライラしながらも、私はキッチンでお茶の準備をした。
今日、義母が来るなんて聞いていないし、もちろんお茶菓子の用意もしていない。
守はどういうつもりなのだろうかと思うと、腹立たしい。
お茶を用意すると、義母は「お菓子の用意もないの?」と言い出す。
「今日、いらっしゃると聞いていなかったので…」
怒りをこらえながら返すと、義母は溜息をついた。
「ダメね。
いつ来客があるかなんて分からないんだから、常に用意しなきゃ…」
恐らく、私と義母の関係はこれを機に最悪なものとなった。
義母は平日働いている事もあって、毎週末うちにやってきては、私にあれこれダメ出しをするようになったのである。
「主婦なんだから、毎日の家事はしっかりしなきゃダメよ」
そう言われて、私がいくら、
「普段は仕事をしていますので、掃除は土日にしか出来ないんですよ」
と言って、スーツや仕事用の鞄を見せても、
「守から聞いたわ。昔はキャリアウーマンだったから、未だにそのステータスにしがみついてるって。
もう専業主婦なんだから、社会人だった事は忘れて、守に尽くしなさいよ」
と言ってくる。私も我慢がならず、守に不満をぶちまけた。
「あなたからも何とか言ってよ。
そもそも、あなたがいつも家でゴロゴロして、家にお金を入れないから、私が必死に稼いでるのよ?
お義母さんに見栄を張りたいなら、まずは自分がお義母さんに言っている事を
有言実行したらどうなの!?」
だが、守は私の目を逸らして、義母に嘘を吹き込んでしまう。
「清香ったら、何言ってるんだろうな~。
このマンションだって、俺が買ったのに」
「はぁ!?何言ってんの!?
私が買ったマンションなんだけど!」
守が嘘に嘘を重ねるので、私の怒りは爆発した…と言いたいところだが、義母のお陰でその怒りはどこかへ消え去った。
「嫁のくせに最低ね。
守のお陰で良い暮らしが出来てるっていうのに。
あなたは守の妻に相応しくないわ。
離婚して、このマンションから出て行きなさい!」
母に言われた事で、心のどこかで離婚してはいけないような気がしていたが、相手に離婚しろと言われたなら話は別だ。
希望の光が見えると、私の行動も早かった。
「えぇっ、離婚ですか?でも、私離婚したくないです~」
わざとらしかっただろうか、と不安になりつつ義母を見て安堵した。
私の大根演技は通用したようだ。
「そりゃあ、このマンションで生活が出来なくなるものね。
だらしない女に、これ以上贅沢はさせたくないもの。
さっさと離婚してちょうだい」
「でも私、離婚される理由がないんですよね。
家事だってちゃんとやっていましたし。
そういう時って、解決金とか必要になってきません?」
私は嫌な女を演じ、ニヤニヤとした笑みを義母に向けた。
すると、思っていた以上に義母が反応した。
「なんなのこの女!
分かったわよ、手切れ金として50万渡すわ。
それで十分でしょ?」
そんな金額で許す筈がない。
守が消費した、食費やら光熱費、水道代、あと家賃の分、本来守が出すべきだった金額からは程遠い。
「100万…」
「はぁ?」
「ですから、手切れ金100万用意して、二度とお互い関わらないと決めましょう。
そうすれば、離婚してあげますよ。
後々何があっても文句は言いませんし。
そう考えたら、安いと思いませんか?」
私が笑顔を向けると、義母は舌打ちして同意した。
念の為、約束を反故にしないよう、契約書を書いた。
そこにはもちろん、守が私に手切れ金として100万円を支払う旨も書いてある。
約束事を交わし、私と義母で拇印を押した。
しかも義母は、どれだけ私が気に食わなかったのか、最初から離婚させる気満々で、離婚届を持ってきていた。
「口うるさい女と結婚して最悪だったし、ママが来てくれて本当に良かったよ」
「そうね、今まで守の気持ちを理解しない女ばっかりだったし、次のお嫁さんは良い人と巡り会えるといいわね」
守と義母の言葉に、私は唖然とした。
「は…?まさか、守は離婚歴があるんですか?」
私が厳しい目で問い詰めると、義母が落ち着かない様子で答える。
「ま…まぁねぇ。でも、離婚するんだからいいじゃない」
私も義母と同じように、離婚するのだからまぁいいかと思い、離婚届に判を押した。
それから3人で提出しに行き、私と守は晴れて他人となった。
マンションの部屋に戻ると、思ったとおり義母が面白い事を言い出した。
「清香さん、急な離婚だったから、準備期間が必要よね。
今月中に住む場所を決めて、このマンションから出て行きなさい」
その瞬間、守の顔色が悪くなった。
義母がそう言い出す事が、予想出来なかったのだろうか。
急に慌てた態度になり、
「あ、あのさ、ママ…。
清香との思い出が残ってて気持ち悪いから、このマンションを売ろうと思ってるんだ」
と言い出した。
私はすぐに気付いた。守は義母に、このマンションが自分の物だと嘘をついた為、後々売ったと嘘をついて、自分の実家にでも戻るつもりなんだろう。
どれだけ嘘を重ねれば気が済むのだろう。
「何言ってるの?買ったばかりなんでしょ?
いくら高級マンションだからって、ローンが残ったまま、誰かに貸したり売ったりするのは、リスクが大きいわよ」
「だ、大丈夫なんだ。一括で買ったから…」
「え?いくら、在宅ワークOKの良い会社に入社出来たと言っても、このマンションを
一括で買える程じゃないでしょ?
だって、このマンションって8000万くらいするものね。
一生懸命働いてるのは分かるけど…」
義母が何かを言えば言う程、守の顔は冷や汗が流れていく。
「だから、問題ないんだって。俺ママと一緒に実家に暮らすし。
それでいいだろ?」
「お母さん、あの邪魔な女を追い出して、一緒にこのマンションに住もうと思っていたのよ?
お父さんにもその話をしたら喜んでいたわ。
それなのに、なんでそういう事を言うの?
本当にあなたが買ったの?」
「ほ、本当だよ…」
徐々に声が小さくなる守に、義母は不信感を抱いたようだ。
「給料明細を見せなさい」
義母はそう言うが、守は無言で突っ立ったままだ。
すると、義母がすぐに行動に移した。
守が自室にしている客室に入り、荷物を漁ったのだ。
「母さん、やめてくれよ。そこに給料明細ないから!」
守が慌てた様子で止めようとするも、義母は止まらない。
諦めたのか、棚の上のファイルの封筒を取り出し、義母に渡した。
「はい、ママ給料明細だよ。驚かないでね…」
守の顔は真っ青だ。義母が封筒を開き、中の給料明細を見て、口をぽかんと開いて一言呟いた。
「9万…」
「それは、たまたまって言うか。
やっぱり広い部屋だと落ち着かないからね。
実家の俺の部屋なら、もっと仕事が捗って給料も多くなるよ」
義母はもう守の言い訳を聞いてはいなかった。
「清香さん、これはどういう事!?
結婚した時、守がこのマンションを買ったんじゃないの?」
2人のやり取りがコントにしか見えなかった私は、クスクスと笑いながら否定した。
「あはは、何言ってるんですか。
このマンションは、私が独身時代に購入したものですよ。
言いましたよね?私が買ったって。
守の話を100%信じたのは、お義母さんじゃないですか」
「一括で買ったのね?
だから守の給料で、あなたが専業主婦でいられたのよね?」
「残念ながら、私は独身時代と変わらずバリバリ働いていますよ。
ちょっと待ってて下さい」
私は寝室に行き、保管しているファイルから一枚の紙を持って、守と義母の元へ戻った。
「ちなみに私の給料明細です」
それを見せると、義母は目を丸くして驚いた。
「なっ…!なんで、こんなにもらえてるのよ!?」
「そりゃあ、ベンチャー企業でバリバリ営業やって、今は役職にもついて年収1000万超えてるからですよ。
このマンションは私がローンを組んだんです。
それなのに…」
私が守を睨むと、彼は蛇に睨まれた蛙のように、身を縮ませてブルブルと体を震えさせた。
何も言えないようなので、私は守への不平不満を全てぶちまけた。
「こいつ、私の稼ぎが良いからって、日中はずっと家にいて、夜になるとどこかへ出掛けるんですよ。
給料明細があるって事は、働いているみたいですけどね。
家にお金を1円も入れないし、家事も全然しないし。
お義母さんには、良い会社に入社したって言ってたんですよね?
私にはクリエイティブな仕事だって言ってましたよ」
「あ、清香、ごめん。謝るからそれ以上は言わないでくれ」
「嫌よ!人の部屋好き勝手使ってくれちゃってさ。
私に養ってもらってる分際で、よくいつも偉っそうに文句言えたわね!?
一体、何してたのよ!?」
すると、守は慌てて弁解した。
「在宅ワークをしていたのは本当なんだ。事務スタッフのバイトっていうか…。
バイト代は全部小遣いにしてたから、夕方から夜はパチンコ行って、それから居酒屋行ったりしてた。
ほら、生活費は清香が払ってくれてたからさ」
「私、何度もあなたに生活費を出すよう言ったよね?」
「ごめんなさい!」
今までずっと強気な態度で、まるで私が悪いかのように言ってきたくせに、自分の分が悪くなってようやく謝ってきた。
最初見た時に可愛いと思っていた男が、なんだか情けない存在にしか見えなくなった。
「お義母さん、先程も申し上げた通り、ここは私の部屋です。
もう他人ですから、出て行ってください。
守も、実家に戻るなら今すぐ荷物をまとめて出て行って!
不幸な女性を増やさないように、二度と結婚なんてするんじゃないわよ」
私は今まで胸に溜めていたストレスを、守にぶつけるように吐き出すと、荷物を持った。
「3時間ほど、ストレス発散に行ってきます。
帰った時にまだあなた方がいれば、荷物をまとめられたかどうかにかかわらず、追い出しますから!」
そして、玄関の扉を開いて外へ出た。
その後ろから義母が走ってきて、私の腕を掴んだ。
「お願いします、許してください!全面的に私達が悪かったわ。
また守と再婚してちょうだい。私が説教して、もう二度と守に大きい顔はさせないから!ねっ?」
必死に懇願してくる義母に、私は笑顔を向けた。
「お義母さん、色々と勘違いしてくれてありがとうございました。
守の嘘も見抜けないなんて、本当に可哀想ですね」
「何よ、その言い方!絶対可哀想だなんて思ってないでしょ?」
「ええ。思っている事をそのまま口に出すとしたら…、ざまぁみろってところですかね。
まぁ、結婚前に戻るだけですよ。何も問題ないじゃないですか」
「で、でも…」
「そういえば、守って全く掃除できないんですよ。
3時間で荷物はまとめられるのかしら?」
私がそう言うと、義母の手が緩んだ。
その手を振りほどいて、私はストレス発散にと、マンション近くのオシャレなカフェに向かったのだった。
3時間後、部屋に戻ると守と義母はおらず、守の荷物も全てなくなっていた。
私一人の荷物は少ないので、ずいぶん寂しい部屋になったものだと感じた。
それだけ守の荷物が多かったとも言える。
守がフィギュアを飾っていた棚を見て、私は呟いた。
「観葉植物でも飾ろうかしら」
それからは母から聞いた話だが、義母はずっと守がきちんと仕事をしているのに、相手の女性がワガママを言っているのだと思っていたそうだ。
夫婦仲が悪くなると義母が干渉して、更に状況を悪化させ、最終的にキレた義母が別れさせる、という流れが出来ていたそうなのだ。
だが、今回守の収入を目の当たりにした義母は、自分が間違っていたと後悔しているとの事だ。
守は親のスネをかじる気満々で、実家に寄生していたそうだが、義両親の2人がかりで、守を追い出したそうだ。
月9万の給料を全て自分の小遣いにしていただろうが、これからは全て生活費になるだろう。
「月9万で生活かぁ~、それが出来たらいいね」
私はクスクスと笑いながら、母の話を聞いた。
仕事の忙しさも相まって、離婚のショックはあまり大きくなかった。
守がどうなろうと知った事ではないし、手切れ金100万円を受け取ったしと、気楽な気持ちで母の話を聞いた。
「清香は、大丈夫?」
母は、自分が私に何を言ったのか覚えていないのか、心配そうな声でそう聞いてきた。
「結婚してた時よりも元気よ。
お母さんがあの時、離婚したら周りがどうのって言わなければ、お姑さんが離婚しろって言うところまで発展しなかっただろうし。
離婚を止めてくれてありがとうね」
「あっ、じゃあ、私の事は許してくれる?」
さすがの母も、私の嫌味に気付いたらしい。
そう聞かれて笑みが零れる。私の答えは既に決まっていたからだ。
「ふふっ、娘が苦しんでるのに、冷たく突き放したあなたを、これからも母親だなんて思えないよ。
もう、冠婚葬祭以外で連絡してこないでね。
お父さんにも伝えておいて。
連絡するなら、お父さんからメールを送ってねって」
「えっ、ちょっ…」
母が何かを言おうとしていたが、私は電話を切って、両親の電話番号を着信拒否にした。
幸い、私はもう10年も前から一人暮らしをしていて、親とは結婚の事がなければ、連絡すら取っていなかった。
私は離婚をバネに、より一層仕事に励んだ。
その結果、私はまた昇格する事になった。
私は男運がないようだし、もう恋愛も結婚もこりごりだ。
こうなったら、会社の役員を目指して頑張ろうと思う。
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