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四章
二十二話 悩んだ結果
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その後の長い話し合いの末、瑞希の勤務は、SMデリヘルは週三で勤務時間を八時間に、普通のデリヘルは週二で十時間、週一で六時間勤務に変えた。
乱交パーティーは普通のデリヘルでのみ週二で十時間する事になり、それには伊吹も瑞希の客を通じて参加出来るようになった。
伊吹は宣言通り、仕事が忙しくなった為、家にいる時間は少ない。乱交パーティーには時間がある時三時間だけ参加しているようだ。
忙しそうだが生き生きとしている。
翠も大学とサークルとバイトで忙しくしているが、伊吹と瑞希よりは暇な為、家事を主にしたり、ラブピーチが人手が足りない時にシフトに入るようになった。
余裕がある時間は、伊吹と過ごしたり、瑞希と過ごしたり、三人で過ごしたりと毎日が充実している。
休みの日は遠出をしたり、遊んだり。伊吹は卒論で忙しくなってからは、翠と瑞希が二人でいる時間が増えた。
翠がやる事もなく、のんびりソファーに座ってニュース番組が流れるテレビを眺めている時だった。
「翠君はさぁ、卒業後はどうするの?」
瑞希から急に真面目な話を振られた。
特に見たいニュースではなかったのでテレビを消した。
瑞希がダイニングテーブルに、自分の分と翠の分のコーヒーを用意しており、お茶菓子を出して「こっちおいで」と言ってくる。
「そういえば、何も考えてませんでした」
「やりたい事も?」
「伊吹さんの恋人になる事が目的でしたからね、その後の事は後で考えればいいやって思ってたんで」
「そんなんだと、三年になってから困っちゃうね」
「そうですよね。就活か~。来年か再来年の話だし、その時に考えればよくないですか?」
「僕は就活した事ないから偉そうな事はいえないけど。どんな人生を歩みたいのか、ちゃんと考えた方がいいと思うな。
翠君自身がやりたい事が見つかるといいよね」
「じゃあ、なるべく伊吹さんと一緒にいられる仕事がいいかなぁ、なんて。あはは」
「あはは。ラブピーチにでも就職すんの? それって本当にやりたい事?」
「直接の客相手は向いてない気がします」
今までしてきたバイトもなるべく接客は避けてきた。高校時代にやったコンビニのバイトが合わなかったのだ。
「そういう点では翠君のご両親が無理に勉強させた事に関してだけは、気持ち分からなくもないよ」
「俺の両親ですか?」
「そう。やっぱり良い大学入っていれば、選択肢が広がるからね。
一位取らなきゃダメとかは理解出来ないけど、良い大学入って、良いところに就職すれば、生活に困らないもん。
そういう親心はなんとなく理解出来るよ」
「それ、俺に親と和解しろって言ってます?」
伊吹も何度か「実家に帰らないのか?」という発言をしてきた。思い出すだけで辛い記憶がよみがえる実家に帰りたいとは思えない。
両親の事は軽蔑している。和解を求められると、「俺の気持ちなんか何も知らない癖に」という恨めしい気持ちが込み上げるのだ。
「いんや? それは翠君の自由だよ。親と和解したから幸せになれるとも限らないしねぇ。
世の中にはどうしても和解出来ない家族もあるわけだから。
翠君がどうしたいか、それだけだよ」
(伊吹さんも瑞希さんも俺の気持ちを尊重してくれる。強制はしないから素直に話を聞けるんだよな)
大学で知り合った中には、両親と和解するべきだと翠が悪いかのように言ってくる者もいた。
そう言われると反発する以外の感情は湧かないが、自由だと言われると少し考える余地が出てくる。
「それに、和解した方が将来的に翠君が後悔しないんんじゃないかな? って思ったんだ。
僕小学生の時、関係修復出来ないくらいに伊吹の親子関係ぶっ壊しちゃって、少し後悔してるんだよね」
「瑞希さん、俺、ちゃんと考えてみます」
「うん、そうしてみてね」
「はい。あ、あと伊吹さんの事で、瑞希さんに相談があったんですよ」
最近少し悩んでいた事があった事を思い出す。
「何?」
「俺達、今外で瑞希さんと伊吹さんが乱交して、うちで瑞希さんがいない時に俺と伊吹さんがヤってるじゃないですか」
「うん。ちなみに、翠君がいない時に僕と伊吹でシてるよ」
その事実を聞いて少しショックを受けそうになった。
瑞希の方が伊吹と絡める機会が多いという事だ。ジーっと瑞希を睨む。
「ごめんごめん。でも、僕がこの家にいない時間の方が多いでしょ? 総時間はあんまり変わらないと思うよ」
「そうですかね? それは今は置いておきます。
俺は普段から瑞希さん入れて3Pしてもいいかなって思ってるんですよ。
相手がいない時を狙ってするのも正直面倒ですし。瑞希さんはどう思います?」
「それ、僕も考えてた事があってね。ちょっと僕の計画聞いてもらえるかな?」
「聞くだけなら」
「聞いたら頷いてくれると信じてるよ」
瑞希が説明を始めた。翠はその提案に迷う事なく頷いた。
話し合いが終わった後は二人で家事をした。
瑞希は家事をした事がないからか、家事スキルがゼロだった。なので翠が教えながらである。
お互いが支え合えるような、翠が理想と思える家族関係を築けている。
では自分の本当の家族はどうだったか……。
それから数日後の夜のこと。
珍しく三人揃ったので、三人で食事が出来る事になった。
なかなか揃う事はないので、貴重な時間だ。
「あの……。二人とも聞いてくれますか?」
翠が緊張しながら伊吹と瑞希に話しかけた。
「うん? なんだ?」
「どうしたの?」
「俺、実家に帰ってみようと思います」
二人から「おぉー!」と喜びに近いような声が上がった。二人の喜びように翠は少し驚く。
「あの、一人で帰るの、緊張するから二人とも一緒に来てくれますか?」
「柊君は?」
「兄さんでもいいんですが、一番信頼してる二人が来てくれた方が安心します」
「分かったよ」
「三人で行こう!」
瑞希が笑顔で頷き、伊吹も嬉しそうに頷いている。翠の両親に会っている二人は、きっと両親が良い方へ変わった事を知っているのだろうと考えた。だから和解を促しているのだろうと。
一度だけ実家に帰ってみて、両親が本当に変わってくれていれば、その時は許そうと決めた。
二人に付いてきてもらうのは、緊張するからというより、もし両親に酷い事を言われた時に支えが欲しかったからだ。
柊は両親に逆らえないので、下手したら味方になってもらえない可能性がある。
少しの恐怖を感じながら、次の休日。翠は伊吹と瑞希と共に実家の玄関前に来ていた。
昔と同じ習慣であれば、休日の午前中は両親とも家から出ないので、中にいる筈だ。
翠は玄関前でプルプルと震えており、指先がブレてチャイムを押せない。
「何、瑞希と同じ事してんだよ」
と、伊吹が勝手にボタンを押してしまった。
「ちょっ、伊吹さん!?」
ピンポーンと響くチャイム音。家のインターホンが壊れていたら、等と淡い期待をするが、無意味である。
すぐにスピーカーから母親の声が聞こえてきた。
「はい。あぁ、翠……翠なのね?」
母親の声だ。その声を聞いたらきっと恐怖で逃げ出すような気がしていたが、柔らかい口調の母親の声は、なんだか懐かしさを感じた。
「翠……です。もし、怒っていなければ、入れてもらえませんか?
勝手に家を出た親不孝者ですが、それでも許してもらえるなら」
インターホンのがガチャリと切れた。バタバタ走る音が外まで聞こえる。
すぐに玄関が開かれて、母親が翠を抱き締めた。後ろから父親も一緒に外に出てくる。
「翠!!」
懐かしさだ。両親との楽しかった記憶が呼び起こされる。
ただ、虐待をされていただけではなかった。
(俺、お母さんの事好きだったんだっけ)
翠の為に好物を用意してくれた時もあった。テストで一位の時はお祝いにとケーキを買ってくれた時もあった。
旅行に行って、兄と二人でお揃いの浴衣を着てお祭りに行った。中学や高校の入学祝いには、家族で遊園地に遊びに行った事もあった。
忘れていた。悪い記憶だけが印象に残って、両親の事が本当は好きだった記憶を消していた。
好きだからこそ、虐待されて悲しかったのだと思い出す。
「許してもらうのはこっちの方だわ。あなたの気持ちを無視して、なんでもかんでも私達の都合を押し付けて……。
翠が怒るのも当然の事だった。よく……よく帰ってきてくれたわ」
母親は翠を離すと、伊吹と瑞希を見た。
「あなた達。まさか、この子にあの事を話したの?」
「いいえ。ずっと隠し通してきました」
「僕も伊吹もたまーに、実家は? って聞いたりしてただけですよ。翠君は自分の意思で帰る決断をしたんです」
三人が何を話しているか分からず、翠一人が首を傾げる。
まるで自分だけ除け者のような。だが、不快感はなく、ただ事情が知りたいと思った。
和室の客間へ案内されて、両親対翠、伊吹、瑞希の形で向かい合って座布団に座る事となるが、先に母親がお茶の用意をする。
その間、父親にも何度も謝られる。
「私達は本当に最低な親だったと思う。すまなかった」
「……いいよ、分かってくれたなら」
「お母さんが戻ったら、色々と聞かせてくれ。篠さんも、佐々木さんも本当にありがとうございます」
伊吹も瑞希も謙遜するように「いえいえ」と首を横に振っている。
五人分のお茶を持って戻ってきた母親が座ってから、先に伊吹が切り出した。
「あれから一年と少しですね。もっと時間がかかると思っていました」
「あの、去年の夏頃何があったんです? 間違っていなければ、隠してた事って俺の両親と関係がある事ですよね?」
「翠、それを今から説明しよう」
未だに自分だけが蚊帳の外で不満げな顔を見せると、父親が翠の前に一枚の紙を出した。
───────────────────
※残り三話+おまけ二話です。
もう少しお付き合いください。
乱交パーティーは普通のデリヘルでのみ週二で十時間する事になり、それには伊吹も瑞希の客を通じて参加出来るようになった。
伊吹は宣言通り、仕事が忙しくなった為、家にいる時間は少ない。乱交パーティーには時間がある時三時間だけ参加しているようだ。
忙しそうだが生き生きとしている。
翠も大学とサークルとバイトで忙しくしているが、伊吹と瑞希よりは暇な為、家事を主にしたり、ラブピーチが人手が足りない時にシフトに入るようになった。
余裕がある時間は、伊吹と過ごしたり、瑞希と過ごしたり、三人で過ごしたりと毎日が充実している。
休みの日は遠出をしたり、遊んだり。伊吹は卒論で忙しくなってからは、翠と瑞希が二人でいる時間が増えた。
翠がやる事もなく、のんびりソファーに座ってニュース番組が流れるテレビを眺めている時だった。
「翠君はさぁ、卒業後はどうするの?」
瑞希から急に真面目な話を振られた。
特に見たいニュースではなかったのでテレビを消した。
瑞希がダイニングテーブルに、自分の分と翠の分のコーヒーを用意しており、お茶菓子を出して「こっちおいで」と言ってくる。
「そういえば、何も考えてませんでした」
「やりたい事も?」
「伊吹さんの恋人になる事が目的でしたからね、その後の事は後で考えればいいやって思ってたんで」
「そんなんだと、三年になってから困っちゃうね」
「そうですよね。就活か~。来年か再来年の話だし、その時に考えればよくないですか?」
「僕は就活した事ないから偉そうな事はいえないけど。どんな人生を歩みたいのか、ちゃんと考えた方がいいと思うな。
翠君自身がやりたい事が見つかるといいよね」
「じゃあ、なるべく伊吹さんと一緒にいられる仕事がいいかなぁ、なんて。あはは」
「あはは。ラブピーチにでも就職すんの? それって本当にやりたい事?」
「直接の客相手は向いてない気がします」
今までしてきたバイトもなるべく接客は避けてきた。高校時代にやったコンビニのバイトが合わなかったのだ。
「そういう点では翠君のご両親が無理に勉強させた事に関してだけは、気持ち分からなくもないよ」
「俺の両親ですか?」
「そう。やっぱり良い大学入っていれば、選択肢が広がるからね。
一位取らなきゃダメとかは理解出来ないけど、良い大学入って、良いところに就職すれば、生活に困らないもん。
そういう親心はなんとなく理解出来るよ」
「それ、俺に親と和解しろって言ってます?」
伊吹も何度か「実家に帰らないのか?」という発言をしてきた。思い出すだけで辛い記憶がよみがえる実家に帰りたいとは思えない。
両親の事は軽蔑している。和解を求められると、「俺の気持ちなんか何も知らない癖に」という恨めしい気持ちが込み上げるのだ。
「いんや? それは翠君の自由だよ。親と和解したから幸せになれるとも限らないしねぇ。
世の中にはどうしても和解出来ない家族もあるわけだから。
翠君がどうしたいか、それだけだよ」
(伊吹さんも瑞希さんも俺の気持ちを尊重してくれる。強制はしないから素直に話を聞けるんだよな)
大学で知り合った中には、両親と和解するべきだと翠が悪いかのように言ってくる者もいた。
そう言われると反発する以外の感情は湧かないが、自由だと言われると少し考える余地が出てくる。
「それに、和解した方が将来的に翠君が後悔しないんんじゃないかな? って思ったんだ。
僕小学生の時、関係修復出来ないくらいに伊吹の親子関係ぶっ壊しちゃって、少し後悔してるんだよね」
「瑞希さん、俺、ちゃんと考えてみます」
「うん、そうしてみてね」
「はい。あ、あと伊吹さんの事で、瑞希さんに相談があったんですよ」
最近少し悩んでいた事があった事を思い出す。
「何?」
「俺達、今外で瑞希さんと伊吹さんが乱交して、うちで瑞希さんがいない時に俺と伊吹さんがヤってるじゃないですか」
「うん。ちなみに、翠君がいない時に僕と伊吹でシてるよ」
その事実を聞いて少しショックを受けそうになった。
瑞希の方が伊吹と絡める機会が多いという事だ。ジーっと瑞希を睨む。
「ごめんごめん。でも、僕がこの家にいない時間の方が多いでしょ? 総時間はあんまり変わらないと思うよ」
「そうですかね? それは今は置いておきます。
俺は普段から瑞希さん入れて3Pしてもいいかなって思ってるんですよ。
相手がいない時を狙ってするのも正直面倒ですし。瑞希さんはどう思います?」
「それ、僕も考えてた事があってね。ちょっと僕の計画聞いてもらえるかな?」
「聞くだけなら」
「聞いたら頷いてくれると信じてるよ」
瑞希が説明を始めた。翠はその提案に迷う事なく頷いた。
話し合いが終わった後は二人で家事をした。
瑞希は家事をした事がないからか、家事スキルがゼロだった。なので翠が教えながらである。
お互いが支え合えるような、翠が理想と思える家族関係を築けている。
では自分の本当の家族はどうだったか……。
それから数日後の夜のこと。
珍しく三人揃ったので、三人で食事が出来る事になった。
なかなか揃う事はないので、貴重な時間だ。
「あの……。二人とも聞いてくれますか?」
翠が緊張しながら伊吹と瑞希に話しかけた。
「うん? なんだ?」
「どうしたの?」
「俺、実家に帰ってみようと思います」
二人から「おぉー!」と喜びに近いような声が上がった。二人の喜びように翠は少し驚く。
「あの、一人で帰るの、緊張するから二人とも一緒に来てくれますか?」
「柊君は?」
「兄さんでもいいんですが、一番信頼してる二人が来てくれた方が安心します」
「分かったよ」
「三人で行こう!」
瑞希が笑顔で頷き、伊吹も嬉しそうに頷いている。翠の両親に会っている二人は、きっと両親が良い方へ変わった事を知っているのだろうと考えた。だから和解を促しているのだろうと。
一度だけ実家に帰ってみて、両親が本当に変わってくれていれば、その時は許そうと決めた。
二人に付いてきてもらうのは、緊張するからというより、もし両親に酷い事を言われた時に支えが欲しかったからだ。
柊は両親に逆らえないので、下手したら味方になってもらえない可能性がある。
少しの恐怖を感じながら、次の休日。翠は伊吹と瑞希と共に実家の玄関前に来ていた。
昔と同じ習慣であれば、休日の午前中は両親とも家から出ないので、中にいる筈だ。
翠は玄関前でプルプルと震えており、指先がブレてチャイムを押せない。
「何、瑞希と同じ事してんだよ」
と、伊吹が勝手にボタンを押してしまった。
「ちょっ、伊吹さん!?」
ピンポーンと響くチャイム音。家のインターホンが壊れていたら、等と淡い期待をするが、無意味である。
すぐにスピーカーから母親の声が聞こえてきた。
「はい。あぁ、翠……翠なのね?」
母親の声だ。その声を聞いたらきっと恐怖で逃げ出すような気がしていたが、柔らかい口調の母親の声は、なんだか懐かしさを感じた。
「翠……です。もし、怒っていなければ、入れてもらえませんか?
勝手に家を出た親不孝者ですが、それでも許してもらえるなら」
インターホンのがガチャリと切れた。バタバタ走る音が外まで聞こえる。
すぐに玄関が開かれて、母親が翠を抱き締めた。後ろから父親も一緒に外に出てくる。
「翠!!」
懐かしさだ。両親との楽しかった記憶が呼び起こされる。
ただ、虐待をされていただけではなかった。
(俺、お母さんの事好きだったんだっけ)
翠の為に好物を用意してくれた時もあった。テストで一位の時はお祝いにとケーキを買ってくれた時もあった。
旅行に行って、兄と二人でお揃いの浴衣を着てお祭りに行った。中学や高校の入学祝いには、家族で遊園地に遊びに行った事もあった。
忘れていた。悪い記憶だけが印象に残って、両親の事が本当は好きだった記憶を消していた。
好きだからこそ、虐待されて悲しかったのだと思い出す。
「許してもらうのはこっちの方だわ。あなたの気持ちを無視して、なんでもかんでも私達の都合を押し付けて……。
翠が怒るのも当然の事だった。よく……よく帰ってきてくれたわ」
母親は翠を離すと、伊吹と瑞希を見た。
「あなた達。まさか、この子にあの事を話したの?」
「いいえ。ずっと隠し通してきました」
「僕も伊吹もたまーに、実家は? って聞いたりしてただけですよ。翠君は自分の意思で帰る決断をしたんです」
三人が何を話しているか分からず、翠一人が首を傾げる。
まるで自分だけ除け者のような。だが、不快感はなく、ただ事情が知りたいと思った。
和室の客間へ案内されて、両親対翠、伊吹、瑞希の形で向かい合って座布団に座る事となるが、先に母親がお茶の用意をする。
その間、父親にも何度も謝られる。
「私達は本当に最低な親だったと思う。すまなかった」
「……いいよ、分かってくれたなら」
「お母さんが戻ったら、色々と聞かせてくれ。篠さんも、佐々木さんも本当にありがとうございます」
伊吹も瑞希も謙遜するように「いえいえ」と首を横に振っている。
五人分のお茶を持って戻ってきた母親が座ってから、先に伊吹が切り出した。
「あれから一年と少しですね。もっと時間がかかると思っていました」
「あの、去年の夏頃何があったんです? 間違っていなければ、隠してた事って俺の両親と関係がある事ですよね?」
「翠、それを今から説明しよう」
未だに自分だけが蚊帳の外で不満げな顔を見せると、父親が翠の前に一枚の紙を出した。
───────────────────
※残り三話+おまけ二話です。
もう少しお付き合いください。
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