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四章
十七話 同棲
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伊吹と仲直りしてから一週間があっという間だった。バイトをして、終わったら自転車でラブピーチまで向かい、伊吹と愛を育みながら眠り、朝はラブピーチから大学へ向かった。
バイトがない日は、ラブピーチの七階で鞭の練習をしたり、伊吹が仕事を終えた後緊縛の練習をした。
その後決まってセックスをするようになり、充実すぎるが故に時間の経過も早く感じられた。
だがやはりホテルの一室で暮らすには不便な事が多い。翠は手をつけていなかった仕送りの一部を使い、引越しをする事にした。
後で両親から何を言われても、今の自分ならきっと対抗する事が出来るという根拠の無い自信があった。
それは伊吹の存在が強い。愛する人と一緒ならどこまででも強くなれる気がしたのだ。
部屋を探し始めてからすぐにクリスマスがやってきた。バイトが終わるとすぐにラブピーチの七階へ向かった。
伊吹も仕事が忙しかったらしい、疲れた顔で部屋に戻ってきた。
「お疲れ様~」
「お疲れ様です! 伊吹さん、大丈夫ですか?」
「うん、やっぱりクリスマスは忙しいな」
伊吹が着ているスーツを脱がし、翠も服を脱ぐ。先に溜めておいた浴槽に二人で浸かった。
翠が座っている股の間に伊吹が座る。自然と手は両肩に向かい、肩もみを始めた。
「翠、ありがとう」
「何がです?」
「いつも優しくしてくれて。翠も疲れてるだろ?」
「まぁ……少し疲れてます。でも、伊吹さんの顔を見たら疲れが飛びました」
「あはは。俺も」
イチャつきながら身体を洗って、部屋に戻る。バスローブ姿でソファーに二人で並んで座って、ささやかなパーティーを開いた。
翠が用意した酒とつまみと、一人用の小さなケーキを二つ並べた。
「あ、伊吹さん、渡したい物があるんですけど」
翠は一度離れてカバンから両手に収まる程の箱を取り出し、伊吹に渡した。
「クリスマスプレゼントです。受け取ってもらえるか、不安ではあるんですけど……どうです?」
伊吹は嬉しそうに包装紙を綺麗に剥がして、箱を開いた。伊吹の目が優しく微笑む。
中に入っていたのは赤い首輪だ。SMグッズの商品が多いアダルトショップで購入した。
首輪の真ん中には輪になっている金具が付いる。
「昔のお前だったら拒否してたと思う。でも、今のお前なら俺の身体を任せられるよ。今日はこれ付けてしよ?」
「わぁ、嬉しいです! ありがとうございます!」
「お前なぁ。ご主人様なら下手に出ちゃだめだろ。当然って態度でいい」
「分かりました。それなら伊吹さん、自分でその首輪つけて、俺に服従した証を見せて下さい。
伊吹さんが自分の意思で俺の奴隷になるって事を示してください」
「は、はい……」
「ほら、バスローブ脱いで下さいよ。奴隷に服は必要ないでしょう?」
伊吹は慌ててバスローブを脱ぐ。首輪を着けると、正座をして深く頭を下げた。
「わたくし篠伊吹は、これからご主人様の奴隷です。どのような命令も聞き、誠実に従います。
厳しくご指導下さい」
「はい。じゃあ伊吹さん、立って、両手をベッドに着いて、お尻を突き出して」
「はい」
いつになく伊吹は顔を赤くしている。このところ毎日のようにソフトSMめいたセックスはしているが、きちんと調教するのは久しぶりだ。
伊吹をどうしたいのか、どんな奴隷に育てたいのか、その答えはまだ出ていない。
それ以前に、翠自身がどんな主人になりたいのか、その展望も見えていない。
(こうやって、プレイを重ねる毎に二人で成長していけたら……)
翠は一本鞭を手に取り、伊吹の尻を目掛けて必死に打った。
打つ度に瑞希の言葉が頭に浮かんでは消えていく。
教わった事を思い出しながら打つ。強さは問題ないらしく、伊吹は痛みに苦しみながら甘い喘ぎ声を出している。
「あぁっ、ご、ご主人……様ぁ、もっとぉ、痛く、ああっ、もっと、下さいぃっ」
「ほんと、伊吹さんはワガママな奴隷ですね。オネダリしたら、俺がその通りにするとでも思ってますか?」
「はぁっ、ご主人様は、優しい、からっ、あっ」
「俺、伊吹さんの為に厳しくする事も出来るんですよ」
翠は鞭打ちをやめて、赤い低温蝋燭を持ち、火をつけた。
蝋が溶けるスピードが速い。伊吹の背中にポタポタと垂らしていく。
「ひぃっ、あぁぁっ!」
「蝋燭で服を作りましょうね」
「あっ、つぅぅ! はぁ、あっ、ひぃぃ」
伊吹は痛みに身を捩らせている。いつもなら縛っているので逃げられないのだが、今は逃げようと思えばいつでも逃げられる。
それを絶対にしないのは分かっている。痛みを求めているのは伊吹なのだから。
「逃げないで下さいよ。次逃げる素振り見せたら、縛って、伊吹さんのペニス責めましょうか」
「あっ、それ、良い……」
「そっちのプレイがいいからって、わざと逃げたら放置プレイですからね!」
「ご主人様、あんまりいじめ過ぎないでください」
伊吹が涙目を見せてきた。これには翠も折れざるを得ない。蝋燭の火を消すと、伊吹の全身に縄化粧を施した。
両手を後ろで縛った後手縛りに、翠なりにアレンジを加えて縛る。
身動きが取れない状態の伊吹をベッドに突き飛ばし、既に勃っているペニスに尿道ブジーで塞いだ。
そのまま、殆ど解していないアナルに翠のペニスを捩じ込むように突き入れた。
「ぃああっ! もっとぉ、虐めて、酷くして下さい」
翠は伊吹を犯しながら、伊吹のペニスを右手で掴み、強く握る。かなりの痛みだろう。伊吹は涙を流しながら喜んでいた。
伊吹の奥に性を吐き出すと、伊吹とキスがしたくなった。
首輪の金具に指を引っ掛けて無理に首を浮かせてキスをする。苦しげなのに嬉しそうな伊吹が愛しくて、一度では終わらない。
次は伊吹の尿道ブジーを外して、電マで伊吹の亀頭を責め、何度も射精させた。その姿を見て、翠はまた伊吹を犯す。
「ご主人様ぁ、もう、もう出ませんっ」
と、伊吹が勃たなくなったが、翠はお構いなしに犯す。辛そうにしている伊吹が愛おしく思えた。
翠が疲れて動けなくなった時、深夜の三時になっていた。
広いベッドに全裸の二人が寄り添って抱き合った。伊吹に着けた首輪は外した。今は主従関係ではなく恋人同士だ。
「翠、ごめん。俺プレゼントとか何も用意してない。クリスマスにプレゼント渡すって習慣なくてさ」
「伊吹さんのファンからもらったりもなかったんですか?」
「うん。俺が住んでるのって客室じゃん。物増やしたくないから、プレゼント禁止にしてたんだよ」
「そうだったんですね。いいですよ、俺は伊吹さんが傍にいてくれるだけで十分貰えてますし」
「何かさせてくれ。次の休み、一緒に買い物でが行くか。翠が欲しい物なんでも買ってやるし」
「要りませんよ。あ、じゃあ伊吹さん一つだけお願いがあります」
「なんだ? 俺に出来る事ならなんでもしたい」
「あはは。無理だったら断っていいですよ。俺、ラブピーチの近くのマンションにでも引っ越そうかなって思っていまして。
伊吹さん、同棲してくれませんか? やっぱ。ホテルの部屋だと生活が不便です」
「いいよ」
翠は目を丸くして伊吹を見つめた。伊吹はというと、先程プレゼントを渡した時と同じように、嬉しそうに優しく微笑んでいた。
「本当ですか!?」
「うん。一緒に住もう。翠、愛してる」
「俺もです! この世で伊吹さんだけを愛してます!!」
「ありがと。あっ……なぁ、翠は年末年始、実家に帰らないの?」
ここで実家の話が出ると思っていなかったので、翠は少し身構えた。自分の顔が不機嫌そうになっているだろうと自覚はしていたが、穏やかでいられない。
「絶対帰りませんね」
「お父さんもお母さんも、心配してるかもよ?」
「好きに心配してたらいいんじゃないですかね。絶対心配してないと思いますけど」
「ご両親の事を許せない?」
「はい」
「お兄さんは許せたんだよね?」
「あれは……兄が本当は俺の事心配してくれてたって分かったから」
「そっか」
「その話はもういいですよ、こんな幸せな時にあんな人達の事、思い出させないで下さい」
「ごめんな」
その後もイチャイチャしている内に眠ってしまった。
年が明けて落ち着いた頃、翠は伊吹を連れてラブピーチ近くのマンションに引っ越した。
新築同然のマンションだ。家具や家電製品は翠が使っていた物を全て持ち運んだが、他に必要なものがあれば伊吹と買い揃える事になっている。
初めて伊吹と二人で部屋の中に足を踏み入れた時、全部の部屋を覗いた伊吹が率直な感想を翠に言った。
「好きな部屋にしていいって言ったけど、さすがに広過ぎない!?」
「3LDKなんですよ」
「男の二人暮しだぞ? そんなに物が多い訳でもないのに」
「色々な部屋見に行って、ここが良いと思ったんですよね。一応、それぞれプライベートの部屋はあった方がいいでしょうし。寝室は俺の部屋で一緒に寝てもいいし、それぞれの部屋で寝てもいいし。
あ、伊吹さんが嫌だったら別のところに変えます?」
「いや、そんな無駄な事はしないさ。それに翠が気に入ったんなら良いじゃん。一部屋余りそうだな、ここはSMグッズ置く部屋にでもするか?」
「ええ。一部屋はSM用にと思って広めの場所を選んだんですよ」
「それ最高」
伊吹と二人きりの生活が始まって、今まで知らなかった部分がたくさん見られるようになった。
それは伊吹も同じようで、事ある毎に「意外だな」等と言われる。
几帳面に見えて掃除は適当なところや、食事がかなり不規則である事、寝ている時に起こそうとすると酷い口調で罵倒してくる等、翠自身が意識していない部分を言われる。
それは翠から伊吹に言える事でもあった。
伊吹は甘党だ。気付けば甘いものを摂取しており、
「あ、伊吹さん、また! 角砂糖そのまま食べちゃダメです!」
「あ? ごめん、無意識だったわ」
気付けば料理するわけでもないのにキッチンに立って角砂糖を食べている。
「次から角砂糖買うの禁止です。糖尿病とか高血圧とかになりそうじゃないですか。絶対依存症になってますよ」
「まぁ早く死んだところで、気にしないし」
「やめてくださいよ、俺が悲しみますから!!」
「なぁ」
「何……んっ」
伊吹にキスをされ、口の中にボロボロに溶けた角砂糖を移された。舌と舌が絡むと砂糖がザラザラして少し不快だ。
二人で砂糖を溶かし合い、完全になくなってもキスを続けた。
「へへ、半分お前にやったから心配ないだろ?」
「も、もー伊吹さんは……」
恋人同士の穏やかな生活に、翠はこれまで以上に幸せを感じていた。
一つだけ気がかりな事を残し……。
バイトがない日は、ラブピーチの七階で鞭の練習をしたり、伊吹が仕事を終えた後緊縛の練習をした。
その後決まってセックスをするようになり、充実すぎるが故に時間の経過も早く感じられた。
だがやはりホテルの一室で暮らすには不便な事が多い。翠は手をつけていなかった仕送りの一部を使い、引越しをする事にした。
後で両親から何を言われても、今の自分ならきっと対抗する事が出来るという根拠の無い自信があった。
それは伊吹の存在が強い。愛する人と一緒ならどこまででも強くなれる気がしたのだ。
部屋を探し始めてからすぐにクリスマスがやってきた。バイトが終わるとすぐにラブピーチの七階へ向かった。
伊吹も仕事が忙しかったらしい、疲れた顔で部屋に戻ってきた。
「お疲れ様~」
「お疲れ様です! 伊吹さん、大丈夫ですか?」
「うん、やっぱりクリスマスは忙しいな」
伊吹が着ているスーツを脱がし、翠も服を脱ぐ。先に溜めておいた浴槽に二人で浸かった。
翠が座っている股の間に伊吹が座る。自然と手は両肩に向かい、肩もみを始めた。
「翠、ありがとう」
「何がです?」
「いつも優しくしてくれて。翠も疲れてるだろ?」
「まぁ……少し疲れてます。でも、伊吹さんの顔を見たら疲れが飛びました」
「あはは。俺も」
イチャつきながら身体を洗って、部屋に戻る。バスローブ姿でソファーに二人で並んで座って、ささやかなパーティーを開いた。
翠が用意した酒とつまみと、一人用の小さなケーキを二つ並べた。
「あ、伊吹さん、渡したい物があるんですけど」
翠は一度離れてカバンから両手に収まる程の箱を取り出し、伊吹に渡した。
「クリスマスプレゼントです。受け取ってもらえるか、不安ではあるんですけど……どうです?」
伊吹は嬉しそうに包装紙を綺麗に剥がして、箱を開いた。伊吹の目が優しく微笑む。
中に入っていたのは赤い首輪だ。SMグッズの商品が多いアダルトショップで購入した。
首輪の真ん中には輪になっている金具が付いる。
「昔のお前だったら拒否してたと思う。でも、今のお前なら俺の身体を任せられるよ。今日はこれ付けてしよ?」
「わぁ、嬉しいです! ありがとうございます!」
「お前なぁ。ご主人様なら下手に出ちゃだめだろ。当然って態度でいい」
「分かりました。それなら伊吹さん、自分でその首輪つけて、俺に服従した証を見せて下さい。
伊吹さんが自分の意思で俺の奴隷になるって事を示してください」
「は、はい……」
「ほら、バスローブ脱いで下さいよ。奴隷に服は必要ないでしょう?」
伊吹は慌ててバスローブを脱ぐ。首輪を着けると、正座をして深く頭を下げた。
「わたくし篠伊吹は、これからご主人様の奴隷です。どのような命令も聞き、誠実に従います。
厳しくご指導下さい」
「はい。じゃあ伊吹さん、立って、両手をベッドに着いて、お尻を突き出して」
「はい」
いつになく伊吹は顔を赤くしている。このところ毎日のようにソフトSMめいたセックスはしているが、きちんと調教するのは久しぶりだ。
伊吹をどうしたいのか、どんな奴隷に育てたいのか、その答えはまだ出ていない。
それ以前に、翠自身がどんな主人になりたいのか、その展望も見えていない。
(こうやって、プレイを重ねる毎に二人で成長していけたら……)
翠は一本鞭を手に取り、伊吹の尻を目掛けて必死に打った。
打つ度に瑞希の言葉が頭に浮かんでは消えていく。
教わった事を思い出しながら打つ。強さは問題ないらしく、伊吹は痛みに苦しみながら甘い喘ぎ声を出している。
「あぁっ、ご、ご主人……様ぁ、もっとぉ、痛く、ああっ、もっと、下さいぃっ」
「ほんと、伊吹さんはワガママな奴隷ですね。オネダリしたら、俺がその通りにするとでも思ってますか?」
「はぁっ、ご主人様は、優しい、からっ、あっ」
「俺、伊吹さんの為に厳しくする事も出来るんですよ」
翠は鞭打ちをやめて、赤い低温蝋燭を持ち、火をつけた。
蝋が溶けるスピードが速い。伊吹の背中にポタポタと垂らしていく。
「ひぃっ、あぁぁっ!」
「蝋燭で服を作りましょうね」
「あっ、つぅぅ! はぁ、あっ、ひぃぃ」
伊吹は痛みに身を捩らせている。いつもなら縛っているので逃げられないのだが、今は逃げようと思えばいつでも逃げられる。
それを絶対にしないのは分かっている。痛みを求めているのは伊吹なのだから。
「逃げないで下さいよ。次逃げる素振り見せたら、縛って、伊吹さんのペニス責めましょうか」
「あっ、それ、良い……」
「そっちのプレイがいいからって、わざと逃げたら放置プレイですからね!」
「ご主人様、あんまりいじめ過ぎないでください」
伊吹が涙目を見せてきた。これには翠も折れざるを得ない。蝋燭の火を消すと、伊吹の全身に縄化粧を施した。
両手を後ろで縛った後手縛りに、翠なりにアレンジを加えて縛る。
身動きが取れない状態の伊吹をベッドに突き飛ばし、既に勃っているペニスに尿道ブジーで塞いだ。
そのまま、殆ど解していないアナルに翠のペニスを捩じ込むように突き入れた。
「ぃああっ! もっとぉ、虐めて、酷くして下さい」
翠は伊吹を犯しながら、伊吹のペニスを右手で掴み、強く握る。かなりの痛みだろう。伊吹は涙を流しながら喜んでいた。
伊吹の奥に性を吐き出すと、伊吹とキスがしたくなった。
首輪の金具に指を引っ掛けて無理に首を浮かせてキスをする。苦しげなのに嬉しそうな伊吹が愛しくて、一度では終わらない。
次は伊吹の尿道ブジーを外して、電マで伊吹の亀頭を責め、何度も射精させた。その姿を見て、翠はまた伊吹を犯す。
「ご主人様ぁ、もう、もう出ませんっ」
と、伊吹が勃たなくなったが、翠はお構いなしに犯す。辛そうにしている伊吹が愛おしく思えた。
翠が疲れて動けなくなった時、深夜の三時になっていた。
広いベッドに全裸の二人が寄り添って抱き合った。伊吹に着けた首輪は外した。今は主従関係ではなく恋人同士だ。
「翠、ごめん。俺プレゼントとか何も用意してない。クリスマスにプレゼント渡すって習慣なくてさ」
「伊吹さんのファンからもらったりもなかったんですか?」
「うん。俺が住んでるのって客室じゃん。物増やしたくないから、プレゼント禁止にしてたんだよ」
「そうだったんですね。いいですよ、俺は伊吹さんが傍にいてくれるだけで十分貰えてますし」
「何かさせてくれ。次の休み、一緒に買い物でが行くか。翠が欲しい物なんでも買ってやるし」
「要りませんよ。あ、じゃあ伊吹さん一つだけお願いがあります」
「なんだ? 俺に出来る事ならなんでもしたい」
「あはは。無理だったら断っていいですよ。俺、ラブピーチの近くのマンションにでも引っ越そうかなって思っていまして。
伊吹さん、同棲してくれませんか? やっぱ。ホテルの部屋だと生活が不便です」
「いいよ」
翠は目を丸くして伊吹を見つめた。伊吹はというと、先程プレゼントを渡した時と同じように、嬉しそうに優しく微笑んでいた。
「本当ですか!?」
「うん。一緒に住もう。翠、愛してる」
「俺もです! この世で伊吹さんだけを愛してます!!」
「ありがと。あっ……なぁ、翠は年末年始、実家に帰らないの?」
ここで実家の話が出ると思っていなかったので、翠は少し身構えた。自分の顔が不機嫌そうになっているだろうと自覚はしていたが、穏やかでいられない。
「絶対帰りませんね」
「お父さんもお母さんも、心配してるかもよ?」
「好きに心配してたらいいんじゃないですかね。絶対心配してないと思いますけど」
「ご両親の事を許せない?」
「はい」
「お兄さんは許せたんだよね?」
「あれは……兄が本当は俺の事心配してくれてたって分かったから」
「そっか」
「その話はもういいですよ、こんな幸せな時にあんな人達の事、思い出させないで下さい」
「ごめんな」
その後もイチャイチャしている内に眠ってしまった。
年が明けて落ち着いた頃、翠は伊吹を連れてラブピーチ近くのマンションに引っ越した。
新築同然のマンションだ。家具や家電製品は翠が使っていた物を全て持ち運んだが、他に必要なものがあれば伊吹と買い揃える事になっている。
初めて伊吹と二人で部屋の中に足を踏み入れた時、全部の部屋を覗いた伊吹が率直な感想を翠に言った。
「好きな部屋にしていいって言ったけど、さすがに広過ぎない!?」
「3LDKなんですよ」
「男の二人暮しだぞ? そんなに物が多い訳でもないのに」
「色々な部屋見に行って、ここが良いと思ったんですよね。一応、それぞれプライベートの部屋はあった方がいいでしょうし。寝室は俺の部屋で一緒に寝てもいいし、それぞれの部屋で寝てもいいし。
あ、伊吹さんが嫌だったら別のところに変えます?」
「いや、そんな無駄な事はしないさ。それに翠が気に入ったんなら良いじゃん。一部屋余りそうだな、ここはSMグッズ置く部屋にでもするか?」
「ええ。一部屋はSM用にと思って広めの場所を選んだんですよ」
「それ最高」
伊吹と二人きりの生活が始まって、今まで知らなかった部分がたくさん見られるようになった。
それは伊吹も同じようで、事ある毎に「意外だな」等と言われる。
几帳面に見えて掃除は適当なところや、食事がかなり不規則である事、寝ている時に起こそうとすると酷い口調で罵倒してくる等、翠自身が意識していない部分を言われる。
それは翠から伊吹に言える事でもあった。
伊吹は甘党だ。気付けば甘いものを摂取しており、
「あ、伊吹さん、また! 角砂糖そのまま食べちゃダメです!」
「あ? ごめん、無意識だったわ」
気付けば料理するわけでもないのにキッチンに立って角砂糖を食べている。
「次から角砂糖買うの禁止です。糖尿病とか高血圧とかになりそうじゃないですか。絶対依存症になってますよ」
「まぁ早く死んだところで、気にしないし」
「やめてくださいよ、俺が悲しみますから!!」
「なぁ」
「何……んっ」
伊吹にキスをされ、口の中にボロボロに溶けた角砂糖を移された。舌と舌が絡むと砂糖がザラザラして少し不快だ。
二人で砂糖を溶かし合い、完全になくなってもキスを続けた。
「へへ、半分お前にやったから心配ないだろ?」
「も、もー伊吹さんは……」
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