乱交パーティー出禁の男

眠りん

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四章

十一話 苦悩

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 伊吹は翠を部屋から追い出した後一人で身を丸めた。

「俺のせいだ。全部……俺の……」

 ふと翠が心配になり時計を見る。まだ二十二時半だ。電車が動いているから帰れるだろうが──。
 感情的になって怒りをぶつけてしまい、時間の確認すらせずに追い出した。
 泊まっていいと言ったのに。

(今ならまだ他の部屋空いてるかな?)

 すぐに受付に電話をした。平日の夜だ、そこまで混んではいないだろうと考えながらコール音を聞く。

「はい、フロントです」

「お疲れ様です。今大丈夫ですか?」

 出たのは深夜勤務のアルバイトだ。

「あ、伊吹さん。はい。大丈夫ですよ」

「翠ってもう外出ちゃった?」

「ええ、走って出て行っちゃいましたけど……」

「そっか。空いてる部屋ってあるかな?」

「ありますけど……」

「ちょっと取っておいてくれるかな?」

「いいですよ。翠さん用ですね。りょーかいです」

「ありがとう」

 電話を切って、すぐに翠に電話をかけるとすぐに出た。

「はい、なんです?」

 声が固い。怒っているのだろうと、緊張しながら用件を話した。

「さっきはごめん。今日泊まっていけって言っただろ。部屋空けたから、受付に言えば鍵を出すようにしてあるから、今日はそこに泊まって欲しい」

「いえ。そこにいたら伊吹さんに会うかもしれないでしょ? 帰りますよ」

「分かった。あの……ごめ」

 最後まで言い切る前に、電話は翠にすぐに切られてしまった。会いたくないと言ったのは伊吹で、その発言に偽りはない。
 今の翠と顔を合わせたくないのも事実だ。
 伊吹はすぐに受付に連絡をして部屋のキャンセルをした。

 服を着替えずにそのまま布団に入った。寝苦しいが、着替える気力が起きない。
 瑞希に連絡しようとも思ったが、瑞希は乱交パーティーがなくなってから、仕事を休みなく長時間で入れるようになったらしく、忙しいようだ。

 空いているのは月曜と水曜と金曜の夕方だが、今は翠にSMを教える時間にしている為なかなか会えない。

「瑞希……こういう時、どうしたらいいのかな?」

 誰もいない一人の部屋で呟く。こういう時、相談出来る相手は瑞希しかいなかったのだと気付いた。
 そして、それが翠を傷付けていたのだと気付く。

(瑞希と別れた方がいいのかな)

 翠と瑞希、どちらを取るべきか、伊吹は延々と悩んだ。
 そもそもそう考えるのが傲慢ではないか、という結果に辿り着いた時には既に日が昇っていたのだった。

(あーーーー。寝れなかった。最悪)

 伊吹はすぐに飛び起きて、出掛ける準備を始めたのだった。






 伊吹に追い出されてから、翠はすぐに自宅には帰ったが、布団に潜りながらもあまり眠れなかった。
 眠っても、夢の中で伊吹に罵られるのだ。その度に飛び起きてはまた眠り、似たような夢を見ては飛び起きた。

『俺、やっぱり瑞希が一番だったって気付いたよ。お前のお陰でさ』

 翠を見下すような伊吹の冷たい目。翠は泣きそうになりながら、伊吹に縋る。

『い、伊吹さん……本気ですか?』

『勿論。お前みたいな性格クソな奴と今後付き合える気がしねぇ。早くどっか失せろ。
 瑞希に近寄んなよ!』

「い……嫌……嫌です……伊吹さん……伊吹さん!!」

 ガバッと飛び起きる。今のも夢だったらしい。心臓がバクバクと痛い程に脈打っており、息も切れている。

「また夢か……」

 これ以上悪夢を見たくなくて起きる事にした。頭は働いていない。ぼんやりと時計を見ると十一時だ。
 六時に目が覚めた時点で素直に起きておけば良かったと後悔しながら冷蔵庫を開けた。
 食材が殆どない。

(食欲もないし。まぁいいか)

 スマホを見ると、大学のサークルのグループラインから連絡が来ていただけだった。
 通知で二行だけ見れるようになっており、旅行の内容だと分かる。

 イベントサークルでは、夏合宿という名の旅行があるらしく、海が近いコテージに一泊二日というスケジュールだと夏休み前の集まりで言っていた。

 正直興味がなさすぎて、一ヶ月以上前に断った。お金もかかるのに、伊吹がいるならまだしも全くの他人と旅行など考えたくもない。
 そんなラインを開きもせずに無視しようとした時だ。サークルの部長から電話がかかった。

「……もしもし?」

 いつも飲み会で幹事を進んでやるような、翠の苦手なタイプだ。

「あ! 柳川君! ちょっと頼みたい事があるんだけどいいかな?
 強制じゃないから、無理だったら断っていいんだけど」

「はい、なんでしょう?」

「サークルの合宿なんだけど、欠員が出ちゃって。休む奴が宿泊費を半分出すって言ってるんだけど、参加しない?
 って話なんだけど……」

「合宿っていつからでしたっけ?」

「明後日からなんだよ。どうかな?」

(伊吹さんがいないのになんで……)

 と、思いかけたところで思い出した。伊吹には次いつ会えるか分からないんだった、と。

「……まぁ、いいですよ」

「そうだよなぁ。こんな事聞いてごめんな」

「いいですよって。参加します」

「えっ!? や、柳川君が?」

「はい」

「飲み会も、桜大の篠君が参加しないと絶対断る柳川君が?」

「だから参加しますってば」

「ええっ? 桜大のメンバーはいないんだよ? 君、いつも強制参加の集まりじゃないと出ないのに?」

「はい。ちょっと暇になってしまったので参加します」

 電話口で部長は大喜びだった。やれやれと、旅行の準備を始める為に出掛けようと、荷物を持って家を出た。

 歩き出そうとした時、見知った顔が翠の元へと歩いてきた。

(見間違いか? ……いや、本物だ)

 翠は目を擦り、再度目の前の相手が視認している人物と一致するかどうかを確認した。

「翠。元気してたか?」

「に……兄さん!」

 やってきたのは柊だった。

「出掛けるのか?」

「大した用じゃないよ」

 ここで話すのもなんだから、と部屋の中に招いた。テーブルを挟んで向かい合って座る。
 いつ伊吹が来てもいいように用意しておいたお茶を出した。

「部屋、意外と綺麗にしてるんだな」

「寝室は散らかってるから、絶対開けないで」

 寝室も綺麗ではあるのだが、伊吹の写真が複数枚とSMグッズが置いてある為、人には見せられない状態だ。

「それで、なんだったの? なんか親にも俺に近付かせないようにするとかなんとか。伊吹さんと
何かあったんでしょ?」

 結構前の事だ。伊吹との通話中に電話口から、僅かに柊の声が聞こえたのだ。
 急いで引き返し、ラブピーチ近くで柊とバッタリ出会った時、柊は慌てた様子でそのような事を言っていた。
 伊吹と何もないと考える方がおかしい。

「それは言えない……。けど、翠は自由に生きて、色んな見聞を広げて欲しい。
 俺もだけど、翠も大概視野が狭いからな」

「もしかして、伊吹さんに何かされた?」

 少し踏み込んで聞いてみる。伊吹が柊の事を話さないという事は、柊も口止めされている可能性が高い。

「……いや。翠も、伊吹君と瑞希君にあまり甘え過ぎないようにな」

 ふと、伊吹が言っていた『瑞希がどんな思いで、お前の味方したと……』という言葉を思い出した。

(兄さんに関わりがある事?)

「伊吹さんはなんとなく分かるけど、なんで瑞希さんまで……?」

「瑞希君にも世話になったからだ。瑞希君は翠の前だと強がってしまうんだろう」

「強がる? 俺で遊んで楽しんで、いじめっ子と変わらない」

「そういう一面も事実なんだろうが。瑞希君は思ってる以上に、自分に関わる人の事をよく考えてるよ」

(なんで兄さんの方が詳しいんだよ。ワケわかんねぇ)

「なら教えてくれよ。皆で何を隠してんのか」

「さぁ? 俺は知らないな。
 周りが隠し事をしてるって事は、翠に知られたくない内容なんだ。お前がするべき事は、それを無理矢理聞き出すことじゃない。
 今は自分を大事にして、やりたい事をするべきだ」

「……分かった」

 渋々だが頷いた。ここで騒いで教えてもらうと言う事は、玩具を買ってもらえなくて泣き叫ぶ子供と同じだと思ったからだ。

「今は詮索しないようにするよ」

「うむ。それと、今まで本当に悪かった。翠さえ良ければ、今後もこうして会いたいと思うんだが、どうだろう?
 やっぱり家族に関わるのは嫌か?」

「お母さんとお父さんは正直顔も見たくないけど……、優しくなった兄さんならいいよ」

 その後は軽く世間話や、大学やサークルの事や、昔の事を話したりして、夕方頃に柊は帰っていった。
 そこでマズい事に気付いた。

「あっ! 瑞希さんとの練習!」

 今日は講習ではない為、瑞希は一切口を出さずに翠がやりやすいように緊縛や鞭打ちの練習を手伝ってくれる日である。
 時間が迫ってきている。翠は焦って瑞希に電話をした。
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