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四章
七話 広夢からの情報
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暑い夏日。窓から射し込む陽が顔に直撃した。夢見悪く目覚めた翠は、怠そうに顔を顰めながらベッドから起き上がる。
夏休みに入り、暇な時間が増えたのでバイトでもしようと思うのだが、そうすると伊吹と一緒にいる時間が減ってしまう。
それでなくとも、SMを教わっている為に、特に会いたくもない瑞希に週三で会わなければならないのだ。
夏休みの過ごし方について悩みながら、朝食にパンを焼き、テレビをつけて適当にニュース番組を見ながら食事をしていると、スマホの着信音が鳴った。
咥えていたパンを近くのコップの上に置いて、すぐに寝室のベッドの上で充電器に繋げられたままのスマホを手に取った。
(伊吹さんからでありますように。伊吹さんからでありますように。伊吹さんからでありますように。伊吹さんからでありますように──)
「伊吹さんからじゃないや。後でかけ直そう」
画面には「広夢」と表示されていた。小学生の頃からの腐れ縁で、翠の唯一の友人である。
伊吹に近付く為に色々と手助けをしてくれた功労者でもある。
広夢に感謝はしているが、朝食を中断してまで電話に出てあげようと思う程ではない。
伊吹でない事にガッカリしながらパンを齧る。
今日の予定を考えると気怠い。夕方にラブピーチに行って瑞希に縛りの練習と、鞭の打ち方を見てもらいに行く日だ。
それはいいのだが、折角ラブピーチに行くのに伊吹には会えないと、やる気が半減する。
どうせ会うのは瑞希だけだからといって、素のままの自分で行くわけにはいかない。
会うまでに、健気な年下キャラを自分に召喚させなければならないのが怠さの原因だ。
演技は嫌いだ。だが素を出せばすぐに瑞希に「お仕置き」とか言われて酷い目に遭うのは想像がつく。
(早くSMの技を磨いて、伊吹さんと主従関係になって、伊吹さんに俺に対して何か負い目を作らせて、瑞希さんと別れさせて、それから伊吹さんに出来るだけ人間関係を断ってもらう……それが一番理想なんだけどな)
悶々と悩んでいると、ハッとある事に気付いた。
(そうだよ、こういう悩みこそ広夢に相談すべきじゃないか。こういう時に役に立つんだ、広夢は)
友達に対して失礼な評価をしつつ、翠は半分になったパンを再びコップの上に置くと、寝室に戻って広夢に電話をかけた。
広夢は数コールで出た。
「お、翠?」
「広夢。久しぶり。さっきは出られなくてごめんな」
「翠の事だから面倒で後回しにしたと思ったけど」
「ギクッ。その通りだけど、何か用?」
「その通りなのかよ! まぁ、大した話じゃないんだけど。昨日さ、お前の知り合いが来てな。
伝えていいもんか悩んだんだけど。やっぱり俺としてはエロくて可愛い子より、友情を大事にしたいなって」
「エロ? なんだ?」
「瑞希さんって人、知ってるよな?」
広夢の口から、にっくき恋敵の名が出てくるとは思っていなかった為、動揺する。
「うん。めちゃくちゃ知ってる」
「めちゃエロくて可愛いよなぁ。惚れそうになったよ。瑞希さん」
「瑞希さんがどうかしたの? てか、なんで瑞希さんと会ってんの?」
伊吹をストーカーしていた時、広夢と一緒に伊吹に近付く為のプランを作成した時に、瑞希の存在も伝えてある。
だが、それは「伊吹の友人で乱交パーティーに毎回参加している」という情報だけだった筈だ。
「いや、瑞希さんが翠の事調べててさ。俺に情報聞いてきたから、教えただけだよ」
「教えたの? 何を? てかそれいつの話?」
「先週の木曜だったかな。バイト帰りに瑞希さんが俺に近寄ってきて……」
それから先は、広夢と瑞希のやり取りを聞いた。
※
瑞希は翠の事を調べていたらしい。その時に現れた瑞希は、肩までの長さの金髪ツインテールに、ゴスロリ調だが落ち着いたデザインの黒いワンピース姿に、大人っぽい化粧といった姿で現れた。
その時、広夢は彼を少し年下の女性だと思った。
「初めまして。翠君の知り合いの瑞希って言います~。広夢君に聞きたい事がありましてぇ」
「うわ、可愛い子!」
「えへ、僕キミのタイプかな?」
「ドストライクです!!」
本当に可愛い子だった。これだけ可愛ければ、自分に自信があって当然だろう。
その彼女は、広夢の手をぎゅっと握ってきた。嫌な気はしない。
デレデレしながら彼女の後についていった。
連れて行かれたのは大学からは少し遠いラブホテルだ。
「瑞希ちゃんって、もしかしてビッチな子!?」
「そぉでーす。広夢君のお注射欲しいなぁ」
一気に体温が上がっていくのが分かった。拒める筈もなく部屋に入り、抱き合った。
服を半分脱がし、下着を下ろして手が止まる。
真っ平らな胸に、下半身には普通の神経であれば見たくもない、男の象徴がぶら下がっていたのだ。
「えっ、男……?」
「男じゃ嫌? スカート穿いたままなら大丈夫? 顔だけなら年下の女の子に見えるでしょ? ダメかなぁ?」
「大丈夫っす! こんなに可愛いなら、男でもイケます! てか、逆に燃えます!」
広夢は瑞希を押し倒し、前戯ももどかしく、すぐに挿入した。
男を受け入れる事に慣れている身体だと分かった。
何か情報を引き出す為のハニートラップだろうと頭のどこかでは分かっていたが、その時には瑞希の身体に夢中になっていた。
その説明のついでに、行為の内容も翠に聞かせようとしたが、翠が嫌がって「そこは興味無い。それで?」とバッサリ切られてしまったので、事後にベッドの上でイチャイチャしながらした会話の話をする。
「ねぇ翠君ってどんな子?」
全裸でウィッグも取ってしまった瑞希が、女装の時と変わらない甘い声で、甘えるように聞いてきた。答えられないわけがない。
「プライドが高くて、周りに嫌われるタイプですね」
「ハッキリ言うねぇ」
「あははは。でも、僕は皆から嫌われてる翠の性格が好きなんですよね。
嫌いなものは嫌い! ってハッキリ言うじゃないですか。聞いてて寧ろ清々しいというか」
「分かる~。嫌って言う時の拒否反応は面白いよねぇ。
ちょっと悩みがあってね、翠君ってば僕の前じゃ演技しちゃってて、本当のところを見せてくれないんだよねぇ」
「あぁ、でも今は周囲の人とは上手くやれているでしょう?」
「まぁね。伊吹なんて騙されてるし」
瑞希はそれが気に食わないようで、はぁと溜息をついていた。瑞希が吐く息なら、それも甘そうに思えて、キスをしたくなった。
顔を近付けると、瑞希に額に手を当てて押し戻されてしまう。
「俺が演技指導したんですよ。そうじゃなきゃ、アイツすぐ周りから嫌われちゃいますからね」
「へぇ、実はそういうタイプなんだね。僕や伊吹の前なら素を見せても問題ないと思うけどなぁ」
「そういえば、二ヶ月くらい前に翠が伊吹さんと付き合い始めたって言ってきましたね」
「その後の事は? 何か報告受けてる?」
「いや、何も言ってこないですね」
「実は、僕も伊吹の事大好きでね。伊吹は一度、僕と付き合うから別れてって翠君に言ったの。僕も一緒にいる時にね」
「それはとんだ修羅場じゃないですか」
「ううん。そこは、翠君が伊吹に、俺と付き合いながら、瑞希さんとも付き合わせろっておねだりしろ! なんて言ったんですよ」
「なんだそりゃ? 多分、それは自分の器大きいアピールですね。
伊吹さんは手放したくないけど、伊吹さんの気持ちを無視する男になりたくないから。
それ、絶対納得してませんよ」
「やっぱ、そうだよねぇ。翠君、何か企んでるような気がするんだよね。多分、僕を排除しようとしたりとか」
話を聞く限りでは、瑞希は翠と知り合って半年も経っていない筈だ。それなのに、翠の事をそこまで見破っている事に感嘆した。
「そうですね。多分、いや絶対、瑞希さんを伊吹さんから引き離す計画くらいは立ててる筈ですよ」
「ふぅん、なるほどね。あ、あと。翠君の家庭環境も知りたいなぁ」
「えぇ。じゃあキスして下さいよ」
瑞希は躊躇なく、広夢の唇にキスをし、その唇に舌を割入れて深いディープキスをした。
息が苦しくなっても気付かない程、瑞希とのキスに夢中になる。
「こんなんじゃ足りないかなぁ?」
「いえ! 全部話します!」
広夢は瑞希に翠の両親の事を全て話した。すると、瑞希は自分の事の様に怒り始めた。
「なにそれ。そんなの虐待じゃん。翠君可哀想だよ」
「まぁ今は親元から離れてますから、伸び伸びやってると思いますけどね」
「それなら良いけど。やっぱり許せないよ。僕、虐待する親が一番嫌いなんだよね」
「瑞希さんも虐待されたりとか?」
「ううん。僕じゃないんだけどね。
広夢君、今日は色々と情報くれてありがとう」
優しい天使のような微笑みを向けられると、鼻の下が伸びる。
この時の広夢は完全に翠よりも瑞希の味方であった。
「いいえ~! 瑞希さんの為ならよろこんで」
「友達売ってるのにいいの?」
「いいんです。僕は友情より性欲選ぶんで」
「ふふっ。ほんと、翠君にはいいお友達だねぇ。じゃあ広夢君が僕を求めるなら相手してあげるね。
これ、僕が働いてる店。一人で稼げるようになったら指名してね」
名刺を渡す。上品なデザインの名刺だ。名前には「瑞希」とその隣に筆記体でローマ字の読みが書かれており、店の名前と電話番号、店のサイトのアドレスとQRコードが載っている。
「店の人だったんですね! バイトで頑張って稼いで、利用させてもらいます」
「うん、僕が所属してる店の一つだよ。君にはこっちの方が合ってると思う。普通のデリヘルと同じだから、安心してね」
瑞希は広夢にウインクした。心が奪われるとはこの事だ。もう瑞希の事で頭がいっぱいだ。
翠は友人だが、やはり恋には勝てないのだと──この時はそう思っていた。
※
「それで? お前が瑞希さんに惚れたのは分かった。広夢が俺の敵になるなんて思わなかった」
翠が苛立ちながらそう言うと、広夢は焦った声を出した。
「ちょっ、まっ! 違う違う! 一週間悩んで、やっぱお前に言うべきだなって。
今思えばあの時の俺、冷静じゃなかったよ。
最終的に好きな子よりお前選んだんだからな! 感謝しろよ!」
「あぁ、ありがとう。広夢の事信用してて良かったよ」
「翠、絶対そんな事思ってないよな?」
「思ってるよ。広夢は頭良いし、色々な意見言ってくれるから助かるよ。瑞希さんを伊吹さんから引き離すにはどうしたらいいか、お前に相談したいと思ってたし」
それは本心だ。翠は素の時、拒絶をする時はハッキリと言うが、同じように好意を向ける時もハッキリと言う。
「待って。確かに翠を優先させたし、好きな子より友情を選んだよ。
けど、瑞希さんに惚れたのも事実なの。人を陥れる様な事は出来ない」
「チッ。分かったよ」
翠は渋々頷く。通話を終えると、スマホをベッドの上に投げた。スマホはベッドの上で三回ほどバウンドして、横たわった。
その時には翠は寝室から出て、朝食の続きに戻ったのだった。パンは冷めていた。
焼き直すのも面倒でそのまま齧った。
(やっぱり朝食を中断してまで電話するんじゃなかった)
───────────────────
補足としまして。
三章の二十三話~三十四話が日曜日。
(最後で伊吹と瑞希が、翠君ち行こうねって終わったやつです)
↓
瑞希が広夢に会いに行ったのが木曜日。
(ちなみに、水曜までに奴隷に頼んで翠の交友関係を調べさせてます)
↓
伊吹と瑞希が、翠の実家に行ったのが日曜日。
↓
そんで、今回の話。
(作中で水曜設定なんですが、投稿日も水曜でビックリ)
夏休みに入り、暇な時間が増えたのでバイトでもしようと思うのだが、そうすると伊吹と一緒にいる時間が減ってしまう。
それでなくとも、SMを教わっている為に、特に会いたくもない瑞希に週三で会わなければならないのだ。
夏休みの過ごし方について悩みながら、朝食にパンを焼き、テレビをつけて適当にニュース番組を見ながら食事をしていると、スマホの着信音が鳴った。
咥えていたパンを近くのコップの上に置いて、すぐに寝室のベッドの上で充電器に繋げられたままのスマホを手に取った。
(伊吹さんからでありますように。伊吹さんからでありますように。伊吹さんからでありますように。伊吹さんからでありますように──)
「伊吹さんからじゃないや。後でかけ直そう」
画面には「広夢」と表示されていた。小学生の頃からの腐れ縁で、翠の唯一の友人である。
伊吹に近付く為に色々と手助けをしてくれた功労者でもある。
広夢に感謝はしているが、朝食を中断してまで電話に出てあげようと思う程ではない。
伊吹でない事にガッカリしながらパンを齧る。
今日の予定を考えると気怠い。夕方にラブピーチに行って瑞希に縛りの練習と、鞭の打ち方を見てもらいに行く日だ。
それはいいのだが、折角ラブピーチに行くのに伊吹には会えないと、やる気が半減する。
どうせ会うのは瑞希だけだからといって、素のままの自分で行くわけにはいかない。
会うまでに、健気な年下キャラを自分に召喚させなければならないのが怠さの原因だ。
演技は嫌いだ。だが素を出せばすぐに瑞希に「お仕置き」とか言われて酷い目に遭うのは想像がつく。
(早くSMの技を磨いて、伊吹さんと主従関係になって、伊吹さんに俺に対して何か負い目を作らせて、瑞希さんと別れさせて、それから伊吹さんに出来るだけ人間関係を断ってもらう……それが一番理想なんだけどな)
悶々と悩んでいると、ハッとある事に気付いた。
(そうだよ、こういう悩みこそ広夢に相談すべきじゃないか。こういう時に役に立つんだ、広夢は)
友達に対して失礼な評価をしつつ、翠は半分になったパンを再びコップの上に置くと、寝室に戻って広夢に電話をかけた。
広夢は数コールで出た。
「お、翠?」
「広夢。久しぶり。さっきは出られなくてごめんな」
「翠の事だから面倒で後回しにしたと思ったけど」
「ギクッ。その通りだけど、何か用?」
「その通りなのかよ! まぁ、大した話じゃないんだけど。昨日さ、お前の知り合いが来てな。
伝えていいもんか悩んだんだけど。やっぱり俺としてはエロくて可愛い子より、友情を大事にしたいなって」
「エロ? なんだ?」
「瑞希さんって人、知ってるよな?」
広夢の口から、にっくき恋敵の名が出てくるとは思っていなかった為、動揺する。
「うん。めちゃくちゃ知ってる」
「めちゃエロくて可愛いよなぁ。惚れそうになったよ。瑞希さん」
「瑞希さんがどうかしたの? てか、なんで瑞希さんと会ってんの?」
伊吹をストーカーしていた時、広夢と一緒に伊吹に近付く為のプランを作成した時に、瑞希の存在も伝えてある。
だが、それは「伊吹の友人で乱交パーティーに毎回参加している」という情報だけだった筈だ。
「いや、瑞希さんが翠の事調べててさ。俺に情報聞いてきたから、教えただけだよ」
「教えたの? 何を? てかそれいつの話?」
「先週の木曜だったかな。バイト帰りに瑞希さんが俺に近寄ってきて……」
それから先は、広夢と瑞希のやり取りを聞いた。
※
瑞希は翠の事を調べていたらしい。その時に現れた瑞希は、肩までの長さの金髪ツインテールに、ゴスロリ調だが落ち着いたデザインの黒いワンピース姿に、大人っぽい化粧といった姿で現れた。
その時、広夢は彼を少し年下の女性だと思った。
「初めまして。翠君の知り合いの瑞希って言います~。広夢君に聞きたい事がありましてぇ」
「うわ、可愛い子!」
「えへ、僕キミのタイプかな?」
「ドストライクです!!」
本当に可愛い子だった。これだけ可愛ければ、自分に自信があって当然だろう。
その彼女は、広夢の手をぎゅっと握ってきた。嫌な気はしない。
デレデレしながら彼女の後についていった。
連れて行かれたのは大学からは少し遠いラブホテルだ。
「瑞希ちゃんって、もしかしてビッチな子!?」
「そぉでーす。広夢君のお注射欲しいなぁ」
一気に体温が上がっていくのが分かった。拒める筈もなく部屋に入り、抱き合った。
服を半分脱がし、下着を下ろして手が止まる。
真っ平らな胸に、下半身には普通の神経であれば見たくもない、男の象徴がぶら下がっていたのだ。
「えっ、男……?」
「男じゃ嫌? スカート穿いたままなら大丈夫? 顔だけなら年下の女の子に見えるでしょ? ダメかなぁ?」
「大丈夫っす! こんなに可愛いなら、男でもイケます! てか、逆に燃えます!」
広夢は瑞希を押し倒し、前戯ももどかしく、すぐに挿入した。
男を受け入れる事に慣れている身体だと分かった。
何か情報を引き出す為のハニートラップだろうと頭のどこかでは分かっていたが、その時には瑞希の身体に夢中になっていた。
その説明のついでに、行為の内容も翠に聞かせようとしたが、翠が嫌がって「そこは興味無い。それで?」とバッサリ切られてしまったので、事後にベッドの上でイチャイチャしながらした会話の話をする。
「ねぇ翠君ってどんな子?」
全裸でウィッグも取ってしまった瑞希が、女装の時と変わらない甘い声で、甘えるように聞いてきた。答えられないわけがない。
「プライドが高くて、周りに嫌われるタイプですね」
「ハッキリ言うねぇ」
「あははは。でも、僕は皆から嫌われてる翠の性格が好きなんですよね。
嫌いなものは嫌い! ってハッキリ言うじゃないですか。聞いてて寧ろ清々しいというか」
「分かる~。嫌って言う時の拒否反応は面白いよねぇ。
ちょっと悩みがあってね、翠君ってば僕の前じゃ演技しちゃってて、本当のところを見せてくれないんだよねぇ」
「あぁ、でも今は周囲の人とは上手くやれているでしょう?」
「まぁね。伊吹なんて騙されてるし」
瑞希はそれが気に食わないようで、はぁと溜息をついていた。瑞希が吐く息なら、それも甘そうに思えて、キスをしたくなった。
顔を近付けると、瑞希に額に手を当てて押し戻されてしまう。
「俺が演技指導したんですよ。そうじゃなきゃ、アイツすぐ周りから嫌われちゃいますからね」
「へぇ、実はそういうタイプなんだね。僕や伊吹の前なら素を見せても問題ないと思うけどなぁ」
「そういえば、二ヶ月くらい前に翠が伊吹さんと付き合い始めたって言ってきましたね」
「その後の事は? 何か報告受けてる?」
「いや、何も言ってこないですね」
「実は、僕も伊吹の事大好きでね。伊吹は一度、僕と付き合うから別れてって翠君に言ったの。僕も一緒にいる時にね」
「それはとんだ修羅場じゃないですか」
「ううん。そこは、翠君が伊吹に、俺と付き合いながら、瑞希さんとも付き合わせろっておねだりしろ! なんて言ったんですよ」
「なんだそりゃ? 多分、それは自分の器大きいアピールですね。
伊吹さんは手放したくないけど、伊吹さんの気持ちを無視する男になりたくないから。
それ、絶対納得してませんよ」
「やっぱ、そうだよねぇ。翠君、何か企んでるような気がするんだよね。多分、僕を排除しようとしたりとか」
話を聞く限りでは、瑞希は翠と知り合って半年も経っていない筈だ。それなのに、翠の事をそこまで見破っている事に感嘆した。
「そうですね。多分、いや絶対、瑞希さんを伊吹さんから引き離す計画くらいは立ててる筈ですよ」
「ふぅん、なるほどね。あ、あと。翠君の家庭環境も知りたいなぁ」
「えぇ。じゃあキスして下さいよ」
瑞希は躊躇なく、広夢の唇にキスをし、その唇に舌を割入れて深いディープキスをした。
息が苦しくなっても気付かない程、瑞希とのキスに夢中になる。
「こんなんじゃ足りないかなぁ?」
「いえ! 全部話します!」
広夢は瑞希に翠の両親の事を全て話した。すると、瑞希は自分の事の様に怒り始めた。
「なにそれ。そんなの虐待じゃん。翠君可哀想だよ」
「まぁ今は親元から離れてますから、伸び伸びやってると思いますけどね」
「それなら良いけど。やっぱり許せないよ。僕、虐待する親が一番嫌いなんだよね」
「瑞希さんも虐待されたりとか?」
「ううん。僕じゃないんだけどね。
広夢君、今日は色々と情報くれてありがとう」
優しい天使のような微笑みを向けられると、鼻の下が伸びる。
この時の広夢は完全に翠よりも瑞希の味方であった。
「いいえ~! 瑞希さんの為ならよろこんで」
「友達売ってるのにいいの?」
「いいんです。僕は友情より性欲選ぶんで」
「ふふっ。ほんと、翠君にはいいお友達だねぇ。じゃあ広夢君が僕を求めるなら相手してあげるね。
これ、僕が働いてる店。一人で稼げるようになったら指名してね」
名刺を渡す。上品なデザインの名刺だ。名前には「瑞希」とその隣に筆記体でローマ字の読みが書かれており、店の名前と電話番号、店のサイトのアドレスとQRコードが載っている。
「店の人だったんですね! バイトで頑張って稼いで、利用させてもらいます」
「うん、僕が所属してる店の一つだよ。君にはこっちの方が合ってると思う。普通のデリヘルと同じだから、安心してね」
瑞希は広夢にウインクした。心が奪われるとはこの事だ。もう瑞希の事で頭がいっぱいだ。
翠は友人だが、やはり恋には勝てないのだと──この時はそう思っていた。
※
「それで? お前が瑞希さんに惚れたのは分かった。広夢が俺の敵になるなんて思わなかった」
翠が苛立ちながらそう言うと、広夢は焦った声を出した。
「ちょっ、まっ! 違う違う! 一週間悩んで、やっぱお前に言うべきだなって。
今思えばあの時の俺、冷静じゃなかったよ。
最終的に好きな子よりお前選んだんだからな! 感謝しろよ!」
「あぁ、ありがとう。広夢の事信用してて良かったよ」
「翠、絶対そんな事思ってないよな?」
「思ってるよ。広夢は頭良いし、色々な意見言ってくれるから助かるよ。瑞希さんを伊吹さんから引き離すにはどうしたらいいか、お前に相談したいと思ってたし」
それは本心だ。翠は素の時、拒絶をする時はハッキリと言うが、同じように好意を向ける時もハッキリと言う。
「待って。確かに翠を優先させたし、好きな子より友情を選んだよ。
けど、瑞希さんに惚れたのも事実なの。人を陥れる様な事は出来ない」
「チッ。分かったよ」
翠は渋々頷く。通話を終えると、スマホをベッドの上に投げた。スマホはベッドの上で三回ほどバウンドして、横たわった。
その時には翠は寝室から出て、朝食の続きに戻ったのだった。パンは冷めていた。
焼き直すのも面倒でそのまま齧った。
(やっぱり朝食を中断してまで電話するんじゃなかった)
───────────────────
補足としまして。
三章の二十三話~三十四話が日曜日。
(最後で伊吹と瑞希が、翠君ち行こうねって終わったやつです)
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瑞希が広夢に会いに行ったのが木曜日。
(ちなみに、水曜までに奴隷に頼んで翠の交友関係を調べさせてます)
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