乱交パーティー出禁の男

眠りん

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三章

三十四話 過去の後悔

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 最初は怒りを全てぶつけるつもりだった。
 伊吹以外に対する怒りや不満だろうが、暴力という形で伊吹にぶつけると、伊吹は喜んで受け入れてくれる。
 それを知っているからこそ、暴虐を尽くそうとしてのだが……。

 主従関係ではなくなったのに、伊吹の心はまだ瑞希の奴隷だった。何も言わなくても瑞希の態度で全て理解してくれた事に、もう怒りは収まってしまった。
 溜飲が下がったというべきか。

 すると次に性欲がわいてきた。誘拐犯達とのセックスは、今まで乱交パーティーでしてきたようなスポーツみたいなものだ。
 乱交パーティーの目的は性欲発散だけが目的ではない。有り余った体力を発散させているだけである。

 だが、伊吹とのセックスは意味が変わる。
 身体だけでなく、心も繋げようとするのだ。体力も性欲も発散させる必要は無い。ただ、伊吹と交わりたいだけ。

 伊吹は心を繋げようとはしてくれないが──。

(今は拒まれないだけマシかな)

 伊吹が射精すると、瑞希も射精した。好きな人とのセックスは感じやすくなるのか、射精が早い。
 余韻を感じながら伊吹に抱きついた。もう一度したいと思うが、そんな事をしている程暇ではない。
 すぐに起き上がり、二人で風呂に入って精液を洗い流した。特に瑞希は頭も念入りに洗った。

 服を着た後は、伊吹と二人でスーツケースを元の場所へとしまった。
 そして、飲み物を用意してソファーに対面して座って、普通の話し合いが始まった。

「……で? 契約書ってなんの事?」

「実はこの前……翠の兄ちゃんが俺に会いに来て……」

 伊吹は事の経緯を説明した。柊を脅迫して契約書に署名をさせた事、契約書の内容、それを翠に秘密にしている事。

「近々、翠の実家に連絡して両親と対面で話し合おうと思ってたんだ。こっちも色々準備してたから、向こうへの対応が遅れてさ。
 まさか、よく分かんねぇチンピラ風情に依頼して、契約書を破棄させようとするなんてな。
 しかもそれで瑞希に迷惑かかるなんて、想像してなかった」

「なるほどね。それは伊吹と翠君の問題だから僕に言う必要ないもんね?」

「けど、巻き込んで本当に悪かった。なんなら本当に廃墟で言ってた罰を受けてもいい」

「いやそれ伊吹にしかメリットないでしょ。どこまでもドMだよね。
 絶対伊吹は無理って言うと思ったのに計算外」

 大体の事は分かっているつもりでも、百パーセント知っているわけではない。
 まだ知らない部分があると思うと、全てを知って支配したい気分になった。

「けど、そのお陰で気付いた事がある」

「何? ろくな事じゃないだろうってのは予想つくけど、言うだけ言ってみなよ」

「俺、瑞希に憎しみとか恨みとか殺意とか込めた目で見られたい。
 一度許してもらっておいてなんだけど、中学から今まで瑞希にした事、やっぱり許さないで欲しくなった。
 俺を憎んでいて欲しいって、思っちまう」

「僕の気持ちは全否定って事? 僕は許してスッキリしたよ。気持ちも楽になったし、何より、伊吹の恋人になれた事が嬉しい。
 本当に伊吹の事好きだから……大好きだから。
 でも、伊吹は僕に嫌われたいんだね?」

「ごめんっ! そういうつもりで言ったんじゃなくて! 最低な事言ってる自覚はあるけど。それだけ瑞希の殺意に満ちた言動が気持ち良かったんだ。
 今からまた恨んでくれとは言わねぇよ」

 瑞希は少し考えてから返答した。伊吹の事情も考えずに自分の気持ちだけを押し付けるのならば、それは愛とは呼ばない。
 本気で伊吹を愛しているなら、自分の非も認めるべきだと。

「ふむ。責任の一端は僕にもありそうだね。
 分かった。理解はするよ。でももう伊吹を嫌ったり憎んだりとかは無理だし、強要はしないでね。
 僕、ドMのオナニー道具になるつもりないから」

「……っ! そんなつもりないから」

 伊吹の顔が恍惚としている。また自分の発言で伊吹を気持ち良くさせてしまったようだ。

(難儀だなぁ)

「とりあえず、この話は終わりね。それで、伊吹は翠君のご両親とちゃんと話し合い出来るの?」

「そこは俺も成人した大人だし、問題ないよ」

 ドMになるとアホになるが、普段の伊吹はどちらかというと真面目な部類だ。その点は特に心配していない。
 話し合いに足る準備は出来ているのか? という意味で聞いたのだが、反応を見る限り問題はなさそうだ。

 以前翠から聞いた柳川家の家庭環境は、方向性は違えど伊吹の父親と似た一面がある。
 それは、子供を自分の思い通りにしようとするところだ。
 血の繋がった子供とはいえ、一個人の性格や能力、趣味嗜好を完全無視で、独裁的な家庭環境を作っているあたり被るところがあるのだ。

「伊吹はお父さんの事がトラウマになってるでしょ? 翠君のご両親は多分、同じタイプだと思うよ?」

「そうなんだろうなぁ」

「それに、柳川家に行けば翠君のお兄さんと両親がいるわけでしょ。伊吹が行ったら三対一じゃん。いくらこっちに翠君のお兄さんのあられもない姿の写真があると言っても不利でしょ」

「世間体気にする家なら、強いカードだろ?」

「じゃあ、もしそのカードが無意味になるくらい、伊吹が不利になったら?
 他にも切り札はあるわけ?」

「翠がSMショーに出てるってだけでも、醜聞になると思うけどな。
 その様子を親戚とかにばら撒くって脅したらどうだろう?」

「ううん。ダメだよ伊吹。もう脅すのはやめよう。相手は伊吹が大好きな翠君のご家族だよ?
 伊吹だってそんな事したくない筈でしょ?
 それに、また誘拐されたらたまったもんじゃないよ」

「じゃあどうするんだ?」

 伊吹の話を聞いて決断した事がある。

「僕も行く!」

「何しに?」

「翠君が自由に恋愛して、望む未来に向かって行けるように、僕が伊吹を助けるよ。
 それに、僕も翠君のご両親には言いたい事がある」

 瑞希はいつになく熱くなった。昔は伊吹の父親に、伊吹にした事への報復くらいしか解決策を思いつけなかったが。
 大人になった今ならもっと物事を柔軟に考えられる。
 あのような子供じみた仕返しではなく、翠が両親といつか和解出来る事を願って行動しようと考えた。

 伊吹と伊吹の父親との親子関係の亀裂を深めた事に、罪悪感がないわけでもない。
 だからといって、伊吹の父親を許せるわけではないが。
 やり方によっては、いつかは和解出来る道があったのではないかと考えなくもないのだ。

 翠に同じ轍を踏ませたくない。どうしようもなく相容れないわけでないのなら、いつかは和解出来る道を残してあげたいと考えている。

「いいのか? 瑞希は関係ない話なんだぞ?」

「もう巻き込まれてるよ! それに、翠君は僕の大事な弟子だよ。見過ごせないの。お願い、伊吹! 伊吹だって味方は多い方がいいでしょ?」

 瑞希の真剣な気持ちが通じたようだ。
 伊吹は少し悩んだ後に、頷いた。

「ありがとう。瑞希がいれば心強いよ」

「うん!」

 瑞希は大きく頷いた。恋愛とは違えど、翠はもう瑞希の生活になくてはならない人になっているのだから──。

───────────────────
※かなり日にち空いてしまってすみません。
 お詫び(?)に二話投稿致しました。

 あとおまけを一話出したら三章終わりです。
 なので、三章の本編はここで終わりですね。

 特に意図したつもりはなかったのですが、一章は伊吹視点で始まり伊吹視点で締め、
 二章は翠視点で始まり翠視点で締め、
 三章は瑞希視点で始まり瑞希視点で締めています。

 この作品四章で完結です。

 四章は誰が始まりで誰が締めるのでしょうか。楽しみにしていてください。
 よろしくお願いします。
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