乱交パーティー出禁の男

眠りん

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三章

二十九話 瑞希の仕事

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 瑞希はSMショーが終わった後、仕事に向かっていた。基本的に日曜は休みにしているのだが、どうしても日曜でないと会えないという奴隷の為に、月に一度だけ二時間その奴隷とSMプレイをするのだ。

 先に、レンタル倉庫に向かった。都心のビル内にあり、扉を開くと四畳程の空間が広がっている。
 ここには、固定客となった奴隷に使う道具を一人一人分けて置いていおり、棚に収納しているのだ。
 瑞希は同じ道具を他の奴隷と共有させる事を好まない。なので必ず前日までの予約制にし、仕事に行く前に道具の準備をしてから仕事に向かう。

「えーっと、山田さん、山田さんっと……」

 山田に使う道具をリュックに詰め、所属しているSMデリヘルに向かった。
 治安が少しばかり悪いソープ街の隅にあるマンションの一室が事務所だ。
 瑞希は扉を開いて元気よく挨拶しながら中に入った。

「おっはようございます~!」

「あ、瑞希さん。お疲れ様です」

 三十代の寝癖が激しい男が煙草の煙を吐きながら返事をした。これが店長である。

「まだ予約時間には早いかな。山田さんから連絡きました?」

「いえ、まだですね」

「そろそろ連絡くるだろうし、ここで待ってますね」

 瑞希はソファーに座ってスマホを取り出した。ノートに入力しておいた、前回の山田とのプレイを見返している。
 山田は瑞希を指名し始めてまだ三回目だ。少しずつ調教しているので、今日はどこまで責めるかを考える。

 仕事では相手に合わせなければならない。だからといって相手が望む事をすればいいものではない。瑞希の奴隷になりたいと思わせなければ──。

 その時ちょうど電話がかかった。スタッフの様子から、目当ての相手からだろう。
 ホテル名、部屋番号を聞いて、電話を切った。

「瑞希さん、山田さんからです。キングホテルの五〇三号室だそうです」

「はーい。じゃ、行ってきます」

 遠くのホテルなら送迎してもらえるが、近くなら歩いて向かう。指定のホテルは徒歩五分以内である。
 ラブホテルは男同士は利用出来ないところが多い。男同士でも入れるホテルは近くに二件と、ラブピーチくらいである。
 殆どは自宅に呼ばれる事が多い。

 ホテルに入り、受付に声を掛けて部屋へと向かう。部屋のチャイムを鳴らすと、嬉しそうな笑顔で出迎えてくれる山田がいた。
 気の弱そうな顔をした三十代前半の若い男だ。瑞希からすれば十歳は年上だが。
 影が薄そうだが、優しい雰囲気である。

「お待たせしました!」

「やぁ瑞希君」

「山田さんに会えるのすっごーく楽しみにしてました!」

「僕もだよ瑞希君」

 部屋に入ると、山田に抱き締められる。会いたくてたまらなかったらしい。
 無事プレイ開始する旨を店に連絡するとすぐに瑞希はベッドに座り、足を組んだ。
 月に一度の調教だからか、山田はまだ奴隷としての自覚が足りないようだ。瑞希はスッとSモードになり、態度も豹変する。

「いつまでボーッとしてるんです?」

 山田が慌ててすぐに瑞希の前で土下座をした。

「申し訳ありません! ご主人様!」

「次はないですよ」

「はいぃっ! よろしくお願い致します」

 最初は山田だけ服を脱がせて全裸にさせる。瑞希は黒を基調とした私服だが、なるべくSっぽく見える服装だ。それを脱ぐ事はまだ無い。

 山田とのプレイは最高だった。綺麗な白い肢体は、後ろ手に縛り、身体を装飾する縄が映えて美しい。
 その姿を写真に収めたい気持ちをフルに我慢する。

(SMブログに投稿したいよぉ! でも山田さんは写真NGだしなぁ。
 あぁ、今日の縛りは一段と綺麗に仕上げられた! 僕グッジョブ!
 あぁ、山田さんが写真OKだったらなぁ。残念過ぎる)

 三十代とは思えない引き締まった身体。締め付けられる事で朱に染まる頬。彼の全てにおいてエロティシズムを感じさせる。

 瑞希は山田に鞭を見せた。だが、山田はそれを見ているだけで動かない。

「これだから駄犬は物覚え悪くて嫌になりますね。僕が鞭を持ったらどうすると教えましたか?」

「えっと、ベッドの上で……し、尻を上げて待っていなさいと言われました」

「ならすぐにそうしてください。まさか一丁前にお仕置きが欲しいなんて思ってませんよね?
 奴隷の分際で、僕を自分の思い通りに動かそうとしていませんか?」

「す、すみません!」

 山田は急いでベッドに上がり、肩で上半身支えて、膝立ちになって尻を突き出した。

「次、僕をコントロールしようとしたら……分かってますね?」

「はいっ! すみませんでした!」

 何をするかは瑞希自身も分かっていないが、山田が合わせて頷いた。

 その後は鞭打ちをし、蝋燭責めをした。山田の勃起した男性器ははちきれんばかりに膨張している。
 瑞希の山田を見下ろす目は冷ややかだが、内心はテンションマックスだ。
 必死に瑞希の責めを全て受け入れようとする姿や、苦しみの中に快楽を見付けた表情、そして瑞希を求める目──。

(もっと苦しめたくなる)

 瑞希は自分の気持ちを押さえて予定通りのプレイだけで終わらせたのだった。


「今日はありがとうございました! ご主人様!」

 プレイが終わって部屋を出る直前、山田が頭を下げた。

「こちらこそ! ありがとうございました。また指名してくれると嬉しいな。
 僕達、結構相性良いと思いますし。僕を固定の主人として見て欲しいです」

「勿論だよ! お金はいくらでも出すから、僕をあなたの専属奴隷にして欲しい」

「あはは。そう言ってもらえると嬉しいです」

 褒め上手だなぁと思いながら流すと、山田は瑞希の腕をガシッと掴んだ。強い力だ。

「本気です! 僕の全財産とこれから得る収入、全部あなたに差し出すから! 専属で奴隷契約を結べないかな?」

 山田は真剣な目で見つめている。相手が本気であるからこそ、それと同じくらい真摯に向き合うべきだ。

「ごめんなさい。そういう申し出はよくあるんだけどね、全部断ってるんです」

「どうして? まさかもう正式な奴隷がいるとか?」

「いえ、僕は店で沢山の奴隷を調教したいんですよ。相手が一人しかいないのは、僕には足りないんです。
 それに彼氏もいますし、正式に奴隷契約を結ぶとしたら、その彼氏に決めてます」

「そっか……。真剣に返事をしてくれて、ありがとね」

「いえ、僕も嬉しかったです。この店で良ければ予約が空いてる日でも、日曜でも、いつでも僕を指名して下さいね」

「勿論!」

 一緒にホテルを出て歩く。瑞希はこれから事務所に戻らなければならない。山田から受け取ったプレイ料金を精算する用事が残っている。

「途中まで一緒に行っていいですか?」

「いいよ」

 山田は名残惜しそうに瑞希の隣を歩いた。

「改めて聞くけど、瑞希君って彼氏いるんだね」

「はい。最近出来ました」

「瑞希君って変わってるよね。こういう仕事してる人って、普通彼氏の存在って秘密にしない?」

「人によるかなぁと思います。僕の場合、他のお客さんもいつ僕と伊吹が付き合うのか待ってたみたいなんですよねぇ。僕の恋を応援してくれてたというか」

「じゃあ周知の事実って感じなんだ」

「へへっ。そうですねぇ。あ、伊吹っていうのは、ラブピーチっていう、隣駅の近くにあるゲイ専用のラブホのオーナーなんですが……」

「ゲイ専用!? 知らなかった。今度からそこにした方がいいかな?」

「山田さんの自由でいいですよ。ゲイ専用だからか料金も少し割高ですし。特にオススメはしてないです」

 特にSMプレイの料金は普通のデリヘルより割高だ。ホテル代で負担をかけさせるわけにはいかない。

「彼氏がオーナーのホテルなのに!?」

 話していると別れ道に差し掛かった。山田は駅の方面に向かい、瑞希は逆へと向かうのだ。

「なんか僕の話ばっかりになっちゃいましたね。今度会った時は山田さんのプライベートのお話とか聞かせて下さいね」

「僕なんかの話なんてつまらないよ」

「絶対そんな事ないです。楽しみにしてますから。約束ですよ」

 そうして二人は手を振って逆方向へと進んだ──。





 山田は瑞希に惚れていた。だが、専属奴隷を断られ、彼氏がいるという告白も聞いてしまって意気消沈だ。
 やはり住む世界が違うのかと落胆する。

 なかなか予約の取れないご主人様。日曜は休みなのに、山田の都合を聞いて合わせてくれた。
 心優しいのに、虐める時は容赦がない。

 最後にもう一度だけ。後ろ姿だけでいい、瑞希の姿を見て帰ろうと振り返ったその時だ。

 瑞希の後ろをゆっくりと助走している車がいた。ワゴン車だ。

(なんだ? あの車……?)

 そう思ったのも束の間。後ろの席の横開きの扉が開いて、男が出てきた。
 そして、瑞希の口を塞ぎ、車の中に引きずり込んだのだ。

「みっ……!?」

 名前を叫ぼうとした。だが、声が出ない。息が止まる。どうしたらいいのか、最適な対処法がすぐに思いつかない。
 今から走ったところで間に合わないだろう。咄嗟の判断だった。
 山田はビルの隙間に隠れると、震える手で、ポケットから出したスマホで写真を撮った。それくらいしか出来なかった。

 そうこうしている間にその車はスピードを上げて走り去ってしまったのだ。

「瑞希君……」

 すぐに瑞希の所属している店に電話をした。店長に「こちらで対応しますからお帰り下さい。くれぐれも警察に連絡しないように」と言われて電話を切ったが、それで安心して任せて帰る事など出来る筈がない。
 山田は走り出した。ラブピーチへと……。
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