乱交パーティー出禁の男

眠りん

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三章

二十四話 対立

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 目が覚めてまず最初に違和感を覚えたのは両腕だ。ずっしりと重みを感じ、上手く動けなくなっている。
 翠は、重みを感じる左右を交互に目を向けて納得した。

 右には伊吹、左には瑞希が、人の腕を枕にして気持ち良さげに眠っていた。

「何? この状況?」

 この状況には覚えがあった。
 伊吹と瑞希が逃避行し、乱交パーティーの監督をした翌日。出禁なのに立ち入った罰としてSMプレイで責められた時だ。
 気絶して目覚めたら今と同じ状態だった。

「伊吹さんはいいよ、でも瑞希さんは違うだろ……」

 何故恋人でもない男の頭を腕に乗せなければならないのか。
 しかも、二人は人の胸の前で恋人繋ぎをしている。

「動けない……」

 仕方なく二人が目覚めるまで待つ事にした。特に小柄の瑞希は、手を内側に動かせばギリギリ手が乳首に当たる。
 当たった瞬間、瑞希から甘い吐息が漏れた。

 意地悪心から乳首を抓ってやろうかと思わなくもなかったが……。

(この人のお陰で乱パが終わる事も知れたし、まぁいいか)

 後の報復も怖いので、何もしない事に決めた。


 一時間程待って、ようやく瑞希が目を覚ました。

「んんんん。あ、翠君、おっはよー」

「おはようございます。これ、どういう状況ですか?」

「翠君の腕枕気持ちいいから」

「いや、そうじゃなくて。あなたは俺の恋人じゃないでしょ」

「えー。ダメだった?」

 瑞希が伊吹から手を離し、翠の腕を下におろすと、枕にポスッと自分の頭を埋めた。じんわりと右肩周辺が痺れて痛む。
 瑞希を恨みがましい目で見る。

「伊吹さんを真ん中にするなら分かるんですけどね。なんで俺?」

「翠君が驚くだろうなって、子供のイタズラと同じようなものだよ。嫌ならもうしないし」

「断れる立場じゃないんで」

「断れるよ。嫌がってるのに無理させる程鬼じゃないからね」

 瑞希は余裕の表情だ。それが気に食わない。瑞希という男が表面に見せる顔は作られたものでしかない。
 本当は自分と同じように、瑞希も翠を排除したいのではないか? いつからかそんな疑念を抱いていたが、ついに聞いてしまった。

「瑞希さんは……俺の事、邪魔だと思いますか?」

「翠君こそ。本当は僕を伊吹から遠ざけたいんじゃないの?」

 質問に質問で返される。答えたくないのだとすぐに分かった。
 瑞希と目が合う。翠は気付いた。もしかしたら、お互い同じ考えなのではないかと。
 いずれ伊吹を奴隷にして、瑞希から距離を離し、自分だけの言う事だけを聞くように調教する計画だが、同じような事を瑞希も考えているのかもしれない──と。

 そんな翠の考えを見透かしたように瑞希はクスリと笑った。

「知ってる? 伊吹は僕の言う事にまだ逆らえないんだ。もう許したのに、主従関係はなくなったのに、長年の刷り込みって凄いよねぇ。
 だからね、僕が別れるよう言えば……君を排除する事は簡単なの。
 他にも僕と奴隷契約を結んでる人達もいるし。彼らに言えば、翠君をどうにでも出来るんだよ」

 脅しとも取れる発言だが、瑞希がそれを実行しない事は分かる。
 思った以上に瑞希を信じていると気付いてしまった。嫌な気分だ。嫌いな相手なのに、信頼してしまっているなど、反吐が出る思いだ。

「何故しないんです?」

「伊吹が君を愛してるからだよ。君の本音は知らないよ、ただ健気に純粋に伊吹を好きなだけ……って思わなくもない。
 けど、僕の敵になるって分かったら容赦はしない。肝に銘じておいてね」

 翠はゾワッと全身に鳥肌を感じた。寒気だ。
 瑞希から微量の殺意を感じた気がした。そんな訳はない。SMプレイ中でも何度も感じた事のある恐怖と変わらない筈だ。
 この視線で責められたドMが瑞希をご主人様として認めているに過ぎない、と言い聞かす。

 身体も小さく、子供のような、下手をしたら女に見えなくもない瑞希に対し恐怖を抱くなど、翠のプライドが許さない。
 普段と変わらない余裕を見せる。

「敵になんてなるわけないですよ。瑞希さんは師匠ですし」

「だーよね。安心した」

 瑞希はクスクス笑いながらベッドをおりた。

「瑞希さん?」

「眠気覚ましにシャワー浴びてくるだけだよ。もうすぐ翠君が最後にMをやるSMショーだね。終わったら僕からご褒美あげるね」

「伊吹さん以外からのご褒美は要らないです」

「そう? 伊吹と二人きりでイチャイチャ出来る機会をあげるって言ったら?」

「え、それは欲しいです!」

「あはは。現金だなぁ。楽しみにしててね」

「はいっ!」

 心が揺れる。瑞希など邪魔でしかないが、排除する事のリスクが大きすぎる。

(とりあえず計画は一旦中止……か)

 瑞希が消えていった洗面所を睨み、思案した。と、同時に左隣から声が聞こえた。

「翠?」

「えっ、あ、伊吹……さん」

「はよ」

「おはようございます」

 迂闊だった。伊吹は眠っていると思い込んで、結構踏み込んだ話を瑞希にしてしまった。

(話、聞いてないといいけど……)

「翠は瑞希の敵になんの?」

 やはり聞いていたらしい。

「なりません! 味方です!」

「ならいいけど」

 伊吹も起き上がり、洗面所へ向かった。
 枕元の電子時計を見ると八時前だ。あまり睡眠は取れなかったが、SMショーが始まれば眠いだ等と言っていられない。
 終わったら帰ってゆっくり寝たいと考えながら、翠も洗面所へと向かった。

 まず瑞希が全身ビショ濡れの状態で全裸で出てきた。フェイスタオルを持っており、身体を拭きながら部屋へ戻ろうとしている。

「瑞希さん、シャワー浴びたんですか」

「うん。眠気覚ましにね。バスタオル二枚残してあるから、体洗いたければ使ってね」

 大欠伸をしながらすれ違う。こうして見ると、本当に子供のようだ。さっき翠に殺意を向けてきた人間とは思えない。

 洗面台には伊吹がいて、歯磨きをしている。

「伊吹さん、俺もちょっとシャワー浴びますね」

「おお。俺も行く」

 先にシャワーを出して水温を上げていると、伊吹も全裸になって入ってきた。
 ゴクリと喉が鳴るが、今は襲えない。あと三時間もすればSMショーだ。セックスをしている場合ではない。

 だが、伊吹が床に膝を付き口を大きく開けて、翠の男性器に舌を近付けてきた。

「何してるんです?」

「え、フェラ?」

「これからSMショーなんですよ? そんな事しちゃ……」

「良いじゃん。乱パに参加出来ない翠に、俺からお詫び」

「お詫び?」

 いまいち伊吹の行動についていけない時がある。翠を理由に自分がフェラをしたいだけでは? と思わなくもない。

「乱パ出禁にして悪かったよ。翠だけ仲間外れにしてさ」

「それは俺が年齢詐称してたし、ルールも違反したからで……」

「それに対しては、ちゃんと罰受けたじゃん。俺の彼氏になってから、俺が乱パやるのずっと文句一つ言わずに耐えてくれて、本当はそこまで興味ないSMショー付き合ってくれて、瑞希を彼氏にするの許してくれて。
 いつもいつもありがとな」

 伊吹の口の中に入る。それだけで興奮して大きくなってしまうのだ。舐められたり、しゃぶられたりして、気持ち良くならない筈もなく。
 射精感が高まるが、すぐに出さないよう耐えた。

「伊吹さん……それヤバいです」

「ここ? 翠は裏筋好きな? どこに出したい? 好きなところ言って」

「伊吹さんの、顔でも良いですか?」

「いいよ」

 伊吹が目を瞑った。翠はすぐに右手で自身の男性器を握って上下させる。もうイきそうだ。
 腹に力が入る。出る……──と思った瞬間に白濁液が伊吹の顔を汚した。
 鼻筋や頬、唇が汚れて卑猥だ。心臓が高鳴る。

 伊吹は目を開くと、嬉しそうに唇を舐め、頬を流れる精液も指で掬って舐め始めた。

「伊吹さん、シャワーで流すんで! 舐めないで下さいよ」

「嫌だよ。翠の濃いザーメンは全部俺のだから」

 恥ずかしさで頭がクラクラする。このまま本当にしてしまうか? と理性を手放そうとした瞬間だった、ガラッと浴室の扉が勢いよく開かれた。

「あー! ちょっと! ショーの前に何してるわけ? だから伊吹は責任者の自覚ないって言ってるんだよ」

「あの……それは俺も同罪で……」

 伊吹を守ろうとしたが、瑞希に反論される。

「翠君は伊吹がする事なんでも許しちゃうでしょ? そんな人に責任能力求めてないから。
 問題は伊吹だよ!」

「えー。でも乱パで、色んな人とエッチしたのに、翠とはエロい事してなかったし」

「僕ともしてないんだけど!? やるならせめて終わってからにしてくれる?
 二人とも、今日のSMショーで、集中力欠いたらお仕置きだからね!」

 言いたい事だけ言い残して行った瑞希を眺めた後、伊吹と目が合う。二人して苦笑した。

「アイツ怖いよな」

「でもそこがいいんですよね?」

「まぁな」

 これから気を引き締めなければならない。瑞希への錯綜した気持ちは胸の奥にしまった。
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